大判例

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東京地方裁判所 昭和27年(ワ)6960号 判決

原告 松村克己

被告 金子幸助

一、主  文

被告は原告に対し金十七万千四百十六円六十六銭及びこれに対する昭和二十七年一月二十四日からその支払ずみに至るまで金百円につき一日金五十銭の割合による金員の支払をせよ。

原告その余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告の勝訴の部分に限り原告が金六万円の担保を供するときは、仮にこれを執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金二十万円及びこれに対する昭和二十七年一月二十四日からその支払ずみに至るまで金百円につき一日金五十銭の割合による金員の支払をせよ、訴訟費用は被告の負担とするとの判決及び仮執行の宣言を求める旨申し立て、その請求の原因として、原告は大蔵省公認の金融業者で、被告は空気銃製造工場の経営者であるが、原告は昭和二十六年十二月二十三日被告に対し被告の空気銃製造販売の営業資金として金二十万円を弁済期昭和二十七年一月二十三日、利息一カ月一割五分、期限後の損害金百円につき一日金五十銭の約で貸与したところ、被告は期限が過ぎても貸付元金の支払をしないので、原告が請求した結果、昭和二十七年六月三十日に至り被告は原告に対して元本金二十万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和二十七年一月二十四日から同年八月三十日までの遅延損害金として金二十一万円の支払義務があることを認め、その合計金四十一万円を同年八月三十日限り支払うことを確約してその支払のため同日いずれも満期を同年八月三十日とする被告振出の金額二十万円と訴外入江登良夫が被告に宛て振出し被告が裏書した金額二十一万円の約束手形各一通を原告に交付したが、右手形二通はいずれも満期に不渡となつた。よつて原告は被告に対し右貸付元金二十万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和二十七年一月二十四日からその支払ずみに至るまで金百円につき一日金五十銭の割合による約定利率による遅延損害金の支払を求めるため本訴請求に及んだと述べ、被告の抗弁事実を否認し、原告は自己資金の外不特定多数人から利息を支払つて借入金をしてこれを営業資金として貸金業を営んでいるから本件貸借は商法第五百二条第一号若しくは第八号の商行為であり、従つて本件には利息制限法第五条は適用がないと述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、被告が原告にその主張の約束形二通を振出又は裏書したこと及び右手形が満期に不渡になつたことは認めるが、原告が大蔵省公認の金融業者であることは不知、その余の事実はすべて否認する。被告は訴外入江登良夫から頼まれて、被告所有の建物の登記済権利証を同人に貸したに止まり、原告から金融を受けたのは同人であつて被告ではない。しかも同人は原告から金二十万円の借用を受ける約束で同人振出の金額二十万円の約束手形一通と被告から借りた右建物登記済権利証を原告に交付したが、原告は利息一カ月分金三万円を天引して金十万円を同人に交付したに過ぎなかつた。従つて仮に本件貸借につき被告に借主としての義務があるとしても、現実に授与されたのは金十七万円であるから、本件消費貸借は右金十七万円について成立したに過ぎないから、被告の弁済すべき元本は金十七万円であり、これを超える請求は失当である。また原告は期限後の違約損害金として百円につき一日金五十銭の約定があつたと主張するが、名は違約損害金でも実質は利息であつて、利息制限法第二条の規定を脱れんとする高利貸の常奔手段であるから、脱法行為として無効である。仮に無効でないとしても、債権者の事実受けた損害の補償として著しく多額に過ぎ不当であるから、利息制限法第五条により年一割相当額まで減額せらるべきであると述べた。<立証省略>

