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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)1186号 判決

原告 布施栄三郎

被告 国

一、主  文

債権者原告、債務者星製薬株式会社間の東京地方裁判所昭和二十七年(ル)第五一八号電話加入権差押事件について、昭和二十八年二月十三日同裁判所が作成した、被告に配当金総額六十五万八百二十八円を配当する旨の配当表を変更し、原告にその全額を配当する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、請求の原因として、また被告の主張に対して、次のとおり述べた。

一、事実関係

原告は昭和二十七年十月二十日星製薬株式会社を債務者として、東京地方裁判所に電話加入権差押命令を申請し(同裁判所昭和二十七年(ル)第五一八号事件)、同裁判所はこれを容れて電話加入権差押命令を発し、その命令は同年十月二十二日右債務者会社及び第三債務者日本電信電話公社に送達された。そして原告の申請により同裁判所は右差押電話加入権の換価命令を発し、その命令は昭和二十七年十一月八日右債務者会社及び第三債務者日本電信電話公社に送達され、同年十二月三日東京地方裁判所執行吏が差押電話加入権を換価して、売得金を領収した。

次いで原告は昭和二十七年十二月二十五日附の計算書提出命令にもとづき、昭和二十八年一月十四日差押債権額を金三百九十九万七千五百円とする計算書を執行裁判所たる東京地方裁判所に提出した。

ところが被告(東京国税局長)は、執行吏が換価手続によつて売得金を領収した後である昭和二十八年二月四日、執行裁判所に対して、右債務者会社に対する国税合計金一千七百三十三万六千九百二十八円の交付要求をした。そして執行裁判所たる東京地方裁判所は、昭和二十八年二月十三日の配当期日に、出頭した原告に対し、前記売得金中の配当金六十五万八百二十八円を全額被告に配当し、原告に対する配当額は無いという配当表(他に配当要求をした債権者はなかつた)を呈示したので、原告は直ちに右配当に対して異議を述べた。

二、被告の交付要求は、本来交付要求をすべき時期に遅れてしたものであつて、適法でない。

一般に配当要求は換価手続終了の時までにすることを要する。強制執行手続において、配当手続に入るためには配当要求債権額が確定していることを必要とするから、換価手続の終了後は執行債権額の増加を認めないのが原則である。従つて配当要求ができる時期はその前に経過していなければならないのであつて、民事訴訟法もこの立場から、各種の強制執行の場合に配当要求ができる時期を、目的物の換価終了の時までと限つているのである(民事訴訟法五九二条、六二〇条、六四六条)。換価手続の終了とは執行機関が換価を終えた時、つまり執行吏が売得金を領収した時である。されば本件電話加入権に対する強制執行の場合も、配当にあずからんとする債権者は、執行吏が売得金を領収した昭和二十七年十二月三日までに配当要求をしなければならなかつたわけである。

ところで国税の交付要求は、国税の徴収に関する一種の滞納処分とみるべきであるが、それは、滞納処分の目的となる滞納者(債務者)の財産に対して、他の執行機関による強制執行が現に行われているときは、その財産に対して、重ねて国税の滞納処分をすると、行政権と司法機関の権限とが交錯することになるから、これを防ぐために滞納処分によることなく、すでに進行している強制執行に参加して、その換価金から国税債権の弁済を受けさせようという主旨で設けられた制度である。従つてその手続は、特別の定めがない限り、民事訴訟法の配当要求手続に準ずべきものであり、交付要求をする時期についても、配当要求をすることができる時期の制限に服さねばならないのである。

被告は民事訴訟法上配当要求をすることができる者は、執行力ある正本を有する債権者及び民法に従い配当の要求をすることができる債権者に限られているから、国税債権は民事訴訟法にいわゆる配当要求によつて配当に加わるべき債権に属さず、従つて交付要求をするについては民事訴訟法の適用を受けないというが、この見解は誤つている。民事訴訟法は私法上の権利関係を規律する手続規定であるから、公法上の権利について規定していないのは当然であつて、そのことから直ちに、国税債権は同法に定める配当要求手続に従つて交付要求をすべきでないという結論はでてこない。交付要求については、国税徴収法施行規則第二十九条が、国税徴収法第四条の一第一号ないし、第五号の場合に収税官吏は滞納税金等の交付要求をすべきことを定めているのみであつて、その手続については他に特別の定めがない。そして交付要求は、右の場合滞納処分手続によることなく、すでに進行している他の執行機関による強制執行に参加して国税債権の満足を得ようとする制度であることさきに述べたとおりであるから、自ら参加した手続の定めるところに従つてその満足を得べきが当然である。従つてかような交付要求をする場合に、国税債権は他の私法上の債権と異る取扱いを受くべき性質のものではないのである。

