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東京地方裁判所 昭和26年(ワ)1549号 判決 1965年4月22日

原告 沢昌樹 外一名

被告 株式会社東京商工與信所

主文

一、昭和二六年八月一〇日なされた被告と株式会社商工社との合併を無効とする。

二、昭和二六年一月三一日付株式会社商工社の株主総会の左の決議は存在しないことを確認する。

1、桑沢武次、林武一及び辻村与一郎を取締役に、浦田関太郎を監査役に選任する。

2、辻村与一郎を清算人に選任する。

三、訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

一、原告の請求の趣旨

主文同旨。

二、請求の趣旨に対する被告の答弁

主文第二項と同旨の請求については本案前の答弁として訴却下、請求全部につき請求棄却。

三、原告の請求の原因

(一)  原告両名は、株式会社商工社(以下「商工社」という。)の株主である。

(二)  昭和二六年八月一〇日、被告は商工社と合併した。

(三)  右合併は左の理由により無効である。

1、右合併を承認する商工社の株主総会の決議は存在しない。

2、かりに、合併承認決議が昭和二六年一月三一日の商工社の株主総会でされたとしても、この決議は左の理由により取消されるべきである。

(1)  右株主総会の招集につき取締役会の決議がない。これは、商工社の定款第一八条に違反する。

(2)  右株主総会の開催場所は、東京都中央区銀座西八丁目五番地所在の被告会社内であつて、招集通知に記載された招集場所である同所同番地所在の中華料理店新華ではない。

(3)  商工社の株主である北沢亀久治、館正春、伊藤貞、中川孝八、鈴木一及び杉本邦男に対し、招集通知なされていない。

(4)  右株主総会の招集通知には、合併契約書の要領が記載されていない。これは、商法第四〇八条第二項及び第二三二条第二項に違反する。

(5)  右決議は、商工社の発行済株式総数が一、〇〇〇株であるにもかかわらず、その過半数に達しない四一〇株の株式を有する株主の出席の下にされている。これは商法第四〇八条第三項及び第三四三条に違反する。

3、本件合併に関する合併契約書は、左の理由により無効である。

(1)  右合併契約書には、合併承認決議をなすべき株主総会の期日が記載されていない。これは昭和二五年法律第一六七号商法の一部を改正する法律による改正前の商法第四〇九条第四号に違反する。

(2)  商工社を代表して右合併契約を締結した辻村与一郎及び林武一には同会社を代表する権限がなかつた。

(四)1、登記簿によれば、主文第二項記載の各決議があつたことを前提とする取締役、監査役及び清算人の就任の登記があり、かつ、被告は右各決議が存在すると主張している。

2、しかし、右各決議は存在しない。

(五)  よつて、請求の趣旨記載の判決を求める。

四、被告の本案前の申立の理由

主文第二項の訴は、訴の利益がないから、却下されるべきである。

すなわち、この訴は、商工社の取締役、監査役及び清算人の選任決議不存在確認の訴であるが、商工社は、右決議当日、存立期間の満了により解散し、また、右決議と同時に、被告との合併を承認する旨の決議をしているから、右決議によつて選任された取締役及び監査役が現実にその職務を執行した期間はなく、清算人についても、爾後の合併手続をすること以外にその執行すべき職務はない。そして、後記六(抗弁)において主張するように、合併無効の訴は少なくとも裁量棄却されるべきであるから、爾後の合併手続に関する清算人の職務執行についても、右決議の不存在の確認を求める利益はない。

五、請求の原因に対する被告の答弁

(一)  請求原因第(一)、(二)項を認める。

(二)  同第(三)項に対し、

1、同項の1を否認する。

本件合併を承認する旨の決議は、昭和二六年一月三一日開催された商工社の株主総会においてなされた。

右株主総会は、同月一〇日商工社取締役桑沢武次及び同林武一が発した招集通知により招集され、会日当日、東京都中央区銀座西八丁目五番地所在の中華料理店新華において、商工社の発行済株式総数一、〇〇〇株中八三〇株を有する株主一三名、すなわち、辻村与一郎(その持株数四五〇株。以下、かつこ内はその持株数)、桑沢武次(一三〇株)桑沢秀雄(三〇株)、桑沢ハマ(三〇株)、伊藤嘉十郎(三〇株)、林武一(二五株)、小椋力知(二五株)、浦田関太郎(二五株)、田辺保太郎(二五株)、矢吹重一(二〇株)、岡村松郎(一五株)、吉沢武夫(二〇株)、上野貞蔵(五株)が出席して開催され、右決議をした。

2、同項の2に対し、

(1)  同項の2の(1) を否認する。

本件株主総会を招集する旨の取締役会の決議は、昭和二六年一月一〇日、取締役桑沢武次及び同林武一の出席のもとに開かれた取締役会においてなされた。

当時の取締役は、右両名の外、伊藤貞、北沢亀久治及び中川孝八の五名であつたが、右両名の外は、いずれもその住所が不明であつたので、やむなく右両名のみで取締役会を開催したものである。

