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東京地方裁判所 昭和28年(行)28号 判決

原告 今泉秀雄 外七名

被告 東京都知事

一、主  文

被告が昭和二十七年八月十九日附を以て原告等に対して為した別紙記載の移転命令並に立退命令の無効確認を求める原告等の請求を棄却する。

右移転命令並に立退命令の取消を求める原告等の訴を却下する。

被告が昭和二十八年一月八日附を以て右移転命令並に立退命令について原告等に対して為した行政代執行の戒告の無効確認を求める原告等の訴並に右戒告の取消を求める訴はいづれも却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、「被告が昭和二十七年八月十九日附を以て原告等に対して為した別紙記載の移転命令並に立退命令が無効であることを確認する。被告が昭和二十八年一月八日附で右移転命令並に立退命令について原告等に対して為した行政代執行の戒告が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求める、右移転命令並に立退命令の無効確認請求にして理由なき時は予備的に「右移転命令並に立退命令を取消す。」との判決を、又右戒告の無効確認請求にして理由なきときは予備的に「右戒告を取消す。」との判決を求めると申立て、請求の原因として

「一 移転命令並に立退命令の無効確認について

原告今泉は別紙記載第三の建物の敷地をその所有者より賃借してその上に第三の建物を所有し、同第一の建物をその所有者訴外山本敏三より、又同第二の建物をその所有者訴外長谷川政美より賃借し、その余の原告等はそれぞれ別紙記載の通りに各建物をその所有者訴外山本敏三より賃借し、いづれもその建物に居住して居るものであるが、右各建物の敷地は東京都特別都市計画による区画整理の対象となり、被告は右土地の区画整理上必要であるとして、昭和二十七年八月十九日附を以て、特別都市計画法第十五条に基き原告等に対して別紙記載の通りに移転命令並に立退命令を発した。然しながら右移転命令並に立退命令には以下の如き重大なる瑕疵があるので、当然に無効なるものと言はねばならない。

(一)  本件移転命令並に立退命令により、原告等が別紙記載の各建物を移転したり或ひはこれより退去することによつて、原告等の有する右各建物の敷地の賃借権乃至建物の賃借権は消滅することになるのであるから、本件移転命令並に立退命令は原告等の右賃借権を消滅せしめるものである点からして原告等の右賃借権を収用するものに当ると言ひ得べく、従つて被告が本件移転命令並に立退命令を発するについては、都市計画法第十六乃至第十八条によつて土地収用法の定めるところにより同法所定の収用手続を履践しなければならないものである。然るに被告は斯の如き手続を経ることなく、本件移転命令並に立退命令を発したものであるから当然に違法と言はなくてはならない。

仮に特別都市計画法第十五条による移転命令並に立退命令を発するについて、別に土地収用法所定の収用手続を経るを要しないものとするならば、右移転命令並に立退命令は行政庁の全く一方的な認定の下に為されることになる。然も土地所有者、借地権者等は特別都市計画法第十条、第十一条によつて換地に関する事項、補償金の配当割合に関する事項についての決定の手続に参与する土地区画整理委員会委員の選挙権、被選挙権を有することになつて居るが、移転命令並に立退命令を受ける建物の所有者並に賃借権者にはかかる権利が全然認められず、移転命令並に立退命令の発付手続に参与する機会はないのである。かかる手続の下において生活の根拠となる建物賃借権を消滅せしめると言ふことは、明らかに憲法第二十九条に違反するものであり、従つて特別都市計画法第十五条第一項の規定は憲法に違反する無効のものであるから、同条同項に基いて為された本件移転命令並に立退命令は違法である。

(二)  特別都市計画法第十五条による移転命令並に立退命令を発するについては、予め換地予定地が指定されて居なければならないものである処、被告は本件移転命令並に立退命令を発するについて原告等に対し別紙記載の各建物の敷地について換地予定地指定通知を為して居ないし、更に同条第三項の補償についてその金額の通知もして居ないから、この点においても本件移転命令並に立退命令は違法である。

