東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)4248号 決定
申請人 高岡美郎 外一名
被申請人 財団法人東京家政学院
一、保証 無保証
二、主 文
被申請人が昭和二十五年十月十四日附にて申請人両名に対してなした解雇の意思表示の効力を停止する。
三、理 由
当裁判所の判断の要旨は次の通りである。
(一)(イ) 申請人Aは昭和二十四年七月に東京家政学院職員組合を結成するに際してはその発起人の中心であり、その後同組合の委員長として二期に亙り組合活動に力を尽し、特に組合規約の作成或いは被申請人との団体協約の締結等のあらゆる団体交渉において、女子の多い右職員組合の事実上の推進者であつたこと、戸田貞三校長の退職を契機として起つた、財団民主化運動或いは、戸田校長復職運動において右職員組合は積極的にこれを支持し、同人は委員長としてこれらの運動を推進して来たことが疏明されている。
(ロ) 申請人Bは前記Aらと共に発起人として東京家政学院職員組合の結成に参加して以来その組合員であつたが、同人は東京家政学院同窓会の会長の職についていたためもあつて、この組合の有力な一員として団体交渉等において活動していたこと、特に前記の財団民主化運動或いは戸田校長の復職運動に際しては、組合の方針に従つて、同窓会との連絡などに尽力したことが疏明されている。
(二) 被申請人が東京家政学院職員組合の結成以来、その活動について疑念をいだき、その存在を好ましくなく思つていたこと、申請人らはいづれも所属組合において指導的な地位にあつたこと、昭和二十五年下旬戸田校長の在職中に経営合理化のために、人員の整理を検討した際、申請人Bはその対象とならず、申請人Aについてはその理由及び根拠が薄弱であつたために戸田校長が同意しなかつたこと、被申請人は戸田校長の退職後昭和二十五年三月三十一日附で申請人らを含めて五名の者を解雇したが後に東京都地方労働委員会の斡旋で撤囘したこと、申請人らを除く他の被解雇者は、退職希望者、不健康者、或は授業時間のなかつた者などでありしかも、その中には、解雇が通告されて後も引き続き勤務している者のあること、申請人らが解雇されて後は、以前ほど組合活動が活発でないことなどが疏明されている。
(三) 被申請人の主張する解雇理由についてみると。
(イ) 申請人Aに関しては
(1) 同人の講義が一週二時間で聴講する生徒が少数であることは疏明されているが、被申請人学院において今後物理学講座を設置しないわけでなく、昭和二十六年度の新学期からはまたあらためて開講することが予定されており、その際その担任教員が必要なことは明らかであるから、被申請人の経営を合理化するためには、申請人の身分俸給を変更するなど申請人を解雇しなくとも他にとりうる方法があるにかかわらず、このようなことを考慮しようとする意思のないこと、また中絶した物理学の代りに新たに生物学の講座を設けたことが疏明されている点からみても被申請人の経済的負担を減少することが、同人についての重要な解雇事由であることは認めがたい。
(2) 同人の講義が所謂「家庭物理」とはかけはなれた、相当程度の高いものであつたこと、昭和二十五年前期の試験問題を教務課に報告しなかつたことはいづれも疏明されているが、同人が一定の教授方針に従つてその講義内容を選択していること、この講義が前期のみで完結するのではなく二学年に亙る予定であつたこと、短期大学の講義は未だ発足後間もないこと、同人の講義の聴講者の少ないのは必ずしもその講義内容のみによるものではないことが疏明されており、特に同人が授業に対して不熱心であるか或いは教授能力が低劣であるとは認められない。而して本来講義の内容は相当広く担任教授の自由に委ねられるべきであり、まして短期間をとらえてこれを解雇事由とすることは妥当でない。
(3) 申請人が昭和二十四年十月に当時東京女子医科大学予科の専任教授であつたにかかわらず、被申請人に対してこれを兼任として報告したことは疏明されているが、私立学校においては諸般の必要から往々にかかる便宜が行われていること、また本件の場合においては、特に申請人に悪意がなかつたことも一応認められる。
(ロ) 申請人Bに関しては
(1) 申請人とともに被服整理科を担当していた田中ちたは、申請人よりも本校における勤務年限が短く且つ過去において相当長期に亙つて欠勤していることが疏明され、特に同人が申請人よりも勤務成績が優れているという点については疏明がない。
(2) 同人が汽車の延着の場合などに数回助手に代講させたことは疏明があるが、その他しばしば正当な理由なく助手に代講させていたということ、或いは同人が授業に不熱心であつたということについては疏明がなく、また被申請人が特に取り上げている長途の旅行は申請人が休日を利用して大阪支部の同窓会に出席したものであつて、そのために欠講したのは一時間だけであることが疏明され、特に休日を利用するこのような旅行の際に被申請人に届出を必要とする点については疏明がない。
(3) 申請人が理事の不正行為に対する告発人の一員になつていることは疏明がある。
(四) 前記(一)及び(二)において疏明された事実を綜合すれば、被申請人に、申請人らに対する差別待遇の意思のあつたことを確認することができる。しかも被申請人が主張する解雇理由には前記(三)において指摘したような事情が認められるのであるから被申請人が申請人らを解雇した決定的な理由は、同人らが正当な組合活動を行つたことにあるといわざるをえない。
被申請人は申請人らが戸田校長復職運動或いは財団民主化運動として行つた所は、正当な組合活動の範囲外に出るものであつてこういう財団に協力しないものを被申請人が解雇するのは当然であると主張するが、これらの運動がいずれも財団民主化という目的によつて行われていることは疏明されているところであつて申請人らの属する組合が、組合員の労働条件身分保障等を改善するために、遡つて財団の運営方法や学長の人選に対して批判を加え意見を開陳し、或いはまた組合が自らの活動のみによらずして利害関係を共にする他のものと協力して行動することがあつても、その際に採用される手段方法さえ妥当な限界を守るものであれば正当な組合活動の範囲を逸脱したものというべきではないのであつて、本件において疏明されている所によれば、申請人らのなした行為は正当なる組合活動と認めることができる。
よつて被申請人が申請人両名に対してなした解雇の意思表示は不当労働行為として無効なものである。
解雇が無効であるにかかわらず被解雇者として扱われることは、申請人らにとつて回復しがたい損害であるから、仮処分の必要ありと認め主文の通り決定する。
(裁判官 西迪雄)