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東京地方裁判所 昭和29年(ヨ)4323号 判決

債権者 日本国有鉄道

債務者 渥美源五郎 外二二名

一、主  文

債権者が債務者渥美のため金五拾万円、その余の債務者等のため共同して金参百万円の保証を立てることを条件として、

債務者渥美は債権者に対し別紙目録<省略>(二)記載の建物を収去して、同目録(一)記載の土地の明渡をせよ。

その余の債務者等は債権者に対し同目録(三)記載の各占有建物部分から退去して、それぞれその敷地の明渡をせよ。

訴訟費用は債務者等の負担とする。

二、事  実

債権者代理人は、「債務者渥美は債権者に対し別紙目録(二)記載の建物を収去して、同目録(一)記載の土地の明渡をせよ。その余の債務者等は債権者に対し同目録(三)記載の各占有建物部分から退去してそれぞれその敷地の明渡をせよ。」との判決を求め、その理由として、

(一)  別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地という)はもと国の所有に属し、昭和二十四年五月三十一日当時国有鉄道事業特別会計の資産であつたところ、債権者は昭和二十四年六月十一日日本国有鉄道法(以下国鉄法という)によつて設立された公共企業体であつて、同日国から昭和二十四年五月三十一日における国有鉄道事業特別会計の資産を引き継ぎ(国鉄法附則第二項、同法施行法第八条)、国有鉄道事業に関し昭和二十四年六月一日現在において国が有する権利義務を承継し(同法施行法第四条)本件土地の所有権を承継取得したものである。

(二)  しかるに債務者等はいずれも本件土地を占有するにつき債権者に対抗できる何等正当な権原を有しないにかゝわらず、債務者渥美は本件土地の上に別紙目録(二)記載の建物(以下本件建物という)を建築所有し、その余の債務者等は右建物のうち別紙目録(三)記載の各占有部分において店舗を経営して、それぞれ本件土地を占有し、債権者の右土地所有権を侵害しているから、債権者に対し債務者渥美は本件建物を収去して本件土地を明渡しその余の債務者等は本件建物から退去して本件土地を明渡すべき義務があるので、債権者は債務者等に対し右各義務の履行を求めるため本案訴訟を昭和二十八年十二月十五日東京地方裁判所に提起した。

(三)  ところで戦後の人口都市集中による交通機関利用者の激増に伴い国鉄の交通事情は極度に行詰りを来たし、就中東京都内上野新橋両駅間における国電の運転間隔は世界に類例のない一分五十秒にまで短縮され、最早既存の設備を以てしては累増する国鉄利用者の需要に応じきれない状態に達したので、債権者は右交通事情の行詰りを打開するため昭和二十五年以来(イ)京浜東北線電車と山手線電車の分離工事、(ロ)神田駅における京浜東北線電車ホームと山手線電車ホームの分離工事、(ハ)東京駅引上線延伸工事、(ニ)常磐線電車の新橋駅乗入工事を計画し継続工事として着々その実現を期しつゝ今日に及んだのである。而してその間右工事の実施に関しては国会においても種々論議され、特に国会運輸委員会は債権者に対しその緊急なる完成を要望したのであるが、債務者等が本件土地を明渡さないので、右工事の一環としての高架線路建設工事に支障を来たし、又東京駅引上線延伸工事も昭和二十八年十一月以降未完成のまゝ中止のやむなきに至つた。

かくの如く右工事が中止されたまゝ債権者が本案訴訟の判決確定の日を待たざるを得ないものとすれば、債権者が今日までに二十四億九千六百余万円を投下して実施してきた国電施設改良工事は事実上全面的に中断され、債権者の前記工事計画は全く水泡に帰し、債権者は国家的にも社会的にも全く償うことのできない著しい損害を蒙るに至る。

