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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)6602号 判決

原告 財団法人 交詢社

被告 蔵口直次 外一名

一、主  文

一、被告等は原告に対し、東京都中央区銀座六丁目四番地の四、五、六、所在、家屋番号同町八七、店舗、鉄筋コンクリート造七階建一棟の中、四階号外室(昇降機室及び休憩室の一部を改造した室)建坪約四坪五合を明渡さなければならない。

二、原告その余の請求は之を棄却する。

三、訴訟費用は被告等の連帯負担とする。

二、事  実

(請求の趣旨)

原告訴訟代理人は主文第一、三項同旨及び被告等は連帯して原告に対し昭和二十五年四月四日以降明渡ずみに至るまで一ケ月二百七十円の割合による金員を支払えとの判決、並びに仮執行の宣言を求めた。

(請求の趣旨に対する答弁)

被告等各訴訟代理人はいずれも原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求めた。

(請求の原因及び被告等の抗弁に対する答弁)

(一)  原告はその所有にかかる主文第一項記載建物(以下本件建物と称す)内の一室(以下本件室と称す)を昭和二十二年十二月一日被告蔵口に賃貸し、賃料は一ケ月二百七十円(昭和二十三年八月以降は一ケ月七百二十円に増額)期間は昭和二十三年十一月三十日までと定めた。但し期間についてはその後契約を更新して一年間延期し昭和二十四年十一月三十日までとした。本件室の構造は、元来、昇降機室及びその入口に接続する講堂の休憩室の一部であつたものを改造して板壁で囲んで室としたものである。

(二)(イ)  ところが構造が右のようであつたため、昭和二十四年九月東京消防庁は点検の結果防火上の見地から本件室を撤去するよう原告に対し命令して来た。

(ロ)  一方被告蔵口は前記賃貸借契約締結後昭和二十四年二月頃より原告に無断で日比野産業株式会社に本件室を転貸し、その後右会社が退去してからも昭和二十四年十月頃から翌昭和二十五年八月末まで訴外茅野和明に同じく無断転貸し、訴外茅野は更に昭和二十五年九月一日以降これを被告白ばら会に無断転貸し現に同被告がこの室を不法占有している。

(ハ)  被告蔵口は昭和二十四年二月から同年九月までの賃料を原告に支払つていない。

(三)  右(イ)の事由は原告と被告蔵口間の本件賃貸借を解約し得べき正当事由であるから原告は昭和二十四年十月二日同被告に到達した書面をもつてこの事由に基き六ケ月の猶予期間をおいて賃貸借契約解除の申入を通告したので、その後六ケ月を経過した昭和二十五年四月三日本件賃貸借契約は解除されたものである。なお右(ロ)(ハ)の事由もまたこの解約申入についての正当事由として併せて主張する。仮りに右解約が理由ない場合には(ロ)の不法転貸を理由として本訴において被告蔵口に対して契約を解除するものである。

(四)  よつて原告は被告蔵口に対しては賃貸借契約の終了に基き、被告白ばら会に対しては所有権に基いてそれぞれ明渡を求め、かつ昭和二十五年四月四日以降明渡ずみに至るまで最初の賃料額である一ケ月二百七十円の割合による損害金の連帯支払を求めるものである。

(五)  被告蔵口の抗弁事実は凡て否認し、被告白ばら会の抗弁は不知である。

(被告蔵口の原告の請求原因に対する答弁及び抗弁)

(一)  請求原因(一)の事実は期間の点を除きその他はこれを認める。本件賃貸借には期間の定めがない。同(二)の(イ)の事実は不知である。(ロ)の事実は日比野産業株式会社を原告の承諾を得て本件室に同居せしめたことはあるがもとより無断転貸ではないのみならず同会社はその後その使用をやめているから何ら問題とするに足らない。その他の事実は否認する。(ハ)の事実は否認する。同(三)の事実中解約申入書の到達は認めその他は否認する。同(四)の原告主張の損害は否認する。原告は本件室を撤去するために明渡を求める以上被告等から明渡をうけたからといつてこれを賃貸その他の方法により収益をあげるということは考えられないから賃料相当額の損害を生じる余地がない。

