東京地方裁判所 昭和26年(行)39号 判決
原告 高津栄吉
被告 東京都知事
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告が昭和二十五年十二月十一日付を以て原告に対し東京都大田区入新井六丁目十五番地の六宅地六十八坪七合一勺についてなした換地予定地指定処分及び訴外松浦福太郎に対し同所同番地の四乙の土地についてなした換地予定指定処分を取消す訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求めると申立て、請求の原因として、
「東京都大田区入新井六丁目十五番地の一、三、六の各土地はいづれも原告の所有であり、同所同番地の四の土地は訴外松浦福太郎の所有であるところ、これらの土地は東京都特別都市計画による区画整理の対象となり被告は昭和二十五年九月二日付を以てこれらの土地につき換地予定地を指定してこれを原告に通知し、原告はその頃その通知書を受領した。ところがその後被告は同年十二月十一日付を以て十五番地の六・十五番地の四乙(十五番地の四の一部を十五番地の四乙として飛換地予定地としたもの)の土地についての前記換地予定地指定を変更し、右両土地について別紙添附図面記載の通りに換地予定地を指定して原告に通知し、原告は同年十二月十九日その通知書を受領した。
元来特別都市計画法に基いてなされる区画整理については耕地整理法の規定が準用されるのであるから、その換地予定地指定の基準は耕地整理法第三十条第一項の規定よりして、従前の土地の地目、地積、等位等を勘案して、等しい価値を有する土地に換地予定地を指定しなければならないのであるが、商業地域においては、土地の価値は交通量等により著しい差等を生ずるものであるから、右の基準から言つて原則として原地に換地予定地を指定すべきものである。ところで前示区画整理の対象となつた原告所有の十五番地の一は北方は国鉄大森駅より京浜国道に通ずる往来の頻繁な商店街の中心地区である八幡通りに面し原告所有の十五番地の六は十五番地の一の東方に十五番地の五(訴外田代三之助の所有地)を隔てて、右十五番地の五の東に隣接し、同じく八幡通りに面して並び存するものであり、松浦所有の十五番地の四は十五番地の一、並に十五番地の五の南側に接続し通称みづほ通りと称する、八幡通りから入つた横丁の通路に接してはいるが、この通路は交通量も少なく、店舗も極めて疎らに存する程度のものであつて八幡通りに面する土地に比して十分の一程度の価値しかなく等位において著しく劣るものであるに拘らず被告は右の原地換地の原則を破り敢て十五番地の四乙(十五番地の四の一部)の土地について別紙添附図面の通りに八幡通りに面する土地に換地予定地を指定した。然も十五番地の四乙の土地と等位の等しい土地は、同土地の属する第七街廓内においても容易に見出せた(例へば十五番地の一の土地の南)のであり、右の如き差等の著しい飛換地をしなければならない理由は全くなかつたのである。斯の如き飛換地が行はれたため、原告所有の十五番地の六の土地についての換地予定地は従前の土地に比し、間口五間八七より四間三六に減少し、地積において六十八坪七合一勺から四十八坪九合一勺に減歩を強いられることになり、十五番地の六の土地は前記の如く繁華な八幡通りに面するものであり、価値の大きな商業地であるのに、この土地について近隣に比し遙かに多く間口、地積を減少せしめられて居るのである。
かかる松浦に対する不当に有利な換地予定地がなされた結果、原告にとつて平均よりも著しく不利益な換地予定地の指定がなされたことは、公平の原則に反し、原告の権利を侵害するものであつて違法であるから、別紙添附図面記載の通りの換地予定地指定処分の取消を求めるものである。」
と述べ、
本案前の被告の答弁に対し、
「都市計画法第二十五条第二項、第二十六条は都市計画についてなされる行政処分に対しては一応訴願と訴訟との選択を認め、特に訴訟を提起し得る場合には、訴願を提起し得ない旨を定めて居る。ところで前述の如く被告が昭和二十五年十二月十一日附を以てなした換地予定地指定処分は違法であり且原告の権利を侵害して居るのであるから、その処分については訴願を提起し得ないものであつて本訴は訴願の裁決を経由しなければならないものではない。
