東京地方裁判所 昭和28年(ワ)1803号 判決
原告 川住龍雄 外一名
被告 江東冷蔵製氷株式会社 外二名
一、主 文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は被告会社との関係において「昭和二十七年十二月二十六日の被告会社取締役会における被告会社代表取締役に被告加瀬和三郎及び同小林幸太郎を選任する旨の決議が無効であることを確認する。」との判決を、被告加瀬和三郎及び同小林幸太郎との関係において「被告加瀬和三郎が被告会社の代表取締役でないことを確認する。」との判決を求め、その請求原因として、
「一、原告川住龍雄は、被告会社の千株の、原告渡辺栄次は同会社の五百株の株主である。
二、被告会社においては訴外松岡清次郎が昭和二十七年十二月八日任期満了により代表取締役を退任し、以後代表取締役を欠いていたところ、同月二十六日午後四時当時の取締役訴外松岡清次郎、同小原荘治、被告加瀬和三郎及び同小林幸太郎の出席する取締役会において、被告加瀬和三郎及び同小林幸太郎代表取締役に選任する旨の決議があつたとして、昭和二十八年一月九日その旨の登記がなされ、次で同月十日被告小林幸太郎が代表取締役を辞任したものとして同月二十七日その旨の登記がなされた。
三、然し、右取締役会の決議は、次の理由で無効のものであり、従つて被告加瀬和三郎は現在代表取締役の資格を有しないものである。即ち、
(一) 当裁判所は、昭和二十七年六月十四日、当時被告会社の代表取締役であつた訴外松岡清次郎に対し、同人の右代表取締役の職務執行を停止し、その停止期間中、荻野定一郎に同職務を代行させる旨の仮処分決定(当庁昭和二七年(ヨ)第二、六九四号事件決定)をなし、同年十二月二十五日当裁判所において右代表取締役の職務執行停止処分について執行取消の決定(当庁昭和二七年(モ)第一二、四三三号事件決定)をしたところ、同決定書の正本は、翌二十六日午後二時頃右職務代行者荻野定一郎に送達された。
(二) 前記仮処分執行取消決定は、単に前記代表取締役の職務執行停止を命ずる部分についてのみ取消されたに過ぎず、同職務代行者を選任する部分については取消されていないので、荻野定一郎の前記職務代行の権限は依然として消滅していない。仮りに右執行取消決定の効力が同職務代行者選任の部分にも及ぶものとするも、同執行取消決定が前記仮処分の債務者である松岡清次郎に送達された時を以てその効力を生じたものと解すべきところ、該決定で訴外松岡清次郎に送達されたのは前記取締役会終了後であるから少くとも、同取締役会の開催中は右執行取消決定の効力は生ぜず、荻野定一郎の前記職務代行の権限は存続していたのである。又右執行取消決定が右職務代行者荻野定一郎に送達された時を以て同人の右職務代行者たる地位が終了したとしても、前記三のとおり被告会社では当時未だ代表取締役の選任なく、なお代表取締役が欠けていたのであるから、荻野定一郎は、前記仮処分執行取消決定にかかわらず、商法第二百六十一条第三項、第二百五十八条第一項の規定の類推適用により後任の代表取締役が選任されるまでの間、なお、右代表取締役の職務代行者として被告会社の取締役会を招集し、議事を統裁する為これに出席する権利義務を有したものと解すべきである。
然るに前記取締役会は、右代表取締役職務代行者たる荻野定一郎の招集によらず、招集権限なき被告小林幸太郎の招集したものであり、又荻野定一郎に対する招集通知も、同人の出席もなくして開催されたものであり、又、仮りに昭和二十七年十二月二十六日午後二時前記執行取消決定が荻野定一郎に送達された時を以て同人の右職務代行者としての権利義務が消滅したものとすれば、前記のとおり、当時被告会社には代表取締役が欠けていたのであるから、訴外松岡清次郎が前任の代表取締役として、なおその権利義務を有するものであるので、以上いずれの点からするも違法であつて、前記決議は無効である。
(三) 定款第二十二条第二項には、取締役会の招集は、各取締役に対し会日の三日前までにその通知を発するものとし、緊急の必要あるときは、その期間を短縮することができる旨定めらたているが、前記取締役会は、右但書の場合に該当する事由なくして開催の一時間前に招集通知が発せられたに過ぎず招集の方法に定款違反があり、その決議は無効である。
(四) なお、前記取締役会の開催は訴外松岡清次郎の反対にも拘らず、これを無視してなされたものである。したがつて、その議決は無効である。
(五) 前記取締役会決議は、訴外松岡清次郎の反対及びその余の前記三名の取締役の賛成の表決により成立したものとされているが、右賛成表決の取締役のうち被告加瀬和三郎及び同小林幸太郎は、いずれも、代表取締役の候補者にあげられ、議事につき利害関係を有する者として表決に加わり得ないものであるから、これを除外するときは、結局右決議は出席取締役の過半数によるものではなく、無効である。
(六) 定款第二十三条及び第二十四条によれば、社長は一名であるべきに拘らず、前記取締役会決議において、代表取締役二名を選任したことは右定款の規定に違反し、同決議は無効である。
と述べ、被告加瀬和三郎及び同小林幸太郎の主張事実中本件取締役会が被告会社の定例取締役会として開催されたものであることを否認する。同取締役会決議において、社長の選任が行われなかつたことは認めると述べた。
