東京地方裁判所 昭和26年(ヨ)4032号 判決
債権者 日本国有鉄道機関車労働組合
右代表者 中央執行委員長
債務者 日本国有鉄道
一、主 文
債権者の本件仮処分申請を却下する。
訴訟費用は債権者の負担とする。
二、事 実
債権者代理人は「債権者は債権者が債務者所属の機関車関係職員のために団体交渉を行うに適当なる単位を決定するため協議する仮の地位にあることを認め、速に日時場所を定めて債権者と協議せよ」との判決を求め、その原因として及び債務者の主張に対し、次の通り述べた。
第一
一、債務者は、日本国有鉄道法によつて設立された公共企業体であり(以下公社という)債権者は債務者の職員中公共企業体労働関係法(以下公労法という)第四条第一項但書、第二項、同法施行令第一条別表第一、第二に定められたものを除く機関車関係職員約六万七千七百名の内約四万二千四百名をもつて、昭和二十六年五月下旬結成され、同年六月七日労働大臣の所定の証明を得て、同月十二日所轄登記所において登記手続を完了した労働組合である。
二、債務者の前身たる国有鉄道の従業員は、終戦後全国に亙り各職場毎に職種別の労働組合を結成したが、その後漸次これらの労働組合は或は地域別に連合体を組織し或は地域別に単一労働組合に発展するに至り、昭和二十二年六月には各鉄道管理部の地域別に支部を有する全国的な単一組織である国鉄労働組合(以下国鉄労組という)を組織し、昭和二十五年十月改組して現在に到つたものである。
第二
一、機関車関係職員は、右国鉄労組の結成の当初から職能別組合の連合体を結成すべく提案したが容れられず、同組合の諮問機関たる職能別協議会の一として機関車協議会(以下機協という)に所属し、その協議会は、機関車系統組合員の特殊事情について協議し、国鉄労組本部の諮問に応え意見を具申し別に議長副議長委員を置きまたその分科会をもち、国鉄労組本部に代表者を常駐させることが認められていたが、その会を開くには国鉄労組中央委員長の同意を得なければならず、団体交渉を行なおうとしても右本部に拒否されると、これが出来ない等全く自主性を与えられていなかつた。機協は、公社における輸送部門とサービス部とにおいては、全く労働条件と職場環境を異にし、百八十種類にも細分し得る国鉄労組組合員四十七万を単一組織の下に拘束することは、この多数の職種の特異性による利益の主張が十分に貫徹することができず不合理であり、そのため従来機関車関係の問題については専門的知識乃至理解がないため十分なる交渉ができず、また全般の問題に関連がないとして拒否されてきたので、機協としては已むを得ず、団体交渉によらず独力陳情によつてこれを解決しなければならなかつた事情にあつた。
二、そこで機協は、国鉄労組の地域別単位制には重大なる欠陥ありとして昭和二十四年四月並びに同年十月の国鉄労組全国大会において、機協に機関車関係職員のために団体交渉を行うに適当な単位(以下単位という)を与えられたいと提案したがいずれも否決された。よつて機協は、昭和二十五年五月その全国委員会において国鉄労組の次期全国大会において機協に単位を与えよと提案し、これが否決されたときは機関車労働組合を結成するため準備会を開催しその措置を講ずることを決定し、同年六月及び十月の国鉄労組全国大会に右の提案をなしいずれも否決されたので、同年十一月十五、十六日の全国委員会に機関車労働組合結成準備会の設置を決定し、準備委員として、石郷岡義一、瀬戸敏夫、北野隆の外五名を選出し、組合結成の具体的活動を開始し昭和二十六年四月一日現在において結集された機関車関係職員は総計四二、四四一名に達し国鉄労組に残留し新機協再建に参加する者二七、七九五名に及び機関車関係職員は二派に分裂するに到り、準備会は昭和二十六年五月二十三日及び二十四日京都市労働会館において機関車関係職員の代議権を有する出席代議員の満場一致の決議により日本国有鉄道機関車労働組合を結成するに至つたのである。