仮に訴願の裁決を経由すべきものであるとしても、原告は右昭和二十五年九月二日附を以てなされた十五番地の六、十五番地の四の土地についての換地予定地指定処分に対しては同年九月下旬頃訴願書を被告に提出して訴願をなしたのであるが、昭和二十五年十二月十一日附を以てなされた変更処分は、実質的に見て右九月二日附を以てなされた換地予定地指定処分の些少の部分の変更にすぎないのであるし、原告のなした右訴願の理由は十二月十一日附の右変更処分における換地予定地の指定にも妥当するものであるから、原告がなした右訴願は当然右変更処分にも及ぶものである。然も原告のなした右訴願に対しては原告の訴願提起の日より三ケ月を経過するもなほ裁決がなされて居ないのであるから、本訴は適法なものである。
仮に右十二月十一日附の変更処分について訴願を経由して居るとは認められないとしても、右に述べた事情からして原告は右変更処分については別に訴願をなす必要はないものと信じて居た為、その訴願期間を徒過してしまつたものであり、期間の徒過については宥恕すべき理由があつたものである。然も現在改めて右変更処分について訴願を提起し、その裁決を俟つにおいては区画整理は進行し、為に重大なる損害を蒙ることになるので直接本訴に及んだものであつて本訴は適法である。」と述べ、
本案についての被告の答弁に対し
「換地予定地指定処分の適否について、地目、地積、等位の比較を考えるには、従前の土地とその土地に対する換地予定地との関係を個別的に考うべきものであつて右処分を受けた同一人の所有地が他にあつても、その他の所有地の換地関係と綜合して考量することは許されない。地区内の平均減歩率が二割七分であり、八幡通り繁華街の間口が一割三分二厘減少したとの事実は原告において不知であるが、第七街廓において八幡通りに面する土地に換地予定地の指定を受けた者について八幡通りに面する間口、地積の従前の土地に比しての減少の率は被告主張の別表の通りであつて、田代、豊田の減少の率に比し、十五番地の六の土地についての換地予定地は間口、地積共遙かに多く減少せしめられて居るのであつて、かかる処分は公正を欠き、著しく不公平なものであることは明らかである。被告は松浦が借地権を金銭清算されたことをあげて云々して居る。松浦が被告主張の通りの借地権を有して居たがそれが金銭清算せられたことは事実である。然し乍らそれは松浦が相当の補償の下にその借地権を消滅せしめられたことを意味するので、これをもつて松浦に不利益な取扱と言うことはできない。仮に実質上不利益なものと仮定するも、その不利益はもとその借地権の負担を負つて居た豊田の土地の負担において救済されるのならば格別原告所有の十五番地の六の土地の負担とすべき理由は全くないのである。
又被告は十五番地の一、六の土地が原地に換地予定地を指定されたことを以て原告に有利であるとして居るが、原地に換地予定地を指定することは原則上当然のことに属し、これを以て特に原告に有利なものと言える事柄ではない。十五番地の三の土地が被告主張の位置に存し、その地積六坪三合であり、他の原告所有地とは飛離れて居たことは認めるが、被告主張の様に利用価価のないものではなく又十五番地の一、三の土地が合併して換地予定地を指定されたことになつては居るが、その換地予定地は十五番地の一の土地に比して間口、地積共減少して居るのであつて、十五番地の三の土地は実質上剥奪せられたに等しいのである。更に十五番地の一、三、の土地についての換番予定地が角地になつたことは事実であるが、商業地として価値の大きな理由はその土地が繁華な八幡通りに面するという点にあるのであつて、なほみづほ通りにも面する様になつたからと言つて格別利用価値が増大することもないのである。斯の如く原告が十五番地の一、三の土地についての換地予定地において格別有利な取扱を受けて居るものではないから十五番地の六の土地についての換地予定地の指定と綜合考量しても原告のみにとつて著しく不利益な不公平な処分であることにはかはりがないのである。」と述べた(証拠省略)。