(二)(イ)  本件室は元来原告自身が設置したものであつて、同処の昇降機の使用を廃止したのは実際上も法規上もその必要がないためにほかならないし、広大な本件鉄筋コンクリートビルデイング内に僅か四坪半の本件室が存在したからとて人命財産に危険を及す虞ありとは認められない。もしその虞があるならば原告において適当な防止設備を設けるべきであるのみならず、原告は本件解約の理由として室を撤去する必要ありというけれども原告に撤去の意思がないことは本訴において明渡ずみまでの損害金を請求していることからみて明かである。何となれば若し真に撤去のために明渡を求めるものならば前述の通り明渡遅延による損害を生ずる筈はないからである。

(ロ)  被告蔵口は原告に対して昭和二十二年十一月二十五日敷金八百十円の外に権利金十二万円を支払つて本件室を賃借の上、板壁のペンキ塗等の有益費約二万円を支出し、なおその外に原告の支払うべき財産税の分担金約三千円、電話使用料電気料その他の賦課金等を支払つて来たのであるが、昭和二十三年十一月十八日原告から期間満了の故をもつて四月末日限り明渡の通告をうけ剰え電話機の設備を一方的に撤去せられたので被告は本件の室で営業中の擬革類防水布製品等の販売業に大打撃を蒙り莫大なる損害を生ずるに至り、その間被告より再三賃貸借の継続または代りの室の賃貸を懇請したが原告は何ら誠意を示さず故なくこれに応じないのである。

(三)  なお仮りに被告蔵口に明渡義務があるとしても同被告は前述権利金十二万円及び有益費二万円につき原告に対し償還請求権があるからこれが支払あるまで本件室を留置する。

(被告白ばら会の原告の請求原因に対する答弁及び抗弁)

(一)  本件室が原告の所有建物内の一室であり同被告が昭和二十五年九月一日以降これを占有していることは認めるがその他の原告主張事実はこれを争う。

(二)  同被告は昭和二十五年八月三十一日本件室の前賃借人訴外茅野和明よりその賃借権を譲受け昭和二十五年九月一日及び同月十日の二回に権利金二十万円を支払済であつてその際同訴外人は原告の承諾ありと言明したのでその言を信じて譲受け爾来平穏公然に同室を占有しているものである。

<立証省略>

三、理  由

第一、被告蔵口に対する明渡請求について。

(一)  主文記載の本件室が原告所有建物内の一室であり、被告蔵口が昭和二十二年十二月一日原告からこの室を賃料一ケ月金二百七十円(昭和二十三年八月一日以降は一ケ月金七百二十円に増額)の約束で賃借したことは右当事者間に争なく、賃借期間の点については争があるけれども成立に争のない甲第一号証と本件弁論の全趣旨によると最初昭和二十二年十二月一日から昭和二十三年十一月末日の一ケ年の約束であつたが、その期間満了後更に当事者間において契約を更新し昭和二十四年十一月三十日迄一ケ年間延長せられたものと認められる。

(二)  原告は右賃貸借を解約すべき正当事由ありとして昭和二十四年十月二日被告蔵口に到着した書面で解約を申入れたというのであるが借家法第二条によると、期間の定めある賃貸借の解約申入(更新拒絶)は期間満了前六ケ月ないし一年内になさなければその効力なく期間満了の際前賃貸借と同一条件で更新したものとみなされるのであるから原告のなした右解約の申入れは(一)で認定した通り昭和二十四年十一月三十日迄延長された賃貸借に対する解約申入としてはその効力なく、本件室の賃貸借はこの申入にかかわらず右約定期間満了の際すなわち昭和二十四年十一月三十日に更に同一条件で法定更新されたものとみなされるわけである。しかしながら借家法第二条により法定更新された賃貸借については民法第六百十九条第一項但書第六百十七条により賃貸人は何時でも解約の申入ができその解約についてのその正当の事由がある限り申入後六ケ月の経過により賃貸借は終了するもの(借家法第一条の二、第三条)と解するのを相当とすべきところ、成立に争のない甲第五号証の一、二によると原告は右法定更新の後である昭和二十五年三月七日被告蔵口に到着した書面で本件室の明渡を求めていることが明かであり、この明渡請求には解約申入の意思表示を含むものと解すべきであるから、正当事由のあるときは、その後六ケ月を経過した同年九月七日限り本件室の賃貸借は解除せられたものと認めねばならない。

