東京地方裁判所 昭和25年(ワ)235号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(事實)
原告會社は、訴外松下淸造から、被告東洋レーヨン株式會社の株式五百株を買受け、その内訴外甲名義の株式については同名義人作成の白紙委任状附株券(百株券一枚)の、訴外乙名義の株式については同名義人の白地裏書ある株券(百株券四枚)の交付を受け、現にこれを占有する。そこで、原告は、その買受けた株式の内、甲名義のものは松下から白紙委任状附で善意無過失で取得したものであり、乙名義のものについては裏書の連續によつて權利を證明し得る場合であるから、原告會社は右買受株式全部について株主權を有する、と主張する。
ところが、右松下は本件株式につき處分權限なきものであつたので、被告側では、原告の右主張に對して次のように抗爭する。すなわち、元來證券業者が未知の客から株式を買受けるに當つては、その住所氏名等身元を確認するために、米穀通帳又は居住證明書等の提示を求めるのが慣習であるのに、原告は本件株式の取得に當つて何等その賣主である松下の身分を證明すべき書類の提示を求めていない。從つて、原告は賣主の處分權限の點につき、白紙委任状附株式については過失があつたものというべく、裏書によつて取得した株式については悪意又は重大な過失があつたものというべきであるから、原告は本件株式について株主權を有するものではない、と。
(判斷)
原告勝訴。判決は、原告が本件株式を取得した際の具體的情況を認定し、その情況上において原告が賣主に米穀通帳等の提示を求めなかつたことは、悪意又は重大な過失でないのは勿論のこと、過失ということもできないと論じている。
すなわち、「甲第七號證の三の記載によれば、本件株式については事故屆がなされたことが認められるから、原告に對する訴外松下名義を以てなされた賣渡は無權限者によるものであつたことを推知せしめるに難くなく、證人菅野常及び栗川虎之助の證言を合せ考えれば、證券業者が未知の客から現物で株式を買い入れる場合には被告主張のような證憑書類の提示を得てから取引を行う場合があることが認められ、又證人菅野常の證言によれば、原告が本件株式を買い受ける際原告は賣主から米穀通帳又は居住證明書等の證憑書類の提示を受けなかつたことが認められるけれども、同證人の證言によれば、當時東京における證券業者の間では相互に事故株の通知をすることにしており、證券業者たる原告のところでは店頭の賣買に從事する店員の机上に右の通知事項を摘記して事故の防止に努めていたところ、本件株式は當時通知を受けていた事故株に屬していなかつたこと及び賣主として訴外松下淸造と稱して店頭に出頭した者は始めての客ではあつたが、年齡四十歳位で態度に格別不審の點のない者であつたことが認められ、他に右各認定に反する證據がない。同じ菅野證人の證言によつて明かなように、當時一日の取扱株式數二十五萬三千株にも及んだ原告として、右に認定した程度の注意を以て事務の處理に當つておれば、取引上相當の注意を拂つたものと認めるべく、その間賣主の無權限に關し、裏書株につき悪意又は重大な過失があつたといえないのは勿論のこと、白紙委任状附株式につき取引上通常拂うべき注意の欠缺があつたともいえないのである。從つて原告は、甲名義の株式百株については商慣習法により、乙名義の株式四百株については商法第二百二十九條第一項、小切手法第二十一條、第十九條により、夫々株主權を有するものと認めることができる。」