被告指定代理人は訴却下の判決を求め
「十五番地の一、三、六の土地が原告の所有であり、十五番地の四の土地が松浦の所有であること、これらの土地が東京都特別都市計画による区画整理の対象となり被告が昭和二十五年九月二日附を以て右各土地につき、それぞれ換地予定地を指定して原告に通知したこと被告が昭和二十五年十二月十一日附を以て原告主張の十五番地の六、同番地の四乙の土地についての右換地予定地の指定を変更し、別紙添附図面の通りに換地予定地を指定して原告に通知し、その通知書が同年十二月十九日原告に到達したことは認める。
特別都市計画法に基いてなされた本件換地予定地指定処分の取消を訴求するには都市計画法第二十五条に基く訴願の裁決を経由しなければならないものであるところ、原告は右九月二日附を以て原告及び松浦に対してなされた換地予定地指定処分について既にその訴願期間を経過してしまつた後である昭和二十六年五月三十一日に訴願書を提出しただけであり、右十二月十一日附を以てなされた本件変更処分については訴願をして居ないのであるから、本件訴は不適法なものとして却下を免れない。」と述べ、
本案につき請求棄却の判決を求め、
「原告主張事実中すでに答弁した外、十五番地の一、六、十五番地の四の位置、八幡通りみずほ通りの状況が原告主張通りであることみづほ通りに面する十五番地の四の土地が第七街廓中八幡通りに面する土地に比し数等等位の劣るものであること、第七街廓において十五番地の四の土地と等位の等しい土地を発見することは必ずしも困難ではなかつたが、十五番地の四乙の土地につき飛換地したものであること、十五番地の六の地積が六十八坪七合一勺であつたのを、その換地予定地は四十八坪九合一勺が指定されたことは認めるが、その余の事実は争う。
十五番地の土地を含む一帯の土地は東京都第二復興区画整理事務所の所管に属する地区であるが、同地区は公共用地設計の結果宅地総地積に対する減歩率は二割七分であり、その減歩に伴ひ従来の宅地の間口も当然に減少するわけであるが、その減歩並に間口の減少は同地区内の全土地所有者によつて共同で負担されねばならぬものである。八幡通りの繁華街は、原告所有地の側では六丁目一番地より十七番地に至る間口百十八間の部分であるが、区画整理の結果その間口は百二間四分になることになり一割三分二厘の減少を見ることになつたものであるところ、十五番地の土地に属する第七街廓は公共用地の影響を始んど受けなかつたので、八幡通りに面する間口も殆んど減少しなかつたので、従来第七街廓中八幡通りに面する土地を有する者に対してのみ八幡通りに面する土地に換地予定地を指定するとせば、その換地予定地は従前の土地に比し八幡通りに面する間口が殆んど減少しないことになる結果、他の街廓に対する関係で著しく均衡を失することになるのである。そこで従前八幡通りに面する土地を所有して居なかつた者に対して比較的狭小な間口で八幡通りに面する土地に換地予定地を指定する必要があつたのであるが、松浦はもと八幡通りに面する訴外豊田の所有地八坪について借地権を有して居たところそれが金銭清算せられ(同地区においては十坪以下が過小借地とされて居り、松浦の借地について増換地するとすれば減歩率を更に高め、他の権利者の負担を重くすることになるので金銭清算したのである)、実質的に不利益な取扱を受けて居たので、みづほ通りに面する十五番地の四の土地が八幡通りに面する土地より数等等位の劣るものであり、且他に十五番地の四の土地と等位の土地を発見することが必ずしも困難ではなかつたが、十五番地の四の一部を分離して同番地乙として本件の換地予定地を指定したのである。