また昭和二十八年十二月現在における月間国電遅延回数は池袋駅では七百一回に過ぎないのに上野駅では千九百八十三回であつて、上野、新橋両駅間の輸送状況は輻輳その極に達しているのであるから、仮に債権者が本案訴訟の判決確定に至るまで現存設備によつて累増する旅客輸送に当らなければならないものとすると、所定運行時分の維持は益々不能に陥りダイヤは混乱し、その結果東京駅発着の各列車は勿論、高崎、水戸方面の列車の正常運行にも支障を来し、更に運転事故の発生を誘起し或は重大死傷事故を惹起するおそれがある。かくなつては公共の福祉を著しく阻害し、社会的に少からぬ犠牲を生じ、その損失は結局債権者に帰せしめられることになるから、本案訴訟の判決確定を待つていたのでは債権者は回復すべからざる著しい損害を蒙ることになるのである。

そもそも東京駅においては東海道本線上り到着列車は一たん全部引上線に引上げ、機関車を前頭から後尾に附換えた後、出発線に入換えて発車させるのであるが、現在東京駅引上線の神田駅寄りの機関車廻線(機廻り)の有効長は三十七メートルで二十メートルの長さの機関車で辛じて作業をしているのであるが、冬期煖房車を使用する場合にはこの有効長が最少百五メートルなければ煖房車の廻転作業は不可能である。そこで債権者は右引上線を延伸して機廻りの有効長を百五メートルにし冬期煖房車の廻転作業を可能ならしめるべく、前記引上線延伸工事を計画し、その実施をなし来つたのであるが、債務者等が本件土地を明渡さないので東京駅起点千百二十メートルの地点において右工事を中止するの止むなきに至つたのである。しかし債権者が今直ちに本件土地を使用することができるようになり、右地上に高架橋工事をなし、前記引上線延伸工事を続行することができれば昭和二十九年十一月初旬頃には右工事を完成することができ、従つて昭和二十九年十一月十五日から始まる冬期煖房車の連結使用も可能となるのであるが、本案訴訟の判決確定の日を待つていたのでは、昭和二十九年十一月十五日以降も煖房車の連結作業は事実上不可能となり、旅客に対し多大の不便と苦痛を強要することになり、債権者は著しい損害を蒙るのである。

以上の次第であつて本案訴訟の判決確定を待つていたのではたとえこれに勝訴したとしても、債権者は著しい損害を蒙ることになるので、これを避けるため債権者は仮の地位を定める仮処分として申請の趣旨記載のような判決を求めるものである。

と述べ、債務者渥美を除くその余の債務者等の抗弁に対し、その主張事実のうち債務者山崎、同瀬田、同高原、同北島がそれぞれ同渥美から別紙目録(三)記載の各占有建物部分を賃借して使用しているものであるということは認めるが、その余の事実は否認する債務者渥美が昭和二十二年五月三日附で国に対し本件土地を含む神田駅前鉄道用地の使用願を提出したので、国は同年九月二十二日同債務者に対し大正十年法律第四十三号国有財産法(以下旧国有財産法という)第四条及び第二十条に基いて使用目的仮設建物敷地用、使用料一カ年金五千九百三十九円七十六銭、使用期間昭和二十三年三月三十一日までとし、使用権の譲渡及び転貸をしないこと、使用期間中と雖も国において必要あるとき若しくは右債務者において使用承認条項に違反し又は不都合の行為ありと国が認めた時は何時にても使用承認を取消すことができるという条項の下に右土地の一時使用を承認したことはあるが、国において右債務者に対し右土地を建物所有の目的で賃貸したことはない。而してその後国及びその権利義務を承継した債権者において数次にわたり一年毎に右債務者に対し右使用承認を更新し、昭和二十八年三月三十一日まで右使用承認は継続したのであるが、同日右期間が満了したので、爾後は右使用承認を更新することなく、再三右債務者に対し右土地明渡方を請求してきたものであるから、右債務者は債権者に対し本件土地を明渡すべき義務があること明らかである。仮に右土地使用承認に基く債務者渥美の本件土地の使用権が建物所有を目的とする賃借権であるとしても、右は一時使用のため設定されたこと明かであるから借地法第二条乃至第八条の規定は適用されないと陳述した。<立証省略>

