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東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)2865号 決定

申請人 水沢玲子 外四名

被申請人 日本曹達株式会社

一、保証 無保証

二、主  文

被申請人が昭和二十五年三月二十三日申請人A、同Bに対してなした同月二十七日限り同人等を解雇する旨の意思表示はその効力を停止する。

爾余の申請人等の申請を却下する。

三、理  由

申請人等は被申請会社二本木工場所属の従業員であり、同会社の従業員をもつて組織されている日本曹達労働組合の組合員で、同組合の下部組織である日本曹達労働組合二本木支部に所属しているものであるところ、昭和二十五年三月二十三日被申請会社より同月二十七日限り解雇する旨の通告を受けた。而して右解雇は被申請会社が同月実施した企業再建整備に伴う全従業員約五千六百名中約一千名の人員整理の一環としてなされたものであり、申請人等の所属する二本木工場においては従業員三千五百十九名中五百二十九名が整理された。被申請会社は右人員整理に際しては別紙記載のような整理基準を設け、申請人等はいずれも右基準に該当するものとして解雇したものであると主張するに対し、申請人等は右基準該当の事実を否認し、申請人等の解雇は申請人等が組合役員として活溌な組合活動をなしたことを実質的理由とするものであるから不当労働行為であるといつて争うので、以下この点について判断する。

一、申請人A(病弱者、配置転換困難の者、合理化により過剰となる者、)について申請人Aは別紙のように日本曹達労働組合、同組合二本木支部、その他の労働団体の役員を歴任した者であるが、昭和二十一年三月以来二本木工場女子組合員をもつて二本木支部婦人部の結成を企図し、その指導者として独自の行動力、組織力を発揮して活動し、同年八月婦人部の結成をみるや三代にわたる婦人部長として女子従業員の団結の中心となり、被申請会社との交渉においては常に女子従業員の待遇、労働条件の向上につとめ、同工場女子労働者の啓蒙、意識の昂揚のため極めて活溌な活動をなし、これがため女子労働者として広く男女従業員の信頼を博し組合活動者として確固不動の地位を獲得したが、一面そのため被申請会社の注視の的となつていたことが疎明せられる。

しかし本件におけるような大量の人員整理の場合にあつては、会社は従業員を解雇するについては一定の評価序列(整理基準)を設定し被整理者を決定する以外にはないのであつて、かかる場合にはその定める整理基準に公正に該当する限り解雇は一応正当なものとの推定を受けるから、これを覆さんとする者は、当該被整理者に適用された整理基準が特に組合活動者の解雇を意図して設定せられたものであることを疎明して争う以外に方法はない。しかしながら設定せられた整理基準は正当であつても、もし組合活動者がその基準の不公正な適用によつて解雇せられその合理的理由を発見することができないならば、何人に対する解雇は同人の組合活動の特異性によるものと推定することができよう。

よつて、申請人Aが、被申請会社の設定した整理基準に該当するものであるか否かについて判断する。(なお本件整理基準は一応正当なものと認められる。)

(1)  病弱者(身体虚弱者)

本件整理基準によれば、病弱者とは(イ)病気休職中の者、(ロ)病気のため長期欠勤中の者、(ハ)病弱のため職務に堪えられないと認められる者、(ニ)身体の理由により出勤日数が少い者を指称し、申請人Aはそのうち(ハ)に該当するとせられたものであるが、同基準に関する「注」によれば(ハ)の場合でも近い将来において病気が治癒し健康回復が予想せられるときは機械的な適用はしないことになつている。而して同申請人に肺門淋巴腺腫脹、胸椎炎、右肋膜炎、肺門浸潤等の既往症のあつたことは、同人においても争わないところであるが、これらは昭和十七年五月以前の罹病であつてその当時いずれも全治しその後右の既往症が再発して業務に堪えられなくなつたと認めるに足る疎明はないのみならず、かえつて同人の組合活動が極めて精力的であつた点から推せば逆に職務に堪えうる体力を十分具えていたものと一応認めることができる。もつとも同人を既往症のない者と較べれば健康の点において劣位に立つことは争えないが、これらの既往症のみから直ちに(ハ)に該当すると判定したことは右基準の適用につき折角「注」をもつて説明を加えた趣旨に合致する取扱であつたと認めることはできない。よつて同人はこの基準に該当しない。

