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東京地方裁判所 昭和27年(行)17号 判決

原告 古賀文夫 外一名

被告 国

一、主  文

佐賀県知事が原告等所有の別紙目録記載の第一号土地について昭和二十二年七月二日を、同第二号土地について同年十二月二日を、同第三号土地について昭和二十三年七月二日を、同第四号土地について昭和二十四年七月二日を、それぞれ買収の時期としてした各買収処分並びに同第一号土地について昭和二十二年七月二日を、同第二号土地中佐賀市神野町字一本松六第二畑八歩について昭和二十二年十二月二日を、同所三イ第二畑六歩について昭和二十四年七月二日を、同所三の五田三反四畝一歩の内一反七畝二五歩、同所三ロ第一田一反五畝二四歩の内三畝一四歩について昭和二十四年七月二日を、同第三号土地について昭和二十四年十二月二日を、同第四号土地について昭和二十七年七月一日を、それぞれ売渡の時期としてした各売渡処分は、いずれも無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、請求の原因として、また被告の答弁に対して次のとおり述べた。

一、別紙目録の第一ないし第四号の土地は、もと原告古賀文夫の先代古賀義勇と原告室島舜一郎の先代室島鶴吉郎との共有であつたが、右義勇は昭和十三年九月二十四日に、右鶴吉郎は昭和十八年四月一日に死亡し、原告等がそれぞれ家督相続をしてその所有権を取得し、右土地は原告両名の共有となつた。

二、佐賀県知事は本件農地につき佐賀市農地委員会の定めた買収計画に基き自作農創設特別措置法(以下自創法という)第三条第一項第一号に該当する農地として別紙目録の第一号の土地については昭和二十二年七月二日を、同第二号土地については同年十二月二日を、同第三号土地については昭和二十三年七月二日を、同第四号土地については昭和二十四年七月二日を、それぞれ買収の時期とした各買収処分をし、そのうち(イ)同第一号土地については昭和二十二年七月二日を売渡の時期として佐賀市神野町三百七十九番地大石国八に、(ロ)同上第二号土地中佐賀市神野町字一本松六第二畑八歩については同年十二月二日を売渡の時期として前記大石国八に、同所三イ第二畑六歩、三の五田三反四畝一歩の内一反七畝二五歩及び三ロ第一田一反五畝二四歩の内三畝一四歩については昭和二十四年七月二日を売渡の時期として佐賀市神野町六百十七番地南里ユキに、(ハ)同上第三号土地については昭和二十四年十二月二日を売渡の時期として佐賀市大財町二百三十四番地後藤初巳に、(ニ)同上第四号土地については昭和二十七年七月一日を売渡の時期として前記南里ユキに、それぞれ売渡処分をしたが、本件農地の買収処分には後記(一)ないし(四)に述べるような違法があり、当然無効であるから、これに基いてなされた前記売渡処分も亦当然無効である。

(一)  本件農地買収処分は当時死者であつた原告等の先代古賀義勇、室島鶴吉郎を相手方としてなされたものであるから無効である。

(1)  自創法により政府が農地を買収するには市町村農地委員会の定める農地買収計画によらなければならず(法第六条第一項)、市町村農地委員会は農地買収計画を定めたときは遅滞なくその旨を公告し、かつ公告の日から十日間市町村の事務所において買収すべき目的物の所有者の氏名及び住所等を記載した書類を縦覧に供しなければならない(同条第五項)。これらの法定の手続を経なければ買収はできない。法がかかる手続を定めたのは、それによつて買収に関する行政活動の秩序を維持し、ひいて私人の利益を尊重せんとするにある。即ち右公告及び縦覧によつて、所有者のために、買収計画の不当又は違法に対し異議及び訴願をする途を開いて、その処分の恣意に流れることを防止し、買収処分たる行政活動の秩序を維持し、買収処分が所有者の権利を侵害することなきようにはかつたのである(法七条)。もし買収計画が死者の生前有していた農地について現在の所有者不明のまま定められ、死者の氏名、住所を記載した書類が縦覧に供せられることがあれば、現在の所有者は自己を対象とした買収計画があることを知る由もなく、又知り得たとしても、自己を対象とする計画でなく、また縦覧に供せられた書類にも自己の氏名住所が出ていない関係上、異議訴願もすることができない(これをするには買収計画及び縦覧書類の訂正を市町村農地委員会に申出てその是正を受けた上でなければならない。そのままでは買収計画の相手方でないから異議訴願はできない。)これを他の面からいうと、現在の所有者は異議権、訴願権をはく奪されてしまう結果になる。かかる重要な手続が現在の所有者を対象としてなされないならば、その手続は違法である。そして、これに基く買収処分は、知れざる相続人(相続人だけが必ずしも実現の所有者とは限らない)に対する行政処分としてはその成立の要件を欠くものであり、そのかしは重大かつ明白であるから、無効である。

