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東京地方裁判所 昭和27年(ワ)873号・昭26年(ワ)7423号 判決

被告は原告に対し金十二万四千八百七十五円とこれに対する昭和二十六年十二月十六日以降完済まで年五分の金員を支払へ。

原告その余の請求を棄却する。

反訴被告は反訴原告に対し金八万七千二百三十七円五十銭とこれに対する昭和二十七年二月十日以降完済までの年五分の金員を支払へ。

反訴原告その余の請求を棄却する。

訟訴費用は本訴並に反訴に関するものを通じてこれを二分し、その一宛を原告(反訴被告)、被告(反訴原告)の負担とする。

この判決は本訴に関する部分を原告において、反訴に関する部分を反訴原告において、それぞれ仮に執行することができる。

二、事  実

原告(反訴被告)訴訟代理人は本訴につき「被告は原告に対し金二十四万九千七百五十円とこれに対する昭和二十六年十二月十六日以降完済までの年五分の金員を支払へ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求める旨申立て、本訴請求の原因として、原告は乗用自動車を使用して旅客運送業を営むことを目的とする会社であるが、昭和二十六年十月三十日二十一時(午後九時)十五分頃原告使用運転手訴外金本承烈において原告所有のブラザー・ダツチ三十七年型乗用自動車(車体番号七五〇六一号)を操縦して青梅街道を中野方面より新宿方面へ乗客を求めて流し運転中新宿柏木二丁目二百二十七番地先通称成子坂下で乗車申込の合図をする客があつたので停車したところ、たまたま右自動車の後方から被告はその所有するバツカード四十七年型乗用車(車体番号三二三一六号)を操縦、追従し来り、その自動車の前部を前示停車中の原告所有自動車の後部に激突させ、十四米余も前方に押飛ばしたが、この激突のため原告所有自動車は板金一式、車体塗装、内張、スプリング及びホーシング廻り等を損壊され原告はその修理費金十七万円の支払を余儀なくされて同額の損害を受けた外、その修理期間一月を要したが、その期間、右自動車を使用することができなかつたため、その使用によつて得べかりし純益(必要経費を収入より控除したもの)金七万九千七百五十円を得ることができないで同額の損害を蒙つたので、合計二十四万九千七百五十円の損害が原告に生じたわけである。

元来本件被告の如く前行車に追従する状態にある後行車を操縦する者は前行車との間に少くとも十米以上の間隔を置き時速も三十粁程度の速度として慎重に運転するのでなければ、本件の如き追突等の事故を惹起する虞があることを知り又は自動車運転者として必要とされる注意をしたならば容易に知り得た筈であるのに、被告は右の措置に出ないで、漫然原告所有自動車の後から僅か四米の間隔を置いただけで時速四十粁の速度で追従したため、原告所有自動車が停車するや、その右側(道路の中心寄りの側)を通り抜けようとしたが、同部分には原告所有自動車を停車させた乗車申込客が居たので通り抜けることができず、本件事故を生ぜさせたものであるから本件事故は被告の故意又は少くとも過失に因り生じたものであり、従つて右事故により原告の受けた損害は被告において賠償すべき義務がある。

よつて原告は被告に対し本件事故より原告の受けた前示損害金二十四万九千七百五十円とこれに対する右事故発生の日の後である昭和二十六年十二月十六日以降完済までの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求めるものである。と述べ、

反訴につき「反訴原告の請求を棄却する。反訴の訴訟費用は反訴原告の負担とする。」との判決を求め、反訴原告の主張事実中訴外金本承烈が自動車を運転させるための反訴被告の使用人であること、右金本の運転する原告所有自動車が本訴について述べた通りの日時場所において停車中、反訴原告がその所有自動車の前部を停車中の反訴被告所有自動車の後から後部に衝き当てたことは認めるが、当時金本がその操縦する自動車を反訴原告主張の如く道路の中心寄りの位置に急停車した事実はない。右衝突の結果反訴原告の所有自動車が、その主張の如く破損し、反訴原告がその主張の損害を受けたとの点は否認する。衝突は本訴について述べた通り反訴原告の故意又は過失に基くものであつて、反訴被告の使用人の責に帰すべき事由に基くものではないから、仮に反訴原告が本件事故により損害を受けた事実があつたとしても、反訴被告に賠償の義務はないと答えた。<立証省略>

