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東京地方裁判所 昭和26年(ワ)7891号 判決 1954年9月10日

原告 日本労働組合総同盟全国金属産業労働組合同盟 外六労組連合会

被告 日本労働組合総同盟

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

被告総同盟は原告らに対して、(一)被告総同盟が昭和二十五年十二月三日第五回全国大会(以下単に第五回大会と略称する)においてなした(イ)昭和二十六年三月開催予定の総評第二回全国大会を目標として被告総同盟の発展的解消の時期を速やかならしめること、並びにそのための一切の経過措置を中央執行委員会において処理することを可決した決議、(ロ)前役員信任の決議、並びに(二)昭和二十六年三月二十八日開催の被告総同盟第六回全国大会(以下単に第六回大会と略称する)においてなした被告総同盟解散の決議の各無効であることを確認し、かつ被告総同盟のなした昭和二十六年五月一日付解散の登記及び市川誠、椿繁夫、太田薫、岡本丑太郎、平林剛、松尾喬の各清算人就任登記の抹消手続をせよ。

訴訟費用は被告総同盟の負担とする。

との判決を求める。

第二、請求の原因

(一)  被告総同盟は労働組合法に基く法人であり、原告ら(原告日本労働組合千葉県連合会は法人格を有するもその他はいずれも有しない)はその構成員である。

(二)  被告総同盟はその組合規約に基いて第五回大会を昭和二十五年十一月三十日から同年十二月三日まで神奈川県川崎市公民館で開催し、その第四日目である昭和二十五年十二月三日第二号議案総同盟の発展的解消のための経過措置に関する件につき請求の趣旨(一)の(イ)のとおりの決議をし、第七号議案役員改選に関する件につき請求の趣旨(一)の(ロ)のとおりの決議をした。

(三)  しかしながら、右の決議には組合規約第十九条所定の定足数を欠いていたから、右の規定に違反し無効である。即ち、右規定によれば、大会は代議員の三分の二以上の出席をもつて成立するものであるが、第五回大会の割当代議員数は三百五十六名であつたに拘らず、右決議の際の出席代議員数は百六十八名(このことは被告の認証した議事録写甲第二号証によつて明白である。)であつて、代議員総数の三分の二に達しなかつた。したがつてこの場合大会は成立しなかつたのである。

(四)  次いで被告総同盟は第六回大会を昭和二十六年三月二十八日東京都内京橋公会堂で開催し、第一号議案日本労働組合総同盟解体に関する件につき請求の趣旨(二)の通りの決議をし、これに基いて市川誠、椿繁夫、太田薫、岡本丑太郎、平林剛、松尾喬を清算人に選任し、同年五月一日解散の登記並びに各清算人就任登記をした。

(五)  しかしながら右の決議は次の理由によつて無効である。

(1)  被告総同盟の全国大会は組合規約によれば代議員及び役員をもつて構成され、その代議員は組合費を完納した組合員数に比例し中央委員会できめた比率に従つて選出されなければならないところ、第六回大会代議員の選出比率については中央委員会は開かれず、中央委員会できめられた比率によらずして割当選出された代議員によつて第六回大会が開かれたのであつて、右大会は組合規約に違反し割当られた代議員によつて構成された大会である。

(2)  決議による労働組合の解散については、労働組合法第十条第二号が適用されるのであるが、同条によれば、組合員又は構成団体の四分の三以上の多数による総会の決議をもつてしなければならない。ところで被告総同盟の規約によれば右労働組合法第十条第二号にいわゆる総会に相当するものは全国大会であるけれども、第六回大会においては代議員の割当が(1)に述べたように不当であるばかりでなく、仮りに代議員の割当が適法であつたとしても、割当数百六十四名の四分の三である百三十八名に達しない百二十二名の出席代議員によつて決議したのであるから労働組合法の右規定に違反する。

(3)  被告総同盟の規約第二十条によれば解散の議事の採決は直接無記名投票によらなければならないに拘らず、本件決議は直接無記名投票によらずして満場一致解散に異議なきものとして可決している。

以上いずれによるも右の決議は無効のものであるにも拘らず、被告総同盟はこれが有効を前提として、さらに市川誠ら清算人を選任し、これに基いて解散ならびに清算人の就任登記をしたが、右はすべて有効な登記原因を欠くものであるから抹消せらるべきものである。