三、準備会は昭和二十六年一月十八日準備委員石郷岡義一外七名をもつて公社に対し機関車関係職員のため公労法第十条による単位決定のための協議の申入れをした。しかるに公社は右準備会とは何等協議せず、国鉄労組中央委員長と協議して、同月二十三日昭和二十六年度における単位として全国単位、合同単位、地方単位等の決定を協定し、同日附属了解事項の五として「やむをえない事情のあるとき(i)公社側に組織の変更のあつたとき、(ii)組合側に組織の変更のあつたとき(iii)機協問題が解決したとき、を意味する)は改めて協議する」こととして、同日これを労働大臣に届出た。よつて準備会は同月三十一日労働大臣に対し右単位設定協定は準備会との間には一回の協議も行われず為されたものであるから、準備会との関係においてはその効力なきものであり到底これを承認出来ない旨申立てた。公社は同年二月三日に到り同年一月三十一日附を以て準備会の前記協議の申入に対し「国鉄労組と準備会との紛争が解決していない、関係職員一般の動向が十分に把握し難い、右の理由によつて、昨年度の単位を継承することが適当である、直に新しい単位を設定することは必ずしも適当であるとは認められない」と回答してきた。準備会は、同年二月上旬から下旬にかけ国鉄労組との間に種々折衝したが円満妥結の見込がなくまたこの間機関車関係職員は続々国鉄労組より脱退の決意を以て準備会に加入し遂にその過半数に達したので、同月二十七日公社に対しその事情を述べ重ねて単位設定の申入をした。しかるに、公社は、準備会と一回も協議することなく再び国鉄労組と協議して、同年三月二日公労法第十一条に定める昭和二十六年度の交渉委員を決定して同日労働大臣にこれを届出た、準備会は、同月五日労働大臣に対し右交渉委員の決定は準備会との間に一回の協議も行われずなされたものであるから、準備会との関係においては無効のものであるとして、公労法第十二条により異議の申立をした。
公社は、三月十日口頭を以て「国鉄労組が準備会の単位設定を承認しない、機関車関係の職員の動向把握が困難である、機関車関係職員のための単位設定をしない方が円満に遂行し得る、昭和二十六年度の単位設定は既に労働大臣に届出済であるから本年度においては変更できない、昭和二十六年二月二十五日までに届出がなされなかつた為に公労法第十一条第二項以下の規定により単位設定並に交渉委員選出の手続は一切労働大臣において決定することになつている」との理由によつて準備会の申入を拒否し、同月十三日右最後の理由を摘示した文書を以て回答した。よつて準備会は、三月十五日公社に対し、国鉄労組の承諾は単位設定の要件でないこと、二月二十五日までに交渉委員の届出がなかつたとしても公社と準備会との間に協議して単位を設定するも差支えなきこと等公社の回答の理由なきことを指摘し再考を促した。
四、準備会は、昭和二十六年一月十八日公社に対し前記の如く単位設定の申入をなした後、国鉄労組中央闘争委員会との間に「機関車関係職員のための単位設定を認める、機関車関係職員のための自主権を認める、大同団結を崩さない」との三条件を基本原則として、昭和二十六年一月十九日以降折衝を進め、二月二十三日には準備会の三役と前記中央闘争委員星加要外六委員との間に公労法第十条の単位として新に機関車単位を設け他方国鉄労組の大同団結のため全力を尽すこと外三項目の申合せが一旦成立した。しかるに、同月二十四日国鉄労組中央闘争委員会と公社との間でなされた協議において、右単位設定を有名無実にする話合が進められ、また同委員会では同月二十七日準備会の三役の除名等を決定していたので、同月二十八日の準備会と国鉄労組中央闘争委員会との会合は、両者の意見一致せず、その後同年三月一日の国鉄労組の中央闘争委員及び同月五日の中央委員会では、前記申合せを白紙に還し国鉄労組の新機協の再建を決定した。その後参議院議員内村清次外四名の斡旋により同年三月二十七、八日準備会側準備委員石郷岡外十二名と国鉄労組中央闘争委員長斎藤鉄郎外七名との間に協議がなされ、準備会側は「機協は分裂を回避するため単独組合結成中止を含み異議申請を取下げる。本部は機協の誠意を諒承し機関車交渉単位を認める。大同団結のため双方より小委員をあげ全国組織検討委員会に提出し作成するが誠意を以て国鉄の単一を守る」との調停条項を確認し、同月二十九日労働大臣に対する異議申立を取下げた。然るに同年三月三十一日右調停は打切られ、国鉄労組は四月二日準備会を分裂者として切り捨てを宣し、新機協再建を指令し、同月十四、十五日残留機関車関係職員の代表者全国大会を開催した。ここに準備会と国鉄労組の妥協は遂に成立するに至らなかつたのである。
