大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和25年(ワ)6286号 判決

原告 山根七郎治

被告 小林善次郎 外二名

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告小林は原告に対し金七百七万五千八百二十二円九十三銭七厘五毛を、被告阿部倉は原告に対し金百二十六万七千百八十七円五十銭を、被告木村は原告に対し金四百十九万八百三十五円を各支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、被告小林は訴外竜東輸出織物工業協同組合(以下訴外組合という。)東京出張所長訴外藤川隆利と共謀の上、昭和二十四年十二月二十日頃から同二十五年一月十二日頃までの間三回にわたり、横浜市花咲町三丁目七十八番地国際運輸株式会社倉庫において訴外組合が輸出向のため保管していたMKポプリン十三万九千五百九十七碼を、被告阿部倉は右藤川隆利と共謀の上、昭和二十四年十二月三十一日頃前記倉庫において訴外組合が輸出向のため保管していたMKポプリン二万五千碼を各竊取してこれを他に転売した。

二、被告木村は、原告の被承継人たる丸紅株式会社(受継前の原告)からの委託に基ずいて、東京都墨田区深川佐賀町帝国倉庫株式会社の倉庫に保管中の訴外組合所有のMKポプリン十一万二千八百碼を、昭和二十六年二月一日頃擅に他に売却して、これを横領したものである。

三、前記の被告小林、同阿部倉の不法行為並に被告木村の不法行為乃至債務不履行のあつた当時に於ける右MKポプリンの公定価格(物価庁告示による)は、一碼につき金五十円六十八銭七厘五毛であるから、訴外組合は、被告小林の前記不法行為により金七百七万五千八百二十二円九十三銭七厘五毛の損害を、被告阿部倉の前記不法行為によつて金百二十六万七千百八十七円五十銭の損害を、被告木村の前記不法行為乃至委託契約不履行によつて金五百七十一万七千五百五十円の損害をそれぞれ蒙つたので訴外組合は被告小林に対し金七百七万五千八百二十二円九十三銭七厘五毛の、被告阿部倉に対し金百二十六万七千百八十七円五十銭の、各不法行為による損害賠償請求権と、被告木村に対し金五百七十一万七千五百五十円の不法行為乃至債務不履行による損害賠償請求権とを有していたところ、原告の被承継人たる丸紅株式会社(受継前の原告)は右訴外組合に対し金千四百六十四万三千二百八十六円五十銭の綿糸売掛代金債権を有し之が債権を保全するため右組合に代位して、被告小林に対し金七百七万五千八百二十二円九十三銭七厘五毛の、被告阿部倉に対し金百二十六万七千百八十七円五十銭の、被告木村に対し損害金内金四百十九万八百三十五円の支払を求めて、本件訴訟を提起したところ、訴外組合に対し本件訴訟の係属中である昭和二十六年四月九日破産宣告(静岡地方裁判所浜松支部昭和二十五年(フ)第三号)があり原告がその破産管財人に選任されたので原告は破産法第六十九条に基ずいて被承継人たる丸紅株式会社(受継前の原告)の本件訴訟における地位を受継した。と述べ、被告小林の答弁及び抗弁に対して、一、訴外株式会社川泉商店が本件MKポプリンを訴外組合から買受けたことは否認する。仮りに右訴外会社が、右MKポプリンを右組合から買受けたとすれば、右MKポプリンは輸出向物資であるから臨時物資需給調整法に基く輸出向物資の流用防止規則による主務大臣の許可がなければこれを譲渡し又は使用することが出来ないのに、右訴外会社の買受には主務大臣の許可がなかつたから違法な行為で無効である。従つて右MKポプリンは訴外組合に返還せらるべきであるのに右訴外会社の代表取締役である被告小林はこれを他に転売して右組合の右MKポプリンの所有権を不法に侵害した。

二、被告小林の、本件取引は訴外株式会社川泉商店がなしたのであるから被告小林個人に責任がないとの抗弁は否認する。仮りに然りとするも被告小林は右訴外株式会社川泉商店の代表取締役として、其の職務を行うにつき本件不法行為をなしたのであるから被告小林にも本件不法行為の責任がある。と述べた。<立証省略>