(三)  更に東京都墨田区江東橋三丁目附近の換地予定地の指定については以下に述べる如き瑕疵がある。即ち右三丁目附近一帯の土地の属する区画整理施行地区の土地区画整理委員会委員の選挙は行はれて居らず、その委員にならうとする者が選挙有権者より白紙委任状を集め、これに適宜委員氏名を記入して投票に代えたのであつて右委員会は公正、適法に構成されたものではない。然も該委員会は昭和二十二年五月以降唯一回審議を行つたのみで、その審議の実情は委員長が高圧的に原案を通過せしめたものである。かかる構成の下に、右の如き審議過程を経てなされた被告の右地区全体における換地予定地の指定を通覧すれば換地予定地は従前の土地に比して相当の減歩を見て居るに拘らず、特定の委員並に有力者等に対して指定された換地予定地においては、従前の土地に比し全く減歩を見ないか或は減歩されて居ても極めて僅かであり、従前の土地が極めて劣位の土地であるに拘らず、その換地予定地が高位の土地に指定されて居る事実があり、更に委員の中のある者は右換地予定地の指定を利用して私利を図つて居る有様であり、それらの結果別紙記載の建物の敷地についての換地予定地は従前の土地に比して三割もの減歩を強ひられるの已むなきに至つて居り、更に従前の土地が駅前繁華街に位置するものであるに拘らず、その換地予定地は駅より約百米を隔たる路地にあつて営業上非常に不利なものになつて居るのである。斯の如き不公平、不公正な取扱の事実は右施行地区において一般周知の処であるから、かかる換地予定地の指定はすべて当然に無効なるものと言ふべきである。然してかかる無効なる換地予定地の指定を前提として為された本件移転命令並に立退命令も亦違法であると言はなくてはならない。

よつて本件移転命令並に立退命令が無効であることの確認を求める。

二 移転命令並に取消命令の取消について

仮に本件移転命令並に立退命令が無効とまでは言へないとしても、前示(一)乃至(三)において主張した瑕疵の存する以上、違法として取消を免れないものである。

本件移転命令並に立退命令は昭和二十七年八月十九日附を以て発せられ、原告等はいづれもその日附の頃その命令書を受領したのではあるが、特別都市計画法第十五条に基く移転命令並に立退命令はその代執行が行はれることによつて始めて実効を収めるものであるから、代執行と言ふ終局的処分に対する経過的段階的な処分にすぎないものと言ふべく、従つて本件移転命令並に立退命令は、これらについて代執行の行はれる迄は常に争ひ得るものと解すべく、然も後述の如く本件移転命令並に立退命令については昭和二十八年一月八日附を以て代執行の戒告が為されて居り、代執行による強制力の行使が目前に迫つて居たので原告等は已むを得ず本件移転命令並に立退命令について訴願手続を経由することなく、直ちにその取消を訴求したのであつて、その訴は適法なものである。

三 戒告の無効確認について

被告は本件移転命令並に立退命令について、昭和二十八年一月八日附を以て行政代執行の戒告書を発したのであるが、代執行の戒告とは代執行令書を発するについての前提要件であり単なる通知行為に止まるものではなく、義務者が戒告において定められた期限内にその義務を任意に履行しない時は代執行を為す旨の決定の告知であるから、戒告を受けた義務者の権利義務に変動を生ぜしめるものであることは明らかであるから、行政訴訟の対象となり得るものである。

然し乍ら本件戒告には次の如き重大なる瑕疵があるので、当然に無効なるものと言はねばならぬ。

(一)  本件戒告の前提となつて居る本件移転命令並に立退命令が前述の通りに違法なものである以上本件戒告も亦違法なることは明らかである。

(二)  更に本件移転命令並に立退命令に所謂移転、立退とは、原告等が別紙記載の建物を収去し、或ひはこれらより退去して、換地予定地上に建物を再築し、或ひは新たに住居を構へることを意味するものであり、如何に建物を再築し、住居を構へるかは原告等自身のみの決すべきところであつて、他人の代つて為し得ない行為である。従つて本件移転命令並に立退命令は本来代執行に親しまないものであり本件戒告は違法である。

(三)  右整理施行地区における整理の進行上から見て、原告等が別紙記載の建物を移転し、或ひはこれより退去しないことによつてその区画整理の施行が停頓するといふ虞れはなく、原告等のみ独り代執行を受けなければならない理由は全くないので本件戒告は違法である。

よつて本件戒告の無効なることの確認を求めるものである。

四 仮に本件戒告が無効とまでは言へないとしても、前示(一)乃至(三)に主張した瑕疵のある以上、違法として取消を免れないものである。

本件戒告の取消を求める請求は昭和二十八年七月十四日追加拡張したものであるが、その請求の拡張にして適法である以上該訴の出訴期間は最初の訴提起の時を標準として考ふべきものであり、更に代執行による強制力の行使が目前に迫つて居り、本件戒告について訴願を経由して居ては代執行を受けてしまふ虞があつたので原告等は訴願手続を経由せず直ちに訴を提起したものであつて適法なものである。」と述べ、被告の主張に対し、

