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東京地方裁判所 昭和26年(ワ)5578号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(事實)

原告(信用金庫)は訴外君野辰之助から同人の当座預金口座への預入として、被告振出に係る本件二通の小切手を取得し、期間内に支払場所で呈示したが、支払を拒絶せられたので、該小切手の所持人として振出人たる被告に対し不支払の小切手金と利息金の支払を求めた。

被告は小切手振出の事実並に原告がこれを預金口座に受入れた事実を認めたが、当座預金として預入れられた小切手については、銀行若くは信用金庫(以下説明の便宜のため單に銀行という)は取立委任の権限を持つのみで小切手上の権利を自らの権利として行使することはできない。不渡になつた場合には銀行は小切手金額相当額を預金者の当座預金から控除し、該小切手を預金者に返還すべきものであつて、預金者から特に依頼がない限り、遡及権の行使の如き小切手上の請求をすることはできない。預金者の依頼により小切手上の権利を行使する場合には勿論預金者のために権利を行使するに過ぎないから被告は預金者に対する人的執行を以つて銀行に対抗することができると主張し、預金者に対する人的抗弁を銀行に対する抗弁として陳述した。原告はもとより、銀行は現金の場合と同樣、小切手を当座預金口座に受入れることによつて、銀行は右小切手上の権利を取得したという見解の下に、被告の抗弁を争つた。

(判斷)

原告勝訴。

判決は銀行が当座預金口座へ小切手を受入れた場合、銀行は該小切手上の権利を取得するという原告の主張を採用し、つぎのように説明している。なお、判決は一般銀行の夫と同文で定型的のものと見られる原告金庫当座預金勘定規定第二項について一つの解釋を示している。「よつて進んで、前記のように小切手が原告金庫の当座預金として預入れられた場合において、原告が小切手上の権利者となるか否かの点につき判断するに、特に反対の事情の認むべきもののない限り、預金者が自己の当座預金口座に小切手資金として現金を預入れた場合には、これを受入れた銀行その他の金融機関(本件においては原告金庫、以下単に銀行と略称する)はこれを直に預金として受入れ、預金者が振出した小切手の支払をなす資金とすると共に、一方においてはその金額の消費寄託の関係をも生ずると解すべきであつて、小切手が現金と同樣の経済的機能を営む点に鑑みるときは、その預入が小切手である場合も同樣に観察すべきものである。それ故、預金者が自己の当座預金口座に小切手を振込んだ場合においても、現金と同樣の作用を営み、それは直に預金者の預金となる。預入れを受けた銀行はそれが持参人払式小切手の場合にはその引渡によつて該小切手の讓渡を受けその所持人となるのである。そして、銀行が該小切手を手形交換所において呈示するときは自己の小切手としてその支払を求めるものなのである。しかして、該小切手が不渡となつた場合、小切手上の権利者としてその小切手債務者に償還請求をするか。或は直に該小切手を預金者に返戻して代り金の請求をするかは銀行の選択に基いて決すべきものである。

……各証拠を綜合すれば、訴外君野は昭和二十五年十二月頃から原告金庫と当座預金の取引があり、従来屡々被告振出の小切手を右当座予金に預入れてをつたところ、昭和二十六年五月二十九日現在金十二万七百五十八円の赤字となつてをつたが、同訴外人は他の小切手と共に本件二通の小切手を原告金庫の自己の当座預金に預入れ翌三十日交換に廻される予定の自己振出の金額合計六十七万四千余円の四通の小切手の支払方を原告金庫に依頼した。原告は当座予金台帳中、君野の口座の受入欄に本件小切手による入金の記載をなし、被告の取引銀行へ被告の信用状態をたしかめその信用状態は良好であるとの報告を得て、本件小切手が満期に支払はれるとの予想の下に、その支払前にこれを引当にして同訴外人振出の小切手を支払つた事実、即ち所謂他店劵過振の方法によつたものと認めることができ、この認定を左右するに足る証拠は存しないから原告は当座預金へ受入れることによつて本件小切手上の権利を取得したものと認めるを相当とする。尤も……によれば本件小切手が不渡となつた結果、前記当座預金台帳中、昭和二十六年五月三十一日の欄に不渡小切手と書き、本件各小切手金に相当する金額を払出欄に記入した事実を認めることができるが、右は小切手不渡の結果の一応の帳簿上の処理と認むべきで、右事実はもとより、原告が預入れにより本件小切手上の権利を取得したとの前記認定の妨げとはならないし、又この記載があればとて、該小切手を原告が預入人に返還したとの事実が認められない限り、原告が預入れによつて一旦取得した小切手上の権利を預入人に返還したと認めることができないことは論をまたずして明かである(原告が現に本件小切手の所持人であることは弁論の全趣旨から明認できるところである。)。又甲第三号証の原告金庫当座預金勘定規定第二項に、「其の証劵が不渡となりたるときは……中略……権利保全その他の手続を履まず、そのまま預主に返却すべし。」という記載があるけれど、この規定は預入証劵が不渡になつた場合、原告において権利保全等の手続をせず、直にその証劵を預主に返還しなければならないとの義務を約したものと解することは、保全等の手続をしないことが預金者に利益を与えるものでない点から考えて解釈の当を得たものということはできず、むしろ、証劵不渡の場合、保全手続等をなさず、直に証劵を返還することができる旨の原告金庫側の権利を明かにした約定と解するを相当とするから、この規定の存在は前段認定の支障となすに足らない。この解釈は証劵の不渡という事実は特別の事情がない限り原告金庫にその責がなく、不渡によつて生じた事態の拾收の責任が預入人側に存する事実から考えても首肯することができよう。……以下略。」

附記 大阪地方裁判所昭和二十五年四月二十二日言渡同庁昭和二二年(ワ)第一二八〇号判決は銀行が第三者を支払人とする小切手を預金として受入れた場合は受入銀行は通常受入小切手の取立委任を受けるに過ぎない旨判示して本判決と反対の結論を採つている。大阪地方裁判所判決はその理由として「受入銀行が受入小切手の取立前預金者に対し払戻すことがあつても、これは預金者の資力、信用等を考慮した上受入銀行の危険に於て預金者に貸付をなすものである」 「預金は通常消費寄託と称すべきであつて、消費寄託の性質上以上の如き場合に於ては受入小切手の取立を俟つて消費寄託が成立すると解すべきで、……」の二点をあげている。

(下級裁判所民事裁判例集第一卷第四號五九八頁以下參照)

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