被告(反訴原告)訴訟代理人は本訴につき「原告の請求を棄却する」との判決を求め、原告がその主張の営業を目的とする会社であり原告の使用人である運転手訴外金本承烈が原告主張の自動車を操縦して乗客を求めて流し運転中、乗車申込の客があつたので原告主張の日時、場所において停車したところ、たまたま被告が右自動車に続いてその所有する原告主張の自動車を運転進行し来り、その自動車の前部を停車中の前示自動車の後部に衝き当て、その衝突に因り原告所有自動車に原告主張の損壊を生じたことは何れも認めるが、その余の原告主張事実はすべて否認する。本件事故発生現場附近の制規の制限速度は時速四十粁であるが被告は右制限内の速度を以て原告主張の日時、原告所有自動車の跡から、青梅街道を中野方面から新宿方面に向つて被告所有自動車を運行していたところ、本件事故現場地点に至つて原告所有自動車の運転者金本承烈は道路交通取締令第三十条の規定に反し車道の端から〇・三米の距離を遥に越える距離を隔てた地点にその操縦する自動車の左側(進行方向に向つて)の車輪が位置する状態(つまり取締令の規定に反して道路の中心寄りの地位に)で、被告の全く予期しない事情の下に急停車したので被告は突嗟に原告の自動車の右側(道路の中心寄り)を通り抜けようとしたが、同附近は当夜はうす暗くて見透しが利かなかつたため同右側(都電の軌道に該当する)に人の佇立しているのを始めて発見し把手を左に切り同時に急停車の措置を採つたが、この時はすでに被告の自動車は原告の自動車に余り接近していたため本件事故が起きたのである。

元来自動車を操縦する者が道路上で停車する際は、できるだけ道路の端の方に寄つて停車すべきで、さもなければ本件のような事故を惹起する虞があることは知り、又は少くとも道路交通取締令の前示規定からしても自動車運転者として、必要な注意を怠らなければ容易に知り得べかりしものであるのに原告の自動車の運転手金本承烈はすでに述べたように突然道路の中心寄りの地点に停車したため本件事故を生じたのであるから、本件事故は原告使用運転手の故意又は過失に基くものであつて、被告の責に帰すべき事由によるものではなく、本件事故により原告の受けた損害を、被告において賠償すべき義務はないと答え、

反訴につき「反訴被告は反訴原告に対し金十八万三千四百七十五円とこれに対する昭和二十七年二月十日以降完済までの年五分の金員を支払え。訴訟費用は反訴被告の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求める旨申立て、反訴請求の原因として、本訴において述べた通り新宿区柏木二丁目二百二十七番地先通称成子坂下で停車中の反訴被告使用人の操縦する反訴被告所有自動車の後部に反訴原告の自動車が衝突したが、その衝突に因り反訴原告所有自動車の車体、機関、塗装その他に破損を生じ、反訴原告はその修理費十一万八千六百円の支出を余儀なくせられて同額の損害を受けた外、右破損修理のために十五日の日子を要したが、その間反訴原告所有自動車使用不能のため他より同種の自動車を傭上げ、その料金七万五千円(一日五千円の割合)を支払つた。けれども、反訴原告はその所有自動車を使用しなかつたので、一日五ガロンのガソリンを消費しないで済んだので右五ガロンのガソリン代に相当する六百七十五円を節約できたから十五日間で節約額は一万百二十五円に達するので、この節約額を前示傭上料金から差引いた残額六万四千八百七十五円が反訴原告の自動車の使用不能により受けた損害である。

ところで本件衝突事故はすでに本訴について述べた通り反訴被告の使用する運転手の故意又は少くとも過失によるものであるから、右事故により反訴原告の受けた損害は、反訴被告がその自動車による旅客運送業に使用する被用者金本承烈において、右事業の執行につき故意又は過失により反訴原告に与えたものであり、反訴被告はその賠償の責があるわけである。よつて反訴原告は反訴被告に対し前示反訴原告の支出した修理費に相当する十一万八千六百円と自動車の使用不能による損害六万四千八百七十五円との合計額十八万三千四百七十五円とこれに対する事故発生の日の後である昭和二十七年二月十日以降完済までの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める次第であると述べた。<立証省略>