「原告今泉が別紙記載第三の建物の敷地の賃借権について被告に対し特別都市計画法施行令第四十五条所定の届出をしなかつたことは認めるが、被告は原告今泉が右賃借権を有することを知つて居るのであるから右土地について換地予定地を指定し原告今泉に通知しなければならないものである。又別紙記載のその余の建物の敷地の借地権者等がその借地権について被告に対し右届出をしなかつたとの事実は不知である。」と述べた(立証省略)。

被告指定代理人は、原告等の移転命令並に立退命令の無効確認を求める請求、戒告の無効確認を求める請求を棄却する、原告等の予備的請求についてはその訴を却下する、との判決を求め、

「一 移転命令並に立退命令の無効確認について

原告等主張事実中原告今泉が別紙記載の第三の建物を所有し、原告等が別紙記載のその余の建物をそれぞれその所有者(第五の建物は訴外葦刈津吉の所有に係るものであり、その余の建物の所有者は原告等主張の通りである)より賃借し、それぞれその建物に居住して居ること、被告が原告等に対し、その主張の如く移転命令並に立退命令を発したことは認める。

(一)  被告が本件移転命令並に立退命令を発するについて、別に土地収用法所定の収用手続を経なかつたことは認める。然し特別都市計画法第十五条による移転命令並に立退命令は、それ自体としては建物の所有者、占有者に対し、建物の移転乃至明渡と言う事実行為を命ずるものに過ぎず、建物所有者、占有者の有する私法上の権利に何等の消長をも招来するものではないから、本件移転命令並に立退命令を発するについて土地収用法所定の収用手続を経由しなければならない理由はなく、又特別都市計画法第十五条第一項の規定が憲法第二十九条に違反するものでもない。

(二)  被告が本件移転命令並に立退命令を発するに際つて原告等に対し別紙記載の建物の敷地に対する換地予定地の指定通知をしなかつたことは認める。原告今泉は別紙記載第三の建物の敷地について賃借権を有すると主張するが、同原告はその賃借権につき登記を経由して居らず、又特別都市計画法施行令第四十五条所定の届出もして居ないので、被告としては原告今泉がその主張する賃借権を有するかどうか不明であつたから被告は同原告に対し換地予定地指定通知をせずに本件移転、立退命令を発したのである。又別紙記載のその余の建物の敷地については、その敷地の借地権者等がその借地権について登記を経由して居らず且右届出もして居なかつたので原告等に対して換地予定地指定通知をせずに本件立退命令を発したものであつて、本件移転命令並に立退命令は違法ではない。

又補償の点については被告は昭和二十八年一月末か同年二月初頃口頭で、同年二月二十日頃書面で原告等に対し補償金額を通知して居るのであるが、補償金額を通知することは移転命令並に立退命令を発するための要件ではないから、この点の原告の主張は理由がない。

(三)  東京都墨田区江東橋附近一帯の換地予定地の指定について原告等主張の如き不公平、不公正な取扱の為された事実はない。原告等主張の土地区画整理委員会委員の選挙は東京都特別区長に委任された事項であつて被告の処分には関係がないが、その選挙について不正の行われた事実はない。右委員会の審議は議事規則により原則として非公開になつて居るが、該委員会は数十回に亘つて慎重に審議を重ねて来たのである。然して被告は昭和二十年十一月三十日閣議において決定された戦災地復興計画方針に基き区画整理施行の必要からして、換地その他各般の処置を為して来たものであり、右委員会の委員が如何なる行為を為したりやは被告において関知する処ではなく、又換地予定地指定の有利、不利は単に減歩率のみによつて決せられるものではないのであつて、被告が特定の者の利を図つたり特定の者に対し著しく、不公平な処分を為したりしたことはない。別紙記載の建物の敷地の換地予定地が、従前の土地よりも駅から遠くなつたのは事実であるが、それは駅前広場の設置に伴つて為された已むを得ない処置であり、右換地予定地の指定が著しく不利益な処置とは言えず仮に多少の不利益があるとしても、耕地整理法第三十条第一項但書所定の清算金によつて充分償われ得るものであつて、右換地予定地の指定を以て無効と言うことはできない。従つて右換地予定地の指定が無効たることを前提とする原告の主張は理由がない。