被告小林訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告の請求原因事実中、本件ポプリンの公定価格の点は認めるがその余は否認する。本件MKポプリンは訴外株式会社川泉商店が原告主張の日に、原告主張の数量を訴外組合から代金七百二万五千六百円で買受け之が代金は右組合に支払済である。そして右売買は、右組合理事長大橋{日立}男及び同組合東京出張所長藤川隆利と右訴外会社専務取締役小林善次郎との間に行われたのであり、被告小林が右訴外藤川と共謀して竊取したのではないと述べ、抗弁として、

一、仮りに前記本件ポプリンの売買が臨時物資需給調整法及び輸出向物資の流用防止規則に違反して無効であるとしても、この違反は、訴外組合理事長大橋及び組合東京出張所長藤川が承知していた上で、売渡したのであるから、民法第七百八条の不法原因給付に該当し、訴外組合は本件ポプリンの返還を請求することができないし、又これに代わる損害賠償を請求することもできない。

二、前記のように、本件MKポプリンを買取つたのは訴外株式会社川泉商店であるから右買受けの一切の権利義務は右訴外会社に帰属し、被告小林は、右訴外会社の代表取締役として右訴外会社のために買受けたのであるから、被告小林には責任はないので本訴請求は失当であると述べた。又本件訴訟手続の受継について、本件訴訟は承継前の原告たる丸紅株式会社が、その債務者である訴外組合に代位して提起したものであつて、債務者たる組合が破産宣告を受けても、右組合は本件訴訟の当事者ではないから、民事訴訟法第二百十四条に所定の中断事由に該当しないし、本件訴訟の目的物である請求権は右丸紅株式会社の本件訴訟の提起によつて訴外組合は処分権を失つたのであるから、本件訴訟係属中に右組合に対し破産宣告があつても本件訴訟の目的物たる請求権は破産財団に属する財産ではないから、本件訴訟手続の受継は理由がないから却下されるべきであると述べた。<立証省略>

被告阿部倉訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め答弁として原告主張事実を否認すると述べた。

被告木村は主文同旨の判決を求め答弁として原告請求原因事実を否認する、被告木村は昭和二十四年十二月三十日頃本件MKポプリン十一万四千碼を訴外組合から買受けた、と述べた。<立証省略>

三、理  由

一、先ず、被告小林は原告の本件訴訟承継を争うので当裁判所は職権を以て調査するに、受継前の原告たる丸紅株式会社が債務者たる訴外組合に対する債権保全のため、右組合に代位して本訴提起後、昭和二十六年四月九日静岡地方裁判所浜松支部に於て右組合に対し破産宣告があり原告山根七郎治がその破産管財人に選任されたことは本件記録及び甲第十二号証(決定)により明らかである。そこで、右の破産宣告によつて、本件訴訟手続が中断するか否かについて考えてみるに、破産法第八十六条によると民法第四百二十四条の所謂債権者取消権に基く訴訟が債務者の破産宣告を受けた場合に中断する旨規定して居りこれは破産手続中は破産者は破産財団の管理処分権従つて訴訟の追行権を奪われ破産管財人に専属すること及び破産債権者は破産手続によつてのみ破産財団に対し権利を行使しうることに基くものである。而して民法第四百二十三条の所謂債権者代位権は債権者が債務者に属する権利を代位行使し自己の債権の弁済に充てるものであるから債務者が破産宣告をうけたときは前叙説示の理由で代位権行使による訴訟を追行するに由なく従つて同条の訴訟も破産法の前示法条の類推により債務者の破産宣告により中断するものと解するを相当と謂わねばならない。この点に関する被告小林の主張は到底採用出来ないものと謂うべきである。(尚同被告は中断を生じ受継を認めると仮に被告勝訴の場合訴訟費用は破産者の負担となり之が取立が困難となり他方従前の原告丸紅株式会社はこの責任をのがれ不合理であると主張するけれども破産法第六十九条によると訴訟費用は財団債権とされ優先弁済の効力を認められているのであつて同被告の主張するような不合理はないこと明白である。)従つて受継前の原告たる丸紅株式会社と被告等との間の本件訴訟手続は訴外組合に対し破産宣告のあつた前記昭和二十六年四月九日を以つて中断されたものと謂うべく従つて右組合の破産管財人たる山根七郎治が破産法第六十九条に基いて本件訴訟手続の受継を申立てたのは相当であつて、本件訴訟手続は原告において受継したものと謂うべきである。