第七街廓中八幡通りに面する土地に換地予定地の指定を受けた者について、従前の土地に対する換地予定地の八幡通りに面する間口の減少、地積の減歩を綜合して表示すれば別表記載の通りであり、原告の間口の減少率は訴外田代、豊田に比すれば六分乃至七分の差があるが、前述の平均減少率に比すれば僅かに一分三厘多いにすぎず、減歩率は前述の全地区の平均減歩率よりは有利になつて居るのである。然も他方原告は十五番地の一、六の土地については原地に換地予定地を指定されて居り、十五番地の三の土地は十五番地の四の西南部に接続して存するものであり、地積僅かに六坪三合にすぎず他の原告所有地とは飛離れて居て利用価値が少なかつたが、十五番地の一の土地と合併して換地予定地を指定されたので利用価値が増して居り、又十五番地の一、三の土地についての換地予定地は角地となり、著しく商業地としての利用価値が増大して居ること等からして原告に利益の点もあるのであつて、仮に十五番地の六の土地についての換地予定地の指定において多少不利益を受けて居るとしても十五番地の一、三、六の全土地について綜合して見るならば、原告は換地予定地の指定を受けた他の人々の負担した不利益を一人当りに平均したものに比してより不利益を受けたことはないのである。
仮に原告に対する換地予定地の指定が近隣の者等に比して多少より不利益なものであるとしても、その不均衡は区画整理事業における換地と言うことの技術的困難さから生じた已むを得ないものであつて、耕地整理法第三十条第一項但書の清算金によつて充分償はれ得るものであり、著しく公平に反し、原告に不利益を課するというものではない。
以上の通りであつて、昭和二十五年十二月十一日附を以てなされた別紙添附図面通りの換地予定地指定処分には原告主張の様な違法はない。」と述べた(証拠省略)。
三、理 由
東京都大田区入新井六丁目十五番の一、三、六の各土地が原告の所有であり、同所同番の四の土地が訴外松浦福太郎の所有であるが、右各土地が東京都特別都市計画による区画整理の対象となり、被告が昭和二十五年九月二日附でそれぞれ右土地について換地予定地を指定して原告に通知したが、その後同年十二月十一日附を以て右十五番の六、同番の四乙の土地についての換地予定地指定を変更し、それぞれ別紙添附図面記載の通りに換地予定地を指定して原告に通知し、原告は同年十二月十九日その通知書を受領したことは当事者間に争がない。
被告は右換地予定地指定変更処分における新しい右換地予定地の指定は特別都市計画法第十三条、第十四条に基いて都知事のなした処分であるから該処分の取消を訴求するには同法第二十六条によつて準用される都市計画法第二十五条第一項による訴願の裁決を経なければならないと主張する。都市計画法第二十五条、第二十六条によれば特別都市計画法に基く処分について不服のある者は訴願をすることができるが、その中該処分が違法であり権利を毀損したりとする時は行政裁判所に出訴することができ、且この場合は主務大臣に訴願することができないことになつて居る。ところが現行憲法の施行に伴ひ、行政裁判所は廃止されたのであるが同法第二十五条第二項、第二十六条の規定が削除されない以上、行政裁判所に対する出訴と言うことは意味のないことであるが、少くとも第二十五条第二項における訴願事項についての制限としては有効に存続するものと言はなくてはならない。従つて特別都市計画法に基き都知事のなした処分が違法であり、且権利侵害を伴うものであるとする場合には、当該処分につき訴願事項に該当しないわけである。そこで本訴における原告の主張を見るに、原告の主張は都知事である被告が昭和二十五年十二月十一日付でなした換地予定地指定変更処分における別紙添附図面の通りの換地予定地の指定が耕地整理法第三十条第一項に違反する違法のものであり且原告の権利を侵害して居ると言うにあるから、前説示の処からして本訴について訴願を経由する必要はないものと言はなくてはならない。然も本件訴が原告において右変更処分通知を受領した昭和二十五年十二月十九日より六ケ月を経過せざる昭和二十六年六月十一日に提起されたものであることは当裁判所に明白なところであるから本件訴は適法であつて、この点の被告の主張は採用することができない。
そこで本案について考える。