債務者渥美は債権者の本件仮処分申請を却下するとの判決を求め、答弁として債権者が申請の理由として主張する事実はすべて認めると述べた。

債務者渥美を除くその余の債務者等の訴訟代理人は債権者の本件仮処分申請を却下するとの判決を求め、答弁として、債権者主張の事実のうち、申請理由(一)の事実全部及び同(二)の事実のうち債務者渥美が本件土地の上に債権者主張の建物を建築所有し、その余の債務者等が債権者主張の各建物部分において店舗を経営してそれぞれ本件土地を占有していること、債権者が債務者等に対し債権者主張の日に東京地方裁判所に債権者主張のような本案訴訟を提起したことは認めるが、その余の事実はすべて知らないと述べ、抗弁として、債務者渥美が昭和二十二年五月三日附鉄道用地使用願を以て国に対し本件土地を含む神田駅前鉄道用地の賃借方を申込んだところ、国は昭和二十二年九月二十二日附鉄道用地使用承認書を以てこれを承諾し、こゝに両者の間に右土地について建物所有を目的とし賃料一カ年金五千九百三十九円七十六銭、期間昭和二十三年三月三十一日までとする賃貸借契約が締結されたのである。その後国鉄法の施行により債権者が国から本件土地の所有権を承継し、右賃貸借契約上の国の賃貸人としての権利義務を承継したものである。従つて本件土地が債権者の所有となつた今日においては右賃貸借契約には借地法の適用があるから、右賃貸借契約における期間の定めは同法第二条に違反し、同法第十一条によりこれを定めなかつたものとみなされるから、期間は契約の時から三十年とすべきものであつて、債権者と債務者渥美との間には今日も尚本件土地賃貸借契約が存続している。而して同債務者は右借地権に基いて本件建物を本件土地の上に建築所有しているのであつて、その余の債務者等は右債務者渥美から本件建物の各占有部分を賃借してこれを使用しているものである。従つて債務者渥美を除くその余の債務者等は右各占有建物部分の賃借人としてこれを占有使用する限度において右建物部分の敷地たる本件土地を占有使用する権原があること当然であるから、本件土地を不法占有しているものではないと陳述した。<立証省略>

三、理  由

一、債権者の債務者渥美を除くその余の債務者等(以下債務者酒井等という)に対する本件仮処分申請について按ずるに、本件土地がもと国の所有に属し、昭和二十四年五月三十一日当時国有鉄道事業特別会計の資産であつたところ、債権者は昭和二十四年六月一日国鉄法によつて設立された公共企業体であつて、同日国から昭和二十四年五月三十一日における国有鉄道事業特別会計の資産を引き継ぎ(国鉄法附則第二項、同法施行法第八条)、国有鉄道事業に関し昭和二十四年六月一日現在において国が有する権利義務を承継し(同法施行法第四条)、本件土地の所有権を承継取得したものであること、債務者渥美が本件土地の上に本件建物を建築所有し、その余の債務者等が債権者主張の各建物部分において店舗を経営してそれぞれ本件土地を占有していることは右当事者間において争がない。

