東京地方裁判所 昭和27年(ワ)596号・昭26年(ワ)4688号 判決
原告 有限会社浅間建材社
被告 東京都 外五名
一、主 文
被告楠本は、原告に対し別紙物件目録(一)記載の土地につき、東京法務局田無出張所昭和二十六年四月九日受付第一〇六五号をもつてなした所有権取得登記及び別紙物件目録(二)、(三)記載の建物につき、同出張所同日受付第一〇六六号をもつてなした所有権取得登記並びに同建物につき、同出張所昭和二十六年五月二十三日受付建物分割登記(表題部四番)の各抹消登記手続をせよ。
被告阿部は、原告に対し別紙物件目録(一)記載の土地につき、前記出張所昭和二十六年五月二十一日受付第一五一八号をもつてなした所有権取得登記及び同土地につき、表題部昭和二十六年七月三十一日登記事項(分割登記)並びに別紙物件目録(三)記載の建物につき、同出張所昭和二十六年五月二十三日受付第一五五八号をもつてなした所有権取得登記及び別紙物件目録(六)記載の土地につき、昭和二十六年五月二十一日受付第一五一八号をもつてなした所有権取得登記及び同土地につき、昭和二十六年七月三十一日同出張所受付第二八四〇号登記の各抹消登記手続をせよ。
被告野崎は、原告に対し別紙物件目録(四)記載の土地につき、前記出張所昭和二十六年八月一日受付第六六九号をもつてなした所有権取得登記及び別紙物件目録(三)記載の建物につき、同出張所昭和二十六年八月一日受付所有権取得登記並びに別紙物件目録(七)記載の土地につき、同出張所昭和二十六年八月一日受付第二八五七号をもつてなした所有権取得登記の各抹消登記手続をなし、且つ右建物(物件目録(三))を明け渡せ。
被告楠本は、原告に対し別紙物件目録(二)記載の建物を引き渡せ。
被告寄田及び被告松井は、原告に対し別紙物件目録(五)記載の建物を各明け渡せ。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用中原告と被告楠本、同阿部、同野崎、同寄田、同松井との間に生じた部分は、右被告らの負担とし、原告と被告東京都との間に生じた部分は、原告の負担とする。
二、事 実
原告代理人は、主文第一ないし第三項及び第五項と同旨の判決の他被告楠本は、原告に付し別紙物件目録(一)、(二)、(三)記載の土地建物を引き渡せ。被告東京都は、原告に対し別紙物件目録(四)記載の土地につき、東京法務局田無出張所昭和二十六年十二月二十二日受付第六六九号をもつてなした所有権取得登記の抹消登記手続をなし、且つ、右土地を引き渡せとの判決を求め、その請求原因として、
訴外武蔵野税務署長は、昭和二十六年三月二十六日原告所有の別紙物件目録(一)、(二)、(三)記載の土地建物を公売に付し、被告楠本は、他の動産と共にこれを代金六十六万円で落札し、同署長は、昭和二十六年四月九日付をもつて、東京法務局田無出張所に対し公売による所有権移転登記の嘱託をなし、被告楠本のため主文第一項掲記のように所有権取得登記がなされた。
ところが右公売は、違法であるので、原告の再調査請求の結果、同署長は、同年五月七日右公売処分を取り消し、該取消決定は、同月九日被告楠本に送達された。
従つて右土地建物は、前記公売処分の取消により原告にその所有権が復帰したものである。ところが、被告楠本は、その後同年五月十九日被告阿部に別紙物件目録(一)、(二)記載の土地建物の所有権の譲渡を仮装し、同月二十一日その登記を完了した。なお、被告楠本は、別紙物件目録(三)記載の建物を昭和二十六年五月二十三日分割して登記第五九四号に移した上、被告阿部に所有権の譲渡を仮装し、被告阿部は、同日受付第一五五八号により所有権取得登記をした。
而して被告阿部は、昭和二十六年七月三十一日付で別紙物件目録(一)記載の土地を別紙物件目録(四)及び(六)記載の土地に分割してその旨の登記をした上、右(四)の土地を被告野崎に譲渡したように仮装し、同被告は、昭和二十六年八月一日所有権取得登記をなしたが、同被告は、売買によりこれを被告東京都に譲渡し、被告東京都は、同年十二月二十二日その登記を完了した。なお被告阿部は、前述の別紙物件目録(三)記載の建物を同年八月一日被告野崎に譲渡したように仮装し、同被告は、同日その所有権移転登記を完了し、現に右建物を占有している。
また、被告阿部は、前記(七)の土地を被告野崎に譲渡を仮装し、同被告は、昭和二十六年八月一日所有権取得登記をした。
而して被告楠本は、現に別紙目録(一)、(二)、(三)記載の土地建物を占有し、被告寄田、同松井は、別紙物件目録(五)記載の建物(別紙物件目録(二)記載の建物の一部)を同目録表示のとおり占有している。
そこで原告は、本訴請求に及んだと述べ、被告東京都主張の事実のうち本件公売処分の取消が、談合を理由としてなされたことは認めるが、その余の事実は知らないと述べた(立証省略)。
