東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)2308号 決定
申請人 鹿倉弥太郎 外二名
被申請人 有限会社宝製鋼所
一、保証 無保証
二、主 文
被申請人が、昭和二十五年六月十四日申請人等に対してなした解雇の意思表示はその効力を停止する。
三、理 由
当裁判所の判断の要旨はつぎのとおりである。
(一) 被申請人会社は、プレス、伸鉄、圧延、鍍金等を目的とする製鋼会社であり、申請人等は、右会社に雇われ、葛飾区宝木塚町所在の同会社工場伸鉄部操炉係に勤務している操炉工である。
(二) 被申請人会社の労働時間は、午前七時三十分から午後四時十五分まで、(ただし、夏時間中は、午前八時から午後四時四十五分まで)であるが、伸鉄部では作業上圧延材に加熱する必要があるので従業員が交替で午前零時から早出作業をするということになつている。
(三) 而して、右早出深夜作業の割増賃金は、時給の三割増であつたが、これを不満とした申請人等三名は、昭和二十五年五月二十八日操炉係全員七名と協議し、(一)右深夜作業は午前零時から午前十二時までの勤務とし、割増賃金を六割増額して支給することを被申請人会社に要求すること、(二)深夜作業者全員要求貫徹まで行動を共にすること、(三)要求事項のとおらないときは、深夜作業を拒否すること、を決定し、同月三十一日操炉代表早川友三郎から、伸鉄部長加藤八郎に対して右(一)の要求を記載した文書を提示した。
(四) 而して、申請人等は、宝製鋼所労働組合を結成していたので、右要求書を提示するに先立ち、組合長松下清に対し、右要求書の草案を示したところ、松下は、この要求は組合で取上げぬから操炉係のものだけで交渉する旨の囘答を与えたにすぎなかつた。
(五) その後、申請人等は、午後四時三十分以後の残業拒否の態度に出たりして、(2)右要求の貫徹を図つたが、これに対し、被申請人会社は、操炉係の従業員に、現在の労働条件で早出深夜作業を行うか否かを質し、申請人等三名だけがこれを拒否するや、同年六月十三日申請人等に対して、他の職場えの配置転換を命じ、申請人等がこれを拒否したところ、業務命令違背を理由に同月十六日解雇をなすにいたつたものである。
(六) 従つて、右配置転換及び解雇は、申請人等が職場の要求を貫徹するためになした行為、特に、残業拒否を理由としてなした一連の所為であることは明かである。
(七) そこで、申請人等の行為の正当性について判断する。
一般に労働組合が結成せられているときは、労働者及び使用者は、原則として、労働組合を介してのみ交渉をなすべく、労働組合を介することなく、使用者が直接労働者と交渉することは労働者の団結権ないし団体行動権を侵害し、それゆえ、不当労働行為(団体交渉の拒否)となるのである。ただ、団体交渉が期待し得ない場合、もしくは労働組合が明示又は默示の承認を与えた場合等、労働者の権利を侵害するおそれがないという特別の事情の存する場合には、使用者は、直接、個々の労働者又はその集団と労働条件につき直接に交渉をすることが許されるにすぎない。それゆえ、労働者の側から、使用者に対して交渉を求めた場合に、使用者がその交渉に応じた結果、それが使用者の不当労働行為(団体交渉の拒否)となるようなときには、使用者にそのような交渉を強いることは法律上許されないといわなければならない。従つて、使用者に不当労働行為を強制するような仕方で交渉すること、すなわち、個別的又は職場別に交渉をなし、又は、その裏付けとして団体行動(たとえば、職場ストライキ、部分的怠業等)に訴えることは違法であり、前記のような特別の事情(労働者の側から見れば組合の団体的統制を紊さないということ)がある場合に限り、適法に、個別的交渉をなすことができるといわなければならない。
(八) 本件についてみれば、伸鉄係の従業員が割増賃金要求のための交渉をなすことについては、組合において明示の承認を与えていたのであるから、申請人等が、その要求貫徹のためになした行為は、もとより正当な組合活動である。もつとも、申請人等が、被申請人会社との交渉をもつことなく、直ちに残業拒否の態度に出たことは、信義則に背くといえないこともないが、その残業は、被申請人会社と前記労働組合との協定に基くものではなく、会社の慣行によつて行われてきたものであるから、申請人等に法律上そのような残業を強制するということはできないのであつて、それゆえ、残業拒否を違法とする前提要件を欠いているというべきであり、従つてその信義則違反ということも問題とならない。
(九) 従つて、本件解雇は、申請人等が正当な組合活動をなしたことを理由とするものであるから、不当労働行為たる解雇として無効である。
(十) 解雇が無効であるにもかかわらず、被解雇者として取扱われることは、申請人等にとつて囘復すべからざる損害である。
よつて被申請人が、昭和二十五年六月十四日申請人等に対してなした解雇の意思表示の効力を停止するため、主文の通り決定したしだいである。
(裁判官 柳川真佐夫 中島一郎 高島良一)