東京地方裁判所 昭和26年(ワ)760号・昭26年(ワ)761号・昭26年(ワ)759号 判決
原告 銀座貿易株式会社
被告 丸谷秀夫 外一〇名
一、主 文
被告等は原告に対し、別紙目録<省略>及び図面<省略>表示の各売場を明渡せ。
昭和二十五年十二月十九日以降右明渡済にいたるまで一日につき、被告丸谷は千二百円、同佐藤は八百円、同浅野は六百円、同山口は二千四百円、同清水は千二百円、同株式会社白浜商会は二千七百円、同堀田は九百円、同原山は二千七百円、同豊産業有限会社は千八百円、同高橋は八百円、同渡辺は二千七百円の各割合による金員を原告に対して支払え。
訴訟費用は被告等の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求むる旨申立て、その請求原因として、
一、原告会社(旧称株式会社銀座デパート)は別紙目録記載の建物を訴外銀座美術株式会社及び訴外中村静尾と共有し、その建物に於て百貨店を経営しているものであるが、
二、各被告との間に別紙契約関係一覧表<省略>記載の日時に、同表記載の売場に於ける原告の営業を同表記載の期間担当させ、且つ原告の取得すべき利益歩合金及び期間満了後の損害金を同表記載のとおり定めて次のような売場担当契約を締結した。
(一) 原告の経営にかかる別紙目録記載の銀座デパート営業場内の一部にして原告の指定する商品売場に於ける原告の営業を被告に担当させる。
(二) 右売場を被告以外の者に利用せしめたり又は被告以外の者と共同して使用することを得ず、且つ原告の都合によつて指定の売場を伸縮移動するも被告は異議なきこと。
(三) 販売商品の種類、品質並びに価格及び使用人の適否等は原告の指示に従うこと。
(四) 会計並びに営業は原告の監督指揮のもとになす、但し会計は原告の指定人が取扱い、原告の取得すべき利益(売上総金額の一定歩合即ち別紙一覧表記載の利益歩合)を控除した残金を被告に手渡す。
(五) 被告が本契約の条項の一にでも違反したときは契約は当然解除となり、被告は前記売場を即時明渡す。
(六) 本契約終了の場合には被告は売場明渡完了にいたるまで、毎日別紙一覧表記載の違約損害金を原告に支払う等。
三、(イ) 然るに被告等の右契約期間は別紙一覧表のとおり満了した。
(ロ) 仮りに本件契約が更新されたものとしても被告等は昭和二十五年十一月十四日より原告の会計並びに営業の監督指揮及び原告の指定人の会計取扱を拒んで売上金を原告の金銭登録器に入金することさえしないので同日をもつて本件契約は当然解除となる。
(ハ) 仮りに本件契約が当然には解除とならないものとしても、被告等は右営業が原告の営業であり、被告等はその売場を担当しているにすぎないのに拘らず、昭和二十五年十一月十四日から引続き原告の会計並びに営業の監督指揮及び原告の指定人の会計取扱を拒んで売上金を原告の金銭登録器に入金して売上歩合金を支払わないので、本訴において本訴状送達の日から五日以内にその義務を履行すべく催告すると共に、もしこれを履行しないときには契約を解除する旨の意思表示を為し、而して本件訴状は昭和二十六年二月二十六日いずれも被告等に送達せられたに拘らず被告等はこれに応ぜず、各々契約当時の売場を占有している。従つて何れの点からみるも本件契約は解除せられ、被告等は原告に対してその占有している各売場を明渡す義務がある。そこで原告は被告等に対して各占有部分の明渡と昭和二十五年十二月十九日以降明渡済にいたるまで請求趣旨記載のとおりの約定損害金の支払を求めると述べ、被告等訴訟代理人の主張に対し、被告等が昭和二十五年十一月十四日より十日間の売上歩合金を供託したことは認めるが、その他の抗弁事実をすべて否認した。<立証省略>
被告等訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として原告の主張事実中、第一項及び第二項はそのうち売場担当契約であるという点及び(六)を除いて認めるが、第二項の爾余の部分及び(六)を否認する。契約終了の場合の損害金の約定は原告が、自己の経済的優越をもつて被告等に強要したものであり、被告等の真意に非ざるものである。同第三項は被告等の契約期間が満了したという点及び当然解除となるという点、被告等のなしている営業が原告の営業であり、被告等はその売場を担当しているにすぎないという点及び、被告等が売上歩合金を支払わないという点は否認し、被告等が原告主張の日から会計につき原告の支配を排したこと、及び被告等が契約によつてきめられた各売場を占有していることは何れも認める。原告は本件契約更新の交渉中に被告等に対し原告の管理する会計中から前記約定損害金と称するものを強制的に徴収するに至つたので被告等は営業権並びに生活権擁護のために原告の強制不法徴収という急迫不正の侵害に対して正当防衛緊急避難の意味に於て自ら会計をなしたのであつて、その責任は原告に帰すべきものである。然も被告等は原告の支配を排したとは云つても売上歩合金を原告に提供し受領を拒まれたため供託したものである。