債務者酒井等は、債務者渥美は昭和二十二年九月二十二日国から本件土地を建物所有の目的で賃借し、右地上に本件建物を建築所有し、債務者酒井等はいずれも債務者渥美から前記建物部分を賃借使用しているものであるところ、債権者は国の右土地賃貸借契約における賃貸人としての権利義務を承継したものであるから、債務者酒井等は右建物部分を使用する限度においてその敷地として本件土地を占有する権原を有する旨抗弁するので、この点について判断するに、右当事者間において成立に争のない疏甲第一、第二号証及び弁論の全趣旨によれば、債務者渥美が昭和二十二年五月三日附で国に対し本件土地を含む神田駅前鉄道用地の使用願を提出したので、国は同年九月二十二日同債務者に対し旧国有財産法第四条及び第二十条の規定に基いて債権者主張のような条項の下に右土地の一時使用を承認したところ、債務者渥美においてその請書を提出したこと、その後国及びその権利義務を承継するに至つた債権者において数次にわたり一年毎に右債務者に対し右使用承認を更新し、昭和二十八年三月三十一日まで右使用承認の関係は継続したものであることが一応認められる。そこで按ずるに旧国有財産法第四条は「国有財産ハ雑種財産ヲ除クノ外之ヲ譲渡シ又ハ之ニ私権ヲ設定スルコトヲ得ス、但其ノ用途又ハ目的ヲ妨ケサル限度ニ於テ其ノ使用又ハ収益ヲ為サシムルハ此ノ限ニ在ラス」と規定し、同法第二十条は「前五条(第十五条乃至第十九条)ノ規定ハ貸付ニ依ラスシテ国有財産ノ使用又ハ収益ヲ為サシムル契約ニ付之ヲ準用ス」と規定している。すなわち雑種財産以外の国有財産についてはその用途又は目的を妨げない限度においてのみその使用又は収益をなさしめることが許されるのであるが、その場合貸付以外の方法で国有財産の使用又は収益をなさしめる契約については貸付に関する規定を準用するというのが右第四条及び第二十条の規定の趣旨とするところである。ところで本件土地は旧国有財産法上所謂公用財産に属すること(同法第二条)、右認定のとおり国が債務者渥美に対し同法第四条及び第二十条の規定により本件土地の使用承認をするというのに対し、同債務者から国に対しその請書を提出したことに徴すれば、国が債務者渥美に対し右法条によりすなわち貸付以外の方法により本件土地を使用することを承認しようと申込をしたのに対し、同債務者がこれを承諾し、(同債務者の提出した前記使用承認願は単に契約の申込の誘引たる性質を有するにすぎないものである)、ここに国と右債務者との間において本件土地について貸付以外の方法によりその用途又は目的を妨げない限度において前叙認定の条項の下にその使用をなさしめる契約が成立したものと認めるのが相当であり、右契約は貸付すなわち使用貸借及び賃貸借以外の方法によつて国が右債務者の本件土地使用を承認するという債権関係を右両者の間に設定することを内容とする一種の私法上の無名契約すなわち所謂準貸付であると解すべきものである。而して右契約は私法上の契約であるから旧国有財産法の規定に従う外一般私法の規制を受くべきは当然とするところであり、また使用権を設定することを内容とする意味において貸付に類似しているので貸付に関する規定が準用されることになつているのであるが、あくまで右契約は貸付以外の方法により使用権を設定することを目的とする債権契約であつて使用貸借又は賃貸借そのものではないというべきである。従つて右契約によつて設定された債務者渥美の本件土地使用権がたとえ仮設建物所有を目的とするものであつても、借地法に所謂借地権には該当しないものとなさざるを得ない。而して右準貸付契約はその後一年毎に更新されて昭和二十八年三月三十一日まで継続したのであるか、昭和二十三年法律第七十三号国有財産法(以下新国有財産法という)が昭和二十三年七月一日施行され、旧国有財産法が廃止されると共に、旧国有財産法の規定によつてなされた準貸付は新国有財産法の規定に牴触しない限度で、新国有財産法の規定によつてしたものとみなされることになつた(同法第四十二条)。而して本件土地は新国有財産法上は企業用財産たる行政財産ということになつたので(同法第三条、同法施行令第二条、)本件土地準貸付契約は新国有財産法第十八条、第十九条の規定によつてなされたものとみなされそのまゝ有効に存続したのである。その後昭和二十四年六月一日本件土地の所有権は国から債権者に移つたのであるが、なお「日本国有鉄道の会計及び財務に関しては、鉄道事業の高能率に役立つような公共企業体の会計を規律する法律が制定施行されるまでは、日本国有鉄道を国の行政機関とみなして……国有財産法……の規定の例による」と定められていたので(国鉄法改正前の第三十六条)、本件土地については依然、新国有財産法の適用があつたが、更に国鉄法の一部改正により本件土地準貸付契約には同法の適用がないことになつたのである(国鉄法第六十三条)、しかし債権者は国が国有鉄道事業特別会計をもつて経営している鉄道事業その他一切の事業を経営し、能率的な運営により、これを発展せしめもつて公共の福祉を増進することを目的として設立された公法上の法人であつて(国鉄法第一条、第二条)、所謂公共企業体に属し、本件土地は債権者により直接公の目的に供用された有体物すなわち公物であるから、その処分について法律の規定によつて種々の制限が設けらるべきことは十分考え得られるところであるが、かゝる制限を設けた特別の法令の存しない限り、公物と雖も契約自由の原則によつて支配さるべきものというべきところ、前記認定のような内容の準貸付契約を本件土地について締結することを特に禁止するような規定は存在しないから、右準貸付契約は債権者と債務者渥美との間においても有効に更新され、昭和二十八年三月三十一日まで存続し来つたものというほかない。果してしからば債権者と右債務者との間に存続した本件土地使用に関する契約もまた賃貸借契約ではないこと明らかである。而して弁論の全趣旨により一応真正に成立したと認める疏甲第五号証及び証人竹内行三の証言によれば右準貸付契約は昭和二十八年三月三十一日限り期間満了により終了し、爾後は更新されることなく、債権者は債務者渥美に対し本件土地の明渡を再三要求してきたことが一応認められる。従つて債権者と債務者渥美との間には本件土地について賃貸借契約は勿論準貸付契約も存在しないこと明白であるから、その賃貸借契約の存在を前提とする債務者酒井等の前記抗弁はその余の点について判断するまでもなく失当であつて排斥せざるを得ない。