第三
一、公社は、債権者の前身である準備会の再三に亘る単位決定のための協議の申入れにもかかわらず、これと協議しないのであるが、債権者は、公労法第一条の趣旨を尊重し公社の正常な運営に寄与すると共に、公社の職員中精神的にも肉体的にも特別な職種であることに伴う労働条件を擁護する必要に迫られて居り、国鉄労組の交渉委員によつては従来の経緯並びに現在の現況に鑑み、機関車関係職員の十分なる権利利益を擁護することは出来ないのであつて、公社のかような状況を放任するときは債権者に属する職員の労働条件はいつ改悪されるかも図り知れないのである。
而して債権者は、公労法第十条第一項により公社に対し交渉単位決定を受くる権利があり、かつ右単位を決定するための方法として、公社に協議を求める権利を有するのである。蓋し、協議を求める行為は、公社の法律行為を請求するのでなく、将来合意の上単位決定に到達するに当り、協商を求める行為で、かかる協商は、当事者の行う事実行為であるとはいえ、かかる事実行為が基点となつて単位が決定されついで交渉委員の指名乃至選出更には団体交渉等の過程を経て最後的には労働者の権利を確保する団体協約が実現するという一種の法的効果を伴うものである。かかる法的効果を伴う限り協商を求めるのがその本質において権利であることは否定される理由がない。このことは、公労法第三章の団体交渉を求める行為がたとえ団体協約締結の強制権でないとしても団体交渉権として権利の本質を有すると同様である。殊に公労法においては団体交渉は専ら交渉委員によつてのみ行うべきことに制約されており、交渉委員の指名乃至選出が公労法第十条所定の交渉単位の決定と不可分の関係にあることに鑑みれば、同法第十条第一項の協議を求める行為をもつて一片の事実行為としてその権利たる本質を否定しさる如きは団体交渉権を否定するものと言わねばならない。
二、公社は、前記の如く昭和二十六年一月二十三日国鉄労組との協議によつて単位を決定したが、準備会が前記の如く協議の申出をなしたに拘らず、これと協議せず右の如く決定したものであつて、右単位決定は準備会に対する関係においては無効である。
このことは右決定の協定において前記のごとく「已むを得ざる事情あるときは改めて協議する。」との附属諒解事項を附した点からみても明である。
また公労法第十条第二項の一月三十一日という期限はその後の単位決定及びこれに基く届出を法律上無効又は禁止するものでなく、従つて右期限後の単位決定も有効で一旦決定された単位もこれを動かすことの出来るものである。なお準備会所属の職員が右単位決定の当時国鉄労組の組合員であつたからとて、単位と組合とは全く関連のないもので、準備会は国鉄労組に属したまま単位決定を受けることは可能且つ適法であるので、前記の如く協議の申出をした以上公社は協議に応ずべき義務があるのである。
三、よつて債権者は公社に対し右協議権の確認及び交渉単位確認の本訴を提起する準備中であるが、右本訴の確定をまつては債権者に属する職員の労働条件保護について損害を避けることが甚だしく困難であるので本件仮処分の申請に及んだものである。
債務者代理人は、本件仮処分申請を却下する、訴訟費用は、債権者の負担とする、との判決を求め(疎明省略)、次の通り主張した。
一、債権者が本件仮処分において保全せんとする「団体交渉を行うに適当なる単位」を決定するために協議を求めると言うが如きは、民事訴訟手続きによつて保護を求め得る資格のある権利ということはできない。公労法第十条第一項は、公共企業体とその職員が団体交渉を行う前提要件の一として当事者双方に対し自主的に団体交渉を行うに適当な単位を協議決定することを義務付けているが、すべての職員又は組合が公共企業体に対して単位決定について協議の申出をした場合、公共企業体はこれに応じ必ずその各々に対し単位を決定しなければならないことを意味しない、団体交渉において、使用者側を代表して交渉する者はその代表する範囲は明確であるが、労働者側を代表する代表者については、その代表者がどの範囲の労働者を代表して交渉するのか不明確な場合が多いのでこれを決定する方法として交渉単位を決定する制度が設けられたのである。