よつて以上の各決議の無効確認ならびに右各登記の抹消を求めるものである。

第三、被告の答弁

一、本案前の答弁

原告らの訴を却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

却下を求める理由は、

(一)  原告らは現在被告総同盟の構成員ではない。原告らは昭和二十六年六月一日、二日の両日にわたり開催されたいわゆる総同盟再建大会において新に成立した非法人たる「再建総同盟」という団体の構成員である。右総同盟再建大会は被告総同盟の正当な機関によつて招集されたものではなく、再建総同盟は右大会において成立したものであるから、被告総同盟との間に団体としての同一性はない。原告らは被告総同盟の構成員たる地位を脱退によつて喪失したのである。原告らのうち原告全国石炭鉱業労働組合(旧称日本鉱山労働組合)を除くその余のものが、その名称に「日本労働組合総同盟」という表示を冠しているけれども、これは被告総同盟の構成員であることを表示するものではなく、新団体たる「再建総同盟」の構成員であることを表示するものである。よつて原告らは被告総同盟の構成員ではないから、本訴の請求につき正当な利益を有しない。

(二)  仮りに右が理由ないとしても、日本労働組合総同盟全国金属産業労働組合同盟と日本労働組合総同盟全国造船労働組合連合会のいずれかは原告たる適格を有しない。何となれば、被告総同盟は全国産業別労働組合と都道府県連合会をもつて構成されるものであるが、この構成員であつた日本労働組合総同盟全国金属産業労働組合同盟は昭和二十五年十月六日解散し、その傘下にあつた造船、金属、鉄鋼の三部門はそれぞれ独立し、全国造船労働組合日本鉄鋼産業労働組合、全国金属労働組合となつて被告総同盟に直結し、その構成員となつたのである。したがつてもとの日本労働組合総同盟全国金属産業労働組合同盟は被告総同盟の構成員ではなくなつたのである。仮りに右解散がなかつたとすれば日本労働組合総同盟全国造船労働組合連合会は被告総同盟の構成員となつてはいない。よつて(一)と同じ理由により右原告二組合のいずれかは本訴の請求につき正当な利益を有しない。

(三)  仮りに以上はすべて理由ないものであるとしても、被告総同盟は第五回大会を契機として二派に分裂し、そのうちの一派(仮りに大会退場派と称する)は被告総同盟の組織外において日本労働組合総同盟刷新強化運動なる団体を結成し、新規約を制定し、新たな機関を設け、それによつて招集された昭和二十六年六月一日及び二日の再建大会において、被告とは別に再建総同盟を成立せしめた。一方被告総同盟の他派(仮りに大会非退場派と称する)は第五回大会において解散する方針を定め、次いで第六回大会において解散を決議し、その構成団体をそれぞれ日本労働組合総評議会に編入しその実体を失つた。このように被告総同盟はすでに自己分解し、労働組合の実体的基礎を失い、現在は消滅したと解するほかはない。しかして労働組合法にいわゆる組合の解散とは組合として存続する団体を消滅せしめる意であるから、組合がその存続の実体を失つた場合は解散手続をとるまでもなく消滅するものであつて、この場合の財産関係については、解散の場合に準じて法定清算に入るほかはない。したがつて、被告総同盟は、たとい解散の決議をなさずとも、その自己分解後直ちに法定清算に入らなければならなかつたものである。してみれば、仮りに解散の決議が無効とされても被告総同盟は解散の運命にあるものといわなければならない。故に原告らにおいてこれらの決議の無効確認を求める利益を欠き、訴権を有しない。

