東京地方裁判所 昭和27年(ワ)4224号 判決
原告 狩野源太郎 外一名
被告 高津義松 外一名
一、主 文
一、被告高津はその所有に係る東京都新宿区角筈一丁目七番の七宅地二十七坪に対し昭和二十六年四月二十五日受付第三七一五号同月二十四日仮登記仮処分命令により東京地方裁判所の嘱託により原告狩野源太郎のため昭和二十一年五月一日付賃貸借契約による賃借権の範囲西北隅の二十二坪五合(間口二間半、奥行九間)存続期間の定めない借賃一月金五十六円二十五銭借賃支払時期毎月末日払の賃借権設定の仮登記の更正登記をなすにつき、
二、被告高津同荻野東一は右高津は前記宅地に対し同荻野はその所有に係る同所七番の六宅地三十六坪に対し各昭和二十六年四月二十五日受付第三七一六号同月二十四日仮登記仮処分命令により東京地方裁判所の嘱託により原告安藤富五郎のため昭和二十一年五月一日付賃貸借契約による賃借権の範囲被告高津所有地の西北隅より二間半の間隔をおき二十二坪五合(間口二間半、奥行九間)存続期間の定めない借賃一月金五十六円二十五銭借賃支払時期毎月末日払の賃借権設定の仮登記の更正登記をなすにつき、
各被告はそれぞれ承諾しなければならない。
訴訟費用は被告等の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求めその請求原因として被告等所有の主文表示の宅地はいずれも同所七番の一、百四十七坪の一筆の宅地として元訴外関山幾三郎の所有であつたが昭和二十六年七月九日東京法務局中野出張所において主文表示の通り七番の七宅地二十七坪同番の六宅地三十六坪同番の一宅地八十四坪と各分筆され且同日付で右七番の六は被告荻野に、同番の七は被告高津にそれぞれ右所有権の取得登記がなされた。しかし右の分筆登記前の昭和二十六年四月二十五日付(受付第三七一五号同第三七一六号)で右宅地百四十七坪上に同月二十四日仮登記仮処分命令により東京地方裁判所の嘱託により各原告のため主文の通りの賃借権設定の仮登記をなされていたが前記分筆の際登記官吏の過誤によつて右仮登記が七番の六及七番の七の各宅地上に移記することが遺脱された儘で各被告のために各所有権取得登記がなされた。しかし原告等のためになされた前記賃借権設定の仮登記が何等法律上の消滅事由がなくして消滅する理由がないから原告等は右の登記の回復を申請するには利害関係を有する第三者である被告等に対しこれが承諾の意思表示に代る裁判をうる必要があるので本訴請求をすると述べた。<立証省略>
被告等訴訟代理人は原告等の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め原告等主張の宅地が元関山幾太郎の所有であつたが原告等主張の通り分筆され且被告等に原告等主張の通りの宅地の所有権移転登記がなされたことは認めるがその余の原告等主張事実は知らない。仮に原告等主張の仮登記があつたとしても被告等は前主である訴外関山から分筆後の原告等主張の仮登記のない土地の上に所有権移転登記を受けた者であると同時に仮登記そのものの存否については登記上の利害関係人とならない。何となれば前記仮登記に基き実体法上その本登記手続をなす法律上の義務のない者は仮登記があろうがなかろうが登記法上の利害関係人と言えないから被告等は原告等主張の仮登記をなすについて承諾する義務はないと答弁した。<立証省略>
三、理 由
成立に争のない甲第一号乃至第三号証(いずれも登記簿謄本)によると本件新宿区角筈一丁目七番の一宅地百四十七坪の不動産に対しては昭和二十六年四月二十五日受付第三七一五号及第三七一六号を以て原告両名のため原告等主張の賃借権設定の仮登記のあること及昭和二十六年七月九日の右宅地の分割による同所七番の七、宅地二十七坪及同所七番の六宅地三十六坪の不動産の分割登記にはいずれも右仮登記のないことが明瞭である。しかして不動産登記法第八十二条第八十三条によると登記官吏が甲地を分割してその一部を乙地となした場合において分割の登記をなすには甲地の登記用紙より所有権その他の権利に関する登記をすることを要するものであるから右七番の六及七番の七に前記の仮登記を移記しなかつたのは当該登記官吏の過誤によつてこれを遺脱したものと言うの外ない。しかし当事者がその有する物権その他の権利について登記をなした時はこれと同時にその登記の対抗力を生じこの対抗力は法律の規定する消滅事由の発生しない限り消滅する理由がないものと解さねばならないから右仮登記が前記の通り分割登記の際その登記官吏の過誤によつて移記されなかつたとしても右仮登記そのものは右の通り消滅すべき筋合ではない故右分割した前記七番の六の宅地三十六坪の所有権を取得した被告荻野も又右七番の七宅地二十七坪の所有権を取得した被告高津に対しても右仮登記権利者である原告等の右仮登記自体は対抗力を保有するものというべきである。けだし仮登記は本登記の順位保全の効力あるに過ぎないがしかしこれは仮登記の直接の効力であつてその仮登記の本来の目的を達するためにこの妨げとなる他の登記を抹消したり、更正したり又は直接にこの登記に協力を請求するということもひつきよう右仮登記の順位保全という本来の効力を完からしむるための言わば仮登記の間接の効力としてこれを是認するを相当と考える。従て右仮登記権利者はその登記請求権に基いて右登記官吏の過誤によつて抹消された仮登記の回復を請求することができるものと言わねばならない。
しかして不動産登記法第八十二条の第一項によれば被告等の取得した本件七番の六同番の七にはいずれも分割の旨の登記があり又同条第二項によつて本件七番の一の登記用紙には右七番の六、七番の七の土地が分割により他の登記に移されたる旨の登記がある訳けである故被告等は右分割された宅地を取得する際右分割に関する右の各登記と対照し特にその移記番号の照合により容易に右仮登記が登記官吏の過誤によつて遺脱されたために移記されなかつたことが直ちに判明する理であるから前叙説明した通りに解するも被告等に対し何等過酷であるということはできない。しかも被告等が右分割した宅地を取得した際右の登記の過誤に気付かないで右の登記の記載の通り真実と信じたとしても登記に公信力を認められないわが登記制度の下においては右の結果は已むを得ないものと言わねばならない。
しかして原告等が右の通り不当に抹消された登記を回復するには不動産登記法第六十四条第五十六条によつてその更正登記の申請をなすため登記上利害関係を有する第三者の承諾書又はこれに代る裁判の謄本を要する次第故被告等は右登記上の利害関係人と目すべきであるから被告等は原告等に対し右原告等の右抹消された仮登記の回復についてこれを承諾する義務あるものと言うべきである。
右の説明と異なる見地に立つ被告等の所論は当裁判所は採用しない。しかし原告等の右仮登記を他の実体上の理由から抹消請求ができるかどうかは別個の問題である、と考える。
よつて原告等の本訴請求を正当として容れ民事訴訟法第九十三条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 佐野英雄)