(2)  「配置転換困難の者」及び「合理化により過剰となる者」

これらの整理基準に関する「注」によれば、「配置転換困難の者」とは今次の再建計画により配置転換せらるべき地位にありながら本人の職歴、能力、性癖等により本人に適当な職場がなく且つ他職場より嫌われ又は他の職場の士気や統制を阻害する等の事由のある者が該当し、「合理化により過剰となる者」とは業種の休廃止又は縮小に伴い人員の構成上(例えば直接部門と間接部門の比率等)不適当となつた者が該当することになつている。しかしここに「合理化によつて過剰となる者」とは、各業種の休廃止又は縮小に伴つて定員外となるべきものが機構上の理由だけで当然排除されるという趣旨ではなく、業種間の吸収合併の場合はもちろんその他の場合にも、能う限り従業員の成績、技能等に応じて職場転換をさせることを予定し、「過剰者」でも「配置転換困難」その他の基準項目と相俟つて企業からの排除が決定される趣旨であつたものと一応認めることができる。

申請人Aは昭和十四年に被申請会社に入社したものであるが昭和二十三年以降被申請会社の寄附行為によつて設立された財団法人三和高等学校の専任教員として出向を命ぜられ同校において国語担任の教員として教鞭をとつていたものである。(但し同人の人事権は被申請会社にある。)ところで同校の経理が被申請会社の企業合理化の余波を受け経営を縮小しなければ立ち行かない程緊迫していたかどうかはその疎明に乏しいが、少くとも寄附金の削減によつて専任教員を五名から三名に減ずる合理的理由があつたことは一応疎明せられる。そこで次に申請人Aがこの場合果して右整理に値するものであるか否かを判断する。同校は定時制高等学校で毎日午後四時から午後八時までの授業をしており、そのため専任教員以外は被申請会社の職員中資格のある者が就業時間終了後に授業を兼任していたのであるが、申請人Aは専任教員であるにもかかわらず単に夜間の授業時間に出校するのみで昼間の学校業務(職員会議、校務打合せ等)に殆んど従事せず無断で職場を離脱し専任教員としての職責を果さなかつたというのが被申請会社の挙げる理由の一つである。これに対し同申請人は、昼間の校務に従事しなかつたことは争わないが、これは同人が昭和二十三年二月から本件解雇当時まで二本木支部の執行委員として正当に組合業務に専従したためであり、組合活動と夜間の授業とは両立したものであると主張する。ところで、被申請会社が同申請人の昼間の無届校務不就業を不当なりとするのは、主として昭和二十四年六月の組合専従者決定に際し、専従者にならなかつた執行委員のその後の就業時間中の組合活動に対する非難に由来すると認められる。そこでこの点について検討してみるに、昭和二十四年六月労働組合法の改正に伴い、被申請会社は日曹労働組合二本木支部と組合専従者の件につき工場協議会で協議した結果、二十三名の組合専従者(そのうち執行委員十三名)を認めたが、その余の執行委員二十名についても事実上は従来通り就業時間中の組合活動を暗默裡に認めてただ組合の自制にまつこととし、その状態が本件人員整理当時まで続いていたこと、従前の執行委員の組合活動は専従的であつて事実上届出や許可のような厳格な規制を受けていなかつたことが疎明せられる。もつとも被申請会社が改正労働組合法の厳正実施を期そうという内心の意図をもつていたことは一応認められるが、労働秩序について妥協的な態度をとつたため、現実の姿は叙上のようなものであつたことを覆すに足るだけの疎明はない。しかし、いやしくも組合専従者を決定した以上は、非專従組合員の就業時間中における行動は、当該組合業務の重要度乃至当該役員の組合内における比重、その他の要素により自ら一定の制約を受けるものと解さざるをえない。しからざれば組合専従者の決定はなんらの意義をもたないに等しいからである。ところで申請人Aは組合専従者ではなかつたが、執行委員として組合内において極めて樞要の地位を占めていたことは前記のとおりであり、このことは被申請会社も知悉していたものと認められるから、同人の組合活動は専従者に準じた取扱を受けえたものといわねばならない。次に組合役員でない専任教員が、組合役員たる専任教員に比して校務に寄与することが大きいことはいうまでもないが、被申請会社はその従業員たる学校教員についても組合役員となることについて組合に対し異議を唱えたことはないのであるから、専任教員たる申請人Aがたとい組合専従者でないとはいえ執行委員として組合業務に従事したため昼間の校務に就かなかつたとしても、組合業務の執行につき叙上のような関係にあつた以上同申請人等が職責を全うしないといつて非難することは不合理といわなければならない。又生徒の多くが国語の授業に興味を持たなかつたとの点は一応の疎明ありといえるが、その原因が果して申請人Aの不誠意や職務不熱心によるものであると判定することは、同申請人の反対疎明に照し、その疎明不十分といわねばならない。次に同人の言動が矯激に走り易いとの点は、教員として生徒に対しそのような態度を示したと認めるに足る疎明はない。その他同人がトラブルメーカーであつたとか、同人の在職を不適当とする諸事由も又これを裏付けるに足る疎明はない。