交渉単位とは代表者がどの範囲の労働者を代表しているかどうかを確定するため設けられたもので単位とは団体交渉をする場合の労働者が代表する労働者の範囲のことで、このことを逆にいえば団体交渉の効果の及ぶ範囲である。公労法第十条第二項はこの範囲即ち単位を協議して決定をするものであり、如何なる単位が適当であるかは労働者側の一方的主張によつて決定されるものではない。単位内に包含せられる職員の集団ないし組合の組合員の職種資格経験義務賃金労働時間等の労働条件において利害が同一である場合において、はじめてそれが単位として決定されるべきであることは、交渉単位制度の目的より当然である。本条に協議とは一方より協議の申出があれば相手方はこれに応じなければならないが、これは給付を要求し得る債権とは考えられない。
協議に応ずることは、相互に話合をすることであつて、単なる事実行為であつて何等法律効果を伴うものではない。協議の結果意見の一致をみることは望ましいが、一方の申出のとおり決定することを強制していない。
従つて、この場合の公共企業体の地位を目して一定の法律上の給付義務を負担するものと言うことは出来ない。
かような具体的な権利義務に関しない協議をなすべき事実行為は裁判の対象とはなり得ないものであるから、債権者の本件において主張する協議に応ずべき請求は裁判の対象とならない。
二、右主張が理由のないものとしても、本件において債務者は、債権者との間に単位決定について協議をなしたから債権者の主張は失当である。即ち債権者は昭和二十六年一月十八日及び二月二十七日に債務者に協議の申出をなし債務者はそれに応じ一月三十一日と三月三十一日の二回に債権者のため単位を設定することは出来ないと囘答して協議している。公労法第十条に言う協議とは、単なる話合でその方法は口頭たると書面たるとを問わないものである。
三、仮に以上の主張が理由のないものとするも、交渉単位の設定は昭和二十六年三月三十一日までに決定さるべきものでこの期間を経過した後においては交渉単位設定のための協議は出来ない。交渉単位制度は団体交渉の行われる諸要素を確定し、紛議を避けんとするもので、一度有効に設定された単位はなるべく永く維持されることが望ましいのである。公労法第十条第二項第十一条第一項第十四条第二項の規定から単位が一年間は同一で、四月一日より翌年三月三十一日までの一年間は一度決定された単位はこれを変更しない趣旨と解すべきである。而して債務者は当時債権者を構成する職員等が所属していた国鉄労組と協議し有効に単位を決定し、その際債権者の申出に応じ協議したものである。債権者は単位決定に対し一月三十日労働大臣に異議の申出をなし次いで三月五日交渉委員選出に関する異議の申請をなしたが、この異議申立は三月二十八日取下をした、この取下によつて交渉単位は有効に確定したものである。(疏明省略)
三、理 由
債務者が日本国有鉄道法によつて設立された公共企業体であり、その職員が単一組織である国鉄労働組合を組織していたところ、そのうち約四万二千四百名の機関車関係職員が昭和二十六年四月頃より漸次右組合を脱退して同年五月下旬債権者組合を結成するに到つたこと、債務者が昭和二十六年一月二十三日国鉄労組との協議により昭和二十六年度の公労法第十条所定の交渉単位を決定し同日労働大臣に届出たことは、当事者間に争のないところである。
一、債権者は債権者が機関車関係職員よりなる組合で交渉単位として決定されるから、その職員のため公労法第十条第一項によつて、公社に対し、交渉単位決定のための協議を求め得るものと主張するので、まずこの点の判断をする。