被告阿部、同野崎、同松井は、適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、また答弁書その他の準備書面を提出しない。
被告楠本代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張の事実のうち、訴外武蔵野税務署長が昭和二十六年三月二十六日原告所有の別紙物件目録(一)、(二)、(三)記載の土地建物を公売に付し、被告楠本がこれを落札し、昭和二十六年四月九日被告楠本のため原告主張のような登記がなされたこと、同署長は、昭和二十六年五月七日右公売処分を取り消し、その旨の通知が同月九日被告楠本に送達されたこと、原告主張のような各登記がなされていることは認めるが、その余の事実は争うと述べた(立証省略)。
被告東京都代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張の事実のうち訴外武蔵野税務署長が昭和二十六年三月二十六日原告所有の別紙物件目録(一)、(二)、(三)記載の土地建物を公売に付し、被告楠本がこれを落札し、同署長が昭和二十六年四月九日付で原告主張のように被告楠本のために所有権移転登記をしたこと、同署長が昭和二十六年五月七日右公売処分を取り消し、その旨の通知が同月九日被告楠本に到達したこと、別紙物件目録(四)の土地が被告楠本から同阿部を経て被告野崎に移転し、被告東京都が被告野崎からこれを買受け、同年十二月二十二日所有権取得登記をしたこと及び右土地を被告東京都が占有していることは認めるが、その余の事実は知らないと述べ、抗弁として(一)本件公売処分の取消の理由は被告楠本が公売執行前に原告代表者と談合したということであるが、実際は、談合の事実はない。従つて右取消は、無効である。(二)若し仮に談合の事実があつたとしても、元来公売処分は、収税庁が税金の滞納者を代理して滞納者の所有物件を売却する行為であるからその買受人に対する関係においては、私法上の売買契約と何ら異るところがない。公売物件の所有権がすでに買受人たる被告楠本に移転し、その登記がなされた後においては、談合を理由に公売処分を取り消すことはできない。けだし、もしこのような場合に有効に取消がなされうるとすれば、公売物件が第三者間に転々譲渡される等によつて築かれた法律秩序は、根本的に破壊され、公売物件について権利を取得した善意の第三者は、不測の損害を蒙り、取引の安全を害する。従つて公売処分に何らかの瑕疵があつて、これを取り消す必要がある場合でも他面取消によつて関係者に及ぼすべき不利益が大であると認められる場合には、法律上もはや取り消すことはできないと考えるべきである。(三)次に公売処分の取消が当然無効ではないとしても、取消処分を受けた被告楠本は、昭和二十六年六月一日付書面で武蔵野税務署長に対し、取消処分の取消を求めて再調査の請求をしたところ、同月十三日この請求を棄却する旨の同署長の決定があつたので、さらに同年七月十二日付書面で東京国税局長に対し審査の請求をしたが、これに対する同局長の裁決は、まだないのであるから、右公売処分の取消は、未確定の状態に在る。従つて原告が公売物件の所有権を回復すべき理由はない。(四)仮に以上の主張が容れられないとしても、武蔵野税務署長が本件公売処分を取り消し、その取消の決定が被告楠本に到達したのは、被告楠本のために本件土地建物の所有権移転登記がなされてから一ケ月を経過した同年五月九日であるが、同署長は、右登記を依然として被告楠本名義にしておいたため、右取消処分後において本件土地建物は、原告主張のように第三者に売り渡されたのであつて、少くとも右取消処分後において原告主張の土地を買い受けた被告東京都に対して、被告は、その所有権を主張することはできないと述べた(立証省略)。
三、理 由
(被告阿部、同野崎、同松井に対する請求について)
被告阿部、同野崎、同松井は、被告主張の事実を明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべく、該事実によれば、原告の右被告らに対する請求は理由があるから、これを認容しなければならない。
(被告楠本、同東京都に対する請求について)
訴外武蔵野税務署長が昭和二十六年三月二十六日原告所有の別紙物件目録(一)、(二)、(三)記載の土地建物を公売に付し、被告楠本がこれを落札し、同署長は、昭和二十六年四月九日付で東京法務局田無出張所に対し公売による所有権移転登記を嘱託し、被告楠本のために所有権移転登記がなされた事実及び同署長は同年五月七日右公売処分を取り消し、その旨の通知が同月九日被告楠本に送達された事実は、原告と被告楠本及び被告東京都の間に争がなく、別紙物件目録(四)記載の土地につき、順次被告阿部、被告野崎にそれぞれ所有権移転登記がなされ、被告東京都が昭和二十六年十二月二十一日これを被告野崎から買い受け、同月二十二日所有権移転登記を完了した事実は、原告と被告東京都の間に争がない。