(2)  行政処分の内容が事実上又は法律上の不能に属するときは、その行政処分は無効である。死者に対して買収を行うことは社会現象として実現することが客観的に不能である。又買収処分は相手方ある公法上の法律行為であるが、死者に対してした買収処分は、存在しない相手方に対してした行政処分であることに帰着し、無効である。

(3)  佐賀市農地委員会は本件農地の所有者古賀義勇、室島鶴吉郎の生存するや否やを調査せず、単に土地台帳によつて所有名義人を調査し、これに登載してあつたものを無反省に計画当時の所有者と速断して計画を定め、公告や縦覧書類も右両名々義でしたものであり、佐賀県知事も亦この計画を所有者につき検討することなく、これに基いて買収令書を発したものである。従つて相続人である原告両名に対して買収令書を発する意思を有していたものではなく、古賀義勇、室島鶴吉郎を買収計画当時の実在の所有者なりとして買収令書を発したものである。何となれば、もし右両名の死亡の事実を知つていたとすれば、自創法第九条第一項但書の規定によつて令書の交付に代えて公告の手続をとることができたからである。即ち、本件は、買収令書に真の所有者である相続人の原告両名を表示すべきであつたのを、公簿上死者が所有者になつていた関係から死者を買収令書の名あて人としたのであつて、誤記程度の表示の錯誤があつたに過ぎないものではない。

(4)  市町村農地委員会が死者名義の農地について買収計画を定めるには計画当時の真の所有者をさがし、これを確定しなければならない。県農地委員会が市町村農地委員会の買収計画を承認するにも、知事が買収令書を発するにも、所有者を確定することが必要である。自創法第九条によれば、同法第三条の買収は買収農地の所有者に対して買収令書を交付してこれをしなければならない。又買収対価も買収時の所有者に対して支払わなければならない。しかるに、死者に対しては買収令書を交付することができないし、対価を支払うこともできない。即ち、所有者をさがし、確定し、前示の法定手続をとることは、欠くことのできない法定の重要な事項であり、これをしなければ、買収処分は重要手続にかしがあつて無効となると解せられる。

(5)  佐賀市農地委員会も佐賀県知事も、現実の所有者たる不在村地主の農地を買収する内心の効果をもつて、誤つて死者を所有者として縦覧書類を作成したものではない。仮りに内心においては現実の所有者から買収する意思があつたとしても、表示が死者に対してなされたものであるから意思と表示は一致しない。従つて行政行為としては無効である。私法の分野においては私的自治の考え方から要素の錯誤の場合のみ意思表示を無効たらしめているが、公簿上はかかる区別はない。公法の分野ではその行為の正確性を維持するためかかる例外を設けないのである。

(二)  自創法第九条によれば、農地の買収は「当該農地の所有者に対して買収令書を交付してこれをしなければならない」と規定し、買収令書の交付を当該農地の所有者に対してすることが買収処分の効力発生要件となつているのである。しかるに本件農地の買収令書は原告両名に交付されていないのであるから本件買収処分は効力を生じない。

(1)  原告室島は中支方面に出征し、昭和二十一年三月復員してから昭和二十六年三月末まで水戸市朝日町二千九百七十五番地に居住し、同年四月一日現住所に移住し現在に及んでいるのであるから、同原告に対する本件農地買収令書の交付については、「農地等の買収及び売渡事務処理要領第二」(昭和二十二年一月二十日附二二農局第八〇号農政局長より農地事務局長、地方長官宛通達)により、「遠隔不在地主分に対しては地方長官から住所のある市町村の農地委員会に対して直接送達を依頼し直接地方長官に対して受領証及び委任状を返送させる」手続をしなければならなかつたのに、かかる手続をした形跡は全然ない。又原告古賀は昭和十六年南洋方面に出征し、昭和二十二年七月六日復員してから現住所に居住していたのであるから、同原告に対する本件農地買収令書の交付については、前記通達により、「近接町村不在地主の分はそれぞれの町村毎に仕訳して当該町村農地委員会に届けて送達を依頼する。依頼を受けた農地委員会は名あて人に送達し受領証及び委任状をあつめてそれを依頼した農地委員会に戻さなければならない。返戻を受けた農地委員会は受領証及び委任状を地方長官に返戻すること」の手続をしなければならなかつたのに、かかる手続をしていない。そして又本件農地買収処分が買収令書の交付に代る公告によつて行われた事実もない。