二、本案に対する答弁

1  請求の趣旨に対し

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

2  請求の原因に対し

請求原因事実中(一)のうち原告らが被告総同盟の構成員であることは争う。その他の部分は認める。(二)の事実は認める。(三)のうち割当代議員数が第五回大会において三百五十六名であつたことは認めるが第四日目の出席代議員数は百九十八名であり(甲第二号証に百六十八名とあるは誤記である。)百六十八名ではない。また右決議が定足数を欠くものであるとの主張は争う。即ち、被告総同盟の規約第十九条は文理上大会成立の要件として代議員三分の二以上の出席を求めたものであることは疑いないのであるが、さらに規約第五十八条に基く大会議事規程(甲第四号証第三章大会成立の表題下に第九条(資格審査)として、「資格審査委員会は、大会出席代議員が規約に定めてある正当な資格があるか、出席者が規約に定めある定足数を満しているかなどを審査する。資格審査委員会は速かにその結果を大会に報告しなければならない。」と定め、第十条(大会の成立)として「司会者は資格審査委員会の報告によつて大会成立の条件が達せられたことを報告し直ちに議長の選出を行う。大会成立までは本部報告または議事はとり上げられない。」と定めておりこれらに徴すれば、規約第十九条においていう成立とは大会の開催にあたり、まず司会者が所定の時間になり、ほぼ定数に達したと認めて開会を宣したのち資格審査委員会が設けられ、ついで右委員会が代議員の資格の有無、出席者が代議員の三分の二以上であるかどうかを審査した上、大会に対しそれぞれの要件を満たした旨の報告がなされたときをもつて大会の成立と称したものであると解すべきである。しかして一度大会が成立した以上は当該大会は議長を選び、一般報告並びに議案審議等所定の議事を進め得るに至るのであつて、大会の全期間を通じて右大会成立時の要件である代議員の三分の二以上の出席を必要としない。大会議事規程第七章には特に会議の議事進行について詳細な規程をおいているに拘らず、何等右に反するような趣旨の規程の置かれていないことによつてすべて明瞭である。もつとも、被告総同盟の大会運営の実際においては、資格審査委員会が大会成立時以外に議場にある代議員数の発表をしているが、これはもとより大会議事規程第九条に基き資格審査委員会に課せられた報告義務によるものではなく、議事運営の円滑に資するための便宜の措置に過ぎない。以上の解釈はたんに規約の解釈たるにとどまらず、従来被告総同盟において行われて来た実例にかなうものであり、また一般労働組合の大会においてとられる慣例でもある。しかして第五回大会は第三日目において割当代議員数三百五十六名中三百三十五名が出席したのであるから大会は成立したのであつて、第四日目は第三日目の議事の続行であるから第四日目においても定足数に何等欠くところはない。そして規約第十九条第一項後段によれば議事は出席代議員の過半数によつて決せられるのであるが、この出席代議員数は大会成立時の出席代議員数を指称するものであるところ、第五回大会における第二及び第七号議案とも大会成立時の出席代議員総数三百三十五名のうち賛成代議員数は第二号議案につき百九十六名、第七号議案につき百七十八名で、いずれもその過半数である百六十八名以上の代議員が右議案について賛成議決しているのであるからこの決議は適法である。

次に請求原因(四)の事実は認めるが(五)の第六回大会の解散決議を無効であるとする主張は争う。即ち、

(1) 第六回大会における代議員の割当が中央委員会の選出比率決定によることなくしてなされたものであることは争わないが、第五回大会において適用された選出比率千五百分の一をそのまゝ適用し、中央執行委員会が割当てたものであつて、これは次に述べるような経緯によつて中央執行委員会が職責上やむを得ずなした措置であつて、しかも第六回大会成立に先立ち資格審査委員会より代議員割当に関する中央執行委員会の経過報告につき説明し、出席代議員はすべて異議なくこれを諒承したものである。即ち、その経緯は次の通りである。中央委員は定時大会より次期大会までを任期とし、次期大会成立とともに任期を終り、各産別組合、連合会で新に中央委員を選任し、大会終了後一ケ月以内に本部に報告することと定められている。ところが第五回大会後被告総同盟中央執行委員会は、第五回大会において昭和二十六年三月頃開かれる総評第二回大会を目標として被告総同盟の発展的解消の時期を速かならしめるため、その一切の経過措置を一任されて居つたので、昭和二十五年十二月八日第一回中央執行委員会を開き、中央委員の選出について協議を行い、前年通りとなつている比率に従つて選出を完了し、昭和二十六年一月二日までに本部に報告すること、昭和二十五年八月分までの会費納入者に選出資格を与えることとして、中央委員百三十七名の選出方を選出母体に通達した。ところが所定の期日に至つても新中央委員の選出がないので更にその報告を督促したのであるが、結局中央委員の選出報告をしてきたものは、愛媛県連五名、秋田、栃木、東京、石川、熊本の都県連が各一名、愛知県連が二名と産別中木産一名合計十三名であつて、原告の全金属十六名、同造船四名、同食品二名、同日鉱二名、埼玉、千葉の県連各一名、同大阪府連三名(以上はいずれも原告らの略称)は選出報告せず、福島、長野、岐阜、滋賀、福岡、長崎の県連各一名は選出推薦することを拒否し、茨城、新潟、静岡、三重、京都、山口、大分、群馬、兵庫の各府県連各一名、神奈川県連三名、産別中都市交通六名、全専売八名、全進七名、印刷二名、全化九名全繊維二名は組織内の動向複雑なため選出が行われず、結局中央委員会の定足数三分の二に達する見込み全くなく、中央執行委員会は二月十七日第四回中央執行委員会において、第六回大会を三月開催することゝし、代議員は会費納入者に限り割当資格が与えられるが、昭和二十六年一月分までの会費を三月五日まで納入したものに割当資格を与えることに定め、右決定に基き同年二月十九日第六回大会を三月二十八日午前十時東京において開催する旨の通知が各構成員に発せられたのである。ところが各選出母体より新中央委員会を構成すべき中央委員の選出報告はその後依然としてなされないために、中央委員会を開き得ないまま大会招集日目前に迫るに及んで、やむなく後に大会の諒解を求める前提のもとに、三月六日第五回中央執行委員会において第六回大会の代議員割当比率を第五回第四回などの前例により千五百名に一名の割合と定め、三月九日被告総同盟代表者重盛寿治名をもつて構成員たる各産別組合及び連合会に対し、いやしくも代議員選出の資格を有するすべてに対して、規約所定の通り割当招集したのである。割当のなかつたものは再三の督促にも拘らず、大会直前までついに会費納入を怠り、資格を得なかつたものである。されば第六回大会における割当代議員数が第五回大会のそれの半数以下であつても決して原告らの主張するように不当のものではない。しかも中央委員会の有する権能のうち代議員の選出比率の決定はそれなくしては大会の招集がいかなる場合にも絶対に不可能となるほどのものでないことは、最高機関としての大会の性質並びに規約の精神に照らして首肯できるものであり、殊に本件の場合中央執行委員会は前述の通り第五回大会が中央執行委員会に命じた決議を忠実に実行すべき重大な任務を有するのであつたからその任務からも、また常任執行機関としての当然の職責からも、大会の招集を支障なからしむべき何らかの適切の措置をとるべきであつたことは至極当然のことである。規約第十六条第二項はかかる臨機の措置すら許さないものと解すべきではない。しかもここに採用された比率は従来毎年中央委員会により決定され適用されて何ら支障がなかつたものである。かりに当時中央委員会が開かれこれと異なる選出比率が決定されたとしても、被告総同盟の構成員たる産別連合会のそれぞれにとつてみれば、各構成員とも大会に代議員を送り得ることは何ら変りなく、ただその代議員数の増減が若干起り得るのみであつて、しかもその増減すら各構成員を通じて一様に適用されるのであるから、各構成員の意思を議事に反映させるについて一向支障はない。したがつて第六回大会の決議はこの点に関して瑕疵はなかつたのである。仮りに規約違反の瑕疵があつたとするも、前記代議員の選出比率について異論のあるものは大会の席上その発言をすることにより是正の道が構ぜられるものであつたところ、前記の通り満場一致中央執行委員会の措置は諒承されたのであるから右の瑕疵は大会の追認により治療されたものである。仮りにそうでないとしても、かゝる招集手続上の瑕疵は決議の効力に影響を及ぼすものでない。第六回大会は正当な招集権者によつて招集され出席代議員は各選挙区の選挙によつて選出されたものであつて決議の内容自体法令又は規約に違反するところはないのである。

