東京地方裁判所 昭和28年(ワ)4373号 判決
原告 赤羽チヱ子
被告 鷲頭平治 外一名
一、主 文
原告の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「控告鷲頭は別紙目録<省略>記載の土地につき東京法務局板橋出張所昭和二十七年十一月十一日受附第二二、九三三号を以てなした同年同月同日売買による同被告のための所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。被告佐藤は別紙目録記載の土地につき東京法務局板橋出張所昭和二十八年三月二十八日受附第五、九一四号を以てなした同年同月二十七日売買による同被告のための所有権取得登記の抹消登記手続をせよ、訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十七年八月十九日別紙目録記載の土地を大塚豊造から買受けて同年同月同日所有権取得登記を完了した。然るに原告の知らない間に本件土地につき東京法務局板橋出張所昭和二十七年十一月十一日受附第二二、九三三号を以て同年同月同日売買により被告鷲頭が本件土地の所有権を原告より取得した旨の登記がなされ更に原告の知らない間に本件土地につき東京法務局板橋出張所昭和二十八年三月二十八日受附第五、九一四号を以て同年同月二十七日売買により被告佐藤が本件土地の所有権を被告鷲頭より取得した旨の登記がなされた。然しながら原告と被告鷲頭間の売買は存在しないのであつて、しかも同被告の本件土地所有権取得登記は稲泉竜雄が原告から本件土地の権利証を預つていることを奇貨として、原告の印鑑を偽造して印鑑届をなし、印鑑証明書の下附を受け、原告の委任状を偽造し、これらに右権利証を併せ用いて、ほしいままに稲泉がなしたものである。従つて被告佐藤は所有権を取得する筈なく前記取得登記は権利の実体に符合しないものである。よつて原告は土地所有権に基ずき被告両名に対し前記各所有権取得登記の抹消登記手続を求めるため本訴請求に及んだと述べ、被告等の抗弁事実中登記の点を除いた部分を否認した。<立証省略>
被告佐藤訴訟代理人及び被告鷲頭は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中、本件土地がもと原告の所有且所有名義であつたこと、のち登記名義が被告鷲頭に、次いで被告佐藤に原告主張の如く移転したことは、いずれもこれを認めるが、その余の主張事実は否認すると述べ、抗弁として、原告は昭和二十七年十月頃稲泉竜雄に対し本件土地を担保にして稲泉が自己の名において或は原告の代理人として金員を借入れるよう依頼して、本件土地の権利証及び原告の印鑑を交付し処分権を与えた。そこで稲泉は同年十月十四日原告の代理人として、小林稔から、金十四万五千円を期限同月二十四日とし、もし弁済期に原告が弁済しないときは小林が代物弁済として本件土地所有権を取得する旨の約で借入れ小林に対し代物弁済による所有権移転登記に使用すべく前記権利証及び原告の印鑑を押捺した原告名義の委任状を交付した。ところが原告は右金員を弁済しないので小林は同年十月二十五日本件土地所有権を取得し、同年十一月十一日被告鷲頭に売却し右登記に要する書類を交付した。そこで被告鷲頭は右書類を使用し中間登記を省略して直接原告から被告鷲頭に対し同年同月同日附本件土地所有権移転登記をなした。被告鷲頭は昭和二十八年三月六日本件土地を市川正美に売渡し、市川は同年三月十四日本件土地を被告佐藤に売渡した。そこで被告佐藤は中間登記を省略して直接被告鷲頭から被告佐藤に対し同年同月二十八日附本件土地所有権取得登記を経たものであると述べた。<立証省略>
三、理 由
原告が本件土地の所有者且所有名義人であつたこと、被告鷲頭のため本件土地について東京法務局板橋出張所昭和二十七年十一月十一日受附第二二、九三三号を以て同年同月同日原告よりの買受による所有権取得登記がなされたこと、及び被告佐藤のため本件土地について東京法務局板橋出張所昭和二十八年三月二十八日受附第五九一四号を以て同年同月二十七日鷲頭よりの買受による所有権取得登記がなされたことは、いずれも当事者間に争がない。而して証人古川房澄、稲泉竜雄、小林稔の各証言及び被告鷲頭平治本人尋問の結果を綜合すれば、原告から本件土地の上に原告の家屋の建築を依頼された稲泉竜雄は、原告から、本件土地を担保として右工事資金の借入方を依頼され、本件土地の権利証の交付を受け担保のため土地の処分権を委任されたので、原告の代理人として昭和二十七年十月十四日小林稔より金十四万五千円を弁済期を同月二十四日とし、もし弁済期に弁済しないときは代物弁済として本件土地所有権は原告から小林に移転する旨の約で借入れたこと。及び原告は右金員を返還しないので本件土地の所有権は同月二十四日の満了により小林に移転し、小林は昭和二十七年十一月頃被告鷲頭に対し本件土地を売却したことを認めることができ、右認定に反する証人赤羽幸信の証言は措信しない。そして成立に争のない丙第三号証の一、証人市川正美の証言及び同証言により成立を認める同第二、五号証ならびに被告鷲頭平治本人尋問の結果を綜合すれば、被告鷲頭は昭和二十八年三月六日市川正美に対し本件土地を売渡し、次いで市川は同年同月十四日被告佐藤に対し本件土地を転売したことを認めることができる。そうすれば被告等の土地所有権取得登記はそれぞれ権利の実状に合致した登記であるから仮にその登記が原告主張の如く原告名義の偽造委任状によりなされたものであるとしてもこれを抹消すべきものではない。
よつて原告の本訴請求を失当としてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 磯村義利)