東京地方裁判所 昭和25年(ワ)5196号 判決
原告 食料品配給公団
被告 千葉県教育委員会
一、主 文
原告の訴は、これを却下する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、金七十一万九千三百四十二円八銭及びこれに対する昭和二十五年五月十二日より右完済にいたるまで、年六分の割合による金員を支拂え。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、つぎのとおり陳述した。
一、原告は、食料品配給公団法に基いて設立せられた公団であつて、経済安定本部総務長官の定める割当計画及び配給手続きに從い、みそ、しよう油等の食料品の適正な配給に関する業務を行うことを目的とするものであるが、昭和二十五年三月三十一日解散し、現に清算中である。
二、原告は、昭和二十四年五月二十日附、農林省食品局長より原告に宛てられた昭和二十四年六月分学童並びに保育兒童用粉末しよう油割当表に基き、昭和二十四年六月二十八日学童保育用粉末しよう油上級品千三百八函を、出荷者鐘淵化学工業株式会社高砂化学工業に出荷指図をなし、同工場は、右指図に基き、昭和二十四年七月十八日附で、右物品を被告に出荷し、当時右物品は、被告に引渡された。
而して、右物品の價格は、一函につき、金千三百二十二円三十二銭であるから、原告は、被告に対し、右物品を、代金金七十二万九千五百九十四円五十六銭で賣渡したこととなる。
三、よつて、原告は、被告に対し、右代金総額から、昭和二十五年五月十一日までに支拂済の九十五万七千三百五十九円六十八銭と被告が原告の承認を得て、昭和二十五年三月三十一日右物品のうち、一函千三百二十二円三十二銭の割合を以て前記鐘淵化学工業株式会社に返品した四十函に相当する代金五万二千八百九十二円八十銭を差引いた残額七十一万九千三百四十二円八銭と、これに対する前記のように被告が最後に代金を支拂つた日の翌日である昭和二十五年五月十二日から、その支拂済みにいたるまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支拂を求める。
四、なお、被告は、從來千葉縣もしくは千葉縣知事の権限に属していた教育、学術及び文化に関する事務、並びに將來法律又は政令により千葉縣及び被告の権限に属すべき教育事務を管理し執行する教育行政機関であつて、教育委員会法第四十九條所定の職務権限を有し、縣内の学校給食に関する企画並びに学校給食のための配給物資の管理及び利用に関することは、その重要な事務の一つであり、又被告は、予算の執行権を有し、被告の所轄に属する縣予算については、知事は、出納命令権がないのである。
もつとも、被告は財産権の主体ではないのであるが、前記学校教育委員会法第四十九條によれば、被告が縣の教育財産の管理権を有し、学校給食用の物資の購入代金を支拂い得る権限と業務を有することは明かであり、且つ、被告は千葉縣知事に対する独立の行政機関たるものであるから、被告のみが、本件訴訟の目的たる権利関係について管理権を有し、從つて、訴訟当事者能力を有するのである。
なお、教育委員会に要する経費は、当該地方公共団体の負担とする旨定められているが、経費負担者を被告とすることなく、管理権者を被告とするも妨げないこと明かである。
被告訴訟代理人は、主文第一項と同旨の判決を求め、本案前の抗弁として、被告は、地方公共団体たる千葉縣の機関にすぎないから、訴訟能力はない、と述べた。
三、理 由
被告が本件訴訟につき、当事者能力を有するか否かということが問題となるので、この点に限つて、判断をする。
まず、被告の法律上の性格についてみると、一般に教育委員会は、地方公共団体もしくはその長の権限に属し並びに將來属せしめられるべき教育事務を管理し及び執行する地方公共団体の執行機関である。しかも、教育委員会は、その事務を管理、執行するため、地方公共団体の教育財産を管理する権限を有するが、教育委員会自身に帰属する財産というものはない。すなわち、教育委員会は、單なる地方公共団体の機関たるにすぎないものであつて、地方公共団体に対して独立の権利主体性を有するものではない。教育委員会が取得した財産法上の権利及びその負担した義務の効果は、すべて地方公共団体に帰属するのである。それゆえ、教育委員会は、法律に特別に規定せられた場合のほかは、法律関係の主体たり得ず、從つて、訴訟当事者能力がないものと解すべきところ、現行法は、財産法上の訴訟に関し何らその旨の規定を設けていないのであるから、千葉縣教育委員会は、本件訴訟につき、当事者能力を有しないものといわなければならない。
この点に関し、原告は、被告の有する教育財産管理の権限に着目し、被告が財産権の主体でなくとも、当事者たり得ると主張するが、これは、当事者適格として論ぜらるべきことがらであつて、当事者能力の問題ではない。
ところで、財産権の主体でない第三者の当事者適格は、権利の実質的帰属主体に代り、又は、これと並んでその第三者が訴訟を追行する権能を有する場合に認められるのであるが、その第三者は、自ら訴え、もしくは訴えられる能力(訴訟当事者能力)を有するものでなければならない。すなわち、当事者適格は、当事者能力を有することを前提としてはじめて問題となるのであるが、被告が財産法上の訴につき当事者能力を有しないことはさきに述べたとおりであるから、その当事者適格を論ずる余地は全く存しないというのほかはない。
以上の理由により、被告は、本件訴訟につき当事者能力を有しないことは明かであるから、千葉縣教育委員会を被告とした原告の本訴は、不適法としてこれを却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 石川秀敏)