大判例

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東京地方裁判所 昭和28年(モ)15494号 判決

当裁判所が昭和二十八年(ヨ)第四〇九二号有体動産仮処分申請事件について、同年十二月七日なした仮処分決定は申立人において金五十万円の保証を立てることを条件として、これを取消す。

訴訟費用は被申立人の負担とする。

この判決は仮に執行することを得る。

二、事  実

申立人代理人は、当裁判所が昭和二十八年(ヨ)第四〇九二号有体動産仮処分申請事件につき、同年十二月七日なした仮処分決定を保証を条件として取消すとの判決を求め、その理由として、

一、東京都杉並区荻窪三丁目九十番地所在の家屋番号同町九十番の二木造トタン茸二階建映画館一棟建坪百六十一坪二階二十五坪五合及びその附属設備はもと訴外株式会社荻窪文化劇場の所有であつたが、滞納税金徴収のため公売処分に附され、申立人は昭和二十八年十一月二十五日代金一千十万五千円にて競落し同年十二月九日その移転登記を経、右附属設備たる別紙目録<省略>記載の浄化槽設備をも取得し、同年十二月五日より右建物において映画興業を経営しているものである。

二、然るに、被申立人は右浄化槽設備を右会社より買受け、これを右会社に賃貸中のものなりと称し、その引渡請求権保全のため申立人を仮処分債務者として東京地方裁判所に仮処分申請をなし同裁判所は昭和二十八年(ヨ)第四〇九二号事件として審理の上同年十二月七日「申立人の別紙目録の物件に対する占有を解いて執行吏に保管を命ずる、申立人は右物件を使用してはならない」等の趣旨の仮処分決定をなし同月九日その執行がなされた。

三、而して、前記会社には前記公売処分を不満とし、申立人の前記営業を妨げんと被申立人と謀り、被申立人において前記仮処分申請に及んだものにして、更に右会社は被申立人と共に前記仮処分決定を理由に東京都杉並保健所に対し申立人の前記営業の停止を要請し、或は前記建物の敷地の所有者訴外藤沢乙安と謀りその賃貸借の承継を拒絶せしめる等申立人の前記営業を妨害せんとしているものである。

四、被申立人は前記浄化槽設備を金百万円にて買受け、これを一ケ月金二千円の賃料にて前記会社に賃貸していることはその主張するところにして、仮に然りとすれば被申立人の前記仮処分における被保全権利は金銭賠償を以てその目的を達し得るものであり前記仮処分決定の取消によつて被る損害はその被保全権利を喪失するとしても金百万円であり、引渡の遅延による損害は右賃料に過ぎないものである。これに反し、前記浄化槽設備は前記建物の背面に接して長さ十八米余巾二米余深さ約三米のセメント製長方形地下構築物にして地表の数個の鉄製マンホールがあり、これより汚滓を汲み取り得るものにして、集積された糞尿が第一槽で醗酵分散し第二槽で更にこれを繰返して単なる汚水と化し下水道に流出する設備にて、前記仮処分決定により申立人がその使用を禁ぜられたるため、申立人は前記建物の便所の使用を妨げられ、かくては多数の観客を収客する映画興業は中止の已むなきに至り、前記多額の資金を投じて右建物を取得した申立人は莫大な損害を被るに至り、且右興業に従事する十人の使用人は生活の途を失う等回復すべからざる損害を被るものである。以上いずれの事情も民事訴訟法第七百五十九条にいう特別事情に当るので、前記浄化槽の取得価格である金百万円または裁判所の相当とする保証の条件として前記仮処分決定の取消を求めるため本件申立に及んだ。

と述べた。<立証省略>

被申立人代理人は、申立人の取消申立を却下するとの判決を求め、申立人の主張に対し、

一、申立人主張の一の事実は次の点を除きこれを認める。即ち申立人はその主張の建物と他十二点の動産を入札の方法により形式上その所有権を取得したものにして、別紙目録記載の浄化槽設備はこれを取得したものでなく、また営業は無許可にてはじめ昭和二十八年十二月十日その許可を得たものである。申立人主張の二の事実は認めその余の事実はこれを争う。