国税債権は他のすべての債権に優先してその弁済を求め得ることはいうまでもないが(国税徴収法二条)、しかし如何なる優先弁済請求権といえども、民事訴訟法による強制執行に参加してその優先順位を確保するためには、他の一般債権と同じく適法な時期までに配当要求をすべきであつて、これなくして当然に優先弁済を受けることができるものではない。一般に優先債権が執行終了の時まで優先弁済請求の訴を以て優先弁済を求めることができるのは、その債権が法律上弁済の順位について優先権を認められていることによるものではなく、その債権が担保権たることによるものであるから、優先債権といえども、適法な配当要求をすることなしには、当然に配当に加えられないと解して少しも不合理でない。従つて国税債権もまた、その優先権の故に当然に(即ち配当要求をなさずして)配当に加えらるべきものではなく、一般債権の配当要求と同じく適法な時期までに交付要求をすることによつて優先弁済を受けることができると解すべきものである。

また被告は、交付要求は配当手続によらずに売得金から国税の優先交付を求める意思表示であるとし、その根拠の一つとして、破産法において国税債権が財団債権の一つとして優先権を認められていることを挙げているが、これも正当でない。破産法において国税債権が財団債権の一つとされているのは、「破産債権者ノ共同ノ利益ノ為ニスル裁判上ノ費用」その他の共益費が、公益のための先取特権として優先権を与えられているのと同主旨のもとに他の破産債権に比べて配当順位に強い優先権を与えられているにすぎず、国税債権のみが他の私法上の債権と全くちがつた性質のものとして、これを切りはなして扱う主旨ではないのである。若し国税債権がその優先権の故に、換価手続終了の前後を問わず、何時でも交付要求をすることができるとすれば、次のような不都合が生ずる。第一に、税務官吏は或る個人の滞納税額を一般人に告知する義務を負つていないから、その債権者は一の個人の滞納税額を知ることができない。従つて債権者が強制執行をして差押物件が換価された後になつて、なお国税の交付要求ができるとすれば、債権者はその時はじめてその執行が無益かどうかを知り得ることになるし、一方債務者はその時までその執行は無益な執行であるとして不服を申立てる理由があるかどうかわからないことになり、民事訴訟法五六四条三項の主旨に反する結果になる。第二に、一般に換価手続が終了し、換価金が執行機関の手に領収された時に、債務者は支払をしたものとみなされ、債権者との関係でその危険を免かれるばかりでなく、債権者のためにも弁済の効果が生じたことになるのである。すなわち爾後売得金は債権者の財産に帰属するわけである。従つてその後に債務者の滞納税金の交付要求を認めることは、納税人以外の第三者の財産に対して滞納処分を認めることになり、許されない。第三に、配当手続は配当要求者の数及びその金額が特定してはじめて円滑に進めることができる。しかるに配当手続に入つた後も交付要求ができることになると、配当手続は常に不安定な状態におかれ、不確定な手続が重なつて、手続法における手続維持の原則が破壊されることになる。つまり配当手続開始後の配当加入を認めることになつて、配当期日前における配当表の変更、配当期日後の配当表の変更、配当期日の再指定等の必要が生じ、既成の実体的、手続的諸効果を混乱させる、という不都合が生ずるのである。