もつとも本件の如く専任教員の少い学校にあつてその員数を更に縮小した場合その中の一人が組合業務に専従するときは、従前より他の教員の負担が著るしく大となり、学校業務に支障を来たすおそれがあり、そのために配置転換の必要を生ずることは予想せられる。かく考えるとき本件の場合申請人Aには配置転換の必要があつたと一応いいうるのであるが、(もつとも同人の解雇については同人の昼間の校務不就業が同人に対する評価を決定的ならしめたものと認められる)同人が配置転換せらるべき地位にありながら困難であるとされた点については、同人の学校配属前の被申請会社における職歴をみるときは、間接部門ではあつたがその技能統率力等は優れていたと一応認められるのであり、同僚との折合が悪いと認めるに足る疎明はなく、かえつて配置転換困難とせられたのは同人の組合活動における経歴と被申請会社の経営担当者に対する強硬な態度が、職制上の幹部に敬遠されたものと一応認めることができる。右認定の事実を綜合するときは、被申請会社の同申請人に対する整理基準の適用は公正であつたとはいい難く、そのような適用がなされたのは同人が有力な組合活動者であつたこと、職場離脱についての被申請会社の評価が一方的であつたことによるものというの外なく、従つて同人に対する解雇は正当な組合活動を理由とするものとして不当労働行為が成立すると断ぜるを得ない。

二、申請人B(会社の業務に協力しない者、合理化により過剰となつた者、配置転換困難の者)について、

申請人Bは、別紙のとおり日曹労働組合二本木支部、同支部婦人部の役員等に就任し、申請人Aの指導の下に同人と共に二本木工場女子労働者の地位の向上をはかるため活溌な組合活動を展開してきたものであり、その女子労働者としての活動は申請人Aには及ばないが同人と行動を共にするものとして常に被申請会社に注目されていたことが疎明せられる。

