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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)1364号 判決

原告 蕭本鑪

被告 謝文発

一、主  文

被告は原告に対し東京都中央区日本橋室町一丁目三番地の五、宅地七十七坪七合九勺の内別紙図面<省略>記載中(ロ)(ハ)(ヘ)(ト)の各点を順次結ぶ線内の二坪一合一勺七才を該地上に存在する木造トタン葺二階建バラツク一棟建坪二坪二階二坪を収去して明渡し、且昭和二十四年四月一日以降右土地明渡済に至る迄一ケ月金三百円の割合による金員を支払うべし。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、「原告は昭和二十四年四月一日訴外島田正より東京都中央区日本橋室町一丁目三番地の五、宅地七十七坪七合九勺の内別紙図面中(イ)(ハ)(ヘ)(チ)の各点を順次結ぶ線内の九坪六合四勺(但し実測九坪四合八勺。以下「本件土地」と略称する。)を賃借し、昭和二十八年五月二十九日該地上に所有する木造瓦葺二階建店舗一棟建坪七坪二階七坪につき(但し木造トタン葺二階建店舗住宅一棟建坪五坪六合五勺二階五坪六合五勺として)所有権保存登記を経由した。しかるに被告は何等正当の権原がないのにかかわらず、本件土地の内二坪一合一勺七才(別紙図面中(ロ)(ハ)(ヘ)(ト)の各点を順次結ぶ線内の宅地。以下「係争地」と略称する。)を原告の賃借当時既に占有し、その後該地上に木造トタン葺二階建バラツク一棟建坪二坪二階二坪を建築所有するに至つたものであつて、これがため原告の係争地に対する使用収益を妨げ、その相当賃料である一ケ月金三百円の割合による損害を蒙らせている。よつて、原告は本件土地の賃借権に基き被告に対し、係争地を該地上に存在する建物を収去して明渡し、且昭和二十四年四月一日以降右土地明渡済に至る迄一ケ月金三百円の割合による損害金を支払うべきことを求めるため本訴に及ぶ。」と述べ、

被告の抗弁に対し、「被告の主張事実中、被告が訴外島田正から東京都中央区日本橋室町一丁目三番地の五、宅地七十七坪七合九勺の一部(但し別紙図面中(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)の各点を順次結ぶ線内の範囲で、係争地を含まない。)を賃借していること、被告が被告主張の建物につき被告主張の日時に所有権保存登記を経由したことは認める。被告と訴外林大栄との間に被告主張の如き契約が締結されたことは知らない。その余の事実は否認する。」と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、「原告主張の請求原因事実中、原告が昭和二十四年四月一日訴外島田正より東京都中央区日本橋室町一丁目三番地の五、宅地七十七坪七合九勺の一部(但し本件土地中係争地を除いた部分)を賃借したこと、原告が右土地の上に原告主張の如き建物(但し実測による建坪は詳らかでない。)を所有し昭和二十八年五月二十九日右建物につき原告主張の如き所有権保存登記を経由したこと、被告が係争地を占有し(その始期は後述する。)該地上に原告主張の如き建物を所有していること、係争地の相当賃料が一ケ月金三百円であることは認める。原告の賃借地の坪数は知らない。その余の事実は否認する。係争地は被告が訴外島田正より賃借した宅地の範囲内に存するものであつて、原告が島田正より賃借した宅地の範囲外である。即ち被告は昭和二十一年二月一日訴外島田正より東京都中央区日本橋室町一丁目三番地の五、宅地七十七坪七合九勺の内係争地を含む十坪九合四勺(但し実測十二坪二合四勺七才で別紙図面中(ロ)(ニ)(ホ)(ト)の各点を順次結ぶ線内の土地)を建物所有の目的で賃借したものである。仮に係争地が原告の賃借地の内に含まれているとしても、叙上のとおり係争地については被告においても賃借権を有するものであるところ、被告は係争地を含む前記賃借地上に昭和二十二年四月頃以来建物を所有し、その後昭和二十三年三月頃係争地の上に一階二坪を増築し、昭和二十六年十一月二十日木造陸屋根二階建店舗兼居宅一棟建坪十坪三合二階八坪八合三勺の建物として、原告がその賃借地上に所有する建物につき所有権保存登記を経由した昭和二十八年五月二十九日以前に所有権保存登記を経由し、更にその後昭和二十八年一月中前記増築部分に二階二坪を建増したのであつて、係争地の賃借権に関しては被告は原告に優先し得るものである。叙上のとおり被告は係争地を賃借権に基いて正当に占有しているものである。仮に以上の主張事実が認められないとしても、原告はその賃借権を訴外林大栄より譲受けたものであるが、その以前において訴外林大栄と被告との間に各自の賃借地の範囲について紛争を生じていたところ、結局両者の間に将来双方の賃借地の境界が明確になり、被告がその所有建物を存置している係争地が訴外林大栄の賃借地に属することが判明した場合には係争地についての訴外林大栄の賃借権を被告において有償で譲受ける旨の契約が成立したものであつて、原告は訴外林大栄から土地賃借権を譲り受けるに当り、同訴外人と被告との間の前記契約に基く債務をも承継したのである。さすれば、係争地の賃借権が原告に存するとしても、原告はこれが賃借権を被告に譲渡すべき義務を負担するものであつて、このような事情の下において原告が係争地の賃借権に基いて被告にこれが明渡を請求するのは信義誠実の原則に反し許されないものである。」と述べた。<立証省略>