(2)  農地が共有である場合には共有者は各自所有者に外ならないから、買収令書は各所有者に対して交付されなければならない。共有者の一人に対する買収令書の交付の欠缺は、買収行為全体の無効を来すのである。このことは買収令書の交付ということの性質からも当然いえるのである。前に述べたように、買収令書の交付は自創法による農地買収処分の効力発生要件であり、その買収処分は、国が一方的権力的手段をもつて憲法によつて保障された私有財産である農地を強制的に買上げるのであるから、買収令書の交付は、個人的にも社会的にも重大な影響を及ぼす処分である。従つて、買収手続の実施、とくに買収令書の交付は、最も慎重かつ適確にされなければならない。買収令書の交付は、買収処分の内容を確実に所有者に知らしめ、かつ速かにその権利関係を確定するとともに、その処分が違法のときは取消又は変更を求める機会を所有者に与えるにふさわしいように行われなければならないのである。買収令書の交付をもつて自創法による農地の買収処分の効力発生要件としていること自体すでにこのことを示すものであり、また買収令書の交付は買収すべき農地の真実の所有者に対してなすべきものであつて、単に登記簿その他公簿上の所有者に対してなすべきではないと解されているのも、そのために外ならない。従つて、自創法第九条にいう買収令書の交付とは、買収令書を農地の所有者がその内容を容易に了知しうる状態におくことと解すべきである。なんとなれば、そのようにすることによつてはじめて所有者は買収令書の内容を確実に知ることができ、買収令書の交付が最も慎重かつ適確に行われたことになるからである。そしてこの間の事情は農地が共有である場合の各共有者に対しても全く同様であるから、買収令書は共有者全員に交付されなければならないものである。共有者が相互に親族でなく、また住居生計を一にするものでもなく、互に遠隔地に居住しているような場合には、一層その必要が大きいのである。

本件において原告両名は共有者であり、かつ、相互に親族でなく、又住居、生計を一にするものでもなく、互に遠隔地に居住しているのであるから、買収令書は二通作成の上それぞれに交付さるべきものであるのに、そのような事実を被告は主張しておらず、また実際そのような事実はないのである。そのことは、当時作成された買収令書(甲第一号証の一ないし四)に令書記載要件である室島の住所の記載のないことからも十分うかがうことができるのである。

(3)  被告は、本件農地の買収令書は原告古賀の養母古賀マサノに交付したと主張するが、その事実は否認する。仮りに被告主張のように本件買収令書を古賀マサノに交付したことがあるとしても、同人はこれを受領すべき権限をもつていなかつたのであるから、右交付は、原告等に対しては何等の効力を生じないのである。

被告は、右古賀マサノに原告両名を代理して買収令書を受領する権限があつたと主張し、その根拠を同人が本件農地の管理人として原告等に代つて本件農地の管理に関する一切の事項を処理していた点に求めている。そこで、仮りに被告主張のように右古賀マサノに管理人としての代理権限があつたとしても、買収令書はこれを代理人に対して交付することが許されるかが、まず問われなければならない。法定代理人の場合はさておき、任意代理人の制度は、もともと私人間の取引関係に関する私的自治の範囲を拡張するために認められてきたものであるから、私的自治の認められない公法関係、とりわけ行政処分を受ける関係には当然には適用なく、とくに法令によつて任意代理人を認められた場合に限り任意代理は許される、と解すべきである(国税徴収法第四条の八、九、所得税法第六十六条)。しかも、買収令書の交付については、前述の交付ということの性質等から考えて、特に、このことが強調されなければならない。国がその国内に住所を有するものに対してする買収令書の交付は原則として現実に可能であり、もし交付が不能のときはこれに代る公告の制度が設けられているのであるから、任意代理人に対てし買収令書を交付する必要はない、といわなければならない。そして農地の買収についてかかることを認めた法規はないから、買収令書を任意代理人に交付することは許されないのである。

仮りに、買収令書の交付について任意代理が認められるとしても、この場合の代理人は前に述べたような理由により、所有者本人から特に買収令書受領の権限を与えられた代理人に限らるべきである。しかるに、古賀マサノは本件土地の管理に関する一切の事項を原告等から任されていたのではない。本件土地の小作料を受領し、これに対する領収証を作成交付することのみを委かされていたのであり、それ以上のことは民法第百三条にいわゆる目的物の性質を変更しない範囲内の利用行為又は改良行為についてさえ権限を与えられていなかつたのである。古賀マサノの権限の範囲は右のとおり明確であつた。原告等は、本件買収令書を受領したり、買収手続に関するその他の事項を処理するような重要な権限を古賀マサノに与えたことはない。従つて古賀マサノに対して買収令書を交付したとしても、原告等に対して交付した効力は生じないのである。

次に被告主張の、古賀マサノがした異議申立も、原告等の代理人としてしたのではなく、死者たる両先代の代理人としてしたものであり、仮りにそれが原告等のためにしたものと認められるとしても、何ら権限のない者がしたものであるから、原告等の異議申立としての効力はなく、従つてマサノに令書の受領権限があつたとする根拠にはならない。かえつて死者の代理人としてした異議申立を佐賀市農地委員会が採り上げて応答しているのは、原告等が前に主張しているところの、佐賀市農地委員会が死者である原告両名先代を実在人なりとして買収計画を樹立したことをうかがわせるものといわなければならない。

