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東京地方裁判所 昭和26年(ワ)6906号 判決

原告 原信次郎

被告 中野興業株式会社

補助参加人 高野秀太 外二名

一、主  文

被告会社の昭和二十四年六月二十四日の臨時株主総会における補助参加人高野秀太を取締役兼代表取締役に選任する旨の決議及び昭和二十五年一月三十一日の定時株主総会における右補助参加人を取締役兼代表取締役に、補助参加人中野重孝、同茂野誠衛を取締役に、それぞれ選任する旨の決議は、いずれも存在しないことを確認する。

訴訟費用中原告と被告との間に生じた分は被告の負担とし、原告と補助参加人等との間に生じた分は補助参加人等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求の原因として、

「(一) 被告会社は、大正三年四月二十六日設立された、土地家屋の賃貸を主たる目的とする、資本の額千七百五十万円、発行済株式総数十七万五千株、一株の金額百円の株式会社である。

(二) 原告は、昭和二十六年十月十日、訴外偕成証券株式会社から被告会社の株式十六万三千株を買受け、名義人たる補助参加人中野重孝の名義書換のための白紙委任状の添附された株券の引渡をうけ、現にこれを占有している。

しかして、右白紙委任状は株式譲渡に際し名義書換のため株券に添附されたものであつて、それ自体株式譲渡の趣旨を現わしているから、商法第二百五条第三項の適用については「株券に株主として表示せられたる者の署名ある譲渡を証する書面」(以下譲渡証書という。)とみなされるべきものであるから、原告は右株式の株主権を有するものである。

原告が昭和二十六年十月十五日、被告に対し本件株式の名義書換を求めたところ、被告は正当の事由もないのに右請求を拒絶した。

(三) ところで被告会社は、

(イ)  昭和二十四年六月二十四日、新潟県中蒲原郡金津村大字金津六百番地の当時の被告会社の本店に臨時株主総会を招集し同総会で補助参加人高野秀太を取締役兼代表取締役に選任する旨の決議が、

(ロ)  昭和二十五年一月三十一日、右同所に定時株主総会を招集し、同総会で同人を取締役兼代表取締役に、補助参加人中野重孝、同茂野誠衛を取締役に、それぞれ選任する旨の決議が、

各なされたとして、各その旨の登記を了しているが、事実は、右株主総会はいずれも招集されて居らず、従つて、右決議は全く存在しないものであるから、右株主総会の決議の不存在の確認を求めるため本訴に及んだ。」と述べ、

補助参加人等の主張事実に対し、

「白紙委任状の本件株式を譲渡する旨の文言及び名義人の記名は、偕成証券株式会社より原告が株券の引渡を受けるにあたり、同会社によつて補充されたものであるが、名義人の捺印のある白紙委任状については、その所持人が必要に応じて記名その他の文言を補充するのが当然であるから、原告が右補充の事実を知つていたとしても、これをもつて直ちに原告は売主の処分権限について、悪意又は重大な過失があつたものということはできない。」と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、

「原告主張事実中、(一)の事実は認める。(二)の事実のうち、原告がその主張の名義人の白紙委任状の添附された株券を所持していること及び被告が原告主張の日時に原告の名義書換の請求を拒絶したことは認めるが、その他の事実は知らない。(三)の事実中株主総会の決議が不存在であるとの点は否認する。」と述べた。<立証省略>

補助参加人等訴訟代理人は、

「原告主張の株券に添附されている白紙委任状は、名義人たる補助参加人中野重孝によつて作成され、任意に他人に交付されたものではなく、訴外鈴木武造が右株券を同補助参加人より預り保管中、昭和二十三年頃、擅に同補助参加人名義を冐用して作成した偽造のものである。また、右白紙委任状を商法第二百五条第三項にいわゆる譲渡証書とみることはできないから、原告は右白紙委任状附で株券を取得しても、これに表彰された株式を取得することはできない。

右が理由ないとしても、右白紙委任状には本件株式を譲渡する旨の文言及び補助参加人中野重孝の記名が欠けていたのを、原告が勝手に補充したものであるから、原告は右取得にあたつて、白紙委任状が偽造であり、従つて売主が処分権限を有しないことを知つていたか又は知らなかつたことにつき重大なる過失のあるものというべきであるから、原告は株主権を取得することはできない。

そうであつてみれば、原告は本訴において何等確認判決を請求する法律上の利益を有するものではないから、原告の本訴請求は棄却を免れない。

以上が認められないとしても、原告主張の株主総会の決議はいずれも有効に存在している。即ち、

被告会社は、定款変更の件及び代表取締役改選の件を附議するため、昭和二十四年六月二十四日、臨時株主総会を東京都港区芝浦一丁目五十番地の当時の被告会社東京出張所に招集し、代理人による者をも含めて十六名の株主全員が出席し、満場一致で補助参加人高野秀太を取締役兼代表取締役に選任し、また、取締役の任期満了に伴う改選の件及び計算書類の承認の件を附議するため、昭和二十五年一月三十一日、第三十六回定時株主総会を前同所に招集し、代理人による者を含めて十四名の株主全員が出席し、これも満場一致をもつて、同補助参加人を取締役兼代表取締役に、補助参加人中野重孝、同茂野誠衛を取締役に、それぞれ選任する旨の決議をなしたものである。」と述べた。<立証省略>

