大判例

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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)7636号 判決

原告 田畑市郎

被告 工藤蔵治

一、主  文

被告は原告に対し金三十万円及び之に対する昭和二十四年十月二十六日から完済迄年六分の割合の金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告に於て金七万円の担保を供託すれば仮に之を執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、被告は昭和二十四年九月六日訴外の東邦工業株式会社を受取人として、金額三十八万円、満期同年十月二十五日、振出地東京都港区、支払地同都千代田区、支払場所株式会社富士銀行神田支店なる約束手形一通を振出し、同会社は之を原告に裏書譲渡して原告はその所持人となつた。よつて原告は右満期に支払場所に於て手形を呈示して支払を求めたところ、被告は内金八万円を支払つたのみでその余の支払を拒絶した。よつて手形金残金三十万円及び之に対する満期の翌日の昭和二十四年十月二十六日から完済迄手形法所定年六分割合の法定利息の支払を求める為本訴請求に及んだと述べ、被告の抗弁事実を否認した。<立証省略>

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として被告が原告主張の如く手形を振出し、原告がその裏書譲渡を受けて所持人となつたこと、被告が内金八万円を支払つたことは認めるが、その余の原告主張事実は否認すると述べ、抗弁として、被告は昭和二十四年三月東邦工業株式会社との間に、同会社の消火器を依託販売する契約をなし、青森市の被告方に消火器数十台の送荷を受けた。本件手形は右依託販売代金支払の為振出したものである。しかるに右消火器が不良で売行不振の為期日に手形金の支払ができなかつたので、満期の翌々日即ち十月二十七日に、被告の東京支店事務所に於て、原被告及び右会社の取締役石川友治郎との間に、(イ)右依託販売契約を解約し青森所在の残品を右会社に返品し、代金の不足金を清算すること、(ロ)同日被告より原告に手形金八万円を支払うこと、(ハ)右会社は被告から残品の返品並に不足金の清算を受けると共に手形金残債務を免脱的に引受け之が支払をすること、以上の如き約束をなし、被告は即日八万円を原告に支払い、且昭和二十五年一月下旬、右会社に対し残品を返品し、且不足の代金は当初右会社に交付していた保証金二十万円と差引き、なお不足金を支払つて清算した。よつて被告は右手形金の残債務を免脱したものであり、本訴請求には応じられないと述べた。<立証省略>

三、理  由

被告が東邦工業株式会社を受取人として原告主張の如き約束手形一通を振出し、その裏書譲渡により原告が所持人となつたこと、被告が右手形金の内金八万円を支払つたことは当事者間に争がない。

而して証人佐藤好弘及び原告本人の各供述によれば、右手形の満期前、すでに原告が手形所持人となつていたことを熟知していた被告は手形が不渡となることをおそれ、内金の支払を条件として、銀行に振込むことの猶予を原告に求め、満期の前日原告に対し、満期の当日支払場所の株式会社富士銀行神田支店に於て内金八万円を支払うから同日同所に出会してくれるよう申入れ、よつて満期の当日同所に出会した原告に対し被告より前記内金八万円を支払つた(その余の支払はしなかつた)事実を認めることができる。右認定に反する証人石川友治郎、秋武藤衛の証言は措信しがたい。而して同日同所に於て原告が現実に手形を呈示した証拠はないが、手形の支払につき呈示を要求している法の意図は、手形債務者に対し真実の手形債権者の何人なるかを明かならしめ、二重払の危険を免れしめんとするに外ならないのであるから、右認定のように手形債権者の何人なるかが手形債務者に明確で、手形金の支払について当事者間に諒解が成立しその諒解に基き支払場所に於て手形金の授受を行い、その間二重払の危険の発生する余地なき場合に於ては、手形所持人が支払場所に赴いた以上、ことさら手形を現実に呈示しなくても、法が手形の呈示につき要求せるところはすでに満足せしめられているのであり、手形を現実に呈示したのと同一の効力を生ずるものと解して差支えない。

被告は手形金残金三十万円について、東邦工業株式会社が免脱的に債務を引受ける契約が成立したと抗弁するが右主張に副う証人石川友治郎、秋武藤衛の証言は措信しがたく他に之を認めるに足る証拠はないから右抗弁は採用できない。

よつて被告は原告請求通りの手形金残金並に法定利息を支払うべき義務あるものであるから、原告の本訴請求を正当として認容し、民事訴訟法第八十九条、第百九十六条を適用し主文の如く判決する。

(裁判官 北村良一)

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