また被告主張のように、マサノが長年にわたり小作料を受領し領収証を作成交付しており、かつマサノが生来勉強家かつ有能な信頼さるべき人物であつたことは認めるが、そのことは、原告両名(とくに室島)に対する関係において買収令書を受領する権限があつたか否かについて何ら附加するものでない。そしてマサノが本件農地の買収対価を受領し、その半分を原告室島に渡したからといつて、直ちにマサノに買収令書を受領する権限があつたことにならないことは、買収令書の受領と対価の受領とはその重大性において格段の相違があり、前者の方が重大であることに徴して、明らかである。原告室島は右対価受領の件ではじめて本件農地の買収を知つたくらいである。これを要するに、代理人に対する買収令書の交付は、被告主張のように処分権又は管理権を与えられた者に対してされたかどうかの問題ではなく、単に受領する権限を与えられた者に対して交付されたかどうかの問題であるから、受領の権限を与えられない者に対し(処分権又は管理権があるにしても)、受領の権限ある代理人なりとして買収令書を交付しても、その交付は無効である。

自創法第三条の規定による農地の買収は同法第九条による買収令書の交付によつて効力を生じ、同法第十二条により右令書に記載した買収時期にその所有権が政府に帰属し、右農地に関する権利が消滅するものである。しかるに本件においては以上に詳論したように買収令書が原告両名に交付されていないから、本件買収処分は違法無効である。

(三)  本件農地は買収計画当時農地であつたが、その地形は佐賀市の市街地の中心に位し、農村と異り附近に人家櫛比し、近い将来確実に住宅街となり道路敷地となるような事情にあり、農地の使用目的の変更の計画が確定的であつたから、都市計画法第十二条による「宅地としての利用を増進するため」の土地区画整理を施行する土地及び同法第十六条による道路の施設に必要な土地の境域内にある農地として佐賀県知事がその指定をなすべきであつて、自創法第五条第四号によつて買収の対象から除外さるべきであつた。即ち自創法第五条第四号の規定による買収除外農地であることはすでに客観的に定まつているのであつて、行政庁の自由裁量によつて左右さるべきものではない。従つて本件農地については右自創法第五条第四号の指定基準に該当する農地として右の指定をなすべきであるのにかかわらず、著しく社会通念に反して右の指定をしなかつたのは違法である。かかる違法をあえてしたのは、佐賀市農地委員会が、佐賀市当局と相はかつて、真面目に農地改革を遂行する意思なく、単に都市計画法上の区画整理を容易にするために、自創法の農地買収の方式を悪用したによるものであつて、これ正に農地委員会の権限濫用である。この違法は買収処分の違法を招来するものであり、買収処分を無効ならしめるものである。

(四)  仮りに本件土地が自創法第五条第四号により買収の対象から除外さるべきでないとしても、本件農地は昭和十三年三月二十五日内務省告示第一一二号により佐賀市都市計画地域の住宅地域に指定され、都市計画法の適用されている区域内にあつて、本件買収計画当時において近い将来に宅地等に変更することを相当とする農地(農地としてよりも耕作以外の目的に使用する方がその利用価値を増進するもの)であつたから、自創法第五条第五号にいう「近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地」に該ることは明瞭である。従つて佐賀市農地委員会としては(佐賀県農地委員会の承認を得て)必ず買収除外の指定をすべきであつて、これをしないで買収計画を定めたことは違法である。しかもこの違法をあえてしたのは、同委員会が佐賀市当局等と結託して、本件農地を耕作以外の目的に使用するものとして買収するには多額の補償を払わねばならないところから、自創法による買収に名をかりて極めて安価に買取ろうと考え、当初から農地改革を真面目に遂行しようという意思なく、またこの土地を農地として維持していく意思もなく、自創法による農地買収の形式をとつたものである。これは正に権限濫用であり、かような行政処分は単に違法であるというにとゞまらず、当然無効である。

以上のとおり述べた。(立証省略)

被告指定代理人は、まず「本件訴訟を佐賀地方裁判所に移送する。」との決定を求め、その理由として次のとおり述べた。

原告等が本訴で買収、売渡処分の無効確認を求めている各土地は、いずれも佐賀県下にあり、その買収、売渡手続もすべて佐賀県知事はじめ佐賀県に存する被告の行政庁によつて行われたものである。従つて本訴を当裁判所で審理し、現場検証、証人尋問等を行うとすれば、多額の費用を要し、訴訟の遅延を来すことを免れない。本訴は民事訴訟法第三十一条によつて佐賀地方裁判所に移送するのが相当である。

次いで本案につき、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、次のとおり答弁した。

一、原告の主張事実中、原告等主張の農地がもと原告等の先代古賀義勇、室島鶴吉郎の共有であつたが、右両名が死亡し、原告等が家督相続をして、その所有権を取得し、右土地は原告両名の共有となつたこと、本件農地に対して原告等主張のような買収処分及び売渡処分がなされたことは認めるが、右各処分が原告等主張のごとき理由によつて当然無効のものであるということは争う。

