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東京地方裁判所 昭和26年(ヨ)4061号 決定

申請人 金谷鉄三郎 外二十二名

被申請人 カブト印刷株式会社

一、保証 無保証

二、主  文

被申請人は申請人等に対し別紙第二目録中各目合計欄記載の金員をそれぞれ仮りに支払わなければならない。

三、理  由

本件申請の要旨は次のとおりである。

申請人等はいずれも被申請人会社(但し当時は旧商号によるもの。なお、これを以下単に会社と称する。)の旧従業員で、申請人等を含む会社従業員四十七名(当時全従業員は五十三名)は河原印刷労働組合(以下単に組合と称する。)を組織し全日本印刷出版労働組合中央支部に加入していたが、会社は昭和二十六年四月組合に対し「同月末かぎり業務整理のため会社を解散する」旨通告しきたり、次いで同月三十日更に組合に対し『明日より会社解散準備のため休業し、全従業員は本日かぎり解雇する。四月十五日より四月三十日までの未払給料と解雇予告手当は五月二日に支払う。但しその財源は他よりの借入金によるので、その借入の必要上、「退職承諾書」を提出して貰いたい。』との申入を行い、なお『「退職承諾書」は借入の必要上提出して貰うのであるし、予告手当も支払つていないので解雇の法的効果は発生しないから、余り心配することはないであろう。」』とのことであつたので、全員共一先ずその申入を容れ右にいう「退職承諾書」を会社に提出した。しかるに、会社は右五月二日に至るも借入ができないとの理由で未払給料等の支払をなさず、再三延期の上同月十五日これを支払うこととなつたが、退職を認めない者に対しては、『「既に「退職承諾書」を提出しているのであるから今更退職拒否は認められない。予告手当の受領を拒む者には本日の支払を停止し後日未払給料及び予告手当をまとめて郵送する。』ということであつたため、申請人寒河江三雄を除く全員は、やむなく生活の窮迫を免れるため、未払給料と共に予告手当を受領したが、右寒河江は未払給料のみを受領し予告手当の受領を拒絶した。その間組合においては、組合員中三十一名は当初より大体退職の点を争わずいわゆる退職金闘争をなしおり、他の十五名が退職を争いいわゆる解散反対闘争をしていたのであるが、前記未払給料等の支払のあつた翌日なる五月十六日、会社に対し、

(1)  退職を認める者は会社が従業員の失業保険契約を締結していなかつたのは違法であるから、直ちに失業保険契約締結の手続をなし、解雇通告後も離職票交付の日までは、予告手当とは別に給料相当額を支給すべきであると主張し、

(2)  退職を認めない者は

(い)会社は、退職承諾書を会社に提出したから退職拒否はできないとか、予告手当と共にでなければ未払給料を支払わないというごとき言辞を用いて強迫的に解雇を承認させたものであり、(ろ)予告手当として支給したものも平均賃金ではなく基本給のみである、なお(は)会社は退職給与規則に基く退職金の支払をしていない、又(に)四月三十日の解雇通告後、未払給料及び予告手当を五月十五日になつて支払つたのは労働基準法違反である、よつて(ほ)受領した予告手当なるものは五月分の給料とみなすほかない、と主張し、以上を理由に解雇通告を撤回すべき旨要求した。

右両者の要求に対して、会社は離職票交付の日(後に全員交付を受けたのは五月二十一日である。)までの給料相当額のうちその六日分を全員に支払う旨回答し、全員各自に対し個別に右六日分の金額を記入し同年六月末日までにこれを支払う旨を約した証書を交付した。右のため組合は即日分裂解散し、同時に退職を争う者は失業反対同盟を結成し、その後も再三会社に対して解雇通告の撤回、復職を要求したが何等の結論にも達しなかつた。そして右六月末日には前記約定の六日分の給料額の支払を求めようとしたところ社長不在で目的を達せず、同年七月二日更に右支払を要求したが容れられなかつた。

