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東京地方裁判所 昭和26年(ワ)5211号 判決

原告 今津操

被告 平岡時次 外二名

一、主  文

被告平岡時次同平岡彌生は原告に対し東京都渋谷区幡ケ谷笹塚町千九番地の二所在木造瓦葺平家建店舗兼居宅一棟建坪十八坪を明渡し、且つ各自昭和二十六年二月五日からその明渡ずみに至るまで一ケ月金一千円の割合による金員の支払をせよ。

原告の被告太田清に対する請求を棄却する。

訴訟費用中原告と被告太田清との間に生じたものは原告の負担とし、原告と被告平岡時次、同平岡彌生との間に生じたものは右被告両名の連帯負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り、原告が被告平岡時次、同平岡彌生に対し各金二万円の担保を供するときは仮にこれを執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一項同旨及び被告太田清は原告に対し主文第一項掲記の家屋のうち奥の六畳一間を明渡せ。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求める旨申し立て、その請求の原因として、(一)原告は昭和二十四年十一月三十日被告平岡彌生に対し金十五万円を弁済期昭和二十五年三月三十一日と定めて貸与し、同被告は同日右債務の担保としてその所有する別紙目録<省略>記載の家屋(以下本件家屋という)に抵当権を設定し、且つ右債務を期日に弁済しないときは右債務の代物弁済として本件家屋の所有権を原告に譲渡する旨の停止条件附代物弁済契約をし、同日本件家屋について右抵当権設定の登記及び所有権移転請求権保全の仮登記を経たものであるところ、同被告は弁済期に債務の履行をしなかつたので右停止条件は成就し、原告は昭和二十五年三月三十一日代物弁済により本件家屋の所有権を取得し、昭和二十六年二月五日その所有権取得登記手続を了した。(二)その後原告は被告平岡時次、同彌生の懇請により同被告等との間に昭和二十六年六月三日同被告等が損害金として一カ月金二千円宛同年六月三日を第一回として爾後毎月三日原告に持参して支払う限り本件家屋の明渡を猶予すること、もし同被告等が右損害金の支払を二回分以上怠つたときは明渡猶予の利益を失い直ちに本件家屋から退去してこれを原告に明渡すことの契約をしたが、同被告等は右損害金を一回も支払わなかつたから既に本件家屋を退去して明渡すべき義務の履行期が到来したにもかかわらず依然本件家屋を占拠してこれが明渡をしない。(三)その上同被告等は昭和二十六年二月五日以後に原告の承諾をえないで被告太田清に対し本件家屋のうち奥の六畳一間を使用させ被告太田は現に不法にこれを占有している。(四)そして被告時次、同彌生は本件家屋を不法占有することによつて原告の所有権を侵害し原告に対し一カ月金一千円の割合による賃料相当の損害を与えているから、原告は被告時次、同彌生に対してはそれぞれ本件家屋の明渡と原告が所有権取得登記を完了した昭和二十六年二月五日から右被告等の明渡ずみに至るまでの右割合による損害金の支払を求め、被告太田に対しては本件家屋のうち奥の六畳一間の明渡を求めるため本訴請求に及んだと述べ、被告太田主張の抗弁事実を否認した。<立証省略>

被告等訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張(一)の事実中原告主張の金員を借用した者が被告平岡彌生であるを除くその余の事実、(二)の事実中原告主張の損害金支払の始期が昭和二十六年六月三日であることを除くその余の事実はすべて認めるが、その余の事実は否認する。右金員を借用した者は被告平岡時次であり、損害金の支払始期は同年七月三日であると述べ、抗弁として、被告太田は昭和二十四年十月被告平岡彌生から本件家屋の奥の六畳と四畳半の二室を賃料一カ月金五百円で賃借し占有しているもので、その後に右家屋の所有権を取得した原告に対抗できるものであるから原告の不法占有を理由とする本件請求は失当であると述べた。<立証省略>

三、理  由

成立に争のない甲第四号証及び証人土橋賀の証言及び原告今津操本人の訊問の結果によれば、原告が昭和二十四年十一月三十日被告平岡彌生に対し金十五万円を貸与し、被告平岡時次が同日原告に対し被告彌生の右債務について保証を約したこと及び彌生がその債務を期日に弁済しなかつたことがいずれも認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。そして原告と彌生との間に原告主張の内容の抵当権設定契約及び停止条件附代物弁済契約が成立し、本件家屋に原告主張の登記が為されたこと及び原告が昭和二十五年三月三十一日右代物弁済により本件家屋の所有権を取得し昭和二十六年二月五日その所有権取得登記手続を了したことはいずれも当事者間に争がない。

