東京地方裁判所 昭和25年(ワ)6500号 判決
原告 松竹株式会社
被告 住吉仙次郎
一、主 文
被告は原告会社に対し東京都中央区築地三丁目八番地の七所在宅地三百二十二坪九合三勺の地内に存する木造ルーフイング葺平家建店舗一棟建坪三十四坪七合五勺の内向つて右から二番目の一駒建坪六坪及びその裏側に接続して増築された木造トタン葺中二階建各階ともに三坪の部分を明渡し、かつ昭和二十五年八月一日以降右明渡済に至るまで一ケ月金三千円の割合による金員の支払をせよ。
被告は原告会社に対し前項掲記の建物の裏側空地に同建物に近接して建築された木造トタン葺二階建一棟建坪九坪外二階七坪を収去してその敷地の明渡をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は原告会社において金二十万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
二、事 実
原告会社訴訟代理人は主文第一乃至第三項と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、「主文第一項掲記の宅地三百二十二坪九合三勺は原告会社の所有に属するものであるが、原告会社は右地内に昭和二十二年一月頃長屋式マーケツト十数棟を建設し、これを松竹センターと称し、各棟を三坪乃至六坪に駒割りして他に賃貸することゝし、被告に対してはそのうち主文第一項掲記の建物の内同項掲記の一駒六坪の部分を同年一月二十七日、賃料一ケ月金三千円、期間昭和二十四年十二月二十六日までと定め、なお被告において内部造作その他原形を変更する場合は予め原告会社に連絡の上設計図その他必要事項を通知し双方協議決定すべく、右に違反したときは原告会社は契約を解除し、損害賠償を請求し得る旨の特約を附して賃貸したところ、被告は原告会社に無断で、その賃借部分の裏側に接続して木造トタン葺中二階建各階三坪を増築し、かつ何等の権原なきにかゝわらずその裏側空地に右建物に近接して主文第二項掲記の建物一棟を建築所有し、原告会社の所有地たるその敷地部分を不法に占有するに至つたので、原告会社は被告に対し昭和二十三年四月九日附内容証明郵便による書面を以て同月三十日までに右建物の除去方を要求したが、被告はこれに応じないので、原告会社は被告に対し昭和二十四年八月二十七日附内容証明郵便による書面を以て右契約違反を理由として前記賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなした。よつてここに右賃貸借契約は終了するに至つたので、原告会社は被告に対し賃貸借契約の終了に基く原状回復義務の履行として右賃貸部分の明渡を求めるとともに、前記増築部分は建物の他の部分に著るしい損傷を加えずして分離収去することは不可能と認められるから、民法第二百四十二条所定の附合の原理により原告会社がその所有権を取得したものとして、併せて同部分の明渡を求め、なお右賃貸借契約解除以後は被告は原告会社に対抗し得べき権原なくして不法に右建物部分を占有し、原告会社の建物所有権を侵害していることになるから、その損害賠償として、右契約解除後たる昭和二十五年八月一日以降右明渡済に至るまで相当賃料額たる一ケ月金三千円の割合に相当する損害金の支払を求める。また主文第二項掲記の建物は被告が原告会社に対抗し得べき何等の権原なくして、原告会社の所有地上に建築所有するものであるから、原告会社は被告に対し、土地所有権に基き右建物を収去してその敷地の明渡をなすべきことを求める。と陳述し、被告主張の抗弁事実は否認すると述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁並びに抗弁として、「原告会社主張の事実中主文第一項掲記の宅地三百二十二坪九合三勺が原告会社の所有に属すること、被告が昭和二十二年一月二十七日原告会社よりその主張の建物部分をその主張の約定で賃借したこと、右建物が原告会社の所有に属すること、被告が右賃借部分の裏側に接続して原告会社主張のような増築をなし、かつその裏側空地に原告会社主張の建物を建築したこと、被告が原告会社よりその主張のような内容証明郵便の各送達を受けたことはいずれもこれを認めるが、その余の事実は否認する。被告は前記増築及び空地内の建物建築についてはいずれも原告会社の承諾を得たものである。従つて原告会社のなした契約解除の意思表示は無効であり、また被告の右空地内の建物所有は不法占有ではない。」と述べた。<立証省略>