のみならず国税優先の原則によつて、第三者に不当な損害を与えることは許されないことである。それ故昭和六年三月財政発第八四号「市税その他徴収金の交付要求に関する件」なる東京市からの照会に対し、司法省民事局は昭和六年四月民事第三六五号を以て、競売物件以外になお徴収権を満足せしむるに足る財産あるときは、交付要求をせずに、独立して滞納処分の執行をなすを相当とする旨回答しており、また国税徴収法施行方心得第六条は、同様の場合に、強制執行の対象になつていない財産に対して滞納処分を断行し、他の権利者の権利行使を妨げないよう留意すべき旨を定めている。しかるに本件債務者星製薬株式会社は他に五箇の工場財団を有し、被告(東京国税局長)は現にそのうち二箇の工場財団に対して滞納処分を執行中であつて、これにより十分に国税徴収権の満足を得ることが可能である。のみならず右滞納処分執行中の工場財団のうちの一つは、原告の債権につき抵当権を設定してある担保物件であるが、原告はその抵当権を実行しようとしても被告の公売処分が先行するため、自主的に抵当権を実行することができないばかりでなく、被告の公売処分は徒らに延びるばかりで何時になつたら換価できるか見込が立たない有様である。そのため原告は、できるだけ速かに自己の債権の弁済を受けようとして、本件電話加入権を差押えたのであるが、被告はこれに対して交付要求をして来たのである。かように被告は一方において原告の抵当権実行を妨げるとともに自主的執行を徒らに延ばし、他方において原告の負担においてした本件執行の成果をすべて手中に納めようとしているのである。かようなことは交付要求の立法主旨に全く反することであつて、被告のした本件交付要求は過剰執行ないし権利の濫用というべく、この点からしても本件交付要求は失当であり、本件配当もまた失当であるといわなければならない。

以上のとおり、執行吏が売得金を領収した後になつてした被告の本件交付要求は、いずれにせよ不適法な交付要求であつて、その効果を生じなかつたものである。さればこれを適法として、被告に対し本件売得金中配当額たる金六十五万八百二十八円全額を配当すべき旨定めた本件配当表は取り消さるべく、右配当金は全額原告に配当さるべきものである。

なお被告は、交付要求が配当要求と性質が異ることを前提として、本訴は不適法であるというが、配当異議の訴は配当表に記載された債権者が、その申し出た債権額に対する配当額に不服を申立て、その変更を求める訴であつて、被告は本件配当に参加し配当表に記載された債権者である以上、同じく債権者たる原告がその変更を求めるには配当異議の訴によるべきであるから、本訴は適法である。

かように述べた。

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、次のとおり答弁した。

原告が「事実関係」として主張する事実及び星製薬株式会社が五箇の工場財団を有し、東京国税局長が原告主張のとおりそのうち二箇の工場財団を差押えていることは認めるが、本件交付要求が不適法であるという原告の主張は争う。

被告(東京国税局長)は国税徴収法の規定にもとづいて本件交付要求をしたのであり、同法にもとづく交付要求は民事訴訟法の規定による配当要求と性質が異り、その手続に準じてなさるべきものではない。

交付要求は、収税官吏が国税徴収権にもとづいて、強制執行による換価金から、すべての債権に優先する国税債権の優先弁済を求める意思表示であり、滞納処分に準ずる国税徴収方法の一種であつて、これによつて国税を強制的に徴収することができるのである。これに反し、配当要求は、差押債権者以外の私法上の債権者が、私法上の給付請求権にもとづいて、執行裁判所又は執行吏に対し強制執行による換価金の平等弁済を求める意思表示であり、これによつて一般債権の満足を得るのである。意思表示の主体は前者においては収税官吏、後者においては私法上の債権者であり、これによつて満足を受くべき権利は、前者にあつては公法上の国税債権、後者にあつては私法上の債権である。また前者が優先権にもとづいて優先弁済を求める意思表示であるに反し、後者は一般債権の平等弁済を求める意思表示である。かように両者は全くその性質を異にしているのであるから、特別の規定がない限り、交付要求が配当要求の手続によらなければならない理由はない。のみならず、民事訴訟法が国税債権の徴収について配当要求の方法によるべきことを認めていないことは、同法の規定自体に徴しても明白である。すなわち、同法五八九条、六二〇条、六四七条等は、配当要求をなし得る者を執行力ある正本を有する債権者及び民法に従い配当の要求をし得べき債権者に限定しているし、また同法六五四条は、裁判所が不動産を売却するに当り、進んで国税債権の有無及び限度を申出しめ、その売却代金から優先的に国税債権の支払をさせようとしているのである。