そこで申請人Aと同様の理由により、次に申請人Bが果して整理基準に該当するものであるかどうかについて判断する。

(1)  会社の業務に協力しない者

まずこの点に関し被申請会社の挙げる昭和十七年十一、十二月頃における同人の職場配置転換問題から同人の非協力性を結論することは、同人の反対疎明に照し困難である。次に今次人員整理に関する社員の考課は特に昭和二十三、四年の二ケ年間の成績を中心として行われたことが被申請会社の疎明により窺われるが、申請人Bが業務非協力と判定されたのは、主として昭和二十三年十二月以降組合執行委員在任中の無断職場離脱に基因するものと一応認められる。なるほど同人は昭和二十四年六月の組合専従者決定の際専従役員にはならなかつたが、二本木工場における組合執行委員の就業時間中の組合活動については申請人Aの項で認定したとおりであり、もとより申請人Bの組合役員としての比重は申請人Aには比すべくもないが、数少い女子役員のうちで申請人Aの片腕として常に同人と行動を共にしたものであり、組合業務に追われていた申請人Aが女子運動のための援助者を常時必要としたことはみやすいところであるからそのような状況において申請人Bが職場を離脱し組合活動に従事したからといつてこれをもつて会社業務に協力しないものということはできない。

(2)  「合理化により過剰となる者」及び「配置転換困難の者」

同申請人所属の二本木工場業務部倉庫係における同人の考課序列は五十七名中五十五番となつており、これが業務部全体の序列に影響し(業務部は二百九十七名中四十四名解雇)、結局同人は業務部倉庫係の縮小によつて過剰となり、且つ配置転換困難と判定されて解雇されたことになつている。

ところで同人の倉庫係における序列の決定が低位と判定された理由については被申請会社の挙げるところは、主として前項の組合役員在任中の職場離脱(従つて職場秩序の紊乱)及び同僚間の折合いが悪いということにあるのであるが、前者については、前項で認定したとおり組合執行委員在任中の職場離脱を目して業務秩序紊乱、非協力と判定することは、被申請会社の一方的評価であつて客観的に公正な判定とはいい難く、後者について被申請会社の挙げる疎明資料は同申請人の反対疎明によつて、これを支持するに足りない。その他トラブルメーカーであつたとか、職場秩序を紊したとかいう諸事由は具体的事実乃至これを推測するに足る事実の裏付けがなくその疎明に乏しい。

又「配置転換困難」という点も、同人の女子労働者としての態度の強硬さに対する職制上の幹部の敬遠によるものと一応認められるのであつて、その性格が同僚から嫌われたという疎明は乏しい。

以上認定の事実を綜合するときは、被申請会社の同申請人に対する右整理基準の適用は結局同人が女子労働者として活溌な組合活動をなしたこと及び同人の無断職場離脱についての被申請会社の一方的評価に基因するものというべく、他に右認定を覆すに足る反対疎明のない本件にあつては、同人の解雇はその正当な組合活動を理由とするものと推断することができる。

三、申請人C(病弱者、技能低位の者、会社の業務に協力しない者、配置転換困難の者)について、

申請人Cは別紙のとおり組合役員を歴任し、熱心な組合活動者であつたことが疎明せられるが、同人に対する整理基準の適用については次のように一応認められる。

(1)  病弱者(病弱のため職務に堪えられないと認められる者)

同人が気管支喘息の既往症をもち、しかもその年齢(明治三十五年五月十三日生)、体力等の点からみて、塩素を使用し、従つて塩素ガスの発生を伴う二本木工場の現場作業に適しないことは医学上の見地からも十分疎明せられるところであり、実際上も昭和二十三年度におけるアミノ酸係勤務当時しばしば喘息の発作を起し同人の耐久力が十分でなかつたことが認められるのであつて、同人がこの基準項目に該当するものとせられたことは、他に右認定を覆すに足る有力な反対疎明がない本件にあつては一応もつともといわなければならない。

(2)  技能低位の者(技能、業務成績の優良でない者)

同人の右のような健康状態から勢い同人には健康体の者と同様な正規の仕事を与えることができず、使い走りのような副次的な労働を担当させざるを得なかつたこと、又さようなわけで昭和二十四年六月アミノ酸係廃止に伴う配置転換の際にも、そのために受入れ側の職場から拒絶されたことがあることが疎明せられるから、同人がこの基準項目に該当するとせられたことは、一応首肯せらるべきものといわねばならない。