同法第十条にいう単位の意義は、いろいろの点において明かでないが、少くとも第九条第十一条と併せ考えると、第十条第十一条によつて一個或はそれ以上の単位が決定されると、すべての職員はこれに属し、この単位に属さない職員はないように、単位の決定がなされなければならないことが伺われる。このことから、職員の或る団体が他の職員と無関係に自らについてのみ単位の決定を求めるが如きは、同法第十条にいう単位決定のための協議に含まれないこと、また一旦単位が決定するとすべての職員はこれに属するから、その後においての単位決定のための協議は、単位の変更を求める協議であるものと言わざるを得ない。従つて第十条により協議を求め得る場合は、未だ単位が決定されていない場合、一旦単位が決定されてもそれが無効で単位の決定がなされないと同様の場合、或は単位の変更が許される場合はとも角、それ以外においてはこれを考える余地のないものと言わざるを得ない。(単位を後日変更するため協議することを協定した場合に協議を求め得ることも考えられるがこの場合においては協定の効力によるものであり自ら第十条と異るものと言わねばならない。)而して昭和二十六年度の単位については、既にその決定のあつたことは、前記のとおりであるので、債権者の主張中右と異る見解に立つ主張はこれを採用することが出来ない。
二、債権者は前記交渉単位の決定は、債権者組合に所属する機関車関係職員の交渉単位決定のための協議の申出あるに拘らずこれと協議をしていないからこれら職員に対してはその効力なきものであると主張するので、この点の判断をする。
右機関車関係職員が昭和二十五年十一月頃機関車労働組合結成準備会を設置し、同準備会を代表する準備委員が昭和二十六年一月十八日債務者に対し昭和二十六年度の交渉単位決定のための協議申出をしたことは、債務者の争わざるところであるが公労法第十条第一項にいう協議の当事者は、公共企業体と職員又は組合であつて、その組合に属する組合員は含まないものと解せられるところ、当時右準備会に属する職員が国鉄労組の組合員であつたことは前記のとおりであるので、これらの組合員はその組織する組合と別個に交渉単位決定のための協議をなす権能を有しないものと言わねばならない。蓋し組合員は組合によつてその利害が代表されるので、組合の存する以上組合のほかに組合員と協議をなすものとするは組合を協議の当事者とした趣旨に副わないものと考えられるのである。なるほど組合と交渉単位とは何等の関連性もなく単位が一個にしてその範囲内に数個の組合の存することも、また組合が一個でこれを数個の単位に分つことも可能且適法であると考えられるが、これは協議によつて定められる結果であつて、このことから逆に単位として決定される適格のあるものはその所属する組合と別個に協議をなす権能を有するとの結論を生ずるものとは為し難く、かような協議を何人が為すかは全く別個の問題でそれは一に前記第十条第一項から決する外ないものと言わねばならない。従つて前記準備会は第十条第一項の協議の当事者といえないから、債務者が仮にこれと協議せず、前記決定をなしたからとて、これをもつて右決定が違法になされたものとは言えなく、また組合員である右準備会に属する職員に対し効力を有しないとは言えない。
三、次に債権者は、昭和二十六年度の単位決定後も、これを変更し得るものであり債権者はこれが変更についての協議の申出を為し得るものであり債務者はこれに応ずる義務あるものと主張するので判断する。
交渉単位が一年を限つて決定せられることは公労法の規定に照し疑をいれないところであつて、同法第十条第一項は未だ単位の決定されない場合又は単位決定の効力が右期限の到来によつて消滅した場合にそなえて規定されたものと解せられるが、単位決定の効力のある期間中にこれを変更することが出来るかどうか、またそれが出来るとして同条によるべきものか否かについては公労法は明らかな規定を設けていない。公労法は単位決定につき公共企業体と職員又は組合の双方の協議によつてなされることを建前とし、これは一に協議当事者の意思を尊重するものと考えられるが、これと共に労働大臣において決定する場合の生じないよう図り併せて当事者の一方によつて決定されることを排除しているものと解せられるので、この趣旨に照せば、一旦決定した単位も当事者の協議によればこれを変更し得ないものとは断ぜられず、また、単位の決定は団体交渉の効果の及ぶ範囲を確定しこれに関する紛争を防止せんとするもので、かような効果は、本来団体交渉の当事者の自由に決定すべきところと考えられるので、法律に特に禁止の規定のない限り、一旦決定した単位も当事者の協議によりこれを変更し得ることを否定し得ないものと言わざるを得ない。