本来配当手続は、債務者に対する請求権を満足させるために行われる手続であるから、配当要求によつてこの手続に加入できる者は、請求権を有する者に限らるべきものであつて、優先弁済を受ける権利を有する者は、その優先権者たる資格においては、配当の要求をすることができないものと解さなければならない。差押物件について優先弁済を受ける権利を有する者は、優先権者たる資格においてその売得金について優先権を主張し、優先弁済を受くべきものであつて、もし他の債権者がこの優先権を争う場合には、優先弁済請求の訴(民事訴訟法五六五条)又は第三者異議の訴(同法五四九条)によつてその権利を確保すべきものである。もちろん優先権者たる私法上の担保権者が同時に目的物の所有者に対する人的債権者であれば、その債権にもとづいて配当要求をして満足を得ることは可能であるが、それは債権者の資格において然るのであつて、優先権者たる資格において配当要求をするのではなく、この両者は理論上明確に区別しなければならないのである。

さて国税債権は、他のすべての債権に優先し、しかも滞納者の総財産(差押禁止物件を除く)の上に存する一種の先取特権である。私法上の優先権の行使方法が前記のとおりであるならば、優先権あることについてこれと性質を同じくし、しかも一般にこれよりも優先する効力を有する点においてより強力な国税債権実現のための交付要求が、配当要求に準じて行われなければならないとは、とうてい考えることができない。民事訴訟法は国税債権の行使について配当要求によるべきことを認めないし、また優先弁済請求の訴又は第三者異議の訴によつてその優先権を担保しているわけでもない。結局国税徴収法は、交付要求という配当要求とは別個の手続によつて国税債権の優先権を確保しているものと解せざるを得ないのである。従つて交付要求が配当要求に準じてなさるべきものであるとか、両者の効力が同一であるという原告の主張は失当である。

かように交付要求は、国税の優先徴収権にもとづいて、配当手続によらずに売得金の優先交付を求める意思表示であるが、破産法においてはこの主旨が極めて明瞭に示されている。すなわち納税人が破産の宣告を受けたときは、収税官吏は破産管財人に対し国税及び滞納処分費の交付要求ができるが(国税徴収法二条、四条の一の四号、同法施行規則第二十九条)、この場合破産法は、交付要求にかかる国税債権を財団債権に属するものとし(破産法四十七条二号)、破産手続によらずに随時破産債権に先だつて弁済されるものとしている(同法四十九条及び五十条)。国税債権は破産手続たる届出、調査その他配当手続によることなく、破産手続終了に至るまで随時優先的に弁済されるのである(なお特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者が別除権を有する点も留意すべきである)。かように破産法は国税債権の公益性と優先性とを重視して、それが破産債権と別個に取扱わるべき旨を定めているのである。これによつてみても、ひとり民事訴訟法のみが、国税債権と一般債権とを同列におき、これと同種の手続に従つてその満足を得べきものと定めているとは解することができない。

交付要求が配当要求と性質を異にし、その手続に準じてなさるべきものでない以上、交付要求が民事訴訟法第六百二十条第一項本文の規定する時期の制限に服すべきものでないことは、自ら明らかである。然らば交付要求は何時まで適法にすることができるであろうか。国税徴収法その他の法令にもこの点の定めは何もない。しかし交付要求は、滞納者の財産たる売得金から他の債権に先だつて国税の徴収を要求する処分であり、それに対する支払は執行裁判所又は執行吏の責任において、民事訴訟法の配当手続によることなく、これをすべきものであるから、売得金が滞納者の財産に属する間は適法になし得るものと解せざるを得ない。そして本件差押電話加入権が競売され、執行吏がその売得金を領収した場合に、その売得金の所有権はなお債務者(滞納者)に属するのであり、その配当によつて債権者がこれを受領した時にはじめて債権者に帰属するのである。従つて配当手続終了の時までは適法に交付要求ができるものというべく、その時期までになされた本件交付要求は適法である。もし交付要求が民事訴訟法の規定による配当要求の時期までにしなければならないものとするならば、私法上の優先権者は右配当要求の時期以後においても、配当手続終了の時までは、第三者異議の訴又は優先弁済請求の訴によつて優先権を確保できるに反し、一般にこれに先だつ国税債権の優先権が配当要求をすべき時期以後はこれを確保する途がなくなり、その間に著るしい不均衡が生ずる。なお原告は、執行吏が売得金を領収した時に、債務者は支払をしたものとみなされ、従つてその所有権は債権者に帰属するというが、これは誤りである。民事訴訟法第五百七十九条は、差押物が金銭に変つた以上、債務者に債権者との関係でその危険を免れさせるだけの主旨であつて、積極的に当然債権者が売得金の所有権を取得することを意味するものではない。従つてその後に交付要求を認めても、納税人以外の者の財産に対して滞納処分をすることを認める結果にはならないのである。