三、理  由

被告会社が、大正三年四月二十六日設立された、土地家屋の賃貸を主たる目的とする、資本の額千七百五十万円、発行済株式総数十七万五千株、一株の金額百円の株式会社であつて、原告がその主張の株式名義人たる補助参加人中野重孝名義の白紙委任状の添附された被告会社の株式十六万三千株の株券を占有していることは当事者間に争がない。

しかして、株券に添附されている名義人の名義書換のための白紙委任状は、株式の譲渡が行われたことを前提とし、名義人がこれにより名義書換の権限を白紙委任状附株式の取得者に委任するものであつて、その記載自体より株式譲渡の趣旨を知ることができ、商法第二百五条にいわゆる譲渡証書とみなすべきであるから、白紙委任状が株式名義人の名義で作成されている限り、その者の意思にもとずく作成であると否とにかかわらず、白紙委任状附株式は善意取得の目的となるものと解すべきところ、成立に争のない甲第二十三号証の三の記載及びこれにより真正に成立したものと認める甲第六号証の二の記載によれば、原告はその主張の日時に、額面相当の代金千六百三十万円で、訴外偕成証券株式会社から本件株式を買受け、その履行として、右株券の引渡を受け、現にこれを占有するものであることが認められる。従つて、他にこれに反する証拠がない限り、原告は右株券に表彰された株式を取得し、現にこれを有するものといわなければならないところ、補助参加人等は、本件白紙委任状は偽造のものであつて、売主たる偕成証券株式会社は本件株式の処分権を有しないものであつたのに、原告はそのことを知つて株券を取得したか又は知らなかつたことにつき重大な過失のあるものであると抗争して居り、成立に争のない甲第二十一号証の二、三の記載によれば、本件白紙委任状が補助参加人等主張のように偽造のものであることを認めることができ、前記甲第二十三号証の三の記載によれば、偕成証券株式会社より本件株券の引渡を受けるにあたつて、原告は、同会社によつて補助参加人等主張の白紙委任状の株式譲渡の文言及び名義人の記名が補充されたことを知つていた事実を認めることができるけれども、元来株券に添附された白紙委任状の所持人は、必要に応じ、名義書換のためこれを補充する権限を有するものと認めるべきであるから、原告に対する本件株式の譲渡人たる偕成証券株式会社が株式譲渡にあたり、白紙委任状の空白部分を補充し、原告がこれを知つていたとしても、ただこれだけでは譲渡人に処分権限のないことを譲受人が知つていたことにはならない。補助参加人等の主張は採用することができない。

従つて、原告は商法第二百二十九条、小切手法第二十一条により本件株式について適法に株主権を取得したものというべきである。

原告が昭和二十六年十月十五日、被告に対し本件株式の名義書換を求めたところ、被告が右請求を拒絶したことは当事者間に争のないところであるから、原告は同日以降株主たることをもつて被告会社に対抗し得るものというべく、したがつて、原告は本訴において確認判決を要求する法律上の利益を有することは明白である。

よつて、原告主張の被告会社の株主総会の決議の存否について判断するに、成立に争のない甲第二十一号証の二、三(後記各信用しない部分を除く。)、第二十二号証の二、第二十三号証の二の各記載及び甲第二十一号証の二の記載により真正に成立したものと認める乙第三号証の一、二、第四、五号証、の各記載を綜合すれば、被告会社はもと補助参加人中野重孝一族の同族的な会社であつて、その株式はすべて中野一族が所有して居り、ことに同補助参加人はその大多数にあたる十六万三千株の株主として、被告会社の支配権を事実上独占していたのであるが、前記認定のように訴外鈴木武造が、昭和二十三年頃、右株式の株券に偽造の白紙委任状を添附して他に担保に供するに至つたので昭和二十四年三月二十一日、補助参加人中野重孝は、右株券の取戻しを断念して鈴木武造との間に示談をなし、鈴木武造が右により同補助参加人に与えた損害に相当する債務を同補助参加人に対し負担する旨の契約が成立したのであるが、更に昭和二十四年六月二十一日、補助参加人高野秀太が鈴木武造の右債務を引受けることとなり、同時に補助参加人中野重孝は被告会社の支配権一切を補助参加人高野秀太に引き継ぐに至つた。

被告会社は右の如く、いわば補助参加人中野重孝、又は同高野秀太の一人会社ともいうべきものであつたのでかかる被告会社の特殊性に基き、被告会社では、少くとも昭和二十四年以降は、株主総会招集の手続がとられたことは一度もなく、右補助参加人等が必要に応じて被告会社に保管中の役員の印鑑を使用し、適宜株主総会議事録その他必要書類を作成し、あたかも適式に株主総会の決議が行われたもののように装つていたものであることを知ることができ、右に反する甲第二十一号証の二、三の記載部分は信用することができず、甲第三号証の一、二の記載も右認定を左右するものでなく、他にこれに反する証拠はない。

そうであつてみれば、いかに実質上の一人会社であるからといつて、補助参加人等が株主総会の議によることなく、任意に決定した事項を直ちに被告会社の株主総会の決議事項とみることのできないことは明白であるから、原告主張の株主総会の決議は、その主張のように全然存在しないものと認定するの外はない。

しかして、原告が本訴において確認の利益を有することは前認定の通りであるから、原告の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小川善吉 中島一郎 矢口洪一)

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