而して行政処分は、それが当然無効である場合の他は、いわゆる公定力を有し、それが取り消されるまでは、有効のものとしてその効力を持続するものであるから、武蔵野税務署長のなした公売処分の取消は、それがさらに取り消されるまでは、その効力を否定されるべき理由はない。従つて前記取消処分により、被告楠本に対する関係においては、本件土地建物の所有権は、原告に復帰したものといわなければならない。
なお、上述のとおり、別紙物件目録(二)の建物については、被告楠本名義で所有権取得登記がなされているのであるから、同被告がこれを占有しているものと推認されるのであるが、別紙物件目録(一)及び(三)記載の不動産については、被告楠本がこれを占有しているものと認めることができる証拠はない。ところで被告東京都は、事実掲記のように抗弁しているので、以下において逐次これに対して判断を加える。(一)については、被告楠本が右公売執行前に原告代表者と談合をしなかつたという点については、被告楠本の供述は、成立に争のない甲第九号証証人稗田、同牛田の各証言と対比して信用することができないし、他にこれを認めることができる証拠はないから採用できない。(二)については、公売処分が取り消される結果、善意で物権を取得した第三者が不測の損害を蒙り、取引の安全が害されることは、被告東京都の主張するとおりであるが、そうだからといつてこのような場合に行政行為は、もはや取り消すことができないものとなるという法理をみちびき出すことはできないのであつて、この主張も理由がない。(三)については、前述のように行政行為は、いわゆる公定力を有するものであるから、それが現に争訟手続においては争われているとしても、当該争訟手続において、さらにそれが取り消されない限り、その効力を否定さるべき理由はない。従つてこの主張も採用の余地がない。そこで最後に(四)について判断する。
法律行為の取消によつて一度生じた不動産物権の変動が遡及的に復元する場合については、取消以前に生じた法律関係と取消以後に生じた法律関係とに区別して考える必要がある。すなわち取消によつて生ずる物権変動を予め登記せしめることはできないから、取消の意思表示以前の法律関係は、詐欺による取消のように、遡及的効力が制限されている場合の他は、もつぱら当該取消の遡及的効力の範囲によつて決すべきである。しかし取消以後においては、登記をしなければ、その取消以後に不動産に関して取引関係に立つ第三者には対抗することができないものと解するのが正当である。
ところで、被告東京都が被告野崎から別紙物件目録(四)記載の土地を買いうけたのは、本件公売処分の取消の意思表示が被告楠本に送達された日の後である昭和二十六年十二月二十一日であり、その登記は、翌日完了しているのであるから、被告東京都は、右取消以後に右土地に関して取引関係に立つ第三者ということができる。従つて右土地について登記を有しない原告は、被告東京都に対し右土地の所有権を対抗することはできない。仮に被告楠本と被告阿部、被告阿部と被告野崎との間の右土地の売買が仮装のものであつたとしても、反証のない限り、被告東京都は、被告野崎からこれを善意で買い受けたものと推定すべく、この推定をくつがえす何らの反証もない本件の場合においては、原告が右土地の所有権を被告東京都に対し主張することができないことにおいては、何ら変りがない。
従つて原告が被告楠本に対し、別紙物件目録(一)、(二)、(三)記載の土地建物についてなされた各登記の抹消登記手続及び右目録(二)記載の建物の明渡を求める請求は、理由があるけれども、原告の被告楠本に対するその余の請求及び被告東京都に対する請求は、理由がない。
(被告寄田に対する請求について)
被告寄田が原告主張の建物を占有している事実は、原告と被告寄田の間に争がない。
ところで成立に争のない甲第一ないし第八号証、証人稗田、同牛田の各証言及び本件口頭弁論の全趣旨を綜合すれば、訴外武蔵野税務署長が昭和二十六年三月二十六日原告主張の建物を公売に付し、被告楠本がこれを落札し、同年四月九日原告主張のように被告楠本のために所有権移転登記がなされた事実及び同署長が同年五月七日右公売処分を取り消し、その旨の通知が同月九日被告楠本に送達された事実を認めることができる。右の事実によれば、右建物の所有権は、すでに述べたと同じ理由で、原告に復帰したものということができる。従つて被告寄田は、原告に対し原告主張の建物を明け渡さなければならない。
以上述べたとおりであるから、原告の請求のうち被告東京都に対する請求及び被告楠本に対する別紙物件目録(一)及び(三)記載の土地建物の引渡を求める部分は、理由がないからこれを棄却し、他は、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 大橋進)
(別紙目録省略)