(2) 被告総同盟の解散による決議については労働組合法第十条第二号は適用されない。元来右法条は強行法規ではないのであつて、組合の規約によつてこれと異る特別の定めをすることが可能なことは、同条第一号によつて明かである。しかして被告総同盟の規約第十九条第一項後段によれば規約綱領の改正以外の一切のものは、大会において出席代議員の過半数により、可否同数の場合は議長の定めるところによつて決せられるのであつて、解散の決議もこれに含まれることもちろんである。第六回大会は右組合規約によつたものである。しかも第六回大会においては割当代議員数百六十四名百二十二名出席して大会成立し、右解散決議は全員の賛成によつて可決されたのであるからこの点に違法はない。

(3) 第六回大会の解散決議が直接無記名投票によらなかつたことは認めるけれども、この決議をなすに当つては直接無記名投票による予定であつたが、すでに解散に反対の者は会費を納入せず、代議員が割当られて居らないばかりでなく、決議直前に出席者全員の意思が賛成であることが明瞭に表明されていたので、全員合意のもとに直接無記名投票を省略して決議をしたものである。したがつてこの点においても規約の違反はない。

第四、本案前の抗弁並びに被告の主張に対する反駁

1、本案前の抗弁理由に対する反駁

(一)  被告総同盟の主張する「再建総同盟」は被告総同盟と人格を異にする別個の団体ではなく、被告総同盟の内部にある一派に過ぎない。原告らはこれに属し刷新運動派と称しているが、これは被告総同盟を解散し総評に直結編入しようとする他の一派(大会非退場派)に抗して、被告総同盟をその内部から構成員自らの手により法律上ならびに事実上の生命を与えようと念願する一派(大会退場派)である。もちろん一派をなして行動するものであるから、それ自らの機関と若干の内規を有するものであるけれども、被告総同盟の規約に則りこれを遵守しているものである。故に原告らは被告総同盟以外の構成員となつているものではない。原告らのうち全国石炭鉱業労働組合を除くその余のものが「日本労働組合総同盟」なる表示をその名称に冠しているのは、被告総同盟の加入の当初より現在に至るまでそうなのであつて、(このことは原告日本労働組合総同盟千葉県連合会の登記によつて明白である。)むしろ被告総同盟の構成員であることを表示するものである。仮りに再建総同盟(刷新運動派)が被告総同盟と別個の団体であるとしても、組合の構成員が他のいかなる団体に加入したからといつて、被告総同盟の構成員であることに変りはない。原告らが被告総同盟から離脱した事実は全然ないからである。