原告と被告等との各契約はその内容実質からみて建物賃貸借契約である。従つて本件契約中の賃貸借期間、当然解除、即時明渡、違約損害金に関する各特約は借家法第六条、民法第一条により無効であり、之等の特約に基いては被告等に明渡義務はない。本件契約は更新せられそれにより被告等は適法に各売場を占有しているものであり、この契約更新が時間的に十日間位長延いたことは認めるが、これは契約更新の交渉の際契約中には前述のような不当な条項があり、将来に於てこれが禍の因をなす虞があつたのでこの機会に適当なものに改めるべく接渉を続け、原告がこれに応じなかつたためであつて、被告等の責に帰すべき事由ではなく被告等に履行遅滞の責任を生せず、その当然の結果としてこれを直接間接に理由とする契約の解除並びに違約損害金の請求は失当である。
その他本件契約中被告等に不利なる点は原告が経済的に優越した地位を利用して不当に締結せしめたものであり、憲法、民法第一条、第九十条、並びに社会正義の点からみて無効である。従つて原告の請求は何れも失当であると述べた。<立証省略>
三、理 由
原告会社がもと株式会社銀座デパートと称し別紙目録記載の建物を訴外銀座美術株式会社及び同中村静尾と共同し、その建物において百貨店を経営している(但し被告等との関係を除く)こと及び原告主張の別紙契約関係一覧表記載の日時に同表記載の売場で同表記載の期間被告等が営業し、これに対して原告に同表記載のとおり一定の利益歩合金を支払うことにきめた(但し原告と被告等との間に契約期間終了後の損害金の定めがあつたという点及び本契約が、売場担当契約であるという点を除く)ことは何れも当事者間に争がない。原告は被告等のなしている右営業は原告の営業であり、被告等はその売場を担当しているにすぎないと主張するのに対し、被告等は本件契約は建物の一部の賃貸借契約で、その賃料の支払方をとくに売上高に対する歩合で定めたものであり、また被告等の売場の商品も百貨店である以上同一百貨店で同種類のものを二箇所以上で売ることは営業上思わしくないために特定したものであると争うのでこの点について判断する。
甲第二号証の各証の契約終了後の損害金記載部分は証人島田進の供述により真正に成立したものと認められ、爾余の部分については成立について争のない同号証の各証及び証人中村起東、秋本春夫、菱川敬三、小坂孝平の各証言並びに検証の結果とさきに認定した当事者に争のない事実とを綜合すれば、原告会社においては直接の自家経営のほかに委託制度や歩合制度を採用し、これに基いて百貨店内の一部の売場を担当させるべく銀座貿易株式会社という商号のもとに出店することを被告等に提案したところ、被告等ははじめ難色を示したけれども後同意して原告との間にその提案の契約を締結し、その契約期間中原告は建物保存費、夜警費その他を負担し、また売出しの宣伝費等は原告被告等において折半して負担し、被告が営業をなすについての種々の許可名義は主として原告の名においてとり、被告等の商売は所謂ケース貸しの一つの型に属するもので家屋の特定の部分を排他的に独占して自由に独自の立場で営業するのではなく、同一の商号の下に一つのデパート営業の一部門を担当するもので、しかも各自担当する部門の商品の販売についても商品の価格及び使用人の適否等又指定売場についても伸縮移動に関し少くとも全体との調和上原告の監督指示に服する趣旨の約定に基くものであること、契約終了後の損害金についても被告等において各々別紙契約関係一覧表記載のとおりの特約をしたことが認められる。尤も証人菅野照男は右契約は夫々賃貸借契約である旨及び損害金は一応とりきめた丈で決してこれに基いては請求せず、契約は期間満了と同時に更新される旨供述しているが、当裁判所はこれを措信せず、その他右認定を覆するに足る証拠はない。
以上認定の事実によれば原告と被告等との各契約は所謂民法に定められた典型契約以外の特殊な契約というべく建物の賃貸借契約でないこと右認定したとおりであるから、借家法の適用も勿論なく又右認定のような原被告等間の契約中被告等に不利の部分が被告等主張のように法律上無効とは解し難い。
従つて被告等の契約は別紙契約関係一覧表記載のように夫々期間満了したものというべきである。被告等は何れも契約が更新された旨主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、却て証人松浦徳市の証言及び成立に争ない甲第四号証の各証(但し第四号証の十六イは除く)によれば期間満了の当時契約更新の話がまとまらないので原告は被告、浅野を除くその他の被告等に対して夫々占有部分の明渡と契約終了後の約定損害金の支払を求めたことが認められる。
更に被告等は損害金の約定は原告の強要によつてなされたものであり、被告等の真意に非ず、然して原告が、その真意に非ざることを知つていたかのような主張をしているが、これを認めるに足る証拠はない。さて、被告等が別紙記載のように夫々本件契約当時の売場を占有していることは当事者間に争がないところである。従つて被告等は原告に対して別紙占有部分の明渡をなし、且明渡期限後である昭和二十五年十二月十九日以降右明渡済にいたるまで主文記載のとおり約定損害金の支払をなすべきである。そこで原告の請求を何れも正当であるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十五条本文同第九十三条を適用し、仮執行の宣言は不必要と認め主文のとおり判決する。
(裁判官 加藤令造 石橋三二 鈴木重信)