(3)  配置転換困難の者

右(1)、(2)、認定のとおりとすれば工員たる同人としては二本木工場の現場作業には不適格というのは外なく結局配置転換困難と断ぜざるをえない。

(4)  会社の業務に協力しない者

同人の業務非協力を判定する一資料として、同人が組合執行委員在任中非専従者たるにもかかわらず無断職場を離脱することが多かつたとの事実が挙げられているが、この点については申請人Aの項で認定したことが大体妥当するのであつて、申請人Cは古参のしかも有力な執行委員であつたからその間の無断職場離脱を目して非協力とすることはその限りにおいて不当であるというべきである。

以上の事実を綜合するときは、同申請人の組合活動が整理基準の適用において、解雇該当とされるについての一原因となつたものとは認めうるが、右認定の(1)、(2)の項目及びこれにより予想せられる(3)の項目が肯認される以上、それだけで十分解雇に値するものと認められるから同人の解雇が不当労働行為であるということはできない。

四、申請人D(出勤成績不良の者、職務怠慢の者、会社の業務に協力しない者)について、

申請人Dが別紙のとおりの組合役員としての経歴をもつ熱心な組合活動者であつたことは一応疎明せられる。そこで次に同人に対する整理基準の適用について判断する。

(1)  出勤成績不良の者

この整理基準の適用上の説明(「注」で示されている)によれば出勤成績不良の基準項目については、機械的に一定の限度を定めることをせず、見掛け上欠勤、早退、遅参の回数が少くとも、正当の理由がなく欠勤、早退、遅参をしていると認められる者は当該基準に該当するとされている。同申請人は総務部経理課原価計算係に所属し、同係では十四名中同申請人一名のみが解雇された。同申請人の昭和二十四年度の出勤成績は欠勤八日であり、他の残留者中十名は皆勤、三名は二日乃至三日の欠勤であつて同僚中最低位であつたと認められる。同申請人は右の欠勤は同人の未行使の有給休暇で振り替えられうるもので手続上の手落ちに過ぎないというが、制規の手続を履まないところにかえつて同人の手続軽視の態度が窺われるのであつて、いずれにしても制規の手続を履まない限り右欠勤が正当化されるものではない。しかし、同申請人の右欠勤が本件基準項目の「注」の趣旨に合するかどうかは、又別途の観点から考慮されなければならない。けだし右「注」の反面解釈からすれば多少欠勤日数が多くとも内容的にみて正当事由ありと認められる限りは相当斟酌せらるべきものと解せられるところ、この点について被申請会社は、一般事務部門の従業員の出勤成績は極めて良好であり、従つて欠勤八日程度の者は僅かの例外を除いて解雇されたと疎明するだけで同「注」の趣旨に則つた勘案をなしたものと認めるに足る疎明はない。従つて、右係中同申請人の欠勤日数が最高であるということのみから、直ちに同申請人が十分解雇に値いすると判定することは困難である。しかしこれも他の要素と相俟てばもとより解雇の一事由たりうるに妨げない。

(2)  「職務怠慢の者」、「会社の業務に協力しない者」

(イ)  同申請人は別紙のように昭和二十三年十二月組合執行委員となる前、組合青年部中央書記長をしていたものであり、当時の青年部中央書記長が事実上組合専従者なみの取扱を受けていたという疎明は乏しいが就業時間中の組合活動が届出によつて許されていた事実は当事者双方の疎明を綜合して窺うことができる。しかし同申請人はしばしば無断で職場を離れたため所属課長から注意を受けたにかかわらずその態度を改めなかつた事実が一応認められる。

(ロ)  同申請人は申請人Eと共に「アカハタ」の配布を担当し、比較的長期間にわたり就業時間中これを配布していた事実が疎明せられる。同人は就業時間内に配布したことはないと主張するが、二本木工場の広大な工場敷地内に分散する多数の建物内に配布する場合就業時間外だけで配布しきれるものではないことはこれを窺うに難くない。

