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東京地方裁判所 昭和28年(モ)12443号 判決

当裁判所が昭和二十八年(ヨ)第六四三四号不動産仮処分申請事件について、同年九月二日なした仮処分決定中別紙<省略>第二目録記載の土地についての部分は、申立人において金三百万円の保証を立てることを条件にこれを取消す。

申立人その余の本件申立はこれを却下する。

訴訟費用はこれを二分しその一を申立人その余を被申立人の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することを得る。

二、事  実

申立人代理人は、当裁判所が昭和二十八年(ヨ)第六四三四号不動産仮処分申請事件について、同年九月二日なした仮処分決定は保証を立てることを条件にこれを取消すとの判決を求め、その理由として、

一、被申立人は、別紙第二目録記載の土地の借地権並に別紙第一目録記載の建物は被申立人の所有であつたが、これを昭和二十七年十二月二十三日申立人に代金百五十万円にて譲渡し、昭和二十八年二月十九日右建物につき所有権移転の登記を経たが、申立人は代金六十万円を支払わないので被申立人は同年七月十日申立人に到達した内容証明郵便により右金六十万円を郵便到達後十日以内に支払うこと、右期間内にその支払のないときはこれを条件に前記契約を解除する旨の意思表示をなし、申立人は右金員の支払をしなかつたので、右契約は同月二十日解除されたものと主張し、建物所有権移転登記抹消並に土地明渡請求の執行保全のため、申立人を仮処分債務者として東京地方裁判所に仮処分申請をなし、同裁判所は昭和二十八年九月二日「申立人の別紙第二目録記載の土地に対する占有を解いて、執行吏にその保管を命ずる。執行吏はその現状を変更しないことを条件として、申立人にその使用を許さなければならない。申立人はこの占有を他人に移転し、または占有名義を変更してはならない。申立人はその所有名義の別紙第一目録記載の建物に対し譲渡質権抵当権の設定その他一切の処分をしてはならない」等の趣旨の仮処分決定をなし、右決定は同月五日執行されたのである。

二、申立人は、昭和二十年九月以来前記建物に戦災、引揚等の住宅困窮者を無償で収容しその救済を行つてきたが、前記建物、土地を中心として協同隣保的な小文化都市「三和郷」を建設する構想をいだいて、昭和二十七年に至るまで共同炊事所、共同洗濯所、共同農園、児童遊園地等を設け、他方生活相談、授産、児童保育、民生保護等の運動を行い、昭和二十七年十月右構想を可能範囲に限定して三和荘アパートメントハウスセンターに改め、先づ住宅商店の建築に主力を注ぐことにし昭和二十八年三月以来建築計劃に必要な資金の調達を図り、前記土地の所有者に坪当り金千円の権利金を支払うことを約定して地目変更、埋立、転貸等の承諾を得て、昭和二十八年八月より同二十九年五月までの間に前記土地上に住宅店舗等百戸を金五千万円の資金で建築する計劃を立て、昭和二十八年八月第一期工事住宅六棟の建築許可を得て同月二十四日着工し九月四日その建前を了したものである。申立人は更に第二期工事にも着工せんとして建築計劃を進め、これらの工事のため常備として五名を雇傭し大工左官その他の建築関係者と継続的契約関係を結び、尨大な木材その他の資材を買入れ、既に第三期工事までの木材は搬入ずみである。

かような事情にあつたところ前記仮処分決定の執行を受けたので、申立人は右建築工事を中絶せざるを得ない結果となり、これがため四日に一軒完成予定の完成建物を売却して資金を回転することも不可能となりて、多額の材料代金、雇傭者請負人に対する給料等の支払に窮し、更に前記仮処分決定のため正常な融資の道もふさがれ、前記建築計劃は崩壊の寸前にある状態である。而して、前記土地は低湿地の田畑にして埋立、私道、整地等に多額の費用を要し、申立人は地代、権利金、保全費等合計金百七十六万円を既に右土地につぎこんでいるのであつて、前記事情と併せる時は、前記仮処分決定の執行により申立人の被る損害は甚しく尨大にして、到底普通の損害と言い難いものである。

三、被申立人は、昭和二十五年十一月解散した清算中の会社であつて、前記土地建物を申立人よりとりもどしても、自ら使用する必要なくこれを換価しなければならないものである。従つて、被申立人が前記仮処分決定の取消によつて被る損害は軽微なものであり、被申立人が被保全権利として主張する前記土地建物の明渡請求権は金銭賠償によつてその満足を得られるものである。

四、以上の事情は民事訴訟法第七百五十九条にいう特別事情であるので、本件申立に及んだのであると述べた。<立証省略>

被申立人代理人は、本件申立を却下する訴訟費用は申立人の負担とするとの判決を求め、申立人の主張に対し、

一、申立人主張の一の事実は認める。然しながら、前記仮処分決定の執行の当時既に申立人が別紙第二目録記載の(10)の土地はこれを訴外鈴木秀雄に賃貸し、また同目録記載の(4) 、(13)、(14)の土地はその地上の建物を訴外三交物産商事及び三水物産株式会社に賃貸し、更に同目録記載の(8) の土地はこれをその所有者より坪当り金千円で買受け他に金八千円で転売したものであつて、いずれも執行不能に終つたものである。

