東京地方裁判所 昭和27年(ワ)461号 判決
原告 高木勝
被告 隅田建設工業株式会社
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「被告会社の昭和二十七年九月十日の株主総会で為した『昭和二十七年七月二十六日の株主総会の決議を取り消し、改めて取締役高木勝を解任する。』旨の決議は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決をもとめ、その請求の原因として、
一、原告は被告会社の二万株の株主であつて、昭和二十六年一月中旬以来その取締役であつたところ、被告会社の同年七月二十六日の株主総会は原告を解任する旨の決議(以下単に前総会又は前決議という。)をした。
しかし、右総会の招集は法定の期間を存して為されていない瑕疵があつたので、原告は右決議の取消の訴(東京地方裁判所昭和二十六年(ワ)第四五二九号)を提起するとともに、これを本案として、原告の取締役たる地位を保全する仮処分の申請(同庁昭和二十六年(ヨ)第二九一九号)をしたところ同年八月三日原告は右本案判決確定に至るまで仮りに被告会社の取締役たる職務を行うことができる旨の仮処分命令がなされた。
ところが被告会社の同年九月十日の株主総会は、前総会の決議をその招集手続に法令に違反する瑕疵があるという理由で取り消し、改めて原告を解任する旨の決議(以下単に本件総会又は本件決議という。)をした。
二、しかし、本件決議はつぎにのべる理由によつて無効である。
(イ) 本件決議によつて有効に原告を解任するためには、前決議の取消が有効でなければならないのであるが、株主総会の決議は相手方なき意思表示であつて決議と同時にその法律効果が完成するものであるから、これが取消は商法第二百四十七条第一項所定の訴によつてのみすることが出来るものであつて、後に至つて株主総会において任意にこれをすることは出来ないものと云わなくてはならない。従つて本件決議は無効である。
仮りに前決議の取消が有効であるとしても、
(ロ) 原告は、被告会社と訴外大和貿易株式会社との間の、沖縄における被告会社が米国政府から請負つた工事に関する事業共同契約に基き、被告会社の取締役となつたものであつて、右契約には、右契約の存続する限り原告を解任しない旨の特約があり、且つ被告会社と原告との間にも同旨の特約があるから、被告会社は原告の解任権を失つたのみならず、被告会社の株主総会は右契約を前提として原告を取締役に選任したものであるから、株主総会としても原告の解任権を放棄しているものであつて、いずれにしても、本件決議は株主総会の権限に属しない事項について議決したものであつて無効である。
(ハ) 本件総会の招集通知は前決議の取消を会議の目的事項として記載していない。株主総会の招集通知に会議の目的事項を記載することは決議の有効要件であるから、これを欠く本件総会の決議は無効である。
(ニ) 原告は、右昭和二十六年(ヨ)第二九一九号事件の仮処分命令により、被告会社の取締役たる仮りの地位を定められていたのであるから原告を解任する本件決議は右仮処分命令と牴触するものであつて無効である。
三、ところで、昭和二十六年十二月二十四日前決議の取消の訴について原告勝訴の判決があり、右判決は確定したので、原告は被告会社の取締役たる地位を有するのであるが、被告会社は本件決議を理由としてこれを認めない。
よつてこれが無効であることの確認をもとめる。
とのべ、被告の二の(イ)の主張に対し、
株主総会の決議には議事法を支配する一事不再議の原則及び手続法を貫く一回性の原則が適用さるべきものであるから、決議と同時に法律効果を生じ了つた事項につき重ねて決議することは許されないし、又株主総会の決議が法律行為である以上、決議の時において、その内容につき可能、確定、適法の要件を具備するを要するところ、前決議はこれが取消の訴の確定判決により取消されない限り存続するものであるから、前決議と重複する本件決議はその目的を欠くのみならず、被告の主張によれば本件決議は前決議が確定判決により取り消された場合にはじめて効力を生ずるものであるから確定性がなく、しかもかかる重複決議を許すことは会社法の団体性と会社関係の劃一性を害する。従つて、たとえ本件決議を被告主張のように解するとしても右は無効である。