二、前記浄化槽設備は被申立人の所有に属し、申立人が右建物において映画興業をなすにおいては、必然的に糞尿が右浄化槽に流入し、被申立人はその所有権を侵害されるので、被申立人は東京都に対しかような侵害の結果を来さざるよう配慮を求め、また申立人に対しても警告したが、申立人は無許可にて営業し次いで東京都は違法にこれを許可したものである。申立人はかように信義に反しているので、仮に特別事情があつてもこれを理由として仮処分取消の申立をなし得ないものである。

三、申立人は前記の如く昭和二十八年十二月五日より前記建物において映画興業をなし、前記仮処分決定後もこれを継続し休業した事実はないので、前記仮処分決定により何等その営業に支障を来していないので、特別の損害を被るものでなく、民事訴訟法第七百五十九条にいう特別事情は存しない。

と述べた。<立証省略>

三、理  由

申立人主張の一の事実は当事者間に争のないところである。

よつて、申立人主張の特別事情につき案ずるに、証人加藤正四の証言により成立を認め得る甲第一号証の一、二同証言証人大島一郎同石原繁の各証言成立に争のない甲第四号証乙第五号証第七号証を綜合すれば、

一、別紙目録記載の浄化槽設備は、申立人主張の建物(映画館)の裏側空地の地下に存する巾一間半長さ八間の水槽にして、右建物内には水洗式便所大小十五個存し連絡溝を以て右水槽に連り、右便所より流出する糞尿は右連絡溝を経て右水槽に流入し同所において浄化され、単なる汚水に化しポンプにより下水道に排出されるよう設備され、地表には十数個のマンホール存在する設備なること。

二、右建物は映画館として建築され、これと共に右浄化槽設備も右映画館の観客等三百五十二人分の便所浄化装置として設置されたものであること。

三、映画興業に便所の施設欠くべからざるものにして、右建物において右浄化槽設備を使用せざるときは、前記連絡溝において汲み取るほか前記便所を使用する途なきこと。

を一応認めることが出来る。而して右事実によれば、前記浄化槽設備は前記便所と連絡一体をなし前記建物(映画館)内の糞尿処理を目的とする設備にして、前記建物を映画興業に使用し得るか否かについても密接な関連を有し、これを分離するときはその機能を失い設備の目的を果し得ない関係にあるものと認めるを相当と考える。かような関係にある設備はその一部が使用禁止されるときは直にその機能を失い設備全体の使用禁止と同様の結果を来すものというべきを以て、前記浄化槽設備についての前記仮処分決定の執行により、申立人の被る損害は、右執行により前記関連が中断され前記便所ひいては前記建物を映画興業に使用するに支障を来すことにより被る損害をも含み、前記浄化槽設備が前記関連を有しない場合の損害と同一に論ずるを得ず、右損害は前記関連から生ずる特別の損害と考えざるを得ない。尤も証人石原繁同折原国照の証言によれば、申立人が前記連絡溝において糞尿を汲み取り前記建物において映画興業を継続していること及び右汲み取りのため一ケ月約六百余円を支出していることは一応認められるが、これを以て前記便所の前記関連における使用に差支えなきものと断ずるを得ずまた右特別の損害を否定するに由なきものと考える。然らば、申立人が前記仮処分決定の執行により被る損害は特別の損害にして、申立人のその余の主張を判断するまでもなく、かような事情は民事訴訟法第七百五十九条にいう特別事情に該当するものというべきを以て、前記仮処分決定は申立人に保証を立てしめてこれを取消し得べきものというべきである。

よつて、保証につき案ずるに、前記事実に照せば、前記浄化槽設備は前記建物内の便所ひいては同建物と共に占有使用するに非ざればその機能を果し得ないものと認められるので前記仮処分決定はすべてこれを取消すを相当とすべく、その取消あるときは前記浄化槽設備は申立人の占有に帰し、申立人はこれを使用し或はこれを前記建物と共に他にその占有を移転する虞あることを否定し得ないので、被申立人の被る損害は使用による設備の損耗と占有移転等による引渡の遅延等による損害というべきにして、債務者本人訊問の結果成立を認め得る乙第三号証に照し認め得べき前記浄化槽設備の価額及びその賃料等を考量し、前記保証金額は金五十万円を以て相当と考える。

よつて、申立人の本件申立を相当と認めて認容し、訴訟費用並に仮執行の宣言につき民事訴訟法第八十九条第九十五条第七百五十六条の二を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 脇屋寿夫)

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