東京地方裁判所 昭和26年(ワ)4154号 判決
原告 染谷徳次郎
被告 兎沢新之助
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、被告は原告に対して東京都足立区千住桜木町三千二百十九番地所在家屋番号同町一二四番の二木造亞鉛メツキ鋼板葺平家店舗一棟建坪七坪(これに附属する畳、建具造作一式附別紙図面(イ)(ロ)(ホ)(チ)(ト)(ヘ)(イ)の線を結ぶ店舗の部分)を明け渡せ。訴訟費用は被告の負担とするとの判決並に担保を条件とする仮執行の宣言を求め、請求原因として、原告は昭和二十四年七月五日請求の趣旨記載の建物をその所有者である訴外広田都重から買い受けて所有権を取得し即日所有権移転登記手続を完了した。而して広田はその以前から右建物の奥(西南方にある別紙図面横線の居宅の部分)にある訴外小島徳蔵所有家屋を賃借して居住していたが、同建物から道路に渡された板敷の床面の上に店舗を築造して(但し同図面(ヘ)(ホ)(チ)(ト)(ヘ)を結ぶ部分は広田において別に床を増設したものである)所有者となつたもので原告はこれを買受後広田に対して右店舗を賃料一箇月金二千円、月末払、期間の定めなく賃貸中、昭和二十六年春頃広田夫婦が変死したのを奇貨とし、被告はその遺族を追い出して何等正当の権限なく前記建物に居住して店舗を占有している。よつて原告は所有権に基いて不法占有者である被告に対して右店舗の明渡を求めるため本訴請求に及んだと述べ、予備的請求原因として、仮に前記(イ)(ロ)(ホ)(ヘ)(イ)を結ぶ店舗の床の部分の所有者が小島徳蔵でありとするも広田都重は前記の通り右床の外に(ヘ)(ホ)(チ)(ト)(ヘ)を結ぶ部分の床を増設し、その上に完全な建物としての構造を有する店舗を築造したものであるが、その結果店舗の所有者である広田は民法第二百四十二条、第二百四十三条の規定により、これを従として附合した床の部分の所有権を取得したのである。従つて広田が店舗を構築する際床の部分が小島の所有に属していても、原告がその所有権を取得するについて何等の支障となるものでないと述べた。<立証省略>
被告は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の店舗について広田から買い受けた旨の原告名義の所有権取得登記の経由せられたこと、被告がこれを占有していること並にその奥にある小島所有の同番地所在木造二階建居宅一棟建坪十八坪の建物を賃借中の広田が原告主張の通り床の部分を利用して店舗を構築したことは認めるがその余の事実は認めない。原告主張の店舗は足立区千住桜木町三千二百十九番地上にあるものではない。右小島所有の居宅は公道より低地に建築せられたもので公道に通ずるため二階の床を板敷で公道迄延ばしてこれを広田に賃貸したのであるが、その床の部分は公道と低地の私有地との間の傾斜面上にあつて私有地上にあるものではない。而して広田は右板敷を利用してその上に居宅((ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ロ)の横線の部分)と連結して小島に無断で屋根のある囲を設けて店舗を構築したが右居宅と一体をなし、別個の建物でなくもとより独立の不動産として所有権の対象となり得るものではない。寧ろ右店舗は小島の所有に属するものであるから広田との売買で原告がその所有権を取得すべきいわれはない。而して被告は広田に対する債権の譲渡担保として店舗の造作と居宅の借家権を譲り受け、更に昭和二十六年一月十六日小島から右居宅を店舗と共に賃料一箇月金千三百五十円、月末払、期間の定めなく賃借し、同年三月四日広田の退去後居住しているものであつて店舗を不法に占有しているものではないと述べた。<立証省略>
三、理 由
原告主張の店舗について、原告が昭和二十四年七月五日訴外広田都重から買い受けた旨の所有権取得登記の経由せられていること、被告がこれを占有していること並にその奥にある訴外小島徳蔵所有の足立区千住桜木町三千二百十九番地所在木造二階建居宅一棟建坪十八坪の建物の賃借人であつた広田が右建物の二階と公道を連結する板敷の橋を利用してこれを床とし、その上に店舗を構築したものであつて、店舗と居宅とは連結した一棟の建物であることは当事者間に争がない。