三、理 由
主文第一項掲記の宅地三百二十二坪九合三勺が原告会社の所有であること、被告が昭和二十二年一月二十七日原告会社よりその所有にかゝる主文第一項掲記の建物の内同項掲記の一駒建坪六坪の部分を原告会社主張の約定で賃借したこと、被告が右賃借部分の裏側に接続して、原告会社主張のような増築をなし、かつその裏側空地に右建物に近接して主文第二項掲記の建物を建築所有することはいずれも当事者間に争がない。
ところで被告は右増築並びに空地内の建物建築についてはいずれも原告会社の承諾を得た旨抗争するので、この点について按ずるに、証人上原竜之助及び被告本人はいずれも被告の右主張に副うような供述をしているが、これらの供述は証人野口鶴吉、同根岸徳蔵、同須賀俊平の各証言に照らしてたやすく措信し難く、証人野口鶴吉、同根岸徳蔵の各証言を綜合すれば、原告会社においては被告に対しかゝる承諾を与えたことは全然ないことを認めるに足り、他に右認定を左右するに足る証拠はない。しからば被告の右増築並びに空地内の建物建築は原告会社に無断でなされたものとして、前記契約の特約条項に違反するものといわなければならない。もつとも右のうち空地内の建物建築は本件賃貸借契約の目的物件でない土地の上になされたものであるから、一見本件契約とは直接関係がないといゝ得るようにも思われるが、ひるがえつて考えてみるに、契約物件たる建物の敷地に隣接する右建物と同一所有者の土地に、しかも極めて近接した距離において無断建築をなすが如きは、契約物件たる建物自体に無断増築を施した場合と社会観念上選ぶところがないものと認められるから、被告のかゝる行為を目して前記契約の特約条項違反と断ずるにはゞからない。
しかり而して、原告会社が被告に対し昭和二十三年四月九日附内容証明郵便による書面を以て同月三十日までに右建物の除去方を要求したが、被告はこれに応じないので原告会社は被告に対し昭和二十四年八月二十七日附内容証明郵便による書面を以て右契約違反を理由として本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなしたことは当事者間に争ないところであるから、本件賃貸借契約はその頃解除により終了するに至つたものといわなければならない。
しからば被告は賃貸借契約の終了に基く原状回復義務の履行として原告会社に対し前記賃借部分を明渡すべき義務あるものというべく、なお前記増築部分は、本件口頭弁論の全趣旨に徴し、建物の他の部分に著るしい損傷を加えずして分離収去することは至難と認められるから、民法第二百四十二条の附合の原理により原告会社の所有に帰属するに至つたものとして、被告は前記賃貸借契約の終了とともにこれを原告会社に明渡すべき義務を負担するに至つたものといわなければならない。(もつとも右につき被告が原告会社に対し償還請求権を有することはいうまでもないが、これは別途に解決すべき問題である。)また被告は右契約解除後は原告会社に対抗し得べき権原なくして右建物部分を不法に占拠し、原告会社の建物所有権を侵害していることになるからその損害を賠償すべき義務あるものといわなければならない。ところで本件賃貸借契約は店舗の賃貸借であつて昭和二十五年七月十一日以降地代家賃統制令の適用が排除されたことは明かであり、本件賃貸借の約定賃料が一ケ月金三千円であることは当事者間に争なく、統制排除後の相当賃料額は反証なき限り約定賃料額によるべきものといゝ得るから、原告会社が被告に対し昭和二十五年八月一日以降明渡済に至るまで一ケ月金三千円の割合による損害金の支払を求めることは正当である。
次に主文第二項掲記の建物は、被告が原告会社に対抗し得べき何等の権原なくして不法に原告会社の所有地上に建築所有するものであること前記認定のとおりであるから、原告会社が被告に対し土地所有権に基き右建物を収去してその敷地の明渡をなすべきことを求めることも正当である。
以上認定のとおりとすれば、原告会社の本訴請求はすべて理由あることが明かであるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 古山宏)