大判例

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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)1830号 判決

原告 小山セイ 外一名

被告 森田武雄

一、主  文

被告と訴外亡小山量輔間の東京地方裁判所昭和二十三年(ワ)第一九〇一号家屋明渡請求事件において昭和二十五年三月三十一日成立した訴訟上の和解の無効であることを確認する。

前項掲記の事件の和解調書に基く強制執行を許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

本件につき東京地方裁判所が昭和二十五年三月十八日にした強制執行停止決定を認可する。

前項に限り仮に執行することができる。

二、事  実

原告等の訴訟代理人は主文第一乃至第三項同旨の判決を求めると申立てその請求の原因として、

(一)  訴外小山量輔は昭和十八、九年頃被告からその所有に係る東京都渋谷区代々木上原町千百八十九番地所在木造瓦葺二階建家屋一棟及び附属物置を賃借し、妻原告小山セイ、長女原告小山松子と共に同家屋に居住してゐたところ、

(二)  昭和二十三年に至り被告から右家屋明渡の訴を起され、その訴は東京地方裁判所に同庁昭和二十三年(ワ)第一九〇一号家屋明渡請求事件として繋属審理中、昭和二十五年三月三十一日、量輔と被告との間に、両名間の係争家屋賃貸借契約を同日限り合意解約し、量輔は被告に対し係争家屋を昭和二十八年三月末日限り明渡すことその他の条項を内容とする訴訟上の和解が成立し、右和解につき調書の作成を見た。

(三)  けれども量輔は前項の訴を起される前の昭和二年二月十六日東京区裁判所の準禁治産の宣告を受けてゐたものであるから、前項の和解をするには保佐人であつた原告小山セイの同意を要するわけであるが、右の同意がなかつたので前記和解は無効であり、従つて和解調書に基く強制執行も許さるべきものではない。

(四)  ところで量輔は昭和二十七年二月二十七日死亡し、原告両名の外には相続人はなかつたので、原告両名が共同相続をなし量輔の一般承継人としてその権利義務を承け継いだのである。

よつて原告両各は量輔の承継人として(二)項掲記の和解の無効なことの確認と、同項掲記の和解調書の形式的存在から生ずる執行力の排除を求めるものであると述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は原告等の請求を棄却するとの判決を求め、原告等の主張事実中(一)(二)及び(四)の事実は認めるが訴外小山量輔が原告等主張の如く準禁治産の宣告を受けてゐたことは不知、仮に右準禁治産宣言を受けていたとしても(二)の和解は家族相談の上なされたもので、原告小山セイもその当時同意していたものであるから原告の請求は失当であると述べた。<立証省略>

三、理  由

原告等主張の(一)(二)の事実は本件当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一号証並に原告小山セイに対する本人訊問の結果によれば訴外小山量輔は、昭和二年二月二十四日東京区裁判所から準禁治産の宣告を受けていたものであることが認められ、右認定を左右し得る証拠はない。右準禁治産宣告後の昭和二十三年に至り量輔は被告から原告等主張の(二)の家屋明渡の訴を提起されたわけであるが成立につき争のない甲第三号証によれば、量輔は右訴に応訴するため弁護士遊田多門並に松本正雄に訴訟委任をなす旨の委任状を訴訟繋属裁判所に提出したが、その委任事項中に和解その他民事訴訟法第八十一条二項所定事項も記載されているけれども、右委任につき同人の同意を得た旨の記載はなく、単に委任者名義として小山量輔の記載があるのみであることが認められる。元来準禁治産の宣言を受けている者が他人から起された訴の被告として応訴し訴訟を遂行するには保佐人の同意を得る必要はないので、右訴訟遂行のため弁護士に訴訟委任をするにも保佐人の同意はいらないと解すべきではあるが、和解をするには保佐人の同意が必要であり、和解をすることを弁護士に委任するためには、その委任につき保佐人の同意を要するものと解すべきである。ところで成立に争のない甲第二号証によれば量輔が準禁治産宣告を受けた当時すでに原告小山セイは量輔の妻であつたことが認められるので、特段の事情の認め得る証拠のない本件では右宣告当時の民法の規定(同法第九百九条第九百二条第二項)により同原告において保佐人となつたものと認める外はないが、前示委任状に同原告の同意書のないことは前述の通りであり、右事実と同原告に対する本人訊問の結果を綜合すれば保佐人である原告小山セイは量輔が原告等主張の(二)の訴訟上の和解をするについて、量輔に同意を与へ、又は量輔が和解のための訴訟委任をするについて同意を与へたことのない事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

して見れば原告等主張の(四)の事実は被告の認めるところであるから、原告等が量輔の死亡による一般承継人として、その主張の和解の無効確認並に和解調書の執行力の排除を求めるのは正当であつて、その請求は認容さるべきものである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を、強制執行停止決定の認可並にその仮執行の宣言につき同法第五百六十条第五百四十八条第一項第二項を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 毛利野富次郎)

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