大判例

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東京地方裁判所 昭和26年(ワ)3160号 判決

原告 北島兵吉

被告 国

一、主  文

被告は原告に対し金六万三千七十五円とこれに対する昭和二十六年六月十四日以降完済迄の年五分の金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めると申立て、その請求の原因として、原告は訴外木村計次に対し茨城太田簡易裁判所昭和二十四年(ロ)第一三号支払命令表示の金六万三千七十五円の損害賠償債権を有し、又計次は被告に対し金十万円余の通常郵便貯金を預入れ、通帳(記号番号れほけ一〇六六)の交付を受けていたので、原告は前示支払命令の執行力ある正本に基づき計次に対する右損害賠償債権取立のための執行として水戸地方裁判所太田支部に計次の被告に対する上叙貯金債権中金六万三千七十五円につき差押並に転付命令を申請し(同支部昭和二十五年(ル)第二号事件)右申請に基き発せられた債権差押並に転付命令は債務者計次に対しては昭和二十五年七月十日、第三債務者である被告に対しては同年同月六日にそれぞれ送達されたので被告は同年十二月二十八日茨城県檜沢局を払戻指定局とする差押債権者原告宛の金六万三千七十五円の貯金払戻証書(記号番号宇は〇九九一五)を原告に交付した。そこで原告は右払戻証書の有効期間内である昭和二十六年一月十日頃払戻指定局にその払戻証書を提出して右証書表示の金員の支払を求めたがその支払がないので右金六万三千七十五円とこれに対する請求の日の後である昭和二十六年六月十四日以降完済までの民法所定の年六分の遅延損害金の支払を求めるものであると述べ被告の答弁に対し本件転付債権の請求にあたり、郵便貯金通帳を提出しなかつたことは認める。右通帳については民事訴訟法第六百六条所定の強制執行までして見たが、手に入れることができなかつたのであると述べた。<立証省略>

被告指定代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め原告主張事実はすべて認めるが原告が本件貯金通帳の提出がないので被告はその払戻請求に応ずべき義務はないのである。元来通常郵便貯金の払戻金の払渡は郵便貯金法第三十七条により省令に定められた場合の外、貯金通帳の提示を受けてすることになつており、又本件は貯金払戻証書による貯金の一部払戻の場合に、該当するのであるが、この場合には昭和二十三年逓信省令第十七号郵便貯金規則第五十八条、第五十九条により明かなように払戻証書と共に貯金通帳を払渡局に提出しなければならない。ところで債権転付命令により債権が執行債権者に転付されても債権の性質内容に変更をもたらすものではないから郵便貯金債権は転付されても上叙の如くその貯金の払戻を受けるには通帳の提出が必要であるばかりではなく、国の出納官吏が差押を受けた郵便貯金の払戻をするには明治二十七年大蔵省令第二号(政府カ第三債務者トシテ差押ヘラレタル債務額ノ仕払停止、仕払執行及供託ニ関スル手続)第五条、第六条ノ三により貯金通帳の提出を受けなければならないことになつているのであると述べた。<立証省略>

