東京地方裁判所 昭和28年(ワ)8895号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実〕東京地方裁判所昭和二十六年(ケ)第二〇号不動産競売事件の不動産引渡命令について、被告(競落人)の申請により、同裁判所書記官補某が裁判長の命令を得て、本件建物の占有承継人と認められる原告及び訴外人二名に対し、承継執行文を付与した。その際被告が右承継の事実を証する証明書として提出したものは、前記引渡命令に基いて訴外の債務者会社に対し本件家屋引渡の執行をしたときに執行吏が作成した不動産引渡強制執行調書であつた。
原告は右の点をとらえて、また標記二及び三の点に関して、次のように主張する。
執行調書は執行行為に関する一応の事実関係を記載したに止まり、該調書中にある利害関係人の陳述は、信頼性に乏しい。これを以て占有の承継を証明する証明書とはいえない。また原告は、所有権者の承諾を得て、本件家屋の賃借権を譲受けその引渡を受けたのであり、当時原告は本件家屋について競売手続進行中なることを知らなかつたのであるから、かような原告に対して承継執行文を付与することは不当である。なお、長時日を要する競売手続の進行中に不動産の占有関係に変動があることは当然であるから、競買人は競落に先立ち、予め賃貸借関係を調査すべき義務があり、これを怠つていながら、後になつて第三者に対して承継執行文の付与を求めることは不当である。
〔判断〕判決は次のように判示して、原告の主張をいずれも斥けた。
一、執行調書は強制執行の施行に関し、執行機関殊に執行吏の作成する調書で、一の証明書であることは勿論であつて、成立に争のない乙一号証執行調書によると、執行々為の目的及びその重要な事情の略記として、執行債務者たる訴外某会社から本件建物の管理を委任された訴外某において、本件係争部分は右訴外会社が昭和二八年二月一日原告に対し賃料一カ月三千円の約で賃貸し、現に原告がこれを占有使用している旨陳述し、執行吏が調査の結果右事実を真実と認めた旨の記載があること明らかであるから、右執行調書は民訴法五一九条一項所定の証明書と認むべく……。
二、競売開始決定は差押の効力を生じ、その差押の効力は競売申立登記記入のとき又は債務者(不動産所有者)に対する競売開始決定の送達があつたときに発生するものであるから、おそくとも競売申立登記記入前又は競売開始決定送達前に建物の引渡がないと、その建物に対する賃借権は対抗できないものというべきである。そして原告の主張によると、原告が本件係争家屋を賃借使用するに至つたのは東京地方裁判所昭和二六年(ケ)第二〇号不動産競売事件として競売手続開始後の昭和二八年二月一一日以後であることが明らかであるから、前敍説示のとおり本件賃借権は当然競落人に対抗し得ず、原告は不動産引渡命令を債務名義としてその占有者に対しても之が引渡を求め得るものといわざるを得ない。
三、民訴法六四三条一項五号及び同条三項によれば、競売申立に際し当該不動産に付賃貸借ある場合は、その期限並賃料及び賃料の前払又は敷金の差入等あるときは、その額を証する証書を添付するを要し、これを証することができないときは、債権者は競売申立の際、その取調を執行裁判所に申請することができ、裁判所は之が取調を執行吏に命ずることができる旨規定し、又同法六五八条はこれら賃貸借の具体的内容を競売公告に掲載すべき旨規定している。これ不動産競落人も当該不動産の上に存する従前の賃貸借を承継するため、賃貸借の内容を公告中に掲載させ、競売価格を算定する資料に供すると共に、競落人に不測の損害を負担させないとの趣意に出づるもので、従つて取調の申請がない限り、職権をもつて之が取調を命ずべきではなく、まして競落人に賃貸借の有無につき調査すべき注意義務あるものとは認め難く、原告の主張は之を採用するに由ない。