二 移転命令並に立退命令の取消について

本件移転命令並に立退命令の書面が昭和二十八年一月八日頃原告等に到達したことは認める。本件移転命令並に立退命令は特別都市計画法第十五条に基き発せられたものであるから、その取消を訴求するには都市計画法第二十五条第一項による訴願の手続を経由しなければならぬものである処、原告は右訴願手続を経由して居らず且原告等が右訴願手続を経由する充分の余裕があり、その訴願手続中に現実に代執行を受ける虞れもなかつたものである。然も原告等が本件移転命令並に立退命令取消請求訴訟を提起したのは原告等が該命令書を受領した日から六ケ月以上経過した後のことに属し又本件移転命令並に立退命令がこれについて代執行の行われる迄常に争い得るものとするならば該命令の効力は永く不確定の状態に置かれることになつてしまうのであつて、行政事件訴訟特例法第五条第一項の規定の趣旨に反することになるから、右いずれの点よりするも本件移転命令並に立退命令の取消を求める訴は不適法である。

三 戒告の無効確認について

被告が昭和二十八年一月八日附を以て原告等に対し本件移転命令並に立退命令について行政代執行の戒告を為したことは認める。

(一)  本件戒告の前提となつて居る本件移転命令並に立退命令に原告主張の如き瑕疵なきこと前述の通りであるから、本件移転命令並に立退命令が違法であることを前提とする原告等の主張は理由がない。

(二)  区画整理における移転とは建物の所有者が従前の土地上の建物をその土地より収去してその土地を明渡すことであり、立退とは、建物の占有者がその建物より退去して明渡すことを意味するのであつて、その所有者占有者が如何に建物を再築するか新しき住居を構えるかの点まで介入するものではない。従つて本件移転命令並に立退命令による移転、立退は他人の代つて行い得るものであることは明らかである。

(三)  更に原告等が別紙記載の建物を収去し、或いは明渡をしないことにより、原告等が現在占有して居る土地に換地予定地の指定を受けた者はその土地に移転することができなくなり、連鎖的に区画整理全体の施行の停滞を招来することになるから、原告等が移転、立退をしないことによつて著しく公益を害するものであることは明らかである。

四 戒告の取消について

本件戒告書が昭和二十八年一月八日か、その翌日に原告等に到達したことは認める。戒告の取消を訴求するには該戒告について訴願を経由しなければならぬものである処、原告等は本件戒告について訴願手続を経由して居らず、又訴願を経由するについて充分な余裕があり、訴願中に現実に代執行を受けてしまう虞れもなかつたのであるから、原告等の本件戒告の取消を求める訴は不適法である。」と述べた(立証省略)。

三、理  由

一  本件移転命令並に立退命令の無効確認請求について

原告今泉が別紙記載第三の建物を所有し原告等が別紙記載のその余の建物をそれぞれその所有者より賃借し、それぞれその建物に居住して居ること、別紙記載の各建物の敷地が東京都特別都市計画による区画整理の対象となり、特別都市計画法第十五条第一項に基き被告が昭和二十七年八月十九日附を以て原告等に対し別紙記載の通りに移転命令並に立退命令を発したことは当事者間に争がない。

(一)  特別都市計画法第十五条第一項に基いて発せられる移転命令立退命令とは区画整理施行の為に為された換地予定地指定通知その他の処分によつて形成された権利関係に事実上の土地の占有状態を相応せしめる為のものであつて、その命令の対象となつた人に対し、当該建物を収去し、或いは当該建物より退去すると言う事実行為を為すべき義務を課するものであるに止まり、該命令自体はその命令の対象となつた人が当該建物乃至その土地について有する権利に何等の消長をも招来するものではないのであつて、本件移転命令並に立退命令は原告等が別紙記載の建物乃至その敷地について有する権利を収用する(仮に賃借権の収用なる概念があるとして)ものに当るものでないことは明らかである。従つて本件移転命令並に立退命令を発するについて、土地収用法所定の収用手続を経由しなければならない理由はなく、又特別都市計画法第十五条第一項の規定が憲法第二十九条に違反するものとも言えないのであつて原告等のこの点の主張は採ることはできない。