三、理  由

原告主張事実はすべて被告の認めるところであるが原告が本件貯金払戻証書による払戻金支払を求めるにあたり払渡局に対し貯金通帳を提出しなかつたことも亦本件当事者間に争のないところである。そこで考えて見るのに、被告の引用する郵便貯金法、並に昭和二十三年逓信省令第十七号郵便貯金規則の各規定により通常郵便貯金の払戻金の払渡を受けるには貯金通帳の提示を要することは明かであるが、右各規定はその体裁から考えても、貯金の預け主が払戻を受ける場合を予想したものであり本件の場合のように、強制執行により執行債権者が貯金の預け主である執行債務者の貯金債権の転付を受けて払戻を求める場合の規定ではない。もとより転付命令によつて転付されたからと云つて、その転付の対象となつた貯金債権が、その性質内容に変更を受けることのないのは云うまでもないが貯金債権の債権者に変更があつたのであるから、払戻金の支払を受ける手続上、本来の預け主が支払を受ける場合と、授受すべき書類に差異があつても不思議はない。寧ろ差異があるのがあたりまえのことであろう。元来郵便貯金通帳は、その性質から云えば、単なる証明証書であつて、権利が何等かの意味で証券に化体されその権利の取得行使等について必ずその証券の占有を必要とする、いわゆる有価証券ではない。(さればこそ、貯金通帳を占有しなくとも、差押命令又は転付命令だけで差押ないし転付の効力があるわけなのである。)けれども貯金の預け主は貯金通帳の交付を受けているのであるし、その通帳の亡失、毀損、汚染等の場合には再交付を受けることができることになつており、その手続も規定があるのであるから、預け主が貯金の払戻を受ける場合に、予て交付を受けている貯金通帳の提示を要することとしても、預け主の権利の行使に何等の支障もなく、通帳の提示を要件とすることにより或る程度の取引の安全に役立つのであるが、強制執行の結果、差押債権の転付によつて貯金債権の権利者となつた場合には、もとより転付を受けた債権について取得者名義の貯金通帳があるわけではないし、また元の預け主名義の貯金通帳は、(たとえ執行債務者から執行債権者に任意の引渡がなされ、又は民事訴訟法第六百六条による強制執行の結果、運よく、手に入れることができたとしても)その証明の必要上並に価値から見ても、預け主が払戻を受ける場合とは著しく意味の違うものと云い得るのである。執行債権者の権利の証明としては寧ろ明治二十七年大蔵省令第二号(政府カ第三債務者トシテ差押ヘラレタル債務額ノ仕払停止、仕払執行及供託ニ関スル手続)第一条ノ三により差押債権者に交付された貯金払戻(払出)証書があれば十分であろう。(貯金払戻証書発行の前提には郵政省貯金局長が昭和二十五年一月十七日貯令第一号を以て地方貯金局一般に対し訓令した郵便貯金事務取扱細則により明確にされた差押命令並に転付命令による厳重な事務処理方法が同細則第十四編第四百三十八条以下に規定されている。)従つて転付命令によつて貯金債権を取得したものが郵便貯金の払戻金の支払を求めるには貯金払戻証書を提出することを要するが、元の預け主名義の貯金通帳を提出することは要件ではないと解するのを相当とする。(この場合貯金通帳が回收できなかつたり、或は一部払渡の記入ができなかつたりして取引上多少の不安は残るが、その不安の生ずるもとは、通帳が証明書にすぎないため、貯金債権の差押にあたり、通帳を執行吏において占有する必要のないために生ずるものであつて、貯金払戻にあたり、通帳の提出をさせないために生ずるのではない。このことは転付前においても差押えられた貯金債権の通帳には、何等差押の記入がされるわけでもないのに、払戻禁止の効が生じていることを考えることによつても明白であろう。)尤も前示明治二十七年大蔵省令第二号の第六条ノ三、第一項によれば「出納官吏カ差押債権ニ仕払フベキ金額ニシテ郵便貯金ナルトキハ政府ノ債権者ニ交付シテアル郵便貯金通帳ヲ差押債権者ヨリ提出セシメ貯金払渡ノ例ニ依リ差押金額ノ仕払ヲ為スベキ」旨の規定があるけれども、貯金通帳がもともと証明証書に過ぎないこと、並に民事訴訟法第六百六条所定の強制執行の方法を以てしても、郵便貯金通帳を差押債権者が入手できない場合があること(かかる場合はあまり稀とは考えられないむしろ入手できたら運がよい位のものであろう。)を考えると右規定は差押債権者が貯金通帳を所持している場合についての処置を定めたにすぎないもので右省令を以て一般国民に対し差押債権者たるものは貯金の払戻を受けるについて必ず預け主名義の預金通帳を入手して提出すべしとの義務を課した趣旨ではないと解さなければならない。さもないと、差押債権者が貯金通帳を入手できない場合においては、通帳の再交付を求める方法もないから、貯金債権は転付により差押債権者に帰属しているのにかかわらず、その貯金の払戻を受けることができないし、また元の預け主はすでに債権者ではないから貯金通帳を所持していても払戻を受けることができないので、結局転付された貯金債権の始末がつかなくなり、預り主である被告としても適当な処置がないことになる。だから法令がそのような不合理なことを規定しているものとは解すべきではない。以上説示した通り差押債権者がその転付を受けた郵便貯金債権について払戻を受けるには貯金払戻証書の提出を以て足るのであるから有効期間内に、右払戻証書を払戻指定局に提出して払戻を求めたことについて争のない本件では被告は原告に対してその請求と同時に払戻金六万三千七十五円を支払うべき義務があるものと云うべく従つて右金員とこれに対するその請求の日の後である昭和二十六年六月十四日以降完済までの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は正当であるから、これを認容すべきものである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 毛利野富治郎)

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