従つて債務者酒井等が本件土地を占有するにつき債権者に対抗できる正当な権原を有することについて他に主張立証しない本件においては債権者は右債務者等に対し別紙目録(三)記載の各占有建物部分から退去して本件土地を明渡すべきことを請求する権利を有するものといわざるを得ない。

そこで次に本件仮処分の必要性について判断するに、証人山本竜也の証言(第一回)及び右証言により一応真正に成立したと認める疏甲第十四号証並びに成立に争のない疏甲第十六号証を綜合すれば債権者は昭和二十八年度において東京駅引上線延伸工事の実施を計画し、同年度内にこれを竣工する予定の下に、昭和二十八年九月五日右工事に着手し、爾来東京駅寄りから神田駅方向へ向つてこれを実施し、東京駅起点千百二十メートルの地点までこれを進めてきたところ、これ以上右工事を進めるのには本件土地を使用する必要があるのに、前認定のように債務者等が本件土地を占有しているので、債権者は右工事を右の程度で中止するのやむなきに至つたことが一応認められる。

而して前顕疏甲第十六号証によれば「そもそも東京駅は東海道本線列車の始終発着駅であるから、同線上り到着列車は一たん全部引上線に引上げ、機関車を列車の前頭から後尾に附換えた後、出発線に入換えて発車させることになつているのであるが、その操作の概略は次のとおりである。すなわち同駅八乃至十一番線に到着した同線上り列車は客扱、荷扱終了後直ちにその機関車でそのまゝ同駅引上一番線又は同二番線に引上げ、客車を引上線に分離留置したまゝ機関車のみ右引上線の神田駅寄りの最終点に至りその機関車廻線で一たん停止し、次に常磐線への亘り線を経て常磐線を通つて東京駅方向に走行し、更に本線の亘り線を経て再び先に客車を留置しておいた引上線に入り右客車の後尾に連絡した後機関車は右客車を牽引して、東京駅の十二乃至十六番線のうち指定された出発本線に入り、それから旅客及び荷物扱を完了して東海道本線下り列車として出発するのである。而して右引上線の神田駅寄りの機関車の廻線の有効長は現在三十七メートルであつて、現在は二十メートルの長さの機関車で前記のような操作をしているので、辛じてその作業が可能な状況である。しかるに冬期において煖房車を連結使用する場合には機関車の廻線の有効長は少くとも機関車(長さ二十メートルのもの)二輛の長さ四十メートル、煖房車の長さ十五メートル、最少過走距離十メートル、砂盛安全線の長さ四十メートルの合計百五メートルにすることを要し現在の三十七メートルのまゝでは東海道本線の煖房車の附換作業は不可能であること」が一応認められる。

そこで右引上線を延伸する以外に機関車廻線の有効長を増加し或は煖房車の附換作業を可能にする方法があるかどうについて検討するに、右疏甲第十六号証及び成立に争のない疏甲第十七号証によれば、