(2)  同項の2の(2) を否認する。

本件株主総会は招集通知に記載された東京都中央区銀座西八丁目五番地所在の中華料理店新華において開催された。

(3)  同項の2の(3) 及び(4) を認める。

(4)  同項の2の(5) のうち、商工社の発行済株式総数を認め出席した株主の有する株式数を否認する。

3、同項の3の(1) を認める。

(三)  同第(四)項の1を認め、2を否認する。

主文第二項記載の各決議も、前記五の(二)の1記載の合併承認決議がなされた株主総会において、これと同時になされたものである。

六、被告の抗弁

かりに、本件合併が無効であるとしても、次のような事情があるから、本件合併無効の訴は棄却されるべきである。

(一)  商工社の発行済株式総数一、〇〇〇株のうち、前記のとおり八三〇株の株式を有する株主が本件合併を承認し、その後住所が判明した株主五名(その持株数合計三六株)、すなわち高橋甚蔵(その持株数二〇株。以下、かつこ内はその持株数)、中川孝八(一二株)、浅川範磨(二株)、酒井宇志夫(一株)、山本保次郎(一株)も本件合併に同意する意思を表示している。

(二)  商工社を吸収合併した被告は、昭和三七年度において年六分の配当をし、その純資産は三五〇〇万円、資本金は七〇〇万円であるから、その株式の価額は額面金額の五倍にものぼる。従つて、商工社の株主であつた者にとつて、合併を無効とされることは著しく不利益である。

(三)  合併を無効とされても、生存取締役たる林武一及び中川孝八は本件合併に同意している者であるから再び合併手続を繰返すことが予想される。そうすると本件合併を無効とすることは全く意味がないばかりか、かえつて有害である。

七、抗弁に対する原告の答弁

(一)  抗弁第(一)項を否認する。

(二)  同第(二)項のうち、商工社の株主にとつて合併を無効とされることが不利益であることを否認し、その余は知らない。

(三)  同第(三)項を否認する。

八、証拠<省略>

理由

一、原告の請求原因第(一)、(二)項の事実は、当事者間に争がない。

二、そこで、被告主張の合併承認決議の存否につき判断する。

被告主張のような株主総会が、その主張の日、その主張の場所において開催された事実は、本件全証拠によつてもこれを認めることができない。甲第三号証の一、三、五、同第七号証の二、及び乙第一号証の一ないし九(以上、いずれもその成立に争がない)には、被告の主張にそう記載があり、また、証人浦田関太郎及び同林武一の証言中には、被告の主張にそう供述があるが、これらは、甲第一二号証の一、二、同第一三号証(いずれもその成立に争がない。)及び同第一九号証(証人広瀬通の証言により真正に成立したと認める。)並びに証人広瀬通の証言に照らしにわかに信用することができない。

そうすると、被告が右株主総会においてなされたと主張する本件合併承認決議は存在しないものといわなければならない。

三、本件合併を承認する旨の商工社の株主総会の決議が存在しないものである以上、本件合併は無効といわなければならない。

四、そこで、被告の裁量棄却を求める主張につき判断する。

本件において、原告らは、「合併の無効原因がある場合でもその原因たる瑕疵が補完されたときまたは会社の現況その他一切の事情を斟酌して合併を無効とすることを不適当と認めるときは、裁判所は請求を棄却し得る」旨を定めた商法第一〇七条の規定を削除した昭和二五年法律第一六七号「商法の一部を改正する法律」の施行日である昭和二六年七月一日の前にされたという商工社の株主総会の合併承認決議の不存在を主張して、前記改正法律の施行後である昭和二六年八月一〇日に効力を生じた合併決議を無効とすることを求めている。このような場合裁判所は場合により無効原因の存在にかかわらず請求を棄却することができるか、もしできるとすればいかなる場合にできるかについては論議があろうが、少なくとも、既に判断したように、合併承認決議が存在しないような場合には、たとえ被告が抗弁で主張する諸事実があるとしても、裁判所は、原告の請求を棄却し得ないものと解するのを相当とする。したがつて、その他の点につき判断するまでもなく、被告の主張は採用し得ないものというべきである。

五、次に、主文第二項の請求に対する被告の本案前の申立につき判断する。

被告の右申立は、清算人選任の決議に関する限り、本件合併が無効でないことを前提としているが、前述のとおり本件合併は無効であるから、右申立のうち清算人選任の決議に関するものは、すでにこの点において失当たるを免がれない。

次に、取締役選任決議については、なるほど、商工社が存立期間の満了により右決議当日解散するに至り、かつ、右決議と同時に清算人が選任されれば、取締役として、また商法第四一七条第一項による清算人として、その職務を執行する余地はないであろう。しかし、かりに、右清算人選任決議の不存在が確認されたとすると、右選任決議によつて選任された取締役が前記条項により当然清算人となるわけである。してみれば、取締役選任決議の不存在確認の訴もまた、訴の利益を有するといわなければならない。

なお、監査役選任決議の不存在確認の訴が、訴の利益を有することは多言を要しないであろう。

六、そこで、請求原因第(四)項につき判断する。

(一)  同項の1の事実は、当事者間に争がない。

(二)  前記認定のとおり、被告主張の昭和二六年一月三一日付の商工社の株主総会が開催された事実は認められないから、その株主総会においてなされたと被告が主張する主文第二項記載の各決議は存在しないものといわなければならない。

七、よつて、原告の請求は、いずれも理由があるのでこれを認容し、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 服部高顕 武藤春光 宍戸達徳)

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