二、本件農地についての買収処分及び売渡処分の手続は以下に述べるようにいずれも適法に行われており、原告等の主張のような違法はない。

(一)  佐賀市農地委員会をはじめ、各行政庁は本件農地の買収手続を行うに際して、本件農地の当時の所有者である原告等両名から買収する意図を有していたものである。本件農地の共有者である原告等のうち室島は茨城県に、古賀は佐賀県小城郡三日月村に居住していて、いずれも当時本件農地の所在地に住所を有していなかつたので、自創法第三条第一項第一号該当地として買収計画を定めるに際し、佐賀市農地委員会は土地台帳及び登記簿上の所有名義人が原告等の先代両名となつていたために、土地所有者の表示を誤つたものである。その結果佐賀県知事も買収令書の発行に際して、誤つて原告等の先代の氏名を表示してしまつた。現在の所有者が不明のため死者から本件農地を買収する意思を有していた訳ではないし、また公簿上の所有名義人が既に死亡しているにかかわらず実在するものと誤認して買収したものでもない。農地の買収処分をする場合においては、買収計画書、買収令書等に現在の所有者である相続人を表示すべきにかかわらず、誤つて公簿上の名義人を表示したとしても、その錯誤であることが社会通念上客観的に容易に認識できるようなときは、現在の所有者である相続人に対してされたものと解すべきであつて、そのため買収処分が当然無効となるものではない。本件各買収処分当時において、原告両名はすでにその先代の家督を相続し、不在地主であつたものであり、かつ本件農地と所有者との関係からいかなる土地を誰を所有者として買収しようとしているかは一見明瞭であつたから、買収手続が死亡者である原告等先代を名宛人として表示して行われたとしても、それが表示の錯誤であることは客観的に明白であるというべく、これをもつて死者に対する買収処分としてその無効を主張することは失当である。

原告は、この点について、市町村農地委員会が公簿面を信頼したため誤つて死亡者名義で買収計画を定めた場合は、現在の所有者は自己を対象とした買収計画であることを知る由もなく、又知り得たとしても自己を対象とする計画でもなく、又縦覧に供せられた書類にも自己の氏名住所が出ていない関係から、異議訴願をすることができず、従つて自創法所定の異議権、訴願権をはく奪されることになる、と主張する。しかし、現在の所有者の氏名住所が買収計画書に記載されたとしても、自創法第六条第五項は、市町村農地委員会は農地買収計画を定めた旨を公告すべきことを要求しているに止まり、所有者に対して通知その他の方法をとるべきことを要求してはいない。ところで、現在の所有者は縦覧書類を閲覧すれば、縦覧書類には買収すべき農地が表示されており、しかも前記のような事情がある以上、社会通念上要求されている程度の普通人の注意をもつてする限り、容易に自己の所有する農地が買収の対象とされていることを知り得るのである。しかも自創法第七条によると、農地買収計画に定められた農地につき所有権を有する者は異議、訴願をすることができるのであるから、死者を買収の相手として表示したからといつて特に相続人である現在の所有者が異議権、訴願権をはく奪されるということはない。

(二)  原告は、本件農地の買収令書が原告両名に交付されていないから買収処分は効力を生じない、と主張するが、右買収令書は、佐賀県知事の命を受けた佐賀県小城郡三日月村農地委員会において、佐賀県小城郡三日月村堀江に居住する原告古賀の養母である古賀マサノに対し、別紙目録第一号土地については昭和二十二年九月頃、同第二号土地については昭和二十三年二月頃、同第三号土地については同年九月頃、同第四号土地については昭和二十四年九月五日、それぞれ交付したのである。

