大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和27年(ワ)3477号 判決

原告 同栄信用金庫

被告 国東工業有限会社 外三名

一、主  文

被告国東工業有限会社は原告に対し、金四十九万二百七十六円五十銭とこれに対する昭和二十三年四月一日より完済に至る迄年六分の割合による金員とを支払わなければならない。

被告島貞三郎同梅沢芳男同梅沢一江に対する原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用中原告と被告国東工業有限会社との間に生じた分は同被告の負担とし原告と被告島貞三郎同梅沢芳男同梅沢一江との間に生じた分は原告の負担とする。

本判決の第一項は仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一項同旨と被告島貞三郎同梅沢芳男、同梅沢一江は連帯して原告に対し金二十五万円とこれに対する訴状送達の翌日より完済に至る迄年五分の割合による金員とを支払わなければならない、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、

「(一)、被告国東工業有限会社(以下被告会社と称する)は、昭和二十三年三月十五日訴外深川信用組合から手形貸付を受ける契約を結び、これにより被告会社の負担するべき債務の担保として別紙<省略>物件につき工場抵当法第二条により限度額二十五万円期限の定めなき根抵当権を設定し、同年四月二十一日東京区裁判所下谷出張所受付第三二九七号を以てその登記をした。

(二)、被告会社は右の契約に基き深川信用組合にあてて支払地振出地共に東京都江東区、支払場所東京都江東区深川信用組合として(イ)昭和二十二年三月三十一日額面十四万二百七十六円五十銭満期同年四月三十日、(ロ)同年四月二十六日額面五万円、満期同年五月二十五日(ハ)同年六月三十日額面十五万円満期同年八月六日(ニ)同年六月三十日、額面十五万円満期同年八月六日の約束手形計四通を振出し交付することにより、同組合から合計四十九万二百七十六円五十銭を借受けた。

(三)、原告は昭和二十三年三月三十一日右の深川信用組合から同組合の被告会社に対する前記の手形貸金債権をその手形裏書の方法により譲受けるとともに、これを担保する前記の抵当権をも譲受けた。そして被告会社は同年六月十一日右譲渡を承諾した。従つて、原告は被告会社に対して右四十九万二百七十六円五十銭の手形債権ならびにこれを担保する前記の抵当権を有することになつたわけである。

(四)、しかるに司法書士である被告梅沢芳男同梅沢一江は被告会社の代表取締役である被告島と共謀して右抵当権登記につき権利者に無断で抹消登記手続をしてしまつた。すなわち、被告島は被告梅沢芳男、一江に依頼し、同被告等の手もとにあつた深川信用組合組合長安藤信彦名義白紙委任状を悪用し深川信用組合と被告会社間に於て昭和二十四年三月三十日手形貸付契約を解約したとして、右抵当権抹消登記申請書を作成提出させ前記抵当権右抵当権登記を抹消してしまい、同時に訴外日本相互銀行に対する五十万円の債務につき抵当権を設定しその登記を経由したのである。右の事情で原告はその取得した抵当権の登記を抹消された結果、右抵当権者日本相互銀行に対し、その抵当権を以て対抗出来なくなつてしまつた。然も右抵当物件は価格五十万円にすぎないから右銀行の抵当権を以て担保される五十万円債権の弁済をすれば、余りなく、原告は本件抵当物件につき抵当権を実行してもこれにより弁済をうけられるべくもないわけであつて結局原告は右被告等三名の不法行為によつて金二十五万円の担保権を失い、同額の損失を受けるに至つた。

(五)、よつて原告は被告会社に対し前記手形貸付金金四十九万二百七十六円五十銭とこれに対する昭和二十三年四月一日以降完済に至る迄商法所定年六分の割合による遅延利息金を被告島、梅沢芳男同一江に対しては不法行為による損害賠償として原告の受けた前記損害金二十五万円とこれに対する訴状送達の翌日である昭和二十七年五月二十九日以降完済に至る迄民法所定年五分の割合による遅延利息金の支払を求めるため本訴請求に及んだ」と陳述し被告の抗弁を否認した。<立証省略>