二、申立人主張の二の事実は不知である。申立人主張の建築計劃なるものは確たる根拠なき架空なもので、仮にこれがはばまれても何等実害を生ずるものではない。申立人は前記仮処分決定によつて、前記土地の賃借権を譲渡したり又は前記土地を転貸して不当な権利金を取得することを禁ぜられたるに過ぎなく、前記仮処分決定は申立人の進行中の建築工事を禁止したというのでなく、何等建築にも着手していない爾余の土地に対する現状不変更を命ずるものに過ぎないし、殊に前記のように執行不能に了つた部分が多くこの部分についての建築は可能であるので申立人の被る損害は被申立人が右仮処分決定の取消による被る損害に比すれば誠に僅なものと言うべきである。また、別紙第一目録記載の建物については前記仮処分決定はその処分を禁止しているに止り申立人の支配力に何等の消長なく、特段に改造修理を要する事情もないので、右建物につき仮処分取消の特別事情の存しないことは一点の疑もない。

三、被申立人が申立人主張の如く解散し現に清算中の会社であることは認める。前記建物は被申立人が昭和十六年中独身従業員の寄宿舎として建築したものであつて、申立人をその舎監として雇入れたところ、申立人は終戦後これを戦災者に開放することを求め、被申立人は已なく昭和二十一年三月末までを限りこれを承諾したのに、申立人はその後に至るもこれを返還せず遂に被申立人の当時の代表清算人中村貴美より時価金二千万円に近きものを僅か代金百五十万円にて譲渡するに至つたものであるが、前記建物並に土地の借地権は被申立人の唯一の財産にして、被申立人はこれを高価に処分しなければ清算は全く不能に帰し多数債権者に迷惑をかけ金一千万円余の滞納税金も納付出来ない事情にあるものである。

四、前記仮処分決定が取消されるにおいては、申立人の前記行動よりみて、申立人が直に前記土地の借地権を他に処分することは明にして、譲受人が建物を建築するときは被申立人はその収去を求め得なくなり結局申立人に対し金銭賠償を求めるほかなく、その額は土地の価額の上昇しつゝある今日算定不能の多額にして、また申立人において前記土地に建物を建築するとせば、被申立人は当然その収去を求めるほかなく、これは社会経済上の見地からするも少からざる損害を招来することとなるのである。かような事情からすれば前記仮処分決定の取消により被申立人の被る損害は極めて大にして、これに比すれば申立人の被る損害は僅少と言うべきであるので、申立人の主張はその理由のないものであると述べた。<立証省略>

三、理  由

申立人主張の一の事実は当事者間に争のないところにして、これによれば、被申立人は別紙第一目録記載の所有権並に別紙第二目録記載の土地についての賃借権を主張し、建物については登記抹消請求権、土地についてはその明渡請求権を保全するため右仮処分申請に及び当裁判所が右建物につき処分禁止右土地につき占有移転禁止の仮処分決定をなしたことが明である。

よつて先づ右土地の仮処分について本件申立を案ずるに、被申立人が昭和二十五年十一月解散し現に清算中の株式会社であることは当事者間に争のないところにして、土地の明渡請求は通常その占有を得てこれを使用収益するにその目的の存するものと言うべきにして、これに代うるに金銭賠償を以て仮処分債権者を満足せしめ得るものとは断じ得ないが、右のように仮処分債権者が清算会社である場合においては、特段の事情の疏明のない限り、土地の明渡を受けてもこれを自ら使用収益することなくこれを他に処分して消算に充てるものと認めるを相当とするを以て、被申立人の被保全権利として主張する前記土地の明渡請求権は、その実現に代えて金銭賠償を以てするも窮極において略同価値の満足を得られるものというほかない。而して、被保全権利についてのかような事情は、仮処分債務者の側における他の事情を考慮するまでもなく、民事訴訟法第七百五十九条にいう特別事情に該当するものと解するを相当とするので、申立人は保証を供与して前記仮処分決定中前記土地に関する部分の取消を求め得るものといわざるを得ない。

よつて、その保証につき案ずるに、前記仮処分決定が取消されるにおいては、申立人が右地上に建物を建築してこれを他に売却し或はその賃借権を譲渡し又は転貸して他の者をしてこれを使用せしめる虞のあることは、当裁判所において成立を認める乙第一号証に照し窮い得るところにして、かような場合においては被申立人は前記土地の賃借権を喪失する虞がありこれによつて賃借権の価額に相当する損害を蒙る虞のあるものというべきところ、これらの事情と当裁判所において成立を認める乙第三号証甲第十二号証の一乃至三により窺い得る右土地の賃借権の価額、申立人が右土地に費した金額、被申立人が右土地の賃借権を他に処分する場合の事情等を併せ考えるときは、金三百万円の保証を以て相当と考えざるを得ない。

次に、前記建物の仮処分につき本件申立を案ずるに、登記抹消請求権を保全するため右建物の処分禁止の仮処分決定をなした場合においては、たとい仮処分債権者において右建物を使用収益することなく他に処分してその金銭的価値を利用せんとすることが明な場合においても、右登記抹消請求権がその実現に代え金銭賠償を以て満足せしめられるものとは断じ得ないと考えられるので、申立人のこの点の主張は採用することが出来ない。申立人が右仮処分決定により通常被る損害より甚しく大なる損害を受けている点についてはこれを一応認めるに足る何等の疏明もないのでこの点の申立人の主張もまた採用出来ない。右仮処分については、他に民事訴訟法第七百五十九条にいう特別事情と判断するに足る事情が認められないので前記仮処分決定の取消を求める申立はその理由なしとしてこれを却下するほかない。

よつて、当裁判所が先になした仮処分決定中別紙第二目録記載の土地に対する部分は申立人に金三百万円の保証を立てることを条件にこれを取消しその余の申立人の申立は理由なしとしてこれを却下し訴訟費用並に仮執行の宣言につき民事訴訟法第九十二条第七百五十六条の二を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 脇屋寿夫)

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