(三)  よつて、更に進んで右正当事由の有無について判断する。

(イ)  本件室は、原告主張のように、元来昇降機室であつた場所を改造し、及びその出入口にあたる広間(休憩室)の一部を板壁で仕切つてこしらえた約四坪五合の室であることは当事者間に争がない。

(ロ)  そして成立につき右当事者間に争のない甲第二号証、同第四、五号証の各一、二、同第十二号証の一、二及び証人藤井麟太郎、川瀬竹治郎の各証言を綜合すると、昭和二十四年九月東京消防庁は本件建物を検査した結果、同建物は消防上遺憾の点が多くこのまま放置すれば火災その他の災害に際し人命財産に不測の損傷を来す恐あり故に綜合的に災害防止に協力せられたしとして各階共昇降機室を事務室その他昇降機室以外の用途に用いないこと及び本件室の板仕切の撤去を要請する旨の書面を同庁予防部長名義で同年九月十日頃原告に対し送達したこと、右要請は消防法第五条による強制撤去命令ではないが右命令を出す前の任意履行を勧告する書面であつてこれに応じない場合には命令の発動をうけるべき筋合であつたから原告はこの勧告の趣旨に従い本件室を撤去する為に同被告に対し前記解約の申入をしたことがそれぞれ認められる。同被告は、本件室の所在する場所の昇降機は実際上も法規上もその使用の必要なく、また広大な本件建物内に僅か四坪五合の本件室が存在したからというて災害予防上何等の危険はないというけれども、この点は畢竟見解の相違に過ぎないものというべく、いやしくも消防庁が消防法の規定に基く職権の発動として災害防止の必要を認定し、前記のような勧告をして来た以上たといそれが強制力を伴う命令でないにせよ、原告としては、特段の理由のない限りこの勧告に応ずる措置を講ずべきはもとより当然であつて、本件にあらわれた凡ての証拠によるも原告が右消防庁の勧告を拒否し得るような特段の理由を見出すことはできない。また、同被告は、本件室の存在することにより災害の危険があるならば原告において適当な防止設備を設くべきであると主張するけれども本件建物の構造及び本件室の位置構造からみて撤去以外に適当な防止設備を施す余地のないことは前記甲第十三号証の一、二(消防庁予防部長茂野柾次郎の証言調書)の記載から窺い知ることができこれを覆すに足る反証は何もない。更にまた同被告は、本訴において原告が損害金の請求をする以上、撤去の意思のないことは明かであると主張するけれども本訴の主たる目的は前記消防庁の勧告に応ずる為に明渡を請求することにあつて、損害金は附帯の請求に過ぎないことは証人藤井、川瀬の証言及び原告の弁論の全趣旨に徴し明かであるから、損害金請求の一事を以て(もつともその理由のないことは後記の通りである)撤去の意思ないものと断ずることは失当である。従つて、これらの点に関する同被告の主張はいずれも採用しえない。