特別都市計画法に基く区画整理については、耕地整理法が準用されるのであるから、区画整理について換地予定地の指定をなすに際つては耕地整理法第三十条の規定に従はねばならないわけである。従つて換地予定地は同条第一項本文により従前の土地の地目、地積、等位等を標準として指定されなければならない。ところが同条第一項但書は、地目、地積、等位等を以て相殺を為し得ない部分については金銭を以て清算すべき旨を定めて居るので、右規定を綜合して考えれば、換地予定地は地目、地積、等位等を綜合して従前の土地と等価値の土地に指定することを要請されるのであるが換地と言うことの技術的困難さからして右要請は現実には満たされず、或程度の不均衡の生ずることあるを予想し、かかる或程度の不均衡は已むを得ざるものとして認容し、その不均衡については金銭を以て清算せしめむとするにあるものと認められる。して見れば換地予定地が従前の土地に比較して差等があるとの理由で当該換地予定地の指定処分が違法となるのは、整理施行者が、区画整理施行についての合理的な理由もないのに特定の者に対して故意に不利益な処分をなした場合か、当該処分が特定の者にとつてのみ著しく不利益なものである場合でなければならない。よつて次に被告が昭和二十五年十二月十一日付を以て原告に対し右十五番の六の土地についてなした別紙添附図面の通りの換地予定地指定処分が右の何れかの場合に該当するや否やについて検討する。
証人西村寿郎の証言によれば右十五番の四、六の各土地が属する東京都第二復興区画整理事務所の所管地区は道路、広場等の公共施設の設計により宅地の総地積が従前に比して二割七分の減歩を見、又八幡通りに面する繁華街の間口は従前の百十八間に対し約十六間減少することになつたが、その中右十五番の四、六の各土地の属する第七街廓は直接公共施設の設計による影響を殆んど受けなかつた事実が認められる。従つて原告主張の如く第七街廓の土地所有者に対して原地に換地予定地が指定されるとするならば、第七街廓においては換地予定地が従前の土地に比し、地積も間口も殆んど減少しないことになり右平均減歩率並に八幡通り繁華街間口の減少から見て、他の街廓における換地予定地よりも著しく有利となり、均衡を失するに至ることが推測される。証人阿部喜之亟の証言によれば右の様な場合には特定の街廓と他の街廓の不均衡を是正する為に、当該街廓における換地予定地の指定には必要がない場合でも、換地調節地と称する換地上の空地を設け、ここに適当なものに換地予定地を指定する例が多々ある事実が認められ、証人西村寿郎の証言によれば、右十五番の四乙の土地についてなされた別紙添附図面の通りの換地予定地は、八幡通りに面する間口の減少について各街廓の均衡を図る為に採られた処置であることが認められ、右各認定を覆えすに足る証拠はない。右十五番の四の土地がみずほ通りに面するもので八幡通りに面する土地に比し数等等位の劣る土地であり、又第七街廓中において十五番の四の土地と等位の土地を換地予定地として選定することが別に困難でなかつたことは当事者間に争がなく、更に十五番の四乙の土地について別紙添附図の通りの換地予定地が指定された結果、原告に対して指定された結果、原告に対して指定された換地予定地が従前の土地に比して八幡通りに面する間口が減少するに至つたことは一応推定できるのであるが、右十五番の四乙の土地についての換地予定地は前記認定の処からすれば東京都第二復興区画整理事務所所管地区における区画整理の地区全般の均衡を図るために採られた措置であり、被告が故意に原告に不利益を与えむとしてなしたものではないと言はなければならない。従つて右十五番の六の土地について別紙添附図面の通りの換地予定地指定が右十五番の四乙の土地についての換地予定地指定の結果であるとしても、これ又被告が故意に原告に不利益を与えむとしてなしたものと言うことはできない。
