大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和27年(ワ)5950号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実〕原告は昭和二十六年三月十三日被告との間に成立した金四十七万五千円を同月十九日限り返還する定めの消費寄託契約に基き、右寄託金残額九万五千円の支払を求める。被告は原告主張の消費寄託契約の成立を否認し、仮に、そうでないとしても、被告が原告に返還を約した金四十七万五千円は、当時統制の目的であつた小豆買付の前渡金に関するものであり、右前渡金は食糧管理法に違反するもので、民法第七百八条にいわゆる不法原因給付にあたるから、原告は被告に対しその返還を請求し得ないと抗争する。

〔判断〕原告勝訴。判決は、原被告間に於て昭和二十六年三月十三日、旧統制品小豆の売買契約が合意によつて解除され、原告主張のように右契約の前渡金四十七万五千円の返還債務を目的とし返還期日を同月十九日と定めた消費寄託契約が成立したことを認定し、被告の抗弁を排斥して、次のとおり説明している。

「なるほど不法原因給付の中に、政策的意味における禁止の場合をも含むという解釈をとれば食糧管理法違反行為に基く給付は、不法原因給付と称し得るであらう。

しかしながら、右統制は同年三月一日に撤廃されその後二年半を経た今日現在にあつては、次々と統制法令の廃止をみる社会状勢の時代意識の下に、曾ての統制違反行為に対する社会の倫理観念は次第に薄らいでおり、かゝる政策的意味における禁止の場合をも不法原因給付の中に含ませて、被告の争うまゝに原告の請求を拒ませることの意義は甚だ乏しいといわざるを得ない。しかもいまこれを本件について考えると、前認定のとおり、原告主張の債権は、単に曾ての統制に違反した無効の法律行為による債権自体ではなく、荀くも両者間の合意によつて、改めて返還を約したところの債務なのである。ここに於て、契約は遵守されなければならぬという信義の原則を貫くことの意義の方が、前記のように乏しくなりつゝある意義よりも比較にならぬ程大であることが肯定される。してみれば原、被告間における、前認定のような特段の契約関係についてはこれを民法第七百八条にいわゆる不法原因による場合に当らないものと認定するのが相当である。」

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!