とのべた。
被告訴訟代理人は主文第一項と同旨の判決をもとめ、請求原因事実に対する答弁として、
(一) 原告主張の一の事実及び三のうち前決議の取消の訴につき原告主張の日時に原告勝訴の判決があり、右判決が同日被告会社のなした控訴権の放棄により確定した事実は認める。
(二) 本件決議は無効ではない。原告の各主張に対し順次つぎの通り反駁する。
(イ) 本件決議はその前決議を取り消し改めて原告を解任するとの表現に拘らず、その趣旨は、前決議が原告により提起されたその取消の訴の確定判決により取消されることあるを予想して、右取消を条件として原告解任の効果を生ずるとする予備的なものである。株主総会がその成立手続に瑕疵ある決議をし、これに対し取消の訴が提起された場合その取消を条件として効果を生ぜしめるため更にこれと重複する決議をすることは何ら妨げないところであるのみならず、かくすることによつて前の決議が不確定であることから生ずる会社の法律関係の不安定を可及的速かに除去し得るものであるから、本件決議が有効であることは云うまでもない。
(ロ) 原告主張の契約及び特約の存在を否認する。仮りにかかる契約や特約があつたとしても、右は株主総会の専権に属する取締役解任の権限を拘束するものではない。
(ハ) 本件総会の招集通知に前決議の取消を会議の目的事項として記載しなかつたことは原告主張の通りであるが、本件決議の趣旨が右(イ)にのべた通りである以上、特にこれを記載する必要はないと云わなければならない。仮りにそうでないとしても、会議の目的事項の記載の欠缺は本件決議の取消事由となるに止りこれが無効を来すものではない。
(ニ) 原告主張の仮処分は、いわゆる仮りの地位を定める仮処分であつて争ある権利関係の解決を俟つては回復することが出来ない損害の生ずる怖があるのでこれを防止するため、これが解決を見るまでの間の暫定的な法律状態を観念的に形成したものに外ならないから、これが実質上の権利関係の確定を停止し、その変動を阻止するいわれはない。従つてたとえ本件決議が右仮処分命令と形式的に牴触するとしても無効ではない。
とのべた。
<立証省略>
三、理 由
被告会社の前総会が昭和二十六年一月中旬以来その取締役であつた原告を解任する旨の決議をしたこと、原告が右総会の招集手続に瑕疵があるという理由でこれが取消の訴を提起するとともに、右を本案として原告の取締役たる地位を保全する仮処分の申請をし、同年八月三日右本案判決の確定に至るまで原告は仮りに被告会社の取締役たる職務を行うことができる旨の仮処分命令が為されたこと及び被告会社の本件総会が前決議を取り消し改めて原告を解任する旨の決議をしたことはいずれも当事者間に争がない。
よつて本件決議の内容についてまず判断する。
株主総会の決議であつて相手方の受領を要する意思表示にあたるものはこれが相手方に到達した後は、株主総会において任意にこれを取消乃至撤回することができないと解すべきであるが、取締役を解任する決議は、当該取締役に対する告知によつて解任の効果を生ずるからその後において株主総会の決議をもつてこれを取消乃至撤回することは許されず、たとえかかる趣旨の決議がなされても、それによつて直ちに前の決議の存在乃至効果に消長を来たすものではない。ところで、本件総会はすでにその効果を生じていると認められる取締役解任の前決議を取り消し、改めて原告を解任する旨決議しているけれども、これによつて前決議の効果が直ちに消滅するものでないことは右認定の通りであるから、結局本件総会は原告の解任という同一事項について重ねて決議をしたことに帰する。