次に原告に対し十五番の六の土地について別紙添附図面記載の通りの換地予定地が指定せられたことが、著しく不利益な取扱に当るかどうかについて考える。原告は換地予定地の指定は従前の土地とその土地に対する換地予定地とが個別的に比較して均衡のとれる様になさねばならぬものであつて換地予定指定を受ける数個の土地が偶々同一の所有に係る場合で換地予定地を綜合して均衡を衡量することは許されないと主張する。耕地整理法第三十条は従前の土地の地目、地積、等位等を標準として換地しなければならないことを示して居るが、元来区整画理とは分散錯綜した各土地を統合整理せむとするものであり、その為にする換地は技術的に困難なものであることは同条の規定自体においても予想され、又社会常識よりも容易に推測されることであつて従前の土地とその土地に対する換地予定地とを個別的に比較して均衡のとれて居ることが最も望ましいことではあろうが、かかる個別的均衡を保ち難い場合には数個の土地についての換地予定地を綜合して従前の土地と比較してその均衡を衡量することも亦已むを得ないのであつて、耕地整理法第三十条の規定をかかる綜合的比較衡量を禁ずる趣旨と解すべきものはない。ところで原告が第七街廓に、右十五番の六の土地の外同番の一、三の土地を所有して居り、何れも第七街廓中に換地予定地を指定されたこと、その各換地予定地を綜合して従前の土地と比較すると、総地積並びに八幡通りに面する総間口の減歩、減少が別表の通りになること、第七街廓中八幡通りに面する土地に換地予定地を指定された訴外田代、豊田についてその従前の土地と換地予定地とを比較すると、地積並に八幡通りに面する間口の減歩、減少が別表の通りになつて居ることはいづれも当事者間に争がない。右争のない事実からすると、原告に対する換地予定地においては地積の減歩は田代より約一割、豊田より約二厘大となつて居り、八幡通りに面する間口の減少は田代、豊田に比し、いづれも約七分大となつて居るので、原告に対する右換地予定地の指定は田代、豊田と比しかりに不利益になつて居ることは事実である。然しながら前示認定の如く右各土地の属する東京都第二復興区画整理事務所の所管地区全体について見ると、総宅地積の減歩率が二割七分、八幡通り繁華街間口の減少率が約一割三分となつて居るのであり、更にこの減歩減少は同地区内の権利者全体によつて公平に負担さるべきであることは当然であるから、同地区における八幡通り繁華街に面する土地についての換地予定地の平均基準は従前の土地に比して、その間口において約一割三分、地積において二割七分減ということになるわけであり、原告に対する右換地予定地を右の如き基準に較べると間口において約一分原告に不利益になつて居るが、地積においては約九厘原告に有利になつて居る。十二番地の六の土地について指定された換地予定地は、従前の土地に比し、間口において一・五一間を減じたことが原告主張の通りであつたとしても、又地積において二十坪程度減少したことは被告の認めるところでもあるが、それでもなお八幡通りに面する間口は、四・三六間あり、地積は四十八坪九合一勺あるのであるから商業地としての利用価値がなくなるものとも考えられず、他面証人西村寿郎の証言によれば十五番の一、三、六の土地について原告に指定された換地予定地が角地となつたことにより商業地としては利用価値が大となつて居る事実が認められるので、十五番の一、三、六の各土地について原告に指定された換地予定地を綜合すれば、右の地区全体の平均基準に較べて多少不利益な点があるとしても、不均衡な僅かなものであると認められ、この認定を左右するに足る証拠はないから十五番の一、三、六の各土地について原告に指定された換地予定地を綜合して見た場合に、それが同地区全体の平均に較べて著しく均衡を失し、甚だしく不利益な取扱ではないことが明らかである。従つて被告が十五番の六の土地について原告に別紙添附図面の通りの換地予定地を指定したことが原告にとつて同地区全体の平均基準と較べて著しく均衡を失した不利益な処分であるとは言ひ得ない。
以上判示したところにより本件換地予定地指定処分には違法な点はないので、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 毛利野富治郎 桑原正憲 山田尚)
(別紙省略)