東京地方裁判所 昭和27年(ワ)6621号 判決
原告 岡田ふく
被告 古山定吉
一、主 文
原告の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
本件について当裁判所が昭和二十七年九月十七日になした強制停止決定はこれを取消す。
前項に限り仮に執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は「東京地方裁判所昭和二十六年(ケ)第三七四号不動産競売事件について同庁が昭和二十七年八月十四日為した不動産引渡命令にもとずく強制執行はこれを許さない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、
その請求の原因として、訴外本庄又一郎は原告所有の後記物件につき抵当権を有するとし、右物件につき競売の申立をなし、東京地方裁判所昭和二十六年(ケ)第三七四号不動産競売事件として競売手続が開始され、被告において右物件を競落し、同庁は昭和二十七年八月十四日不動産引渡命令を発し、右引渡命令には東京地方裁判所執行吏山内伴治は東京都葛飾区本田町二百十一番地所在家屋番号同町第五百六十九番木造瓦葺二階建住家一棟建坪二十八坪二階十三坪五合(実測建坪二十九坪五合二階十四坪五合)に対する債務者(本件原告)岡田ふくの占有を解いて競落人(本件被告)古山定吉にこれを現実に引渡をせよとの記載がある。しかしながら右債務名義の請求権は次の理由により無効のものである。即ち右記載の家屋は原告が昭和二十二年十二月五日その所有者であつた訴外岡田政春より贈与され、同二十四年十月二十日その所有権移転登記を完了したものである。ところが昭和二十四年四月二十五日右岡田政春より同人所有の本件外家屋及び土地に対する訴外広瀬力蔵のための抵当権設定登記手続等の依頼を受け、右岡田の実印を渡された訴外本庄酒造蔵は右登記手続終了後もその実印を預つていたのを奇貨として、同年五月二日右岡田及び原告に無断で右実印を冒用し、登記手続委任状、金円貸借証書を偽造して本件家屋に対する右本庄の子訴外本庄又一郎名義の虚偽の貸金三十万円、弁済期同二十五年四月二十七日のための抵当権設定登記手続をした。而して訴外本庄酒造蔵は更に訴外岡田政春及び原告等の知らぬ間に昭和二十六年東京地方裁判所に対し、前記本庄又一郎名義の虚偽の抵当権にもとづき本件家屋競売の申立をなしたので、同裁判所昭和二十六年(ケ)第三七四号不動産競売手続が開始され、翌二十七年五月九日競落許可決定により被告が右家屋の競落人となり、そこで被告は同年八月十四日原告に対する本件不動産引渡命令を得たのである。以上の如く被告は無効の抵当権にもとずく競売手続により、本件家屋の競落人となつたものであるから同家屋の所有権を取得せず、従つて原告に対し同家屋の引渡を請求することはできないのである。よつて原告は前記不動産引渡命令の執行力の排除を求め本訴に及んだと述べた。
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として昭和二十四年五月二日当時登記簿上訴外岡田政春所有者名義の本件家屋に対し、訴外本庄又一郎のための抵当権設定登記がなされ、同年十月二十日右家屋の登記簿上の所有者名義が右岡田政春より原告に移転したこと、その後同二十六年東京地方裁判所に於て右本庄又一郎の抵当権にもとづく本件家屋の競売手続が開始され、翌二十七年五月九日競落許可決定により被告が右家屋の競落人となり、更に原告主張の如き不動産引渡命令を得たことは何れも認めるが、その余の原告主張事実はこれを争うと述べ、しかし乍ら請求異議の訴は被告より原告に対する請求権を表示する債務名義の執行力の排除を求めるため且つ民事訴訟法(競売法により準用される場合も含め)それを許す旨の明文がある場合にのみ許されるのであるが、不動産引渡命令は単に執行裁判所(競売裁判所も含め)のなす強制執行(任意競売手続を含め)後の処分にすぎず又法文にそれを許す旨の規定もない。又不動産引渡命令に対し請求異議の訴が許されるとしてもそれは強制執行(任意競売手続も含め)の完結前に提起されなければならぬのであるが、本件競売手続は競売代金の配当を終えすでに完結している。又原告主張の異議の理由は不動産引渡命令成立前に生じたものであつて、かかる主張は許されない。よつて何れにしても原告の本訴は失当であると述べた。
三、理 由
先づ不動産引渡命令の執行力の排除を求める請求異議の訴が適法か否かを判断する。民事訴訟法第五百五十九条第一号は抗告を以てのみ不服を申立てることのできる裁判を債務名義とする強制執行のなしうることを規定し、同法第五百六十条は右債務名義について同法第五百四十五条を準用し、之について請求異議の訴を提起しうることを定めている。而して右の抗告を以てのみ不服を申立てうる裁判とはその内容が特定の給付義務を宣言し、且つ抗告に適する裁判を指すものというべきところ、競売法第三十二条第二項により準用される民事訴訟法第六百八十七条第三項の不動産引渡命令は、その内容が特定の不動産の引渡義務を宣言し、且つ同法第五百四十三条第三項、第五百五十八条により即時抗告をなしうる裁判であるから不動産引渡命令の執行力の排除を求める請求異議の訴は適法である。
次に請求異議の訴はそれにより執行力の排除を求める債務名義にもとづく執行の完了前にこれを提起しなければならぬのは、その性質上当然であるが、本件東京地方裁判所昭和二十六年(ケ)第三七四号不動産競売事件の不動産引渡命令にもとづく執行は未だ完了せず、且つ当裁判所昭和二十七年(モ)第八四九四号強制執行停止決定によりその執行が停止されていることは本件記録に徴し明白であるから、原告は之に対し本件請求異議の訴を提起しうるものと謂ふべきである。
ところで原告は、本件不動産引渡命令の執行力の排除を求める異議の理由として昭和二十四年五月二日本件家屋に対し設定された訴外本庄又一郎抵当権の無効であること、従つてそれにもとづく競売手続により被告が本件家屋を競落しても之が所有権を取得しないことを主張している。しかるに請求異論の訴に於ては民事訴訟法第五百四十五条第二項第五百六十条によりその異議の理由(原因)が制限されている。
而して不動産引渡命令の如き抗告を以てのみ不服を申立てることのできる裁判に対する請求異議の訴については公正証書に関する同法第五百六十二条第三項のような明文のない限り、同法第五百六十条により同法第五百四十五条全部が準用され、同第二項の制限に従ふものと解するを相当と謂うべきである。従つて本件不動産引渡命令に対する請求の異議は右命令成立後に生じた事由のみを主張して提起すべきものと謂わさるを得ない。そして原告の主張する前記異議の理由は、本件不動産引渡命令の成立以前に存した事由であること、その主張自体により明白である。
従つて原告の本訴請求は他の判断をまつまでもなく失当であること明白であるから、これを棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を強制執行停止決定の取消及びその仮執行の宣言につき同法第五百四十八条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 花淵精一)