而して、取締役解任の決議をした株主総会がその後、更にこれと同一事項について重ねて決議をした場合において前の決議に対しその成立手続上の瑕疵を原因とする取消の訴が繋属中であるときは、後の決議は当然に無効でなく前の決議が右訴の確定判決により取り消されることを条件として効力を生ずると解すべきものであるが、既に認定したように前決議について原告から提起された取消の訴の繋属中為された本件決議は、まさに右認定の如く前決議が右訴の確定判決により取り消されることを条件として効力を生ずる決議であると云わなければならない。けだし株主総会の決議といえども一般意思表示の解釈同様可能な限り有効となるように解すべきものであるが、本件決議をかく解することは、前後の事情から容易に推測することができる本件総会がこれにより達しようとした会社における法律関係の安定を可及的速かにはからうとの意図に最もよく適合するのみならずこのことによつて何ら前決議に基く既存の法律関係との牴触を生じこれに混乱を与えるものではないからである。
原告は同一事項について重複する決議をすることは議事法を支配する一事不再議の原則と手続法を貫く一回性の原則とを紊るのみならず、かかる決議はその決議の時において内容につき可能、確定、適法の要件を欠くものであると主張するけれども、本件決議の内容が右認定の如く前決議の取消を条件としてなされた予備的なものである以上、一事不再議乃至一回性の原則に背くものでないことは明かであり、又、株主総会の決議を条件附ですることが許されないとする理由は存しない以上、本件決議は法律行為として可能、確定、適法の三有効要件に欠けるところがないから、原告の主張は理由がない。
そこで本件決議は無効であるとする原告の各主張に対し順次判断する。
原告は、前決議が有効に取り消されない限り改めて原告を解任することはできないと主張するけれども、本件決議の内容は既に認定した通りであつて、これにより一旦前決議の効果を消滅させたうえ(即ち、原告が被告会社の取締役であることを一旦認めたうえ、)更に原告を解任することとしたものといえないこと前説示の通りであるから、本件決議の内容がかかるものであることを前提とする原告の主張は理由がない。
つぎに原告は、原告の解任は被告会社の株主総会の権限外の事項であると主張するけれども、たとえ、被告会社と訴外大和貿易株式会社との間に原告主張の如き特約の存する事業共同契約が存在し、且つ、被告会社と原告との間にも同様の特約が存在するとしても、そのため、株主総会において原告を解任する権限が喪失するものではなく、又、被告会社の株主総会がかかる契約及び特約の存在を前提として原告をその取締役に選任したとしてもそのことによつて株主総会が原告を解任できなくなるいわれがない。けだし、商法第二百五十七条第一項によれば株主総会は何時でも取締役を解任することができるのであるが、右規定の目的は、これによつて株主の会社企業の実質的、経済的所有者たる地位を擁護するところに存するから、この株主総会の権限は執行機関たる取締役が第三者との間において如何なる契約をしてもこれによつて拘束されるものではなく、又株主総会自体がこれを放棄する如きことは、法律上有効なものとして認めないところであるからである。原告の主張はそれ自体失当であつて理由がない。
更に原告は本件総会の招集通知には前決議の取消が会議の目的事項として記載されていなかつたのであるが、招集通知に会議の目的事項を記載することは決議の有効要件であるから本件決議は無効であると主張するけれども、招集通知に会議の目的事項を記載することは株主総会招集の手続の要件にすぎず、これが欠缺は、その総会における決議の訴による取消の事由とはなるけれども、当然に決議の無効を来すものではないから、原告の主張はそれ自体失当であつて理由がない。
最後に原告は本件決議はすでに為された仮りの地位を定める仮処分命令に牴触するものであつて無効であると主張するが、既に認定したような内容の本件決議は、前決議の取消の訴の本案判決確定に至るまで原告に被告会社の取締役たる仮りの地位を定めた仮処分命令と形式的にも牴触することができないから、原告のこの主張もそれ自体失当であつて理由がない。
よつて原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条の規定を適用のうえ主文の通り判決する。
(裁判官 小川善吉 中島一郎 川上泉)