(二)  原告日本労働組合総同盟全国金属産業労働組合同盟はもと造船、非鉄金属、鉄鋼等の数部門を吸収していたのであるが、昭和二十五年十月このうちの造船と鉄鋼とはこれより分離独立し各単産を結成し、被告総同盟に直結加盟した。そしてこのうち造船部門が原告日本労働組合総同盟全国造船労働組合連合会となつたのである。非鉄金属部門等は残留して全国地方金属産業組合同盟を維持する予定であつたがこれらが二派に分裂し、その一派は分離して新に全国金属労働組合を結成した。しかし他の一派埼玉、大阪、神奈川、岐阜等の地方金属は残留し、なお日本労働組合総同盟全国金属産業労働組合同盟を維持しているものであつて、いずれも被告総同盟の構成員である。

(三)  被告総同盟の大会非退場派に属するそれぞれの構成団体が総評に編入したとしても、被告総同盟なる法人が消滅しないにも拘らず、これを消滅したものとなされることを妨止するにつき法人の構成員たる原告らは法律上の利益を有するから第六回大会の解散決議の無効であることの確認を求め、かつ解散登記、清算人就任登記の抹消を求める利益を有する。なお、第五回大会の解散する方針の決議は組合役員をしてこの方針に従つて行動せしめる拘束力をもつているからその効力のないことも併せて確定すべき法律上の利益を有する。

2、本案に関する被告の主張に対する反駁

(一)  被告総同盟の規約第十九条が被告総同盟の主張するように大会の招集に応じて信認状を提出したもののみに関するものであるとすれば、その後議事に入つた場合、極端な場合には代議員一名の出席をもつても議決することが可能であるということになる。したがつて被告総同盟の右規約に関する解釈は相当ではない。

(二)  第五回大会より第六回大会開催までの経過として被告の主張する事実中、原告ら組合が中央委員の選出報告をしなかつたことは認めるがその余は争う。

(三)  被告は労働組合法第十条第二号は強行法規ではないと主張するけれども右の解釈は誤りであつて、しかも被告総同盟はこれと異る特別規定を置いていない。組合規約第十九条は、綱領規約の改正に関する決議についてのみ特別規定を置いているが同条後段にいわゆるその他のものの中には解散に関する議事の決定は含まれないと解しなければならない。

(四)  被告総同盟の組合規約第二十条が直接無記名投票によることにしたのは解散決議については特に慎重を期し、附和雷同を排し、あくまで構成員の自由なる意思を反映させることを期したのであり、このことは選挙の方法に関する規定と同様絶対的強行規定であつて、当該大会参加者によつて恣にこれを変更して反民主的運営をすることを許すものではない。されば、第六回大会の解散決議について議長が異議の有無を議場に問う方法を採用したのは規約に違反し、決議は無効である。

第五、証拠の提出とその認否

原告らは甲第一乃至第四号証を提出し証人斉藤勇、同古賀専、同菊川忠雄、同天池清次の証言を援用した。

被告は乙第一乃至第四号証第五号証の一乃至八第六号証の一乃至三、第七号証の一乃至四第八、第九号証を提出し、証人正門真佐行、同柳本美雄、同松尾喬、同市川誠、同平林剛、同大石重一の証言を援用した。

被告は甲第一号証の成立は不知その余の甲号証の成立は認めると答えた。

原告らは乙第一号証第七号証の一乃至四、第八号証の成立を認めその余の乙号各証は不知であると答えた。

理由

第一、本案前の抗弁

(一)  原告らがいずれも被告総同盟の構成員ではないとの主張について。

原告らが日本労働組合総同盟刷新強化運動という一つの組織(被告の主張する再建総同盟はこれを指称するものと解せられる)に属するものであることは原告の目認するところであるけれども、成立に争いない乙第一号証第七号証の一乃至四に証人古賀専、同斉藤勇、同菊川忠雄の証言を綜合すると、原告らは昭和二十五年十一月三十日から同年十二月三日まで神奈川県川崎市公民館で開催された被告総同盟第五回大会において、議事進行方法に不満をもつて大会を退場した代議員らの選出母体であつて被告総同盟加盟組合であつたが、被告総同盟の解体を主張する大会非退場派に反対して被告総同盟の維持存続を主張し、その刷新強化を図ろうとして右の組織をつくり、これに加盟しているものであることが認められ、被告総同盟より除名或は脱退等によつて被告総同盟の構成員でなくなつたことを認め得べき資料はないから、現在においても被告総同盟の構成員であると言わなければならない。被告は原告らが再建総同盟なる被告とは異る団体に属していることを理由として被告総同盟の構成員であることを否定するのであるが労働組合の構成員の或るものが構成員たる地位を保持しながらひとつの組織をつくり或いはその構成員となることは特別の事情のない限り自由であつて、原告らが再建総同盟なる団体を造つているからというだけで、被告総同盟の構成員であることを否定することはできない。

