東京地方裁判所 昭和28年(ワ)3046号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告等の先代伊沢坂次郎は戦前から被告所有の本件土地を賃借し、そこに家屋を建てて保存登記もしてあつたが、その建物は昭和二〇年四月戦災によつて焼失してしまつた。そして被告は昭和二七年五月一〇日本件土地を含む所有宅地を訴外竹内雷男に売渡して、その登記手続を経た。原告等は坂次郎(昭和三二年一〇月二九日死亡)が、前記建物焼失後も本件土地について引続きさきの賃貸借契約による借地権を有していたが、これについては対抗要件を備えていなかつたため、被告が竹内に本件土地を売渡しその登記を経たことによつて、第三者たる竹内に借地権を対抗することができなくなり、結局これを失うことになつて、本件土地を使用収益することができなくなつたところ、それは貸主たる被告の責に帰すべき事由によるのであるから、坂次郎に対しこの履行不能による損害を賠償すべき義務ありとして、売却当時の本件土地の借地権の価額一坪五万円の割合による損害の賠償を求めた。
被告は、被告が竹内に本件土地を売渡した当時坂次郎の借地権は既に消滅していたと抗弁し、その理由として、(一)本件賃貸借においては借主たる坂次郎において地代の支払を一回でも怠つたときは何等の催告及び意思表示を要せずして当然解除されたものとする旨の特約があつたが、坂次郎は戦災後右売買の当時まで地代を一回も払わなかつたから、本件賃貸借は右特約によりその間に当然解除となつている、(二)坂次郎は被告に対して戦災後その住居を明らかにせず、一回も地代を払わないなど、賃借人としての義務を全く尽さずに、信頼関係を裏切る行為があつたので、被告は昭和二三年九月末頃土地管理人によつて坂次郎に対し契約解除の意思表示をしたこと等を主張した。原告は、坂次郎が昭和二〇年三月から昭和二四年六月までの賃料を昭和二三年一二月二八日に供託し、その間遅滞にあつたことは認めるが、本件土地は昭和二一年九月以降区画整理施行地区となつて事実上使用できず、また被告からも使用を見合わせるよう指示があつたから、これを使用せず従つて地代の支払も差控えていたのであるから、賃料不払を理由に解除することはできない、と争う。
判決は、被告の(一)の主張について次のように判示してこれを排斥したが、(二)の主張を容れ、賃料不払につき坂次郎に責むべき事由がないとの原告の主張を斥けて、結局原告の請求を棄却した。曰く、
「一般に賃貸借においてかかる特約がなされている場合でも、当事者は一回の延滞で当然契約が解消したものとは考えておらず、被告本人もしかく了解していないことは、同本人の供述によつて窺われるのであり、またこの場合いつ契約が解消されたかの疑問を生じ、契約関係が明確を欠くおそれがあるのみでなく、借主にとつて甚しく酷な結果を生ずる場合がないとも限らないので、各特約は借主に賃料支払義務の履行遅滞があつた場合には、やはり貸主の解除の意思表示によつて契約は解消されるが、履行の催告はこれを要しない趣旨のもの、と解釈するのが相当である。されば右特約によつて本件賃貸借が当然解除となつたとの被告の主張は採用しない。」