三、理  由

先づ本訴について考える。

原告が乗用自動車を使用して旅客運送業を営むことを目的とする会社であること、原告の使用人である運転手訴外金本承烈が原告主張の自動車を操縦して乗客を求めて流し運転中、乗車申込の客があつたので原告主張の日時、場所において停車したところ、たまたま被告が右自動車に続いて、その所有する原告主張の自動車を運転進行し来り、その自動車の前部を、停車中の前示自動車の後部に衝き当て、この衝突に因り原告所有自動車に原告主張の損壊を生じたことは何れも本件当事者間に争がない。ところで成立に争のない甲第七乃至第九号証乙第四、第五号証、証人小林求、山口耕司、金本承烈の各証言、被告(反訴原告)本人訊問並に検証の各結果を綜合すれば、本件衝突事故発生当時原告使用運転手金本は青梅街道を中野方面より新宿方面へ乗客を求めながら自動車を流し運転中原告主張の成子坂下へ差掛かつた際、自動車の右側(進行方面に向つての意、以下同断)道路の中央側(電車の軌道方面)から訴外奈良信子が乗車申込の合図をしたので、当時他に通行中の車輛もなく、交通状態は比較的閑散であつたところから、自動車を歩道に近く片寄せて停車すべきところを、右の如く片寄らず、自動車の左側車輛が歩道と車道との境界から一・三〇米程度に位置する個所に停車したところたまたま被告は金本の操縦する自動車の後方から約八米を隔てて、時速四十粁の速度で、自動車を運転進行して来たが、金本の操縦する前行自動車の停車するを見るや、その右側(道路の中央寄りの部分)を、そのまま追越さうとしたところ、同部分には奈良信子が佇立するのを発見し急拠把手を左に転じて同人との衝突は避け得たが、停車中の自動車との距離はすでにあまりに近く終に衝突の事故を惹起したものであることを認めることができる。被告本人訊問の結果中、被告が停車中の自動車を追越さうとした瞬間に奈良信子がどこからか飛出して来た旨の供述があるけれども右部分は前示乙第四号証に照らしても信用ができないし、他の右認定を左右し得る証拠はない。元来道路上を疾走中の自動車の運転者が停車しようとするときは、検証の結果により明なように歩道と車道との区別する本件の如き道路では左側の車輛を車道の端から〇・三米以内に置いて、できるだけ車道の左側端になすべきことは道路交通取締令第三十条の規定するところであつて、右規定の趣旨からしても、できるだけ車道の端に近く停車するのでなければ、本件のような追突事故を発生する虞れがあることは自動車運転者において知り又は運転者としてなすべき注意を怠らなかつたなら当然に知り得た筈であるのに、原告使用運転手金本はすでに認定した通り、交通が閑散であつたのをよいことにして、運転手として守らなければならない前示法令を犯して、左車輛が車道の端から〇・三米をはるかに超える一・三〇米の距離を存して停車したことが本件事故発生の一因であることは疑を容れないので、本件事故は少くとも原告使用人の故意又は少くとも過失が原因の一つとなつていることは明であるが、他方自動車を運転して他の自動車の後方から追従するものは、常に前行車との追突を避け得る相当の距離、速度を保持し前行車を追越さうとするときは前行車の挙動並にその追越道路上に障害がないかどうかを十分見透しその見透しがつかなければ速度を何時でも停車し得る程度に減じて操縦する等の措置に出るのでなければ、本件の如き事故の生ずる虞れがあることは知り、又は道路交通取締法第八条第十三条、道路交通取締令第二十条の趣旨からしても自動車運転者としての必要な注意をしたならば容易に知り得たことであるのに前示認定の如く被告は原告使用人金本の操縦する自動車の後方より追従するに際り、僅かに八米程度の距離を存するに過ぎないのに時速四十粁の速度で自動車を進めながら金本が、道路交通取締令に反する位置に、思ひもよらず停車したとは云え、直ちに追突を避け得る程度に速度を減ずることもせず又追越通路方面の状態を予め確めもせず、漫然追越し得るものと軽信し時速四十粁の速度を持続したまま、停車した前行車の右側を通過しようとして始めて同部分に奈良信子の佇立するを見て同人との衝突を避けたが、前行車との距離があまり近くなつていたため、本件追突事故を生じたものであるから、右事故発生は被告の故意又は少くとも過失に基くことも明である。従つて本件事故のため原告の受けた損害については、原告使用人金本の過失が競合して生じたものにしても、被告において賠償の責を辞することはできないものと言はなければならない。