(ハ)  次に右基準項目該当の基礎たる一事実として、被申請会社は申請人Dの組合執行委員在任中(昭和二十三年十二月以降本件解雇まで)ことに昭和二十四年六月の組合専従者決定以後の職場離脱や残業拒否等の件を取上げているのであるが、同人のこれらの行為については執行委員の就業時間中の組合活動、ことに昭和二十四年六月専従者決定以後は非専従執行委員のそれについて前記申請人Aの項で認定したことがあてはまるものと解せられるところ、申請人Dは右専従者決定の際その選に漏れ、しかも組合内部における執行委員としての比重も申請人Aと同率に論ずることをえないから、未だ疎明は十分であるとはいえないが右専従者決定以後の申請人Dの前記行動は少くとも全面的には正当視さるべきではないといいうるであろう。

以上の事実によれば、申請人Dが「職務怠慢」「業務非協力」に該当するとせられたのは、一面においては被申請会社の就業時間中の組合執行委員の組合活動に対する一方的評価に基因するものといいうるが他面において同申請人の就業時間内のアカハタ配布その他前記認定の諸事由によるものであるということができるのであつて、従つて同申請人の正当な組合活動と右認定事実とのいずれが本件解雇の決定的原因となつたかにより不当労働行為の成否を決定するの外はない。もとより被申請会社の組合活動に対する一方的評価が右基準の該当決定において重要度をもつていたことは推測するに足りるが、他面就業時間内の「アカハタ」配布その他前記認定の諸事由もまた客観的事実として右基準決定における重要な要因たるを失わず、かかる事実は、同申請人が活溌な組合活動者なると否とにかかわらず、本件のような大量人員整理に際しては考慮せられうる事由であり、なお前記出勤成績不良の点をも併せ考えればこれによつて他の者と比較して低位なりと判定するに足る徴表であるというべく、それが実質的にみて解雇のための単なる口実としか思われないと認めるに足る疎明がない本件にあつては同申請人を右基準項目に該当するとしたことは一応首肯しえられる。従つて同申請人については不当労働行為は成立しないものというべきである。

五、申請人E(社規紊乱の者、会社の業務に協力しない者、配置転換困難の者)について、

同申請人は別紙のとおりの組合役員としての経歴をもち組合活動に熱心に従事したことが疎明せられる。よつて次に同人に対する整理基準の適用について判断する。

(1)  社規紊乱の者

(イ)  同申請人が残業を命ぜられないのに研究室に宿泊したとの事実は同人の強く否定するところであるにもかかわらず、被申請会社は十分なる疎明をなさないから結局これを肯認することはできない。

(ロ)  同申請人が昭和二十五年一月二十五日に工場夜勤者に対し煽動的なビラを配布したとの事実については、被申請会社は会社構内における文書の配布について特に就業規則で禁止したことはないが、昭和二十四年九月労働協約改訂の交渉において労働組合以外の者が許可なくビラ印刷物等を貼付頒布することを禁止する意向を示していたものと認められる。しかし工場内においてこのような労働者の行動が制限を受けるのは主として使用者の管理する土地建物の利用関係や従業員の就業時間中の能率に及ぼす影響等の考慮に基くものというべく、従つてビラの頒布の如き直接物件を利用又は汚損しなくてもできるものにあつては、就業時間外はみだりに禁止できないものといわねばならない。むしろ問題は、そのビラの内容が業務を阻害する悪質のものであるかどうかにあるといわねばならぬ。しかるにこの点については、申請人Eがいかなる内容のビラを頒布したかについてなんら具体的な疎明はない。但し夜勤者の就業中にビラを配布することは多少とも就業の妨げとなるとはいいうるであろう。