仮りに優先権者が配当要求によつて優先弁済を請求することができるものとし、交付要求が配当要求の手続に準じてされなければならないとしても、民事訴訟法上の配当要求の時期の制限を受ける者は、優先権なき普通債権者のみであつて、優先弁済を受ける権利を有する者は同法の規定による配当要求の時期制限を受けることはなく、従つて本件交付要求がこれに遅れたからといつて違法とされることはない。配当要求の時期を制限する規定は、配当手続の渋滞を防止するために設けられた手続的規定であり、この手続上の要請をもつて実体法上の優先弁済請求権を侵害することはできないからである。もともと優先弁済請求権は配当事実をすると否とによつて消長を来すべきものではなく、また第三者異議の訴、優先弁済請求の訴等によつて配当手続完結の時期まで保全されるものであるから、配当要求の時期の制限に服すると解することはできない。また不動産に対する強制競売における配当手続にあつては、不動産上の担保権者は、配当手続終了の時期までにその権利を証明して執行記録に綴入すべき届出をすれば、利害関係人として当然にその売得金から配当を受け得る点からみても、交付要求が配当要求の時期の制限に服すると解することはできないのである。

原告は交付要求が配当要求の時期以後にもできるとすれば、債務者は無益な執行を受けることになり、民事訴訟法第五百六十四条第三項の立法主旨に反するというが、動産に対する強制執行に際し、目的物に対する第三者の優先権の額を考慮すべきか否かについては、この種の権利の存否範囲が執行機関の調査すべきところに属しないことから、消極に解すべきであり、従つて換価金から優先債権の支払をしたのち、強制執行の費用を償つて残余を得ることができなくなつたとしても、やむを得ないことである。のみならず、原告のような考え方をすれば、同条は無益な差押をも禁止するものであるから、交付要求も配当要求もともに差押をする時期までにしなければならないことになるであろう。これが法の趣意とするところでないことは明らかである。

また原告は、配当手続に入つた後にも交付要件を認めると、配当期日前における配当表の変更等の事態を生じ、既成の実体的、手続的諸効果を混乱させるというが、かような結果が生ずるにしても、それは国税債権が他の総ての債権に優先することに由る必然の結果にすぎない。手続的規定は実体法上の権利の実現に奉仕すべきものであるから、手続的規定の解釈如何によつて実体法上の権利の存否が決せられる場合には、なるべく権利の実現に役立つように解釈されなければならないのである。

なお東京国税局長は昭和二十七年二月十一日星製薬株式会社の工場財団中二箇の差押工場財団を競売に付したが入札者がなかつたのであり、この滞納処分によつて原告主張の抵当権の実行を不当に妨げていることはなく、また右差押物件によつて右会社の滞納国税の徴収権が満足されることもないのである。

最後に本訴の適否を検討する。交付要求は配当要求と性質が異り、その手続に準じてすべきものでないこと以上のとおりであるから、交付要求について民事訴訟法の規定による配当手続の観念を容れる余地はない。交付要求があれば、執行裁判所又は執行吏は、換価金から強制執行費用を控除したうえ(国税徴収法二条六項)、その責任において交付要求にかかる国税の支払をし、しかも余剰あるときは、その残額について民事訴訟法の規定による配当を実施すべきものである。しかるに配当異議の訴は、他の債権者が配当表に従つて配当を受けることを阻止するための訴であるから、同法の規定による配当手続のないところに配当異議の訴もあり得ないわけである。従つて本訴は不適法な訴であると考える。かように述べた。