そこで本件事故によつて原告の受けた損害をしらべて見ると、証人元村容三の証言並に同証言により真正に成立したと認められる甲第五号証の一、二、甲第六号証、甲第三号証を綜合すれば、原告は本件事故により破損したその所有自動車を原状に復する修理費十七万円を支出して同額の損害を受けた外右修理のため一月を要し右修理期間中に、その自動車の使用によつて得べかりし純益七万九千七百五十円を得ることができないで、同額の損害を受けたので、原告の受けた損害額は合計二十四万九千七百五十円であることが認められる。

けれども右損害を生じた事故発生については原告使用人金本の過失も原因となつているのであり、しかも同人の過失と被告の過失とはすでに認定した事実からして、事故発生について同程度の原因力を有するものと解するのが相当であるから、右損害中、被告に賠償の責を負はせる範囲はその半額十二万四千八百七十五円を以て相当とする。従つて被告に対し右金十二万四千八百七十五円とこれに対する事故発生の日の後である昭和二十六年十二月十六日以降完済までの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める部分につき原告の本訴請求は正当であるが、その余は失当として棄却すべきものである。

次に反訴については、

反訴原告主張の日時、場所において、その主張の如く反訴被告使用人金本の操縦する反訴被告所有自動車に反訴原告の運転するその所有自動車が衝突したことは当事者間に争がなく、右衝突の原因として反訴被告使用人金本の故意又は過失も加つていることは、すでに本訴について判示したところである。しかも右金本が反訴被告の自動車を運転させるための使用人であることは反訴被告の認めるところであるから、金本の前示故意又は過失に因る衝突事故のため反訴原告の受けた損害は反訴被告において、被用者が事業の執行につき第三者に加えた損害として賠償の責があることは明である。

そこで本件衝突によつて反訴原告の受けた損害をしらべて見ると、証人糸賀英二の証言、同証言により真正に成立したと認められる乙第一号証の一、二、乙第二号証、反訴原告(本訴被告)本人訊問の結果並に、本件事故後の反訴原告所有自動車の写真であることについて争のない乙第三号証を綜合すれば、本件衝突に因り反訴原告所有自動車の車体、機関、塗装その他に破損を生じ反訴原告はその修理のため十一万八千六百円の修理費を支出を余儀なくさせられて、同額の損害を受け、又右修理に十五日を要したが、その間上叙自動車の利用不能のため毎日タクシーを利用し一日平均五千円の運賃の支払を余儀なくされたことが認められるけれども他方右修理期間反訴原告は一日六百七十五円のガソリン購入代金の支出を免れたことは同人の自陳するところである(右以上の支出を免れたことの証拠はない。)からこれをタクシーの運賃より控除した残額四千三百二十五円は反訴原告がその所有自動車の使用不能による一日の損害である。従つて反訴原告は本件衝突事故のため総計十七万四千四百七十五円の損害を受けたわけであるが、右衝突については、本訴について判示した通り反訴原告自身の故意又は過失も原因の一つとなつたものであり、その原因力としての度合は反訴被告使用人金本のそれと同程度であることもすでに判示した通りであるから、反訴原告の受けた損害中、反訴被告に賠償の責を認める範囲はその半額八万七千二百三十七円五十銭を以て相当とする。従つて反訴被告に対し右金八万七千二百三十七円五十銭とこれに対する事故発生の日の後である昭和二十七年二月十日以降完済までの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める部分につき反訴原告の請求は正当であるが、その余は失当として棄却を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条第一項本文を仮執行の宣言につき本訴並に反訴につき同法第百九十六条を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 毛利野富治郎)

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