よつて右店舗が広田の所有物であつて右売買により原告がその所有権を取得したかどうかの点を判断する。
証人小島義忠、広田又雄の各証言と検証の結果並に前記争のない事実を綜合すれば、広田都重は昭和十四年頃足立区千住桜木町三千二百十九番地所在小島徳蔵所有の二階建住宅一棟建坪十八坪の家屋を賃借居住したところ、その敷地は前面の公道より低地にあつたので、小島はその二階の床(即ち一階の天井)を延長して板敷で公道に通ずる橋を設け、公道より直接二階に出入りできる便に供したが(別紙図面(イ)(ロ)(ホ)(ヘ)(イ)の点を結ぶ斜線の部分)その橋の部分は公道と右建物の敷地との間の傾斜面上にあつて右と同番地と表示さるべき私有地ではなく公有地に属し、小島はその斜面を三千二百十九番地地先として東京都より借り受けているものであること、広田は右居宅を賃借中その所有者に無断で昭和十六年頃より右板敷の橋を利用してその両側に囲と屋根を設けなお別紙図面(ヘ)(ホ)(チ)(ト)の部分に右と平面の板敷を増設し逐次改造を加えて昭和二十三年頃に現状の店舗を完成したのであるが、その店舗は前記居宅と連結一体をなし相合して一棟の建物を形成し、別個独立の建物と認めることができないこと、然るに広田は右店舗の部分について足立区千住桜木町三千二百十九番地所在家屋番号百二十四番の二木造亞鉛メツキ鋼板葺平家店舗一棟建坪七坪として登記を了し、前記の通り原告にその所有権を譲渡した旨の移転登記を経由したものであることを認めることができる。
右認定を覆えし(イ)(ロ)(ホ)(ヘ)(イ)の点を結ぶ斜線の部分の板敷が当初から広田の所有に属する事実を認むべき証拠は何もない。
原告は予備的請求原因として床の部分が他人の所有に属していても、その床を利用して屋根と周壁を設けて建物を構築した場合には民法第二百四十二条の規定によりその建築者はこれに附合した床の所有権をも取得すると主張するけれども、同条は不動産の従としてこれに附合した物の所有権の帰属について規定したものであつて、本件のように他人の所有に属する床を利用して、その所有者に無断で床の上に建物を建築した場合には、たといその増築に係る物が床と比べて経済的価値が遙に大なるものであつても、床の部分は建物の従たる物ではないから、その増築者に床の所有権を取得させる趣旨の規定と考えることはできない。殊にその増築に係る部分が前記の通り(ヘ)(ホ)(チ)(ト)(ヘ)の点を結ぶ縦線の部分の床を増設したとはいえ広田の増築部分は、主たる建物である建坪十八坪の小島所有の居宅と相合して一体をなし一棟の建物を形成していて、その不動産の一部と認められ、全く独立の存在を失つているのであるから、店舗の部分が独立の不動産として所有権の対象となり得るものということはできない。蓋し一個の所有権は独立の物について成立するのが原則であつて、一棟の建物の所有者がこれを区分して不動産として各独立の経済的効用を保存させ得る場合には複数の所有権の成立するこというをまたないけれども、本件においては、居宅の出入口に店舗が設けられ、居宅から公道に出るには店舗を通らなければ他に通路がないのであるから店舗と居宅とを分離するときは居宅と公道との通路が閉鎖せられるため、原告の主張する店舗の部分はそれ自体店舗として独立の所有権の客体となり得ることは否定できないとしても、その奥にある居宅の所有者の意思に反して、居宅自体としては出入口のない不動産としての経済的効用を喪失させられる結果となるのである。このような場合には店舗と建物とは、各独立の不動産としての経済的効用を有するものと認めることはできない。従つて本件店舗は居宅の一部たる附属物であつて独立の不動産として所有権の客体となり得ないものというべきであるから、これについて広田のなした所有権の保存登記はもとより無効のものと断ずべきである。
なお原告は民法第二百四十三条の規定に基づいて店舗の所有権を取得したと主張するけれども、同条は動産の所有権の帰属に関する規定であつて、不動産の所有権の帰属が請求原因となつている本件において適用せらるべき限りでない。
以上の次第で広田が本件の店舗の所有者であることを前提とする原告の本訴請求は到底認容することができないので、その余の判断を省略してこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 西川美数)
別紙図面<省略>