自創法第三条に基く農地の買収は、同法第九条の規定上では「当該農地の所有者に対して買収令書を交付してこれをしなければならない」のであるが、買収令書を所有者本人に代つて受領し得る権能を有する者がある場合には、この者に買収令書を交付することにより所有者本人にこの交付の効果を及ぼして、その農地買収を実現することも差支えないものと解する。公法関係においても、特別規定のある場合又は準用することを不適当とされる特別事情のある場合は別として、私法規定がその準用により公法関係の規律の不備を補充する作用を営み得ることは、一般に認められているところである。かくして公法上の処分を受けることについての代理関係は、民法の準用により公法の分野においても存在し得るのである。ところで本件の場合についてみるに、前記古賀マサノと原告両名との間に長期にわたつて継続していた事実関係を客観的に判断すれば、マサノには本件農地の買収令書を受領するについて原告両名を代理する権限があつたものと考えられるのである。すなわち原告古賀の養父義勇が昭和十三年九月二十四日死亡した後は、マサノが、その養子であり、かつ義勇の家督相続人である原告古賀についてのみならず、原告室島についても、その管理人として本件農地を管理し、本件農地の小作人であつた大石国八等から毎年小作料を受取り、領収証を作成の上交付してきたものであり、そして、この管理行為は本件買収前まで約九年余もつづいていたのである。この事実に対しては、本件農地所有者たる原告等はもちろん、小作人等その他地元の人々も、これを否認したり疑念をいだいたりしたようなことは全然なくすごしてきており、原告古賀の応召不在及び原告室島の東京在住のため、いよいよマサノは地元における本件農地の管理人として中心的地位を占め、本件農地の管理に関する一切の事項を処理していたのである。またマサノは生来勉強家であり、かつ有能な人物であつたから、原告室島も何等の不安もなく同人を信用してこれに本件農地の管理を一任していたのである。なお本件農地のうち昭和二十二年五月二十五日公告の農地買収計画にかかる農地について、マサノは、同年六月三日原告等の代理人として自創法第七条第一項の規定に基く異議を佐賀市農地委員会に対して申立て、これに対し同委員会は、同年六月十三日同人に対し、この異議申立の件について同年六月十六日午前九時から佐賀市会議場において委員会を開催審議するにより出席ありたいという趣旨の通知を発し、次いで同月二十五日同人にあて異議申立は否決と決定したという旨の通知をした。更にまた本件農地の買収対価はマサノが日本勧業銀行佐賀支店からこれを受領し、その半分を原告室島に渡しているから、この点からみても、マサノは、本件農地については、少くともその管理に属する事項である限り原告両名から代理権を与えられていた、とみるのが相当である。

この点について、マサノに本件農地の管理人としての限度において代理権があつたことは認められるとしても、元来管理人の代理権の範囲は特段の定めがない以上民法第百三条に規定する保存行為、利用行為、改良行為に限定されているから、目的物の処分行為をしたと同様な効果をもたらす農地買収令書の受領行為のごときは権限外の事項として、マサノには買収令書受領の権限はない、というような論をなすものありとすれば、それは農地買収処分の性格を知らない謬論というの外はない。すなわち農地買収は、国の一方的処分による農地所有権の原始取得で、所有者の何等の協力を要しない行為であつて、買収令書の交付は単にこの処分を所有者に一方的に通知してこれを知らしめる行為であるにすぎない。従つてこれを所有者の代理人に交付することができるとする以上、その代理人は管理権ある代理人であれば足り、あえて処分権ある代理人たることを要しないのである。

(三)  原告等は本件農地は自創法第五条第四号の指定基準に該当するから当然買収の対象から除外さるべきであつたと主張するが、自創法第五条第四号は都市の発展と自作農の創設との調整を目的とした規定であつて、同条によつて都市計画法第十二条に基く土地区画整理地区内のいかなる農地を指定するか、また都市計画法第十六条の都市計画事業の施設に必要な土地とされているもののうち、いかなる区域の農地を指定するかは、都道府県知事の行政的自由裁量に委ねられているものと解すべきである。のみならず仮りに都道府県知事がその認定を誤り、自創法第五条第四号の指定をすべきにかかわらず指定をせずに買収が行われた場合に、その買収が違法となるとしても、右の指定をすべきかどうかは買収計画当時の客観的事情を基礎として判断さるべきであり、一旦有効であるとされた買収処分がその後の新たな事情の発生によつて無効となるものではない。本件農地は後述するように都市計画施行地区内にはあるが、土地区画整理地区内にかつて属したことがない。また買収計画当時本件農地には都市計画法第十六条の都市計画事業に必要な施設についての計画が何等存在しなかつたので、佐賀県知事が本件農地について自創法第五条第四号の指定をしなかつたのである。従つてこれを買収したのは何等違法ではない。

佐賀市は県庁所在地という以外みるべき商工業もなく、県庁所在地としても全国最低人口に近い六万五千(買収当時)の田園都市であつて、市内の住宅地区、商業地区に指定された地域内にも随所に農地が散在し(従つて現に自創法によつて買収売渡された農地が多数存在する)、また昭和十三年に決定された都市計画も机上計画の域を出ず、本件農地の買収計画当時ほとんど具体化されたものがなく、佐賀市都市計画地域内には区画整理地区は国鉄佐賀駅附近の地区一カ所あるのみであつて、本件農地はもちろんこれに含まれていない。

原告等はまた、本件農地は佐賀市の市街地の中心に位し、農村と異り附近には商店、住宅等櫛比しているという点からみても、近い将来確実に住宅街なり道路敷地となるような事情にあつたというが、本件農地の買収計画のあつた当時は、本件土地附近に現在存在する商店住宅等の建設計画すらなく、これらは昭和二十五年以後において建築されたものである。従つて佐賀市当局と同市農地委員会とが相はかつて、都市計画のために利用する目的をもつて自創法の買収権を濫用した、という原告等の主張は、明らかに失当である。