(二)  原告日本労働組合総同盟全国金属産業労働組合同盟と原告日本労働組合総同盟全国造船労働組合連合会のいずれかは被告総同盟の構成員ではないとの主張について。

被告総同盟にはもと造船、金属、鉄鋼等の部門を吸収して構成団体となつていた日本労働組合総同盟全国金属産業労働組合同盟と称する産別組織体(全金産業同盟と仮称する)があつたが、昭和二十四年十月六日石川県山中において開催されたいわゆる山中大会で、これらのうち造船、鉄鋼の二部門が分離独立することになつたことは、成立に争いない乙第八号証並びに弁論の全趣旨によつて認められるのであるが、さらに証人古賀専、同天池清次の証言と成立に争いない乙第一号証に徴すると、分離独立した右二部門のうち造船部門は原告日本労働組合総同盟全国造船労働組合連合会となつて被告総同盟に直結加盟し、金属部門等はもとの全金産業同盟を維持する予定であつたが、二派に分裂し、そのうちの一派は分離独立して新に全国金属労働組合を結成したけれども、埼玉、大阪、神奈川等の地方金属は残留してこれを維持し原告日本労働組合総同盟全国金属産業労働組合同盟として残り、その後被告総同盟第五回大会にも天池清次らがこの代議員として出席していることを認めることができ、右全金産業同盟が山中大会において解散し消滅したとの被告主張事実については乙第八号証は証拠とするに足らず、証人柳本美雄の証言部分は措信し難く、他に全金産業同盟が被告総同盟の構成員たる地位を喪失したことを認めるに足る証拠はない。されば原告ら二組合はいずれも被告総同盟の構成員であるというべく、この点の被告の主張も理由がない。

(三)  原告らはすべて本件訴について権利保護の利益を欠くとの主張について。

被告総同盟は、仮に原告らが未だ被告総同盟の構成員であるとするも、被告総同盟は非解散派たる原告らと、解散派たる他の者とは事実上分裂し、同一組合たるの実体を失い、よし解散の決議が無効であつたとしても、法定清算に入るよりほかない事情にあつたのであるから、決議の無効確認を求める法律上の利益がないと主張する。しかし原告らはあくまでも組合を存続させるため団結して解散に反対のため闘争して今日に至つているのであるから、他の者が解散に賛成して別箇の行動をとつているとしても、それだけでは、解散の無効確認を求める利益がないといえないことはいうまでもなく、また組合が事実上二派に分裂したとしても、解散決議をしない限り法人としての労働組合は依然として存続するものであつて、当然清算手続に入るものではないから、この点についての被告の主張も理由がない。

(四)  したがつて、原告らは第六回大会の解散決議無効確認および解散登記、清算人就任登記の抹消を求める法律上の利益ありというべく、また第五回大会の解散方針の決議も、中央執行委員会に対して解散するための一切の措置を委ねるものであつて、中央執行委員会を拘束するものであり、かつ第六回大会の決議の前提ともなるものであるから、第六回大会の決議と併せてその無効確認を求める法律上の利益があるものといわなければならない。

