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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)5205号 判決

原告 中川四郎

被告 学校法人 拓殖大学

一、主  文

一  昭和二十八年四月二十七日開催された被告の評議員会における学校法人拓殖大学寄附行為第三十四条を「総長は学校法人拓殖大学の設置する学校を統督する」と改正する旨の決議が無効であることを確定する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

一  被告の請求の趣旨。

主文第一、二項同旨の判決を求める。

二  請求の原因。

(イ)  原告は、学校法人たる被告の評議員である。

(ロ)  昭和二十八年四月二十七日東京都文京区大塚町五十六番地、茗溪会館で被告が開催したその評議員会において、寄附行為の変更を評議員会の決議事項と定めている寄附行為の定により主文第一項記載の決議がなされたところ、被告は、私立学校法第四十五条の規定により所轄庁である文部大臣に右決議による寄附行為一部変更の認可を申請し、同年五月二十日附を以て申請の通り認可された。

(ハ)  しかしながら、右決議は次の理由により無効である。

(1)  被告が寄附行為を変更しようとする場合には、寄附行為第四十六条の規定により理事三分の二以上の同意及び評議員三分の二以上の同意による議決を得ることを要するのであるが、被告法人の評議員は当時五十四名であるから、その三分の二である三十六名以上の同意による議決を必要としたのである。

(2)  しかるに、本件評議員会における出席評議員は四十一名(但し委任状による出席者十九名を含む)であつたが、議長本多兵一が採決をする直前に評議員寺井正夫が議決に加わらず退席し、しかも同人は小川忠悳、伊藤正喜、河崎兵衛、前田久吉、八藤東禧、西郷吉之助、清水済の七評議員から本件評議員会において議決権を行使することの委任を受けていたものであるから、右寺井の退席により出席評議員は三十三名となつた。採決の結果は、評議員武田維忠が議案に反対し、残余の評議員三十二名(委任状によるもの十二名を含む)が議案に賛成したこととなつた。

(3)  而して、寄附行為変更については評議員三十二名(委任状によるもの十二名を含む。)の同意しか得られなかつたわけであるから、寄附行為第四十六条所定の評議員三分の二以上の同意による議決があつたということができないのに、寄附行為所定の多数の同意があつたとしてなされた本件決議は無効であるといわなければならない。

(ニ)  原告は、被告法人の評議員であるから、本訴につき確認の利益を有する。

三  被告の答弁。

(イ)  請求棄却の判決を求める。

(ロ)  原告主張事実中、本件寄附行為改正の決議をするには、評議員三十六名以上の同意を要すること及び寺井評議員の退席により本件評議員会の出席人員が三十三名に減少したことは否認するが、その他の事実はすべて認める。

(ハ)  原告は、本件評議員会における議決権の行使を被告の理事長である松村〓に委任し、同人は原告の代理人として本件決議に同意したから、結局原告は本件決議に同意したのである。然らば、原告は本件決議が無効であることの確認を求める利益がない。

(ニ)  寺井評議員は、退席に際し、自己が委任を受けていた前記七評議員の議決権行使を評議員狩野敏に復委任し、同人は復代理人として本件決議に賛成したから、本件決議は全評議員の三分の二以上である三十九名の同意を得たものであつて、原告主張のような瑕疵はない。

(ホ)  仮に復代理人選任が有効でなかつたとしても、寄附行為第四十六条の規定は、同第三十二条の評議員会の議事の定足数に関する規定と対比するときは、出席評議員三分の二の多数の同意を得れば有効に寄附行為の変更を議決し得るものと解すべきである。本件についていえば、出席評議員四十一名の三分の二すなわち二十八名以上の同意を得れば足りるから、少くとも三十二名の同意者にあつたこと当事者間に争ない本件決議には何らの瑕疵がなく、原告の主張は理由がない。

四  被告の主張に対する原告の反駁。

(イ)  本件決議に対する原告の同意は、違法な決議を看のがし、適法に成立させることを認容したものではないから、原告は、やはり、その無効の確定を求める利益を失わない。被告の主張(ハ)は理由がない。

(ロ)  およそ、寄附行為は、学校法人の根本組織を定める重要な規則であつて、私立学校法は寄附行為の変更に厳格な要件を定めているし、また、民法第三十八条が社団法人の定款の変更に総社員の四分の三以上の同意あることを要するとしている趣旨からみても、被告の寄附行為第四十六条に「評議員三分の二以上の同意」とあるのは、「全評議員の三分の二以上の同意」の趣旨であると解すべく、「出席評議員の三分の二以上の同意」と解すべきではない。

商法第三百四十三条は、株式会社の定款の変更をなすには、発行済株式の総数の過半数に当る株式を有する株主出席し、その議決権の三分の二以上に当る多数を以てなすべき旨規定し、ことさら出席したる株主という字句を使用していることに照しても何らの限定なく、評議員云々と立言する場合には「全」評議員の意味と解するのが相当である。

本件評議員会は、寄附行為第三十二条所定の出席定足数を充たし有効に成立したのであるが、寺井評議員の退席によつて議長が採決をする直前に出席者が三十三名に減少し、寄附行為の変更の決議をするに必要な定足数(三十六名)を欠いたために寄附行為変更の決議をすることができなくなつたものである。