(ハ)  なお同申請人は申請人Dと共に「アカハタ」の頒布を担当していたものであるが、それが就業時間外ばかりでなく就業時間内においても比較的長期間にわたつてなされ、そのため職場を離脱したという事実は申請人Dと同様に疎明せられるところである。(この事実は申請人Dの場合職務怠慢と評価されているが実質的には同じである。)

(2)  会社の業務に協力しない者

同申請人が青年部役員在任中から就業時間中無断職場を離れることが多かつたことは事実と認められ、その職場離脱の多くは当時の青年部職場代議員、支部職場代議員としての活動であつたように思われるが、そのような役員が事実上専従者なみの取扱を受けたことの疎明はない。次に昭和二十三年十二月組合執行委員就任以後の無断職場離脱については、同申請人の執行委員としての組合内部における比重は申請人Dと同程度のものであつたと認められるから前記申請人Dの項(2)(ハ)において述べたと同様のことが申請人Eについてもいわれうるであろう。

(3)  配置転換困難の者

同申請人が配置転換困難とせられたのは他の同僚との折合が悪いというのではなく、同人の業務非協力の認定からくる職制幹部側の受入拒否にあると認められる。すなわち、同人の配置転換困難を判定するにあたつて同人の組合執行委員在任中の無断職場離脱に対する被申請会社の一方的評価によつて職制上の幹部から敬遠されたことは否定できない。

以上の事実によれば、申請人Eについても、申請人Dと同様、正当な組合活動と「アカハタ」配布その他の前記認定の諸事由との比較権衡が結局不当労働行為成否の分岐点となるものと考えられるが、この点については前記申請人Dの項において説示したことがそのまま妥当するものと認められるから申請人Eについても不当労働行為は成立しないものというべきである。

以上論断の結果申請人A、同Bについては、その申請理由ありと認め、その他の申請人等の申請は失当として却下すべきものとし、主文の通り決定する。

(裁判官 古山宏 中島一郎 緒方節郎)

(別紙)

整理基準

一、技能低位の者

イ、技能、業務成績の優良でない者

ロ、経驗浅い為能率の上らぬ者

ハ、入社日浅く、技能習熟の見込少い者

注、本人の職分に基き慎重に比較考慮のこと、学卒定期採用者等、会社の経営にとりはつきりと将来性のある者はロ項、ハ項の「経驗浅い為」「入社日浅く」の語に機械的に該当せしめるべきでない。

二、病弱者(身体虚弱者)

イ、病気休職中の者

ロ、病気の為長期欠勤中の者

ハ、病弱の為職務に堪えられないと認められる者

ニ、身体の理由により出勤日数が少い者

注、イ項該当者は、特に他のすべての項目を考慮することなく、全員を候補者にあげること。

ロ項、ハ項、ニ項については形式上これに該当すると認められるような場合でも、技能優秀、勤労意慾拔群等の長所が病弱の欠点を補つて余りあるとき又は近い将来に於いて病気が治癒し健康回復が予想されるときは機械的にこれに該当せしめぬこと。