ここにおいて右失業反対同盟員十五名及び他八名の旧従業員からなる本件申請人等二十三名は同年七月十六日申請人寒河江三雄、同滝沢康三、同丸山慎三を交渉代表に選任して、会社を相手方とし、「解雇取消、若し取消さないときは、会社就業規則による退職金、平均賃金による予告手当及び約定六日分の給料額の支払」についてのあつ旋を東京都地方労働委員会に申請し、そのあつ旋が行われた結果、同年八月六日に至り、申請人等は会社が同年四月三十日付で申請人等に対しなした解雇の意思表示の効力を争わないこととする一方、会社は申請人等に対してそれぞれ別紙第二目録記載のごとき金額の支払債務のあることを認め、当時の会社代表者、代表取締役河原義隆と申請人等全員の代表として代理権限ある申請人寒河江三雄との間に、あつ旋員立会の上、会社は申請人等に対しその六日分の給料相当額合計金五万三千六百円、平均賃金による解雇予告手当未払分(これについてはその合計額を差当り「約金十万円」と表示した)及び退職金合計金三十五万四千円を支払うべき債務あることを認め、その支払方法は同月十三日午前十時よりあつ旋員立会の上協議する趣旨の仮協定書(疎甲第三号)が作成された。ところが同十三日の協議において会社は前記の金員を昭和二十七年三月末日までに支払うという申出をしたので、申請人等は到底これを受諾することができず、結局協議決定せずあつ旋は打切られたものである。

かような次第であるが、会社は要するに申請人等に対し申請人等のいう金額の支払債務のあることを認めて争わないもので、あつ旋における支払方法の協議は成立しなかつたが、もとより弁済期を更めて協定する趣旨のものではなく、今日その支払を求め得ることは勿論であるので、申請人等は目下右金員の支払請求訴訟を提起すべく準備中であるが、既に離職後半歳にも及び生活は困窮を重ね、かくては越年も覚束ないので、やむなく右金員の仮支払を求める仮処分を申請するものであるというのである。

よつて審按するに、疎明によると、申請人等主張の事実は一応そのとおり認めることができる。従つて、疎明の範囲では、申請人等は被申請人に対し申請人等主張の金員をそれぞれ請求する権利あるものといわねばならない。

ところで、申請人等の請求金員は、会社が失業保険契約を締結していなかつたため離職票の交付が遅れたことによる漸く六日分の給料相当額、予告手当を規定の平均賃金によらず基本給によつたことによるその差額、及び当然就業規則によつて支給すべきであつた退職金の三者からなる合計額であること、申請人等は格別個人的事情によらず専ら会社の業務整理の理由で解雇されたもので、その「退職承諾書」を会社の申入によつて差入れた事情、解雇前四月十五日から四月三十日までの未払給料を漸く翌五月十五日になつて支払われ、しかも予告手当を同時に交付されて解雇を承認するを余儀なくされた事情そして結局八月六日に至り東京都地方労働委員会のあつ旋により解雇を争わないことに確定するとともに前記金員の支払を受ける確認を得たものであること、しかもその支払方法の協議は会社の申入によつて成立に至らなかつたこと、その間申請人等は会社との交渉を重ねるうち相当の期間を経過し給料をもつて生活してきた労働者として離職後今日幾多生活の困難ある社会事情の下におかれていること、しかるに被申請人は最近商号を現在のごとく改め取締役の改選をも行つたものであるが、以上明らかにせられた事情と本件審理の経過にかんがみるときは、果して被申請人に本件の早急解決への協力に期待をかけ得るかを疑わざるを得ない事情にあること、かたがた、申請人等の請求金員は最高六万八千五百六十円から最低五千五百七十円まで各人によつて区々であるが、各人の平均は二万二千円余に過ぎず右最高のものといえども今日の経済事情の下では前記各般の事情があるかぎりこの種のものとしてさして異常に高額のものともいえないこと、以上を彼此綜合するときは、今日申請人等の各請求金員全額につき被申請人から申請人等にこれをそれぞれ仮りに支払わしめる相当の理由があり、その仮処分の必要があるものと認めるを相当と考えざるを得ない。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 脇屋寿夫 三和田大士 丸山武夫)

(別紙目録省略)

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