(ハ)  被告主張の寺井評議員が退席に際し、自己の受任していた七評議員の議決権の行使を狩野評議員に復委任したとの事実は全く存しない。寺井評議員は、本件評議員会の開会の当初から議案に反対し、狩野評議員と対立論争していたのであつて、採決に当り自己と正反対の立場にある者に議決権の行使を復委任するという如きことは全く考えられないことである。

五  <立証省略>

三、理  由

一  昭和二十八年四月二十七日東京都文京区大塚町五十六番地茗溪会館において開催された被告の評議員会において、寄附行為の変更を評議員会の決議事項としている寄附行為第四十六条の定により主文第一項記載の決議がなされたこと及び原告が被告法人の評議員であることは当事者間に争がない。

二  被告の主張(ハ)に対する判断。

原告が、本件評議員会における議決権の行使を被告の理事長である松村〓に委任し、同人が原告の代理人として本件決議に同意した事実は、原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。而して、右事実によれば、原告は本件決議に同意したというべきであるが、これは、寄附行為第三十四条の規定の改正に同意したにすぎず、その同意により成立した決議自体又はその成立過程に瑕疵のないことを容認し、又はその無効確定請求の訴権を被告に対し抛棄する旨の意思表示を包含するものとは解されない。原告に確認を求める利益がないとする被告の主張は理由がない。

三  被告法人寄附行為第四十六条の解釈。

寄附行為第四十六条が私立学校法第四十二条第二項の規定にもとづき、寄附行為の変更をするには評議員会の議決を要するものとしていることは前認定の通り当事者間に争がない。而して、評議員会の議事は、寄附行為第三十三条第一項(私立学校法第四十一条第七項と同趣旨)の規定により出席評議員の過半数を以て決せられるものとなつているところ、右第四十六条は寄附行為変更の重大性に鑑み、決議の要件を加重して、評議員三分の二以上の同意による議決あることを要求したのである。而して、ここに評議員三分の二以上の同意とは、全評議員の三分の二以上の同意であると解するのが相当である。蓋し、明かに出席評議員といつたような特別の限定のない限り右の如く解するのが文理上自然であるばかりでなく、寄附行為変更の手続を慎重ならしめようとする右規定の精神にも合致するからである。成立に争のない乙第四号証の一ないし五によれば、昭和二十七年中に行われた校名変更による寄附行為変更の決議は、必ずしも全評議員の三分の二以上に達しない出席評議員の過半数の同意によつてなされたことを認めることができるけれども、これあるが故に直ちに被告主張の如く寄附行為第三十二条の規定により、すべて評議員会は、評議員の過半数の出席により成立し寄附行為変更の決議は出席評議員の三分の二の多数により議決せられ得るものであると断定しなければならないわけのものではない。

却つて成立に争のない甲第二号証の記載によれば、本件寄附行為変更につき昭和二十八年四月十七日開催された評議員会は全評議員の三分の二以上の同意を要するにかかわらず、出席評議員数がこの定足数に満たなかつたという理由で流会となり、再度本件評議員会の開催となつた事実あることを認めることができるのであつて校名変更による前記寄附行為変更の際の取扱は被告法人における唯一確定の先例というわけでなく、前記乙第四号証の一ないし五は、右論定を妨げるに足る証拠とするをえない。

四  さて、本件評議員会において、議事開始に当り評議員五十四名中出席評議員が四十一名(委任による出席者十九名を含む)であつたこと、評議員寺井正夫が前記七評議員から本件評議員会において議決権を行使することの委任をうけていたこと及び議長が採決する直前右寺井が退席し議決に加わらなかつたことは当事者間に争がない。従つて、寺井外七評議員が、本件決議に同意したとは少くともいい得ない。

被告は、寺井評議員は右退席に際し、評議員狩野敏を委任をうけていた前記七評議員の復代理人に選任し、議決権を代理行使させたと主張するが、本件にあらわれた全証拠によつても右復委任の事実を認めることができない。(もつとも、成立に争ない乙第一号証、同第二号証の一ないし五、同第三号証の一ないし七、証人寺井正夫、同狩野敏の各証言を綜合すると、翌五月上旬頃にいたり、寺井が被告当局に対し本件評議員会における委任をうけていた七評議員の議決権行使を狩野に復委任する旨意思表示し、七評議員等もこれを追認したことが認められるけれども、評議員会の議事終了後に、右のような復委任ないし追認をしても、寺井正夫外七評議員の同意なくして終了した評議員会の議事を議事といえないこれらの事実によつて後に変更し初めから同意があつたものとすることはできない。)

而して、寺井の退席後議長が採決したところ、評議員武田維忠は議案に反対したが、残余の評議員三十二名が賛成したことは当事者間に争がない。そうであつてみれば、本件決議に同意した評議員は結局右三十二名に過ぎなかつたわけである。

五  以上の次第で、本件決議は、評議員の三分の二である三十六名以上の同意を得たということができないから、無効であるといわなければならない。而して、原告が、被告の評議員であることは争がないから、本訴につき確認の利益を有することは明白である。

六  よつて、原告の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条の規定を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小川善吉 畔上英治 宮本聖司)

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