東京地方裁判所 昭和25年(ワ)2923号 判決
原告 小木曽 晴之助
被告 美濃部洋次
一、主 文
被告は、別紙<省略>記載の株式につき、原告名義に名義書換手続をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、「原告は、昭和二十四年十一月一日訴外松波鍾三郎から同人に対する貸金債権の担保として訴外日本競輪株式会社の昭和二十四年増資新株三万株(この株券番号い乙第三五五号乃至第三七四号及びは乙第七四五一号乃至第七五五〇号で名義人は被告である。)を讓り受け、右株式に対應する、被告を名宛人とし右訴外会社発行にかゝる株式申込証拠金領收証(その番号は、第八三〇七号乃至第八三三五及び第八三五六号で後に申込金が拂込金に振替充当せられたものである。)に同人作成の株式名義書換のための白紙委任状を添附してその引渡をうけた。したがつて、原告は、商慣習法により適法に右株式を取得したものであるにもかゝわらず、右訴外会社は、右株式については被告から詐取による被害届が出ているといつて名義書換に應じない。よつて被告に対し更めて名義書換の手続を求めるため本訴に及んだ次第である。」とのべた。<立証省略>
被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、「原告主張の事実中原告主張の株式が原告主張の株式申込金領收証に対應する株式であることは認めるが、原告が訴外松波鍾三郎から株式を取得した事情及び原告が訴外会社に対し株式の名義書換の請求をした事実は知らない。白紙委任状附株式申込証拠金領收証の引渡による株式讓渡の商慣習法の存在は否認する。」と述べた。<立証省略>
三、理 由
証人秋山竹次郎の証言に原告本人訊問の結果を合せ考えると、原告は、訴外松波鍾三郎に対し昭和二十四年十一月上旬金十一万円を貸與したが、右貸金の讓渡担保として右松波から原告主張の株式を讓り受けると共に、右原告主張の株式申込証拠金領收証と被告作成の株式名義書換のための白紙委任状の引渡をうけたことが認められる。しかして原告主張の株式が原告主張の株式申込証拠金領收証に対應するものであること及び右白紙委任状(甲第三号証の一乃至六)が眞正に成立したものであることは被告のみとめているところであるから、他に特別の事情のない限り、原告は商慣習法により原告主張の株式について適法にその権利を取得したものといわなければならない。
被告は、白紙委任状附株式申込証拠金領收証の引渡による株式讓渡の商慣習法の存在を爭うけれども、株式申込証拠金が後に拂込金に充当せられて株式申込証拠金領收証が株金拂込領收証に振り替えられた場合において、株式申込証拠金領收証に白紙委任状を添附するときは、白紙委任状附記名株券と同様にみなされ、市場を輾轉流通する慣習法の存することは、当裁判所に顕著である。又現行商法のもとにおいて、右慣習法の適用の妨となる何等の規定をもみない。
次に、被告が原告主張の株式について、その株式発行会社である訴外日本競輪株式会社に対し、詐取による被害届を提出し、右訴外会社が右届出のなされたことを理由として、原告の右株式名義書換の請求に應じないことは、本件口頭弁論の全趣旨に徴してこれを窺いうるところである。右のような被害届は他人のためになさるべき名義書換の阻止をはかるものであること明かであり、從つて、その届をうけた訴外会社としては、名義書換請求者である原告が果して善意無過失の適法な権利取得者であるかどうか分明でないとして一應その請求を拒否するのは、株式取引の実情からして止むを得ない処置というべきであり、被告は右の届出によつて原告が右白紙委任状を使用して株式名義書換の目的を達することを不能ならしめたものといわなければならない。
してみると本件において、原告は、すでに被告が任意に流通においた白紙委任状を所持するものであるけれども、被告は、更めて原告に対し名義書換手続に協力すべき義務あること勿論というべきである。
以上の通りであるから、原告の本訴請求を正当として認容し訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 小川善吉 中田秀慧 川上泉)