(二)  原告等の主張(一の(三)における主張)からして、本件移転命令並に立退命令が発せられるに際つて別紙記載の建物の敷地については少くともその所有者に対する関係において、換地予定地の指定があつたことが窺はれる。然して原告今泉が別紙記載第三の建物の敷地について賃借権を有するとしても、同原告がその有すると主張する賃借権について登記を経由して居ないとの事実は同原告において明らかに争はない処であり、且同原告がその賃借権について、被告に対し特別都市計画法施行令第四十五条所定の届出をしなかつた事実は、同原告と被告との間に争がないのであるから、同条但書の規定により被告において同原告が、その主張する如き賃借権を有することを知つて居たか否かに拘らず被告は右建物の敷地について同原告に対する関係で換地予定地を指定しその通知をしなければならないものではない。又原告等の主張によれば原告等はいずれも別紙記載のその余の建物について賃借権を有するものであると言うに過ぎず、その敷地自体について何等かの権利を有すると言うのではないから、被告は原告等に対する関係において右その余の建物の敷地について換地予定地を指定しその通知をしなければならないものではない。更に特別都市計画法第十三条、同法施行規則第十四条よりして、別紙記載の建物の所有者乃至賃借人としての原告等は、右建物の敷地について原告等以外の者に対する関係で指定された換地予定地の指定通知を受くべき関係人でもない。従つて被告が原告等に対し別紙記載の建物の敷地について換地予定地を指定したり、換地予定地の指定通知をしたりせずに本件移転命令並に立退命令を発しても違法と言うことはできず、原告等のこの点の主張は理由がない。

(三)  特別都市計画法第五条第十条によると特別都市計画法に基く都市計画法に基く都市計画における換地に関する事項は、行政庁が土地区画整理委員会の意見を聞いてこれを定めることになつて居る。従つて東京都の特別都市計画における換地予定地の指定処分を為す権限を有するものは整理施行者である被告であつて土地区画整理委員会は単にその諮問機関たるに止まるものと言わなくてはならない。然る以上諮問機関たるに過ぎない右委員会の委員選挙が適法に行われず委員会の構成が適法に行われなかつたとしても、又委員会の審議が充分に行われず委員中のある者が換地予定地の指定に関聯して自己及び特定の者の利益を図る行為を為した事実があつたとしても、そのことによつて被告がその権限と責任とにおいて決定した換地予定地の指定処分が当然に無効となるものと言うことはできない。更に被告の為した区画整理の設計が都市計画の本来の目的に適しないものであり、又別紙記載の建物の敷地についての換地予定地指定処分が近隣のそれに比して著しく不利益なものであるとしても、右の如き設計についての瑕疵、換地予定地指定処分についての瑕疵は、整理施行地区の土地の状態その他から見ての技術的合目的的判断、施行地区全体における換地予定地指定処分についての地目、地積、等位その他各般の事情を綜合した上での比較判断を俟つて始めて明らかになるものなのであるから、原告等の主張自体からして、右建物の敷地について為された換地予定地指定処分が無効となるものとは認め難い。然して右換地予定地指定処分が権限ある官庁によつて取消されたとの事実の主張のない本件では別紙記載の建物の敷地についての換地予定地指定処分は有効に存続するものと言うべく、従つてその換地予定地指定処分が無効であることを前提とする原告等のこの点の主張は理由なきものと言うべきである。

以上判示の通りであるから、本件移転命令並に立退命令が当然に無効なるものとは言えず原告等の請求は理由なきものと言わざるを得ない。

二  本件移転命令並に立退命令の取消を求める訴について

昭和二十七年八月十九日附を以て発せられた本件移転命令並に立退命令がその日附の頃原告等に到達したことは当事者間に争がない。原告等は本件移転命令並に立退命令が代執行の為の経過的段階的処置に過ぎないから代執行のある迄は常にその効力を争い得るものと主張するのでその主張について考える。(この点の原告等の主張が本件移転命令並に立退命令が代執行に親しまざるものとする三の(二)の原告等の主張と、どの様に調和するのか解し難いがその点は暫く措く。)本件移転命令並に立退命令はその対象となつた人に対し、建物の収去退去の義務を負わしめるものであり一の独立した法律効果を発生せしめる処分であつて、単に代執行の為の必要な前提手続たるに過ぎないものではない。一連の手続において進行する行政上の処分においてある処分が後行処分の前提となる場合にも当該処分が独立の法律効果を発生するものである以上、当該処分が独立して訴訟の対象となるものであることは明らかであるから、当該処分の取消を求める訴についての出訴期間は当然当該処分自体の為された時を以て基準としなければならないのであつて、後行処分の時を基準とすべきものではない。本件移転命令並に立退命令についてもその取消を求める訴の出訴期間は当然その命令書が原告等に到達した日を基準として考うべきであつて、代執行の行われる迄常にその取消を訴求し得るとする理由は全くない。ところで原告等が本件移転命令並に立退命令の取消を求める訴を提起した(請求の拡張による)のは昭和二十八年七月十四日であることは当裁判所に明白な処であり、仮に原告等主張の様に当初の訴提起の時をとつて考えて見てもそれが昭和二十八年四月二十日であることは、当裁判所に明白な処であつていずれをとつて見ても、原告等が本件移転命令並に立退命令の取消を求める訴を提起したのは原告等が本件移転命令並に立退命令の命令書を受領した日から六ケ月を経過した後のことに属するのでこの点の原告等の訴は不適法であると言わなくてはならない。(なお訴願の点については本件移転命令並に立退命令が訴願事項に当らぬものと解すべきであるが何れの見解によるとするも原告等の主張自体からして原告等が本件移転命令並に立退命令について訴願を為して居ないことの明らかな本件においては、原告等の訴が不適法なものであることにかわりはないから特にこの点について判示しない。)