三、理  由

原告が「事実関係」として主張するところは、すべて当事者間に争いがない。

まず本訴の適否について判断を与える。

被告は、国税の交付要求は民事訴訟法上の配当要求とその性質を異にし、配当要求手続に準じてすべきものでないことを前提として、配当異議の訴により被告の交付要求の効力を争う原告の訴は不適法である、という。しかし国税の交付要求は民事訴訟法の配当要求に準ずべきものであり、その手続の準用ありと考えられること、後に述べるとおりであつて、かつ債権者たる原告が、他の債権者たる被告に対する本件配当を阻止すべく、期日において異議を述べたに対し、被告はこれに同意しなかつたのであるから、原告がその主張を貫くためには配当異議の訴によるべきであり、従つて本訴は適法であるといわなければならない。

そこで本件においては、本件差押電話加入権が競売され、執行吏がその売得金を領収した後になつて被告がした国税の交付要求が適法かどうかが唯一の争点となるが、問題は、国税徴収法施行規則第二十九条の規定によつて収税官吏のする交付要求は、民事訴訟法による強制執行があつた場合には、如何なる時期までになさるべきか、という法律解釈に帰着する。

まず国税徴収法第二条にいわゆる国税優先権の法律上の意義を考えてみよう。同条第一項は「国税及其ノ滞納処分費ハ総テノ他ノ公課及債権ニ先チテ之ヲ徴収ス」と定めている。その主旨は、国家財政上国税の徴収を確保しようとする見地から、国税債権のために、納税人の総財産を目的とした優先的徴収権を与え、国税債権と他の債権とが同時に納税人(債務者)の同一財産中から弁済を受けようとする場合に、原則としてすべての債権に優先して弁済を受けさせようとしたものにほかならない。しかしまたそれ以上に、納税人の総財産に対し国税債権のために一般の先取特権ないし特別担保権を与えたとみるべき根拠はない。

国税債権は、公法上の債権として、かように弁済の順位について強い優先権を与えられているわけであるが、納税人に対して強制執行が行われている場合、その如何なる段階においても、常に他の私法上の債権を排除してその満足を得ることができるかは、慎重に決定しなければならないことである。権利行使の時期について手続法上定められた合理的な制限に従わなくともよいとするためには、制度上この制限をこえるより合理的な理由があることを必要とするからである。

国税の徴収については、国税徴収法施行規則第二十九条は、国税の交付要求なる制度を定めている。この制度は、徴税官庁が自ら滞納処分の執行をすることなく、他の執行機関の執行に参加して、その換価金から国税を優先的に徴収する手続である。すなわち、納税人の財産に対し、公課の滞納による滞納処分がなされたとき、民事訴訟法による強制執行がなされたとき、競売法による競売が開始されたとき、納税人に対し破産の宣告があつたとき等、他の執行機関による執行が現に行われているときに、その対象となつた財産に対して更に滞納処分をすることは手続が煩雑になるので実際上許されないとし(国税徴収法第十九条の反対解釈)、収税官吏が国税優先の原則にもとづき、これらの執行機関に対して滞納税金額等の優先交付を求めることが手続上便宜であり、かつ徴税の目的を達するに十分なものであるとしてできた手続である。従つてそれは、国税徴収法にいわゆる滞納処分ではないけれども、本来の滞納処分をする代りに、他の執行機関の執行に参加し、その手続を利用することによつて国税債権の優先的満足を得るという点からみて、結局滞納処分に準ずべき国税徴収方法の一種であるといえる。

ところでかような交付要求が、具体的な場合に如何なる手続によつてなさるべきかについては、他に特別の定めはない。従つて、その手続がどうあるべきかは、それが参加する他の執行機関の執行手続の各場合に応じて、国税優先の主旨に照して、きめるほかない。