(ハ)  一方、被告蔵口側の事情をみるに、成立に争のない甲第六、七号証、証人藤井、川瀬、茅野の各証言及び被告蔵口本人の供述を綜合すると、蔵口は本件室を賃借後これを営業所としてベルセード等の販売業を目的とするベルセード株式会社を経営していたが、昭和二十四年六月頃同会社を解散しそれ以後は唯商品の残りを置いている程度で稀に出入するに過ぎず現実には殆ど本件室を使用することがなかつたので、知合の荻野孝雄にその使用を許し且原告からの明渡請求に関する交渉及び借室権譲渡の斡旋等を同人に一任していたこと、荻野は同被告からの右の委任に基き昭和二十五年七月頃本件室の借室権を権利金十五万円で茅野和明に譲渡し、茅野は更に同年八月三十一日被告白ばら会に権利金二十万円で譲渡し同年九月一日以後は同被告において本件室を占有使用するようになつたこと、及びこれら借室権の譲渡についてはいずれも原告の承諾を得ていないことをそれぞれ認めることができる。

(ニ)  以上認定の賃貸人と賃借人の双方の側に存する事情を綜合すると、原告が前記認定の通り解約の申入をしたと認むべき昭和二十五年三月七日当時においてその解約をなしうべき正当の事由があり、且その事由はその後六ケ月を経過した同年九月七日当時迄引続き存続したものと認めるのが相当である。被告蔵口は原告が本件室の電話設備を不当に撤去した為に多大の損害を蒙り、また権利金、改修費、分担金等を支出しているに徴しても、原告の解約申入は正当事由を欠くものと主張するようであるが、原告が昭和二十三年十二月末日限り同被告の電話使用を停止したことは原告も争わないところであり、その為に同被告が営業上若干の打撃をうけたであらうことは推察に難くないけれどもこの電話の使用停止が契約違反の措置であるかどうかは被告の立証によつては明確ではなく、また同被告主張の権利金等はたといこれを支出したとしても本件解約申入れの正当事由を判断する資料としては極めて間接的であり、もとより前記の認定を覆すに足らない。よつて、原告と同被告間の本件室の賃貸借は右の解約申入により同年九月七日限り解除せられたものと当裁判所は認定する。

(四)  次に被告蔵口は留置権の抗弁を主張するが、その主張の権利金を原告に支払つたことを認めうる証拠はなく、また同被告が本件室を賃借後ペンキ塗等若干の補修をしたことは同被告の陳述に徴し推認できるけれどもそれにより価値の増加が現存することを認めうる証拠はないのみならず前認定の通り同被告は現在本件室を占有していないのであるから、いずれにしても右抗弁は理由がない。

(五)  以上の理由により被告蔵口は原告に対し本件室を明渡す義務があるわけである。

第二、被告白ばら会に対する明渡請求について。

主文第一項記載の本件建物内の本件室が原告の所有に属し被告白ばら会が昭和二十五年九月一日以降これを占有していることについては右当事者間に争がない。

同被告は本件室は前賃借人訴外茅野和明から転借したものでこの転貸借には同訴外人が原告の承諾を得ていたと言つたことを信用したものであると抗弁するが、右原告の承諾があつたという事実を認めるに足る証拠がないのみならず、却つて前記第一の(三)の(ハ)において認定した通り原告の承諾を得なかつたものと認められ、他に同被告の占有権限について何等の主張立証がないから同被告は不法に本件室を占拠しているものというべく、原告に対しこれが明渡義務あることは明かである。

第三、被告両名に対する金員の請求について。

原告は被告等が本件室を明渡さないために昭和二十五年四月四日以降少くとも一ケ月二百七十円の割合による賃料相当の損害を蒙りつつあると主張するけれども原告は本件室の撤去を目的として明渡を請求していることは前認定の通りであるから被告等の明渡義務不履行あるもその為めに本件室の自己使用または賃貸により得べかりし賃料相当額の喪失ということはこれを認めるに余地なく、その他に被告等の右不履行により蒙るべき損害について原告は何等具体的に主張立証をしないから、この点に関する原告の請求は理由なきものと認むるの外はない。

第四、以上の理由に依り原告の本訴請求中明渡請求はこれを認容すべきも、金員請求部分はこれを棄却すべきものとし、訴訟費用については民事訴訟法第八十九条、同第九十三条第一項但書を適用して被告等の連帯負担とし、仮執行の宣言は事案の性質上これを付さないのを相当と認め主文の通り判決する。

(裁判官 岸上康夫)

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