三  四戒告の無効確認並に取消を求める訴について

被告が本件移転命令並に立退命令について、昭和二十八年一月八日附で原告等に対し行政代執行の戒告を為しその戒告書が同日かその翌日かに原告等に到達したことは当事者間に争がない。そこで代執行の戒告ななるものが訴訟の対象となり得るものであるか否かについて検討する。裁判所が裁判権を有するのは法律上特別の定めある場合を除き法律上の争訟に限られる。行政事件訴訟特例法第一条第二条の規定が右特別の定めに当るものと解することはできないから、所謂行政訴訟はある行政処分が違法と判断されることによつてある人がその人として有する権利義務についての紛争が法律上解決される場合でなければならない。従つて又かかる意味での行政処分とはその処分の対象となつた人がその人として有する権利義務を直接変動せしめる種類のものであるか或いは少くともその権利義務の変動を法律上決定ずける種類のものでなければならない訳である。そこで代執行の手続を見ると行政代執行法第二条によれば同法所定の義務者がその義務を履行しない時は、同条所定の要件の下に行政庁において代執行ができるが同法第三条によれば原則として同条第一項所定の戒告を為し、義務者がなおその指定期限内に義務の履行をしない時は同条第二項所定の代執行令書を発することになる。右の一連の手続において行政庁は戒告において指定された期限内に義務者がその義務を履行しない場合にでも、当然に代執行ができる訳ではなく、別に代執行令書の発付を俟つて始めて行政庁が代執行を為し得るに至るものなのであるから、義務者が代執行受忍の義務を負うのは代執行令書の発付によつてであると言わなくてはならない。従つて戒告はそれ自体として義務者に対し、その既に負つて居る履行義務以上に何等かの新しい義務を課するものではないから、戒告とはそれ自体として直接その対象となつた人の権利義務を変動せしめるものとは言えないのである。次に義務者が代執行受忍の義務を負うのは代執行令書の発付によつてなのであるから同法第二条の代執行を為し得る為の要件とは代執行令書を発するについての要件であると解するのが相当である。従つて同法第二条所定の、他の手段によつて履行を確保することが困難であり、且その不履行を放置することが著しく公益に反する等の要件事実は代執行令書発付の時において具備されて居なければならないわけである。然る以上行政庁は代執行令書を発付するに際つては、右第二条所定の要件事実の具備するや否やを確かめて決定しなければならないものである。以上の通りであつて法律上は行政代執行の戒告があつても、当然に代執行令書が発せられることになる訳のものではなく、行政庁の判断によつて決せられるものであつて、代執行の戒告は代執行令書発付の為に必要な前提手続要件であり、単に予めの催告的なものであると解せられるのである。戒告が為された場合は事実上代執行令書の発付されることが多いとしても、それは前記の如き要件事実が具備して居るものと判断された場合が多いと言うだけのことであつて、法律上の右の如き建前には何の影響もないことである。従つて戒告は戒告を受けた人の有する権利義務の変動を法律上決定づけるものでもないと言わなくてはならない。上叙の処からして戒告は行政訴訟の対象となり得ないものであることは明らかであつて、本件戒告が無効確認訴訟並に取消訴訟の対象となり得ないものと言う外はない。よつて本件戒告の無効確認を求める訴も、取消を求める訴も共に不適法である。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 桑原正憲 太田夏生 山田尚)

(別紙目録省略)

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