そして原告と被告時次、同彌生との間に原告主張の内容(但し損害金支払の始期の点を除く)の明渡猶予契約が成立したことは当事者間に争がなく、前記損害金の支払の始期には争はあるが、右被告両名がその支払を一回もしていないことは当事者間に争がないのであるから、たとえ被告等主張のとおり昭和二十六年七月三日がその始期であるとしても第二回目の支払期日である同年八月三日の経過により明渡猶予の利益を失い、被告時次、同彌生は本件家屋を明渡す義務の履行期が到来したというべきである。そして成立に争のない甲第一、第二号証、原告及び被告時次、同太田の各本人の供述を考え合せると、本件家屋の賃料は一カ月金千円が相当であると認められ、これを覆すに足る証拠はないから、原告は被告時次、同彌生の本件家屋の明渡義務不履行により昭和二十六年二月五日からその明渡ずみまで右割合による賃料相当額の損害を蒙つていること明かであるから被告時次、同彌生はそれぞれ原告に対し右損害金を支払う義務がある。

次に被告太田清が現に本件家屋のうち奥の六畳一室を占有していることは当事者間に争がない。被告太田は昭和二十四年十月頃被告彌生から本件家屋のうち右部分を含む一部を賃借したもので、その賃借権はその後に右家屋の所有権を取得した原告に対抗できるから、原告の本訴請求は失当だと抗弁するのでこの点について判断する。被告太田の供述により真正に成立したと認める乙第二号証の一、二及び被告時次、同太田各本人の供述によれば、被告太田は原告が本件家屋の所有権を取得した以前である昭和二十四年十月頃に被告彌生から右家屋のうち奥の六畳と四畳半の二室を賃料一カ月金五百円、毎月二十八日支払の約で賃借し、爾来右賃借室に居住し、現在同被告の親と妻子と共に占有していることを認めることができ、これに反する証人土橋賀の証言及び原告本人の供述は措信しない。他に右認定を左右するに足る証拠はない。そこで本件家屋の一部について原告がその所有権を取得した以前に被告太田が賃借しその引渡を受けていたことは右に認定したとおりであるが、かような家屋の一部の賃貸借について借家法第一条の適用があるか否かについて考える。同条は「建物の賃貸借」と明記しているから、建物の全部の賃貸借について適用があることはいうまでもないが、その文言のみからは必ずしも建物の一部の賃貸借について適用を排斥しているとはいえないから、その規定の制定された理由いわゆる立法の趣旨を考えると共に、現時における住宅難の世情に応じ借家人保護の見地から改めて右規定の趣旨を探究する必要がある。この観点から考えると建物の一部といつてもアパートやビルデイングなどの室のように構造と使用効能が独立の建物と同等に認められるものについて右規定を適用するのは異論がないところであるし、また本件家屋のような日本式建物の一部にあつても、その構造が通常独立の建物と同視しがたいとはいえ、実際には区分所有権の登記も不可能ではないのみならず、上叙近時における住宅難の世情に照し借家人保護の見地から右規定の適用を除外すべきではないと解するのが相当であり、その結果は正当に賃借し現に居住している借室人のあるのに、これを買受けた新所有者はその賃貸借を認容すべきものとなるが、この解釈は衡平の観念から見てもこれに反しないものと考える。しからば、被告太田の右賃借権はその後に本件家屋の所有権を取得した原告に対抗し得るものというべく、原告は右所有権取得と同時に前所有者平岡彌生と被告太田との賃貸借契約における賃貸人たる地位を承継しているのであるから、被告太田の前記部分の占有は原告に対抗し得る正当な権原に基くものというべきである。されば、被告の右抗弁は理由があるから被告太田に対する原告の請求は失当であるといわねばならない。

よつて原告の本訴請求中、被告平岡時次、同平岡彌生に対する部分は正当であるからこれを認容し、被告太田清に対する部分は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条第一項但書、仮執行の宣言について同法第百九十六条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 飯山悦治)

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