第二、本案

一、第五回大会の決議の効力について、

被告総同盟の規約によれば、被告総同盟の全国大会は代議員の三分の二以上の出席をもつて成立するものと定めていることは当事者間に争いないが、成立に争いない甲第四号証によれば、被告総同盟は規約第五十八条によつて中央委員会の議を経て大会議事規程を定めることができ、これによつて定められた大会議事規程第三章大会の成立の表題下に設けられた第七条、第九条、第十条の諸規程に徴すると、被告総同盟は予め、中央執行委員会で選任された全国大会司会者が所定の時間に達し、かつ割当代議員総数の三分の二にほぼ達したと認めたときは、ただちに開会を宣し、次いで、中央執行委員会の任命する資格審査委員会委員の氏名を発表し、資格審査委員会を設ける。資格審査委員会は出席代議員が規約に定めてある正当な資格があるか、出席者が規約に定める大会の定足数を満たしているかなどを審査した上、速かにその結果を大会に報告する。次いで、司会者は資格審査委員会の報告によつて大会成立の条件が達せられたことを報告し、議長の選出を行い、議長が大会の成立を宣言するものと定められている。ところが大会議事規程は、第七章議事として詳細な議事規程を置いていながら議決についての定足数の定めがなされていない。してみれば被告総同盟の規約上は資格審査委員会が定足数に達したことを確認し大会に報告したときをもつて大会は成立し、形式上議長がこれを宣言するものであり、大会の議事のそれぞれについては三分の二の代議員の出席がなくとも議決をなし得るものであると解するのが相当である。殊に大会議事規程は、第六章分科会第二十五条により、大会には特別委員会が設置されるのであつて、議決の際にもなおかつ三分の二の代議員の出席を要するものとすれば特別委員会開催の故をもつて本会議において議決をなし得ないような事態が極めて容易に起り得ることとなる。しかも成立に争いない乙第一号証、第八号証と証人大石重一同柳本美雄同正門真佐行同松尾喬同市川誠同平林剛の各証言に徴すると、被告総同盟の大会運営の実際においても従来慣行上右のとおり行われており、他の労働組合において行われている実例にも合うことが認められる。尤も被告総同盟の運営の実際について見ると、成立に争いない乙第一号証第三号証によれば、資格審査委員会は議長の大会成立宣言の後も議場にある出席代議員数を報告していることを認め得るが、証人大石重一の証言によると、これは規程第十条に定められた報告義務に基くものではなく、慣行上議事の円滑な運営に資するためになされているに過ぎないことが認められるので、このことは右の判断の妨げとなるものではない。ところで、原告らは右のように規約を解釈するときは、規約第十九条第一項後段により議事に出席した代議員が僅か一名でも議決をなし得るという奇妙な結果が起り得ると主張するけれども、規約第十九条前段によれば大会成立の際の過半数をもつて議決をなし得ると解すべきであるから原告主張のような事態は起り得ない。本件第五回大会は昭和二十五年十一月三十日から十二月三日までにわたつて神奈川県川崎市公民館において開催され、右決議は右大会第四日目になされたものであることは当事者間に争いなく、前記乙第一号証によると右大会第三日目において三百五十六名の割当代議員のうちその三分の二を超える三百三十五名が出席し大会は成立し、その続行である第四日目において第二号議案総同盟の発展解消に関する件につき百九十六名が第七号議案前役員信任に関する件につき百七十八名がいずれも賛成可決したものであつて、右は出席代議員数三百三十五名の過半数であつたから、右の各決議は適法であるといわなければならない。

二、第六回大会決議の効力について、

(一)  代議員割当が中央委員会の定める選出比率によらずしてなされたとの無効原因について。

被告総同盟の規約第十一条によれば、大会は役員及び代議員によつて構成され、その第十六条第一項によれば、右代議員は組合費を完納した組合員数に比例して割り当て、同条第二項によれば、代議員の選出比率は中央委員会できめることになつているが、昭和二十六年三月二十八日開かれた第六回大会に出席すべき代議員の選出比率は、中央委員会ではなくして中央執行委員会の定めた比率に従つたことは、当事者間に争がない。してみれば、第六回大会は被告総同盟の規約第十六条第二項に反してきめられた選出比率によつて選出された代議員によつて構成されたことになる。しかしながら右大会において中央委員会の議を経ずして代議員が割当られた事情を検討して見ると次の通りである。即ち被告総同盟の規約によれば、中央委員は定時大会より次期大会までを任期とし、次期大会成立とともにその任期を終り、各産別連合会で新に中央委員を選出し、大会終了後一ケ月以内に本部に報告することとなつているのであるが、証人平林剛、同柳本美雄の各証言によつて成立の認められる乙第五号証の一乃至八第六号証の二三と右各証言並びに証人松尾喬同市川誠同椿繁夫同大石重一の証言を総合すると、被告総同盟中央執行委員会は、第五回大会において昭和二十六年三月頃開かれる総評第二回大会を目標として、被告総同盟の発展的解消の時期を速かならしめるため一切の経過措置を一任されておつたので、昭和二十五年十二月八日第一回中央執行委員会を開き、中央委員の選出について協議を行い、昭和二十五年八月分までの会費納入者に選出資格を与えることとし、規約に従つて昭和二十六年一月二日までに選出完了の上本部に報告するよう各選出母体に通達した。ところが所定の期日までに中央委員の選出報告がなく、中央委員会の定足数三分の二に達する見込みがなかつた。しかし次期大会は第五回大会の決議により昭和二十六年三月頃開かれる総評第二回大会に間に合わせなければならないので、中央執行委員会は二月十七日第四回中央執行委員会を開いて、第六回大会を三月開催し代議員選出の資格を取得する基準となる会費納入時期を昭和二十六年一月分までとし、納入期限は三月五日予定と定め、同年二月十九日第六回大会を三月二十八日午前十時東京において開催する旨の通知を各構成員に発した。ところが新中央委員会を構成すべき中央委員の選出報告は依然としてはかばかしくなく、僅かに愛媛、秋田等の若干の府県連合会及び産別中の木産のみが報告し、割当総数三百十五名のうち十数名が報告されたのみで、その他はその内部事情の動向が複雑なため、或は解散の方針に反対であるため、或は特に中央委員会を開催する要なしとの見解により、中央委員の選出報告のなされないまま第六回大会招集日は目前に迫つてしまつた。このようにして中央委員会は定足数を欠くこと明白であつて開き得ないのであるが、中央執行委員会としては、中央委員会を開き得ないの故をもつて大会を招集しないことはその職責上許されないと考え、やむなく、第五回中央執行委員会において、第六回大会の代議員の割当比率を前大会の場合と同じく千五百名に一名の割合と定め、三月九日被告総同盟会長代理重盛寿治名をもつて、構成員たる各産別組合及び連合会に対し割当招集したことが認められる。このように中央執行委員会は、しばしば中央委員の選出を組合の各構成員に催告し、次期大会期日が切迫しているに拘らず、各構成員は中央委員を選出せず、中央委員会の定足数を欠き次期大会までに中央委員会開催の見込が全くない場合に、中央執行委員会によつて前年度の例によつて代議員選出比率を定めて割当てたことはまことにやむを得ない措置といわねばならない。しかも中央執行委員会は前大会において、昭和二十六年三月開かれる予定の全国大会を目標として、被告総同盟の発展的解消の時期を速やかならしめるための一切の経過措置を一任されていたのであるから、このような場合にこのような臨機な措置をとつたとしても、これを違法であると解することはできない。したがつて、中央委員会によつて、定められなかつた選出比率によつて選出された代議員によつて、第六回大会が開かれたとしても、その決議を無効ならしめるものではない。