三、理  由

成立に争のない甲第九号証及び原告本人の供述によれば、原告は昭和二十五年五月一日「貸金業等の取締に関する法律」(昭和二十四年法律第百七十号)により、同法第三条第一項の貸金業届出書を大蔵大臣宛に東京都財務部長に提出し、同日受理され、現在に至るまで貸金業を営んでいることを認めることができ、また被告名下の印影の成立には争がなく、その余の部分は証人入江登良夫の証言により真正に成立したと認める甲第一号証、成立に争のない甲第二、第三号証及び同第六号証並びに証人入江登良夫、同星嘉吉の各証言及び原告の本人訊問の結果を総合すると、訴外入江登良夫は昭和二十六年十二月頃紡績機械の部品の製造を業としていたが、その運転資金に困り被告に約三十万円の融資を求めたところ、被告はこれに応ぜられなかつたが、他から金融を受けこれを同人の事業に提供することとしてその金融方を同人に一任し、被告所有の不動産の登記済権利証を交付したので、同人は更に訴外星嘉吉に金融の斡旋を依頼し星の斡旋の結果、昭和二十六年十二月二十三日原告から被告及び入江、星の三名が連帯債務者となり金二十万円を弁済期昭和二十七年一月二十三日、利息月一割五分、期限後は百円につき一日金五十銭の割合の違約損害金を支払う約束で借受ける話合がまとまり、同日被告の右登記済権利証の外、被告振出、入江、星各裏書の金額二十万円の約束手形一通(甲第二号証の書替前の手形)と連帯借用証書(甲第一号証)を原告に差入れて、弁済期までの約定利息金三万円を差引いた金十七万円の交付を受け、これを入江の右事業資金にあてたことを認めることができる。(証人星嘉吉及び原告本人は右貸借の際一旦金額の金二十万円を星を介して入江に交付した後、同人から利息の前払を受けた旨供述するが、右各供述は証人入江登良夫の証言その他弁論の全趣旨により措信し難い。)被告は前顕甲第一号証中の被告の署名の成立を争い、且つ右消費貸借は入江が借主で被告は登記済権利証を入江に貸したに止まり借主となつたことはないと主張し、被告がその所有の建物の登記済権利証を入江に渡し入江から原告に差入れられたことは前に認定したとおりであり、また証人月成澄雄の証言によれば、甲第一号証の被告の署名は被告の自署でなく月成澄雄から星に頼まれて代署したことを認め得るが、証人入江登良夫の証言によれば、入江は本件消費貸借については逐一被告に報告しており、被告が本件貸借その他により入江に融通した債権によつて入江経営の工場を取得したことが認められ、また前記甲第二、第三号証及び原告本人の供述によれば、被告は本件貸借に当り金額二十万円の約束手形を入江宛に振出し、その後数回書替えていることが認められ、以上の事実と証人入江登良夫、同星嘉吉の各証言を総合すると、被告は入江がその事業資金のため原告から金融を受けるについて被告も連帯債務者の一人となることを知り、その借用証書に署名するのを入江に一任したので、入江が星を通じ月成に代署せしめたものと認められるから、甲第一号証の被告の署名が被告の自署でなくても前記認定を左右するに足りず、その他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかしながら、貸主が借主に貸付金を交付する際利息を貸付金から差引いた場合には現実に交付した金額(貸付元金ときめられた額ではない。)に対する制限内の利息を超える部分については、現実の授受があつたのと同一の経済上の利益を得せしめるものとはいえないから、この超過部分については消費貸借は成立しないものというべきである。そうすると本件についていえば、その超過部分は金二万五千八百三十三円三十四銭となること計数上明らかであるから、金二十万円からこれを除いた金十七万千四百十六円六十六銭について消費貸借が成立したものというべきである。

被告は現実に授受されたのは金十七万円であるから、元本は金十七万円であると主張するが、前に示した制限内の利息を差引いた場合には、この部分について現実の授受がなくても、なおこれがあつたのと同一の経済上の利益を得せしめるものといえるから、消費貸借の要物性は充足されるものというべきであつて、制限内の利息までも消費貸借の成立を否定し得ない。被告の右主張は到底これを採用し得ない。

次に被告は、期限後の違約損害金の約定は脱法行為であるから無効であり、仮にそうでなくても利息制限法第五条により年一割相当額まで減額さるべきであると主張するから按ずるに、本件貸借の弁済期は貸付日から一カ月後であることは前に認定したところで明かであるから、特別の事情の認められない本件では右弁済期後の違約損害金の定めが高利をむさぼらんとする目的で定められたものとは認め難いし、また前記百円につき一日金五十銭の違約損害金は貸金業として届出の受理された原告として必ずしも利息制限法第五条にいう不当とはいえないから(貸金業等の取締に関する法律第八条参照)被告の右主張も亦認容する限りでない。(原告は自己資金の外不定多数人から利息を払つて借入金をし、これを営業資金として貸金業を営んでいるから、本件貸借は商法第五百二条第一号若しくは第八号の商行為であり、従つて本件には利息制限法第五条は適用がないと主張するが、貸金業者は不特定多数の者から金銭の預入をすることを禁ぜられているから、(貸金業等の取締に関する法律第七条、第十四条、第十八条等参照)仮に原告主張の事実があつたとしても、それは違法の行為であつて、商行為として法律の保護を受けることはないというべきである。)

しからば被告は原告に対し前記貸付金十七万千四百十六円六十六銭及びこれに対する弁済期の翌日である昭和二十七年一月二十四日からその支払ずみに至るまで百円につき一日金五十銭の割合による損害金を支払うべき義務があること明かである。

よつて原告の本訴請求中右の部分は正当であるから認容することとし、その余は失当であるからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用について民事訴訟法第九十二条但書、仮執行の宣言について同法第百九十六条第一項を適用して主文のように判決する。

(裁判官 飯山悦治)

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