(四)  原告等は更に、本件買収計画樹立の際、本件各農地は自創法第五条第五号にいわゆる「近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地」に該当していたにかかわらず、佐賀市農地委員会が買収除外の措置をとらないで買収計画を定めたことは、同農地委員会と佐賀市当局とが結託して、自創法に名をかり極めて安価にこれらの土地を耕作以外の目的地に使用せんとしたのであつて、正に権限の濫用である、と主張するが、佐賀市農地委員会は原告主張のような意図を全く有していなかつたのであり、かつ当時本件各農地については原告等主張のような近く土地の使用目的を変更するを相当とするような事情がなかつたのであるから、原告主張のように買収を無効ならしめるものではない。仮りに近く土地の使用目的を変更するを相当とする農地であるにかかわらず、これを買収したという事実があつたとしても、それは単なる認定の誤りにすぎず、本件買収処分を当然に無効ならしめるものではない。(立証省略)

三、理  由

まず被告の移送の申立について考えるのに、本訴を当裁判所で審理判断するについて、とくに著しい損害又は遅滞を招くものとは認められないので、被告の右申立を却下し、次に本案について判断する。

別紙目録の第一ないし第四号の土地がもと原告古賀の先代義勇及び原告室島の先代鶴吉郎の共有であつたところ、右両名の死亡によつて原告両名が家督相続をして、右土地は原告両名の共有となつたこと、本件農地について原告等主張のように買収処分及び売渡処分がされたことは、当時者間に争いがない。

そこで本件農地の買収処分が原告等主張のように違法であり、その違法が右買収処分を当然無効ならしめるものであるか否かについて、判断を与える。

一、まず、原告等は、本件農地の買収処分は、本件農地の真実の所有者である原告等についてされず、死者である原告等の先代古賀義勇、室島鶴吉郎を相手方としてされたものであるから、当然無効である、と主張する。

政府が自創法によつて農地を買収するには、市町村農地委員会の定めた農地買収計画によらなければならず(法第六条一項)、そして市町村農地委員会は、農地買収計画を定めたときは、遅滞なくその旨を公告しかつ公告の日から十日間市町村の事務所において買収すべき目的物の所有者の氏名及び住所等を記載した書類を縦覧に供しなければならない(同条第五項)。ところで、本件農地に関する買収計画、その公告及び書類の縦覧等の一連の手続には、いずれも当時既に死亡していた原告等の先代古賀義勇、同室島鶴吉郎が相手方として表示されており、かつ本件農地の買収令書にも、本件農地の所有者として右両名が表示されていたことは、被告の明らかに争わないところである。

およそ政府が自創法に従つて農地を買収するに当つては、単に登記簿上の記載に従つて所有者を定め、これを相手方として買収処分を行うべきでなく、真実の所有者を相手方として買収処分を行うべきものであることは、自創法第一条に明らかにされた同法制定の趣旨から十分理解されるところであるのみならず、同法が、農地買収についての基準を、不在地主の農地であるか、地主が農地を自作しているか或いは小作人に小作させているか等、農地とその所有者との間に存する現実の関係にかからしめていることに照らして明らかである。したがつて、本件において、真実の所有者である原告等を相手方として表示せず、登記簿上の所有者であり、当時すでに死亡していた原告等の先代を相手方として表示して行つた本件農地の買収処分は、この点にかしを帯び、違法であるといわなければならない。

しかし右の違法が本件買収処分を当然無効ならしめるものであるかについては、更に検討を必要とする。自創法による自作農創設事業は、いうまでもなく、わが国の画期的な大事業で、短期間に全国にわたり大量に農地の買収を行わなければならないものであつた。かように、大量な行政処分を、急速に行うことを要請された以上、個々の農地について、登記簿その他の公簿をはなれて真実の所有者をさがすことは、事実上相当困難であり、公簿の記載を一応真実に合するものと推定して、これに基いて市町村農地委員会が、農地所有者を定めて手続を進めて行くことも、またやむを得ない場合あり、としなければならない。もし、真実の所有者と登記簿上の名義人とが合致しない場合、右の違法処分はことごとく当然無効なりとして、真実の所有者が、出訴期間に何等の制限を受けない無効確認の訴を起すことが許されるとすれば、自創法によつて創設しようとした自作農の権利関係は長く不安定な状態に置かれ、従つて急速かつ広範に自作農を創設してわが国の農村の民主化と農業生産力の発展とを図るために制定された自創法の根本精神が没却されることになるおそれがある。かように考えると、何等の権原、根拠なくして登記簿上の所有名義人となつた者を所有者として買収処分をしたような場合は別として、本件のように、原所有者の死亡によつて相続人が農地所有権を承継取得したのに、買収処分までその相続登記をしなかつたために、登記名義が変更されずに残つていたような場合において、佐賀市農地委員会その他の行政庁が、死者の名義を対象として農地買収計画をたてかつこれに続く買収手続に及んだことは、真実の所有者である原告両名から買収する意図を有しながら、登記簿上の所有者として原告等の先代が登載されていたため誤つて死者である原告等の先代を所有者と表示したものと認めることが相当であつて、そのかしは当該行政処分を当然無効ならしめるほどの重大明白なものということはできない。