(1)  右引上線と既設本線(常磐線)とは一、七メートルの高低の差があり、しかも引上線、常磐線ともに竜閑橋架道橋附近から常盤橋架道橋附近にかけてはいずれも千分の七の勾配であるところ、日本国有鉄道建設規程によれば入換作業に伴う分岐器の勾配は千分の三、五以下でなければならないから、右個所に亘り線を設けることはできないのである。また西今川橋架道橋附近から竜閑橋架道橋附近に至る間には右西今川橋架道橋、臼旗橋梁本銀橋架道橋の三橋梁があり、しかも右橋梁はいずれも下路板桁橋梁であつて、その構造上列車の車輛と主桁の間隔が無く、列車がこゝから分岐して走行することは不可能であつて、分岐器をこの部分に設けることはできないから、右橋梁を改築しない限り右西今川橋、竜閑橋両架道橋の間に亘り線を設けることはできないのである。更に右常盤橋架道橋から呉服橋架道橋に至る間には長大な本線の亘り線が二本あるから、この部分に機関車廻線の亘り線を設けることはできないのである。従つて右引上線の機関車廻線の亘り線を東京駅寄りの方に移転して設けることは事実上不可能である。

(2)  次に東京駅構内の配線を一括新橋駅寄りの方に移動させることによつて右機関車廻線の有効長を伸長することは、もしこれを実施するとすれば尨大な費用を要することになるので、事実上実現不可能である。

(3)  更に中間駅例えば品川駅或は沼津駅において煖房車を解結する方法を採用するとすれば、所定のダイヤで作業をすることができなくなるから、右の方法も実際上採用することはできないものである。

ことが一応窺える。

なお亘り線を常磐線上り線に下り方向に設け、同線を機廻り線として使用することも考えられないわけではないが債権者の提出する全疏明によれば、列車電車の運行頻繁なる同線に逆に機関車等を運行することは保安上はもとより、信号器その他の技術上にも多大の困難を伴うことが推知されるのでこれを以て機廻り線として使用し得るものと為すに由ないものと考えざるを得ない。

してみれば東海道本線に煖房車を連結使用した場合その附換作業を可能にするためには、右引上線の機関車廻線の有効長を現在の三十七メートルから百五メールにすることが必要であり、しかもそれを実現するためには右引上線を神田駅の方へ延伸することが必要であるものと認めざるを得ない。しかるに債務者等が本件土地を明渡さないので、右延伸工事の中止のやむなきに至つていることは前述のとおりであるところ、前記疏甲第十六号証によれば東海道本線において煖房車を使用するのは毎年十一月からであるが、今直ちに本件土地の明渡をうけて右引上線延伸工事に再着手すれば昭和二十九年十一月までにはこれを竣工することができるものであることが疏明される。而して以上認定を左右するに足る疏明資料は全くない。従つて本案訴訟の判決確定の日まで本件土地の明渡をうけられないものとすれば、たとえこれに勝訴しても、債権者は右引上線延伸工事を昭和二十九年十一月煖房車使用開始の時までには竣工することができないこと明白である。而して債権者はその経営する鉄道事業を能率的な運営により発展させ公共の福祉を増進することを目的とする公共企業体であつて、右引上線延伸工事を急速に実現する使命を有するものというべく、前記のように右工事の実施が阻害され、延いては昭和二十九年十一月からの煖房車の円滑なる使用が妨げられるということは、債権者にとつて著しい損害を生ずるものというべく、本件土地の使用を債務者に許したまゝ本案訴訟の判決確定の日を待つにおいては、債権者は回復し得ない著しい損害を蒙るものと考えざるを得ない。よつて債権者の右著しい損害を避けるため債務者酒井等に対し別紙目録(三)記載の各占有建物部分から退去して、それぞれその敷地の明渡をなすべきことを命じ、仮に債権者の満足を与える仮処分をする必要があるものとするほかない。

二、次に債権者の債務者渥美に対する本件仮処分申請について按ずるに、債権者が申請の理由として主張する事実は全部右当事者間において争がなく、右事実によれば債権者が債務者渥美に対し本件建物収去土地明渡請求権を有し同債務者に右建物を収去して右土地を明渡すべきことを命ずる旨の仮処分をなす必要があること明かである。

以上の次第であつて債権者の本件仮処分申請は理由ありというべく、債権者が債務者渥美のため金五拾万円、その余の債務者等のため共同して金参百万円の保証を立てることを条件として主文のとおりの仮処分を発することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 脇屋寿夫 荒木秀一 輪湖公寛)

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