大判例

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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)4945号 判決

原告 日精商事株式会社

被告 佐藤奬

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「一、被告、増田産業株式会社間において、東京簡易裁判所昭和二四年(イ)第三〇八号物件引渡和解申立事件につき昭和二十四年七月二十一日爲した裁判上の和解は無効であることを確認する。二、被告より原告に対する前記和解調書の承継執行文にもとづく強制執行を許さない。三、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、(一)被告、訴外増田産業株式会社間において東京簡易裁判所昭和二四年(イ)第三〇八号物件引渡和解申立事件につき、昭和二十四年七月二十一日右増田産業株式会社が被告から金三十万円を借受け、その担保の目的で、東京都港区芝新橋二丁目三十八番地所在烏森ビル二階七号室につき右増田産業株式会社が有する借室権、並にその所有せる同室所在の附属動産物件及び電話加入権(銀座三六三〇番)を被告に讓渡し右借室及び物件を引渡す旨の裁判上の和解が成立しその旨の和解調書が作成された。(二)而るに原告は右増田産業株式会社から右和解の事実を知らないで、昭和二十四年十二月三十日前記同一物件を買受け、同二十五年四月二日前記借室及び附属動産物件につき夫々明渡、引渡をうけ原告の営業所として占有使用中であり電話加入権についてもその移轉手続をおえた。(三)ところが被告は同年八月十九日第一項記載の和解調書につき、原告が該和解上の増田産業株式会社の義務を承継したものとして、東京簡易裁判所より原告に対する承継執行文の付與を受け、これにもとづいて同月二十一日原告に対し前記借室及び動産物件引渡の強制執行を爲さそうとした。(四)しかしながら被告、増田産業株式会社間において、右和解当時、前記金員の貸借、物件の引渡等について何等の爭がなかつたにもかかわらず被告は右金員を貸渡すにあたり右物件等引渡の強制執行の爲の債務名義を得る手段として、両者間に権利関係についての爭があるかのように仮装して和解の形式をとつたものである。從つて右和解は、その前提となるべき当事者間の爭がないものであるから無効である。よつて右和解無効の確認を求めると共に、それを理由として該和解調書の執行力の排除を求めるため本訴請求に及んだと述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実の中(一)の事実は認める。(二)の事実中原告が現に該借室及び物件を占有使用中の点は認めるがその他は不知。(三)の事実は認める。(四)の事実は否認すると述べた。<立証省略>

三、理  由

被告、訴外増田産業株式会社間において原告主張のような裁判上の和解が成立しその旨の和解調書が作成されたこと、被告が原告を以て右会社の和解上の義務の承継人なりとして、右和解調書につき原告に対する承継執行文の付與を受けた事実は当事者間に爭がない。よつて右和解が原告主張のような理由によつて無効であるか否かの点について考えるに、証人増田進の証言及び被告本人訊問の結果を綜合すると、右増田産業株式会社は被告から、昭和二十四年六月上旬金十万円を、弁済期を二十日間位後として、その後同年七月十五日更に金二十万円を、弁済期を一ケ月位後として、何れも利息の定めなく借受けたが、右借受合計三十万円の担保の目的で増田産業株式会社の有する前記借室権、附属動産物件及び電話加入権を被告に讓渡して借室及び動産物件を引渡す旨の約定をした。そして右権利関係の存否もしくは内容それ自体には必しも爭があつたわけではないが(この点は原告の主張する通りである)、すでに当初の十万円の返済も遅延していたので、被告は右約定による権利関係の確実化をはかり且つその権利の実行の不安を除く爲に、原告主張事実(一)のような和解が爲さなれたものとみることが出來る。原告の援用する甲第一号証の記載内容は、証人増田進の証言によれば、必しも全部眞実に符合したものと認められないのみならず、その記載のように本件和解当時、権利関係の存否、内容等について爭がなかつたとしても(この点は前にも認定した通りである)、右認定のように権利関係についての不確実や権利の実行の不安全を予め防止する目的で和解がなされた以上和解の前提たる爭がなかつたとは云えないのであつて、これが爲右和解が無効となるものではなく甲第一号証始め原告援用の証拠はいづれもとるにたらぬものである。從つて本件和解につき、その前提たるべき当事者間の爭がなかつたとの理由でその無効なることの確認を求め、さらに該和解調書の執行力の排除を求める原告の請求は、いずれも理由のないものに帰するから、失当として、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 北村良一)

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