二、被告小林、同阿部倉に対する請求について、

(1)  原告は被告等は訴外藤川と共謀の上訴外組合所有にかかる本件MKポプリンを竊取したと主張し、被告等は同組合から買受けたと抗争するので判断するに、この点に関する甲第八号証の六の記載は後記各証拠に比べて措信できないし、他に原告の主張を認めるに足る証拠はない。却つて、成立に争なき甲第十一号証の四乃至八、証人川上長司、同星野正、同小口佐一郎の各証言、及び被告小林本人訊問の結果を綜合すれば、次の事実を認めることが出来る。即ち、訴外組合は輸出向物資として本件MKポプリンを、前記国際運輸株式会社の倉庫に保管していたが之が輸出契約は買主から破棄されたので、右組合は之を国内で売却して現金化することを企て、右組合東京出張所長藤川隆利は組合長大橋{日立}男の承認を得て、内地転用の許可の手続と、これが売却に当ることとなり原告主張の日頃、訴外株式会社川泉商店に対し本件MKポプリン十三万九千五百九十七碼を代金七百二万五千六百円で売渡し、被告阿部倉に対して本件MKポプリン二万五千碼を代金百三十八万六千円で売渡したものであることが認められ之を覆す証拠はない。

そうすると被告小林同阿部倉に対し不法行為を前提とする原告の本訴請求は失当たること明白である。

(2)  原告の被告小林に対する第二次的請求原因として、仮りに、訴外株式会社川泉商店が訴外組合から本件MKポプリンを買受けたとすれば、右の買受は臨時物資需給調整法に基く、輸出向物資流用防止規則による主務大臣の許可がないので違法な行為で無効であり、従つて本件ポプリンの所有権は訴外組合に返還さるべきであるのに、右訴外会社の代表取締役たる被告小林はこれを他に転売して右組合の右MKポプリンの所有権を不法に侵害したからその損害賠償を求める請求権が訴外組合にあると主張し、これに対し被告小林は、前記売買が違法で無効であるとすれば、訴外組合も亦その違法なることを承知して売つたのであるから所謂不法原因給付に該当するので右組合は、本件MKポプリンの返還に代る損害賠償を請求することが出来ないと抗争するので審按するに、証人大橋{日立}男の証言によると前記売買は臨時物資需給調整法に基く輸出向物資流用防止規則所定の許可なくしてなされたものであることが認められるから同法に違反したものであり従つて右売買は公の秩序に反する行為であつて無効と謂わざるを得ない。そこで被告小林は法律上の原因なくして利得し訴外組合は損失したか否や従つて不当利得の返還請求権が右訴外組合にあるか否やを審按するに前叙認定のように右売買は訴外組合と訴外株式会社川泉商店との間になされたものであつて被告小林との間になされたものでないから同被告に対し不当利得の返還を請求することが出来ないこと明白である、従つて右売買の無効を前提とする原告の被告小林に対する本訴請求は他の判断をまつまでもなく失当である。

三、被告木村に対する請求について、

原告は、被告木村は訴外組合所有の本件ポプリンを承継前の原告たる丸紅株式会社から委託されて保管中これを擅に他に売却したと主張し、被告木村はこれを争うので判断するに、この点に関する甲第八号証の二及び同号証の三の各記載は後記各証に比べて措信できないし他に原告の主張を認めるに足る証拠はない。却つて、成立に争ない甲第十一号証の四乃至八及び証人川上長司の証言を綜合すれば、訴外組合は昭和二十四年十二月下旬頃本件MKポプリン十一万二千二百碼を被告木村を通じて訴外全国旅館組合連合会に売却したものであることを認めることができる、されば、委託契約不履行乃至は不法行為を前提とする原告の被告木村に対する本件損害賠償の請求は失当といわざるを得ない。

四、以上の次第であるから原告の本訴請求はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 花淵精一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!