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東京地方裁判所 昭和25年(行)79号 判決

原告 上木神秀三

被告 東京都知事

一、主  文

原告の昭和二十五年七月二十六日附電話加入権公売処分の取消を求める訴願に対し、被告が同年九月十九日なした裁決は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文第一項と同旨の判決を求め、その請求の原因として、「原告は、千代田区長より昭和二十四年度第一、二期分事業税同年度第一期分都民税及び区民税合計金二万二千九百十四円の賦課をうけ、これを納期日までに納入しなかつたところ、右納税について督促をうけ、指定期日までに完納しなかつたため、昭和二十五年二月二十七日同区長より右税金及びこれに対する延滞金督促手数料合計金二万八千九百四十円を徴収するため原告名義の電話加入権茅場町局第八四八六番の差押をうけ、右電話加入権は同年五月二十三日公売に付された。滞納者の財産を公売するに当つては、事前に公売期日を滞納者に通知することが法規上ないし慣習上要求されているが、右公売はその期日を滞納者である原告に通知しなかつたから違法である。又、右公売当時における茅場町局内電話加入権の時価は金十万円程度であるところ、本件電話加入権の公売価格は金三万八千円であつて時価の半額にも足りない不当に廉価なもので、かかる不当に廉価な価格による公売処分は滞納者の財産権を侵害するものゆえ違法である。右の如く、本件公売処分は違法であるから、原告は昭和二十五年七月二十六日東京都知事に対しこれが取消の訴願をしたが、同知事は同年九月十九日右訴願を棄却する旨の裁決をなし、裁決書は同年十月十日原告に到達した。よつて、原告は同知事のなした右裁決の取消を求めるため本訴に及ぶ。」と述べ被告の答弁事実を否認した。(立証省略)

被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、「本件公売の実施されたのは昭和二十五年五月十八日である。千代田区長が公売期日を原告に通知しなかつた事実及び公売実施当時における茅場町局内電話加入権の時価が原告の主張するような価格であつた事実は否認する。その余の原告の主張事実はすべて認める。本件公売処分を昭和二十五年五月十八日に実施する旨の通知は、千代田区長が同年五月十一日書留郵便で発送し、その後神田郵便局集配人が同年五月二十二日にいたる間一日一回前後十回にわたつて千代田区神田紺屋町三十五番地の原告の営業所に配達したのであるが、原告の留守番と称する人が受領を故意に拒否したのである。しかし、公売期日を滞納者に通知することは公売処分の要件ではないから、かりに原告主張のように公売期日の通知をしなかつたとしても、これにより公売処分が違法となるものではないから、この点について原告の主張は失当である。又、右公売当時の茅場町局内電話加入権の通常の公売価格は三万五千円前後であるから、三万八千円の本件公売価格が不当に廉価であるということはできない。」と述べた。(立証省略)

三、理  由

原告が昭和二十四年度第一、二期分事業税並びに同年度第一期分都民税合計金二万二千九百十四円を納期までに納税しなかつたところ、右納税について督促を受け、指定期限までに完納しなかつたため、昭和二十五年二月二十七日千代田区長より右税金及びこれに対する延滞金、督促手数料合計金二万八千九百四十円を徴収するため原告名義の電話加入権茅場町局第八四八六番の差押をうけたこと、千代田区長が右電話に対する公売を実施し、その結果金三万八千円で処分されたこと、及び、原告が昭和二十五年七月二十六日東京都知事に対し右公売処分の取消の訴願をしたところ、同知事が同年九月十九日右訴願を棄却する旨の裁決をなしたことは当事者間に争がない。

原告は、右公売処分は期日を原告に通知しないで実施されたから違法である旨主張するが、地方税の徴収について適用される国税徴収法同施行規則によれば、滞納処分として公売をなすには、公売の日時、場所その他法定の事項を公告することを要するけれども、滞納者に対する期日の通知は公売の要件ではない。従つて、期日の通知を欠いたからとて、公売処分を違法ならしめるものではないから、この点についての原告の主張は理由がない。

次に、本件公売価格が不当に廉価であつて原告の財産権を違法に侵害するものであるとの原告の主張について考えるに、証人井上政男の証言、同証言により成立を認めうる甲第二号証、証人桐谷道雄の証言を綜合すれば、本件公売実施当時における本件電話加入権の市価が少くとも金八万円以上であつたことが認められ、その公売価格が金三万八千円であることは当事者間に争がないから、右公売価格が市価に較べ著しく廉価であることは明らかである。被告は本件電話公売実施当時の茅場町局内における電話加入権の通常の公売価格が金三万五千円前後であるから本件公売価格は不当に廉価であるとはいえないと主張する。もとより公売価格が一般市価より相当下廻ることは普通であり、公売価格が市価より低いことの一事によつてその公売処分が直ちに違法となるものということはできないけれども、その著しく低廉である場合には違法に滞納者の権利を侵害するものといわねばならない。而して、その著しく低廉であるかどうかは市価を標準となすべきものであり、いやしくも公売にあたつては収税官吏は客観的な市価を基準として、その財産の妥当な価格を見積るべき義務がある。従来行つた公売の価格が低かつたということは本件公売価格が著しく低廉であることの前記認定をくつがえすに足りない。なお証人田中金作、桐谷道雄の各証言によれば、電話加入権を公売する場合従前の未納電話料金は落札者の負担となることが実情であることが認められるが、未納電話料金の額について何ら主張のない本件については公売価格が前記の如く市価に較べて廉価である以上、本件公売処分は違法に原告の財産権を侵害したものと認めざるを得ない。

よつて、本件公売処分を維持した東京都知事の裁決は違法であるから取消さるべきであり、結局原告の請求はその理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菊池庚子三 田嶋重徳 小山俊彦)

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