本件は、電話加入権に対する強制執行の場合である。民事訴訟法上配当要求をすることができる者は、執行力ある正本を有する債権者及び民法に従い配当の要求をなし得べき債権者に限られている(五八九条、六二〇条、六四七条)。しかし国税債権といえども債権たることに変りはなく、収税官吏のする国税の交付要求も、納税人(債務者)の総財産によつて担保される国税債権が、他の債権者のした強制執行に参加して換価金からその弁済を求める意思表示たる点においては、債務者の総財産を一般担保とする他の私法上の債権者のする配当要求と相容れない性質のものではない。また民事訴訟法上、執行正本にもとづかない配当要求者は、配当に加わることはできても、自ら執行手続を追行する権能をもたず、全く差押債権者及び執行力ある正本にもとづく配当要求者に附随するにすぎないのであり、一方国税の交付要求も既に進行しつつある強制執行手続に参加し、これを利用して国税債権の弁済を求めるもので、自ら執行手続を追行する権能をもたないのであつて、両者はこの点においても共通性をもつている。国税債権は公法上の債権で、弁済の順位について優先権を与えられている点において特色を示しているが、そのことは、その交付要求が、配当金の中からその優先弁済を求めるものであるという点において、私法上の一般債権者が配当に加わるためにする配当要求に準じて考えることの妨げになるものではない。この主旨は次の点からもうかがい得るところである。すなわち民事訴訟法第六百五十四条は、裁判所が不動産の競売開始決定をしたときは、主管官庁に通知して、その不動産から取立つべき公課の有無及び限度を申し出るよう催告すべき旨を定めている。それは、不動産について強制競売が行われる以上、更に国税滞納処分による公売をすることを禁ずるとともに、競売に際し、国税債権をも交付要求によつて配当に加える必要がある、としたものである。この場合、すべての公租公課は納税人(債務者)の一般財産によつて担保されているに止まるのであるから、かような取扱いを受ける公課は、その不動産の負担すべき税金(物的税)に限られ、所得税その他の税金(人的税及び他の物的税)はこれに含まれないものと解すべく、後者については、一般債権者の配当要求に準じ、交付要求をした場合にはじめて配当に加わり、その不動産の売得金から優先弁済を受けることができるとしたものと解するのが相当である。即ち同条は国税の交付要求が配当要求に準じてなさるべきことを予定したものということができる。

かように国税の交付要求は、民事訴訟法上の配当要求と全く相容れない性質のものではなく、むしろこれと共通性を有するものであり、単にその弁済の順位について優先的効力を与えられているに止まるものとみるべく、従つてこれを配当要求に準じて考え、その手続を配当要求手続に準じて扱うのが相当であるといえる。

被告は、私法上優先弁済を受ける権利を有する者は、その優先権者たる資格においては配当要求をすることができないことを根拠として、同じく優先権ある国税債権が優先弁済を求めることは、配当要求手続によるべきでないという。なるほど配当要求は私法上の一般債権者が平等弁済を求める意思表示であり、債務者の特定財産につい優先弁済を受ける権利を有する担保権者又は譲渡を妨げる権利を有する者については、その優先権者たる資格においては配当要求をすることを認めず、優先弁済請求の訴(五六五条)ないし第三者異議の訴(五四八条)によつてその権利を確保する途を開いているのではあるが、かような私法上の優先権者といえども、執行目的物の所有者に対する人的債権者であれば、その被担保債権にもとづいて債務者の一般財産に対して執行することは原則として妨げられず、従つて配当要求をすることもできるのである。常に債務者の一般財産によつて担保される国税債権にあつても、執行目的物所有者に対する人的債権者として、国(収税官吏)が配当要求に準じ交付要求をすることによつて、優先徴収権を認められた法律上の理由から、その優先弁済を求めることができると解して少しも差支えないのである。のみならず、私法上の優先権者必らずしも執行目的所有者の人的債権者ではないから、優先弁済請求の訴ないし第三者異議の訴によつてその優先権を確保する必要がある。これに反し、国税債権は納税人(債務者)の総財産を以て担保されているに止まるのであるから、その主体たる国は必らず執行目的物所有者の人的債権者なのであつて、従つてその満足を得る手段について、私法上の優先権と全く同様に考えなければならないということはない。即ち、かように、国税債権について強い優先権が与えられ、適法な交付要求によつてその優先的満足を受けることが担保されている以上、必らずしも優先弁済請求の訴ないし第三者異議の訴によつてその優先権を確保する必要はないといえる。