三、理  由

原告が昭和二十四年四月一日、被告がその以前にそれぞれ訴外島田正より東京都中央区日本橋室町一丁目三番地の五、宅地七十七坪七合九勺の一部(その具体的な範囲はしばらく措く。)を賃借したことは当事者間に争がない。

そこで原告及び被告の賃借した土地の範囲につき、特に係争地が原被告のいずれの賃借地内に存するかにつき判断する。

証人島田正の証言により真正に成立したと認められる甲第一号証の一、二と証人島田正及び五百住清之進の各証言並びに原告及び被告各本人尋問の結果とに弁論の全趣旨を綜合すれば、訴外島田正は原告及び被告に前記宅地を賃貸するに当り、いずれもその賃貸の範囲を実地について確定することなく、単に従前他の者に賃貸していた土地の範囲とのみ指定して、原告に対しては九坪六合四勺を、被告に対しては十坪九合四勺を賃貸するものとして契約を締結したに過ぎないことが認められ、原告主張の如き東京都建築局総務文書課信濃町分室備付の図面を写したものであることに争のない甲第二号証に証人島田正、五百住清之進及び中村正策の証言と弁論の全趣旨とを綜合すると、訴外島田正が原告と賃貸借を締結した前掲九坪六合四勺の土地というのは、島田正がその以前に訴外中村正策に賃貸していた係争地を含む別紙図面中(イ)(ハ)(ヘ)(チ)の各点を順次結ぶ線によつて囲まれる範囲に当り、同じく被告と賃貸借を締結した前掲十坪九合四勺の土地というのは、島田正が以前に訴外岡田省吾に賃貸していた別紙図面中(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)の各点を順次結ぶ線によつて囲まれる範囲と右図面中<3'

叙上のとおりである以上、仮に係争地が原告の賃借地の範囲内に存するとしても、被告は原告がその地上に所有する建物につき所有権保存登記を経由する以前に属する昭和二十六年十一月二十日係争地及びこれに接続する土地の上に存する被告所有の建物について所有権保存登記を経由したから、係争地につき被告は原告に優先する賃借権を有するものとする被告の抗弁は、前述のとおり係争地につき被告が賃借権を有しないことからいつてそれ自体失当であるといわなければならない。

次に原告の本訴請求が信義誠実の原則に反すると主張する被告の抗弁につき考えるに、訴外林大栄と被告との間に被告の主張するような契約が締結されたとする被告本人尋問の結果は措信することを得ず、他に右事実を認めしめる証拠はないので、右の如き契約の成立したことを前提とする被告の右抗弁は採用するに由ないものである。

ところで原告が前記賃借地の上に所有する建物につき所有権保存登記を経由していることは当事者間に争がないところであるので、原告の右賃借権はこれによりいわゆる対世的効力を取得したものというべく(尤も原告が所有権保存登記を経由した建物に関し登記簿に表示されたところと実際のものとの間に多少の相違があることは、原告の自認するところであるが、その両者を比較してみるに右の如き差異は建物の同一性認識を妨げる程度のものとは認められないから、上記の如く解するに支障はないものというべきである。)、さすれば原告は右賃借権を妨害する者に対して直接賃借権に基いてその妨害の排除を請求し得るものとすべきであるところ、被告が係争地を原告において賃借した昭和二十四年四月一日当時既に占有し、現に該地上に木造トタン葺二階建バラツク一棟建坪二坪二階二坪を所有していることは当事者間に争がないので、被告はこれにより原告の係争地についての賃借権を妨害しているものといわなければならない。従つて原告は被告に対し右妨害を排除するため前記建物を収去して係争地を明渡すと共に右賃借権の妨害に基く損害の賠償として昭和二十四年四月一日以降右明渡済に至る迄係争地に対する相当賃料と同額の金員を支払うべきことを請求し得べきものであつて、右相当賃料が一ケ月金三百円であることは当事者間に争のないところである。

よつて、原告の被告に対する本訴請求は全部正当としてこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原正憲)

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