即ち、本件農地の買収について、死者である原告等の先代古賀義勇、室島鶴吉郎を本件農地の所有者として表示した一連の買収手続は、かしがあつて違法ではあるが、これがために本件買収処分を当然無効ならしめるものではない、といわなければならない。この点に関する原告等の主張は理由がない。

二、次に、原告等は、本件農地の買収令書は原告両名に交付されていないから、本件買収処分は無効である、と主張する。

自創法第九条第一項は、「第三条の規定による買収は、都道府県知事が前条の規定による承認があつた農地買収計画により当該農地の所有者に対し買収令書を交付して、これをしなければならない。」と明定している。本件において、買収令書がじかに原告両名に交付されたとは、被告も主張していない。ところで、さきに認定したように、本件買収処分が死者である原告等の先代両名を相手方と表示して行われたことは表示の誤りであり、原告両名を相手方として本件買収処分は行われたのである。そして、本件買収令書の交付当時、原告古賀は佐賀県小城郡三日月村の現住所に、原告室島は茨城県に、それぞれ居住しており、そのことを本件農地委員会等が知つていたか、少くとも知り得たことは、弁論の全趣旨に徴し認めうるところであるから、佐賀県知事としては、原告等に対し買収令書を交付することができたはずであり、またそうしなければならなかつたのである。(もし原告等の所在が不明であつたとすれば、買収令書の交付に代えて公告の手続をとることができたのであるが、本件において右の公告をしなかつたことは、弁論の全趣旨から明らかである。)

およそ自創法による農地の買収は、前にも述べたとおり、自作農を急速に、かつ広範に創設し、わが国の農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進をはかることを目的としたもので、その方法は、任意の買取りではなく、政府の公権力によつて相手方の同意を得ずに強制的に農地を買上げ、その所有権を失わしめるものであるから、農地の所有者は、当該農地の買収について重大な利害関係を有するものである。自創法が農地所有者に一定の救済手段を与えたのもそのためである。すなわち、農地について所有権を有する者は、買収計画について異議あるときは市町村農地委員会に対し異議を申立て、それに対する決定に対して不服があるときは都道府県農地委員会に訴願し(法第七条)、更にその裁決に対しては行政訴訟を提起することができるのである(法第四十七条の二)。しかし自創法は市町村農地委員会が買収計画をたてたときは遅滞なくその旨を公告し、かつ公告の日から十日間買収計画に関する書類を市町村の事務所において縦覧に供することを規定しているに止まつて、買収計画を所有者に通知するようなことを要求していない。従つて、所有者は自ら進んで書類を縦覧しない限り、異議訴願の機会を逸することになるであろう。このようなわけからしても、特に買収令書の交付ということが重要になつてくる。土地所有者は買収令書の交付を受けることによつて買収処分の内容を最も確実に知ることができ、買収に関し(もし処分が違法であれば)取消を求める、いわば最後の機会を与えられるわけである。自創法第四十七条の二の第一項は、「この法律による行政庁の処分で違法なものの取消又は変更を求める訴は、……当事者がその処分のあつたことを知つた日から一箇月以内にこれを提起しなければならない。但し、処分の日から二箇月を経過したときは、……訴を提起することができない。」と規定しているから、若し買収令書の交付が現実に所有者に対してされず、そしてそれで差支ないということになれば、所有者は知らぬ間に自己の所有農地を買収され、それについての救済手段を不当に奪われるようなことになるからである。

しかも買収令書の交付は買収処分の効力発生要件であつて、これによつて国が所有権を取得するものであるから、本件において原告等に本件農地の買収令書が交付されていない以上、本件農地に対する買収処分は、行政処分としては無効である、といわざるを得ない。もつとも、被告は、この点について、本件買収令書は原告等の代理人である古賀マサノに交付したから、結局原告両名に買収令書を交付したと同じことになる、と主張するが、右に述べたような買収令書交付の重要性にかんがみるときは、仮りに代理人に対する交付を有効と認めなくてはならない場合があるとしても、それは代理人がとくに買収令書受領についての代理権限を与えられた場合に限る、と解するのが相当である。ところで本件において、かような意味で古賀マサノが原告等両名に代つて本件買収令書を受領する権限を与えられていたということについては被告において何ら主張立証するところがない。被告主張のように古賀マサノのが本件農地について管理人として原告等を代理する権限があつたとしても、そのことから直ちに本件買収令書を受領する権限ありと認めることは到底できないのである。この点に関する被告の主張は理由がない。

以上に述べたように本件農地の買収処分は、被告が原告等に対して買収令書を交付してこれをしていないから当然無効であり、従つて、被告がこの買収処分が有効であることを前提としてした本件各売渡処分も亦当然無効である、といわなければならない。

本件農地の買収処分及び売渡処分の無効確認を求める原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がある。よつてこれを認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新村義広 入山実 石沢健)

(目録省略)

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