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め

被告会社並びに被告島の答弁として

「被告会社と深川信用組合間に原告主張とおりの根抵当権が設定され、抵当権登記を経由したこと、被告会社が原告主張(二)の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の手形四通を振出したことは認めるが、これは深川信用組合の理事岡田との話合で、原告に深川信用組合が債権債務を引継ぐについてその体裁を良くするために差入れたものであつて、その振出日、支払期日は原告が適時書入れたものであり、従つて、右手形に対応する借入をしたことはない。又原告主張の日時に抵当権登記が抹消され日本相互銀行に対する原告主張の抵当権登記がされたことは認めるが右の抹消登記は抹消登記申請書及びこれに必要な委任状を深川信用組合長安藤信彦に呈示し、同人の捺印を得て司法書士梅沢芳男に手続を依頼したものであり、抵当権者たる深川信用金庫の同意により抹消したものであるから、なんら違法なところはない。原告が深川信用組合からその主張のように債権抵当権を譲受けたかどうかは知らない。被告会社がこれを承諾したことはない。また原告主張の抵当物件が五十万円をこえないとの点は否認する」と述べ

被告梅沢芳男、同一江の答弁として

「原告主張の抵当権登記があり、司法書士である被告芳男が被告島のたのみをうけてその抹消登記申請手続をしたことは認めるがこれは正規の手続に従つてしたもので、その間違法の点はない。被告一江は右抹消登記について依頼をうけたことはない。また原告主張の日本相互銀行に対する抵当権登記のなされたことは認めるが、右抵当物件が五十万円の価額しかないということは否認する。その他の原告主張事実は不知」と述べた。<立証省略>

三、理  由

まず、原告の被告会社に対する請求について。

被告会社と訴外深川信用組合間に原告主張通りの手形貸付契約が締結されたこと、原告主張の日時に被告会社が深川信用組合に対し原告主張の手形四通(合計金額四十九万二百七十六円五十銭)を振出した事実は当事者間に争がなく、この事実と証人安藤信彦の証言とを総合すれば、被告会社は深川信用組合に右四通の手形を差入れることにより同組合からこれと同額の金員を各手形支払日と定めて借入れたものであることが認められる。すなわち深川信用組合は被告会社に対し、おそくとも昭和二十二年八月六日を支払日とする合計四十九万二百七十六円五十銭の貸付金債権を持つていたこととなる。

次に被告会社においてその成立を認める甲第一ないし四号証と証人山崎保一、同遠山良吉、同安藤信彦、同古屋滋の証言とによれば深川信用組合は当時営業不振のため資産整理の上解散することになつたが、その整理の一部として原告に同信用組合の預金債務と、これに引あう不動産、債権などを譲渡することになり、その譲渡債権の一部として前記手形貸付債権をも昭和二十三年四、五月ころ原告に譲渡したことが認められ、さらに成立に争のない甲第九号証と証人遠山良吉の証言とによれば、原告はおそくとも昭和二十三年六月十日ごろまでに、右譲受けた手形貸付金債権の支払を被告会社に求めたところ、被告会社代表者島はその支払猶予を求め原告がその債権者となつたことについてはこれを認めていたことが認められるのであつて、右債権譲渡についてはその債務者である被告会社においてこれを承諾したといえる。そうすれば原告が右貸付金四十九万二百七十六円五十銭とこれにつきその支払日より後の昭和二十三年四月一日から支払ずみまで商法所定年六分の率による遅延利息金との支払を被告会社に求める原告の請求は正当であるからこれを認容する。

次に被告島、同梅沢両名に対する原告の請求について。

原告は前記手形貸付金債権を担保するために、被告会社において深川信用組合のために設定した抵当権の登記を被告島、梅沢等が権利者に無断で、抵当権消滅したとしてその抹消登記をした結果これを譲受けた原告は抵当権の対抗力を失い損害をうけたと主張するのであるが、そのように、権利者の知らぬ間に、第三者が、虚偽の事実、偽造の登記申請書によつて抹消登記をした場合、その抹消登記は事実に反するものでなんら効力なく、従つて、抵当権登記は抹消された効果を生じないのであり、原告はその抵当権を以てその登記が抹消されていない場合とひとしく第三者に対抗主張できるのである。すなわち、原告主張のような事情で抵当権登記が抹消されたからといつて原告はその抵当権ないしその対抗力を失うものでなく、ましてその債権はなんらの影響をうけるものではない。つまり、原告主張の事由からは原告主張の損害は発生しないのであるから被告島、梅沢らに対する原告の本訴請求はその主張自体からいつて理由がないこととなり失当であるからこれを棄却する。

以上述べたとおり原告の被告会社に対する請求は理由があるからこれを認容するが、その他の被告等に対する請求は失当として棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西川正世)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!