形式上欠勤日数が多くなく、又全然なくとも、通常の作業をなさしめることに無理がある場合は、他にこれを補う長所がない限りハ項に該当する。

三、出勤成績不良の者

注、機械的に一定の限度を定めることをしないこと。

見掛け上、欠勤、早退、遅参の回数が少くとも、月給制であるに鑑み、正当の理由がなく欠勤、早退、遅参をしていると認められる者は本項に該当する。

四、職務怠慢の者

注、性格的に怠惰であるものの外、上長の指図を満足に遂行せず、又は本務外のことに熱中するの余り、本務がおろそかになる場合を含む。

五、社規紊乱の者

注、嘗つて懲戒処分に付せられた者でその後改悛の情の明らかでない者、懲戒には処せられないが再三注意されている者を含む。

六、会社の業務に協力しない者

注、会社及び上司を中傷誹謗し、経営方針を批判して上司の命に従わない者若しくは勤務上の指示又は要請に正当の理由なくして従わない者が該当する。

この項は、組合活動を積極的に行つた者に誤り適用することのないよう特に注意されたく、後日不当労働行為を問われる虞れがあるから慎重を期すること。

但し、不当労働行為を恐れる余り、厳正な査定を妨げられることのないよう注意すること。

七、経営の効率に寄与する程度の少い者

注、この項は、他項に特に顕著に該当しないが、綜合的に見て本人を雇傭することが却つて経営上マイナスになる者が該当する。

八、生産意慾のない者又は生産意慾を減殺すると認められる者

注、会社の職員としての自覚と責任感が乏しく、積極性なく、与えられた仕事を充分に果し得ざる者又は他人の生産意慾を減殺させるような行為をした者が該当する。

九、多数の人と協同して仕事をするのに適しない者

注、同僚との折合いが悪かつたり、他と協同して業務を遂行する精神に乏しく、或いは他人を煽動挑発し、延いては一般の能率を阻害する者が該当する。

一〇、配置転換困難の者

注、今回の再建計画により配置転換さるべき地位にありながら、本人の職歴、能力、性癖等により、本人に適当な職場がなく、且つ、他職場より嫌われ又は他の職場の士気や統制を阻害する等の事由のある者が該当する。

一一、合理化により過剩となる者

注、業種の休廃止又は縮少に伴い、人員の構成上(例えば直接部門と間接部門の比率等)不適当となつた者が該当する。

一二、会社の社会的信用を保持する上において適当でない者

注、刑事上の罪に問われた者或いは会社を中傷誹謗し、会社の信用を傷つけるような行爲をした者はこれに該当する。

一三、未復員休職者(復員後未復職の者を含む)

注、他のすべての項目を考慮することなく全員を候補者にあげること。

以上

申請人等の主なる組合役員経歴

(1) 申請人A

一、自昭和二一年一二月一九日至〃二五年四月二八日 二本木支部執行委員

一、自〃二一年八月三一日至〃二五年四月二八日   同支部婦人部執行委員

一、自〃二一年八月三一日至〃二四年二月二七日   同支部婦人部長

一、自〃二二年六月二日至〃二四年四月二五日    新日曹労働組合婦人部長

一、自〃二四年一月一六日至〃二四年五月      右組合書記長

外部団体関係

一、自昭和二二年一一月一〇日至〃二三年一月二四日 全日本化学労働組合本部婦人部長

一、自〃二三年一月二四日至〃二四年九月      全日本化学産業労働組合本部婦人部副部長

一、自〃二二年三月一八日至〃二四年一一月五日   全日化新潟県支部婦人部長

一、自〃二一年九月一〇日至〃二四年五月      上越労働組合連合会婦人部長

(2) 申請人B

一、自昭和二三年一二月二二日至〃二五年四月二八日 二本木支部執行委員

一、自〃二三年二月二四日至〃二五年四月二八日   同支部婦人部執行委員

一、自〃二四年二月一九日至〃二五年四月二八日   支部婦人部副部長

外部団体関係

一、自昭和二四年六月至〃二五年四月        上越労働組合連合会婦人部書記長

(3) 申請人C

一、自昭和二一年一二月一八日至〃二二年五月一三日 二本木支部執行委員

一、自昭和二三年一二月二二日至〃二五年四月二八日 同支部執行委員

(4) 申請人D

一、自昭和二三年二月至〃二四年二月        新日曹青年部中央書記長

一、自昭和二三年二月至〃二五年四月        二本木支部青年部執行委員

一、自〃二三年一二月至〃二五年四月        同支部執行委員

一、自〃二四年九月至〃二五年四月         新日曹中央執行委員

(5) 申請人E

一、自昭和二三年一二月至〃二五年四月二八日    二本木支部執行委員

外部団体関係

一、自昭和二三年一二月至〃二五年四月二八日    全国染料工業労働組合連合会常任委員

以上

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