また被告は、交付要求が国税の優先徴収権にもとづいて、配当手続によることなく、売得金の優先交付を求める意思表示であることを示す根拠なりとして、破産法において、交付要求にかかる国税債権を財団債権に属するものとし破産手続によらず随時弁済すべきものとしていることを挙げている。しかし破産法が国税債権についてかような取扱いをしている主旨は、特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者が別除権を有するに対し、すべての債権に優先する国税債権は、特定財産に対する特別担保権をもたず、破産者の総財産を以て担保されているに止まるのであるから、破産者の総財産が破産財団にくり入れられた以上、国税債権を財団債権として優先弁済を受け得ることとしなければ、優先徴収権を認めた意義が失われるに至ることを考慮したからにほかならない。従つて、民事訴訟法による個々の財産に対する強制執行において、国税債権に強い優先徴収権が与えられている以上、破産法におけると同じく、交付要求の点に関し、これを私法上の一般債権と全く異つたものとして扱わなければならないとまでいうことは、言いすぎである。被告の主張は理由がない。

以上で明らかにしたとおり、国税の交付要求は、民事訴訟法上の配当要求に準じて扱うのが相当であり、従つて交付要求をするについての手続は、配当要求手続に準じて扱うのが相当である。ところで民事訴訟法上配当要求をすることができる者が配当要求をすべき時期は、すべて目的物の換価手続終了の時までと限られている(五九二条、六二〇条一項、六四六条二項)。かように配当要求をなすべき時期を限つたわけは、執行目的物の換価手続を終り、配当手続に入るについては、執行債権者の数及び債権額が確定していることが必要であつて、配当手続に入つた後にその増加を認めることは手続の煩雑を来し許されないとする主旨であり、配当手続の渋滞を防止する目的に出たものである。しかも有体動産に対する強制執行について、民事訴訟法第五百七十八条は、売得金を以て債権者に弁済をし及び強制執行の費用を償うに足るに至つたときは、直ちに競売を止むべき旨を定めている。すなわちその後は、不必要と判明した差押は解除されるわけであるから、それ以上執行債権が増加することを認める余地がないわけである。国税の交付要求も配当要求に準じ、配当に加わるべく売得金中の配当額からその弁済を求めるものであるから、換価手続の終了により配当金額が確定した後になつてこれを認めることは、執行債権額の増加を認めることになつて許されない、とするのが相当である。殊に有体動産に対する強制執行の場合にはその余地がないのである。

被告は、交付要求の性質上、それに対する支払は、執行裁判所又は執行吏の責任において、民事訴訟法の配当手続によらずにすべきものであるから、売得金が滞納者の財産に属する間は適法にすることができる、というか、交付要求もまた配当に加えらるべきことを求める意思表示として、配当要求に準じて考えるのが相当であり、しかもそれに対する支払について破産法第四十九条、第五十条のような特別の規定はないのであるから、交付要求にかかる国税債権に対する支払も配当手続に準じてされるべきものであり、ただ国税優先の原則上優先的に取扱われるに止まるとしなければならない。なお私法上の優先権について優先弁済請求の訴ないし第三者異議の訴が認められ、配当手続終了の時までその優先弁済請求権を確保できるに反し、一般にこれに先だつ国税債権の優先権が配当要求をすべき時期以後は主張できないとすることは不合理である、という被告の主張が正当でないことは、さきに述べたところから明らかであろう。

従つて国税の交付要求も配当要求をすべき時期の制限に服するものといわなければならない。かように考えたところで、手続法上の必要から、実体法上の優先権を否定したことにはならない。如何なる優先権といえども、これを行使するについては、手続法に定められた合理的な制限に服すべきものであり、国税債権に優先権ありといつても、他の債権と競合を生じたときにはじめて優先権たる意義があるわけであつて、かような競合状態を生じたときは、やはり権利行使の適法な手続をふまなければならないからである(即ち、実体上優先するといふことが、手続上にまで特別扱いを要求していると考えることは、根拠に乏しい)。

以上によつて、本件差押電話加入権の換価手続終了の後になつてした被告(東京国税局長)の本件交付要求は適法でなく、その効力を生じなかつたことは明らかである。されば本件配当金六十五万八百二十八円を全額被告に配当すべきものとした本件配当表は取り消さるべく、他に配当要求をした債権者がいない本件にあつては、この配当金は、全部差押債権額を金三百九十九万七千五百円とする差押債権者たる原告に配当さるべきものである。

よつて原告の請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新村義広 入山実 石沢健)

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