<立証省略>
被告加瀬和三郎及び同小林幸太郎の訴訟代理人等並びに被告会社代表者は、主文第一項と同旨の判決を求め、答弁として、
「原告主張の一乃至三の(一)の事実は認めるが、その余は争う。」と述べ、なお、被告加瀬和三郎及び同小林幸太郎の訴訟代理人等は、
「一、被告会社においては、本件取締役会開催当時毎週金曜日午後一時から定例の取締役会を開催することが定められており、本件取締役会は、右定例取締役会に引き続き取締役全員の同意の下に開催されたものであるから、原告主張三の(二)乃至(四)はすべて理由がない。
二、本件取締役会決議は、先ず被告加瀬和三郎及び訴外小原荘治の賛成、訴外松岡清次郎の反対を以て被告小林幸太郎を代表取締役に選任し、次で被告小林幸太郎及び訴外小原荘治の賛成、訴外松岡清次郎の反対を以て被告加瀬和三郎を代表取締役に選任する方法によつて行われたもので、右両被告は、議事について利害関係を有する者として、右決議の表決に加わらず、且つ同決議は、いずれも出席取締役の過半数を以てなされたものであるからこの点について違法なく、原告主張三の(五)は理由がない。
三、本件取締役会決議においては、社長の選任は行われたことなく、代表取締役の選任がなされたのみであるから、原告主張三の(六)も理由がない。」
と述べた。<立証省略>
三、理 由
一、原告主張一乃至三の(一)の事実は、当事者間に争がない。
二、被告小林幸太郎との関係において被告加瀬和三郎が被告会社の代表取締役でないことの確認を求める原告の本訴請求は、法律関係の当事者でない者が第三者の法律上の地位を争うものであつて、特に法律に認められる場合にも該当しないから、それ自体確認を求める利益を欠き理由のないものである。
三、原告と被告小林及び同加瀬との間において成立に争なく、原告と被告会社との間において成立を真正なものと認める甲第四号証の記載に被告小林幸太郎及び同加瀬和三郎の本人訊問の結果を綜合すれば、昭和二十七年十二月二十六日午後四時開かれた本件取締役会は、代表取締役職務代行者の任を退いた訴外荻野定一郎の退任の挨拶をうける為参集した在任取締役全員において、法律上の招集手続を経ることなく、同年十二月八日松岡清次郎退任後欠員中の代表取締役選任の為即時これを開くことに同意し、開かれたものであることを認めることができ証人松岡清次郎の証言及び甲第五号証の記載中右認定に反する部分は、右に掲げた証拠に照して信を措き難く、他にこの認定に反する証拠はない。
元来、取締役会が右に認定したように、全員の同意の下に法律上の招集手続を経ることなく開かれる場合には招集の観念を容れる余地がないから、これを招集権限及び招集手続の欠如を以て批難することは許されない。又取締役職務代行者を兼ねていない代表取締役職務代行者は、取締役会の決議に加わる権限を有しないから、その者に対し取締役会招集通知を欠き、したがつて出席なくして取締役会が開かれたとしても、その取締役会における決議は無効といえない。尤も定款又は取締役会の定によつて代表取締役が取締役会の議長となる者に定められている場合には、代表取締役職務代行者は、その権限を行使する為取締役会に出席する権限を有するけれども、取締役会の議長は、定款その他の定にかかわらず、その部度取締役会において選定しても違法とはいえないと解するを相当とするから、仮処分執行取消決定の効力がこの取締役会前に生じたと否とにより、本件取締役会の決議の効力に影響を生ずることがない。訴外松岡清次郎が反対したにもかかわらず本件取締役会が開かれたとする原告の主張は、右認定と相容れないものであり、さきに排斥した資料を外にしてはこれを認むべき資料がない。原告主張の三の(二)ないし(四)は、とうてい採用することができないのである。
四、前掲甲第四号証並びに被告加瀬和三郎及び同小林幸太郎の各本人訊問の結果を綜合すれば、本件取締役会においては、被告加瀬和三郎及び訴外小原荘治の賛成、訴外松岡清次郎の反対により被告小林幸太郎を議長に選出し、同被告の議長の許に右同様の賛成及び反対の表決により同被告を代表取締役に選任する決議をなし、更に同被告及び訴外小原荘治の賛成、訴外松岡清次郎の反対の表決により被告加瀬和三郎を代表取締役に選任する決議をした事実を認めることができ、他に反対の証拠は存在しない。尤も甲第四号証の取締役会議事録のこの点に関する記載は右認定に完全に符合しないが、右に関す証人松岡清次郎の証言並びに被告加瀬和三郎及び同小林幸太郎の各本人訊問の結果に徴しても、同記載は不正確なものであつて前認定の事実が正しいことが明であるから原告主張三の(五)も失当である。
五、本件取締役会決議において、被告会社の社長の選任が行われなかつたことは当事者間に争なく、而も社長は代表取締役を以て当てる旨の定款の規定は原告等の立証によつては認められないから、代表取締役が二名選任されても社長が二名選任されたことにはならないのみならず、代表取締役の員数を一名に限定する定款の規定も認められないから原告主張三の(六)もまた失当である。
六、以上により原告等の本訴請求は失当であると認め、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 小川善吉 畔上英治 川上泉)