(二)  労働組合法第十条第二号に違反するとの無効原因について。

原告らの主張するように労働組合法第十条第二号によれば、解散の決議は組合員又は構成団体の四分の三以上の多数による総会の決議によることになつているが同条第一号によれば、労働組合は「規約で定めた解散事由の発生」によつて解散すると定めている。これによつてみれば、同条第二号は、規約で解散決議の人数につき定のない場合の補充規定と解さなければならない。ところで成立に争いない前記甲第四号証の被告総同盟の規約第十三条によると、被告総同盟は解散は全国大会の付議事項とされまたその第十九条によると議事の決定は綱領規約の改正以外は出席代議員の過半数によるとされて居るから、解散はこの規約により全国大会の出席代議員の過半数の議決によつてなし得るものと解すべく、四分の三以上の多数による総会の決議を要するとの原告らの主張は失当である。

(三)  直接無記名投票によらなかつたとの無効原因について。

被告総同盟の規約第二十条によれば解散決議は直接無記名投票によつて採決すべきこととされておるに拘らず、本件決議がこれに反して議長が異議の有無を議場に問う方法により満場一致可決されたものとしたことは当事者間に争いない事実である。直接無記名投票は投票者の附和雷同を排しその真意を表明することの妨げとならないためにとられる採決方法であつて、同盟罷業権の行使などが、これによらねばならないことはもちろんのことである。しかしながらこのような直接無記名投票による弊害のないことが一見極めて明白である場合には、直接無記名投票によらないものを無効と解しなければならないことはない。証人正門真佐行、同松尾喬、同市川誠の各証言と弁論の全趣旨によれば、本件決議はすでに第五回大会において被告総同盟を解体する方針を可決し、これに不服な大会退場派は新に再建総同盟刷新強化運動を起して組合費を本部に納入せず、第六回大会に参加する資格もなく、また第六回大会は解散決議をすることを目途として招集せられ、これに代議員を参加させた各構成団体は、すべて解散に賛成したものであつて、代議員もまたその趣旨で参加したことは極めて明白である。かような状況のもとに開かれた第六回大会の解散の議事に直接無記名投票という採決方法をとらなかつたとしても、投票者の真意が表決に反映しないということはあり得なかつたわけである。したがつて、かかる採決方法を省略し議長が異議の有無を議場に問う方法を採用したからといつて、決議の効力を無効ならしめなければならない理由に乏しい。してみれば、原告らの主張する無効原因はすべて採用することができない。

第三、結論

以上の通り被告総同盟のなした第五回、第六回大会の各決議を無効であるとする原告らの本訴請求はすべて理由がなく、決議の無効を前提とする解散登記の抹消及び清算人登記の抹消を求める原告らの請求も理由がないからこれを棄却すべきものとする。よつて訴訟費用について敗訴の当事者たる原告らの連帯負担とし主文の通り判決する。

(裁判官 千種達夫 綿引末男 高橋正憲)

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