而してこの変更の場合如何に協議をなすべきかにつき案ずるに、単位のない場合にこれを決定する必要と単位を決定した後これを変更する必要とは前記単位制度の趣旨に照せば、自らその趣を異にし、後者においては、単位未決定の状態を来す虞なく唯実情に副うことの必要あるのみと言わねばならない。新に単位を決定する場合においては、協議がととのわないとき労働大臣によつて決定される等何等かの単位を変更する場合においては、協議に代り何等かの方法で変更を確保するや否やは一に立法の政策によるものと言わざるを得ない。而して前記単位制度の趣旨に照せば、前記一年間はこれを変更しないことが適するものと考えられるところ公労法は変更の場合につき何等明らかな規定を設けず、また前記の如く新たに単位を設定する場合とこれを変更する場合の必要の異なる点から見て、この場合第十条第十一条が適用になるものとは、にわかに首肯出来ないから公労法は単位の変更を確保する必要を認めないものと言わざるを得ない。かように考えると単位の変更については、第十条第十一条は直接には適用なく、従つて当事者は相手方に対し協議を求め協議の出来ない場合労働大臣がこれを決定するということは、これを考える余地はないが、当事者が任意に協議し単位を変更した場合これをも否定するものではないと言わねばならない。而してこの任意の協議は第十条の協議と異り法律上確保されているものとは言えないから相手方に協議に応ずる義務を負わせるに由ないものと言わねばならない。
なお、債権者に団体交渉権のあることはいうまでもないことであるが、公労法においては、交渉単位交渉委員によつてこれを行使することが定められており、債権者に属する機関車関係の職員が現に前記のように決定された単位に属している以上単位変更のための協議権を認めないからといつて、それは交渉単位を認めた以上に団体交渉権を制限したものといえない。
然りとすれば昭和二十六年五月下旬以後においては、債権者に属する職員は国鉄労組に属しないもので、債権者は国鉄労組とは別個の組合であるので、債権者が新に単位決定のための協議(昭和二十七年度の単位決定のための協議)につき第十条の当事者となり得る場合はあり得ても、現在においては昭和二十六年度の単位変更のため同法第十条に基き協議を求めることは出来ないものと言わねばならない。従つて債権者のこの点の主張はこれを採用することが出来ない。
四、なお昭和二十六年一月二十三日の債務者と国鉄労組との単位決定の協定において、債権者の主張するような「やむを得ない事情のあるときは改めて協議する」といふ附属諒解事項のあることは、債務者の明らかに争わないところであるが、右の効力を消滅せしめるというような単位決定自体を左右する条件と解する余地なく、また右諒解事項をもつて、公社がすべての職員又は組合に対し協議に応ずる義務を負う契約乃至規範の設定とは疏明資料の範囲では断定するに由なく、右諒解事項は、協定の当事者である公社と国鉄労組が協議をなすことを約束したものとみるほかなく(以上の単位決定に関しての条件附協定乃至契約の効力は兎も角として)これを承継したことの認められない本件においては、この契約の当事者でない債権者がこの契約に基く義務の履行を求め得ないことは言うまでもないから、債権者は右諒解事項をもつて公社に対し協議を求める根拠とはなし難いものと言わねばならない。
然らば債権者は、昭和二十六年度の交渉単位決定のため或いはこれが変更のため債務者に対して協議を求める権能はこれを有せざるものと為さねばならないから、債権者が本件仮処分において被保全権利として主張するかかる協議を求める権利については結局その疏明を欠くに至るので、その他の点について判断するまでもなく債権者の本件仮処分申請は却下さるべきものである。よつて訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条に則り主文の如く判決する。
(裁判官 脇屋寿夫 三和田大士 緒方節郎)