大判例

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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)1049号 判決

原告 あかつき印刷株式会社

被告 国 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「一、被告等は原告に対し連帯して金五十万円也及本訴状送達の翌日よりその完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。二、被告等は原告に対し別紙記載の如き謝罪広告を東京都内に於て発行される日刊朝日新聞、毎日新聞読売新聞及びアカハタ紙上に連続三回掲載しなければならない。三、訴訟費用は被告等の負担とする」との判決並に第一項につき仮執行の宣言を求め、請求の原因として

一  原告会社は昭和二十二年三月八日民主々義的団体の機関紙、機関誌其の他民主主義的出版物印刷並に之に関聯する事業を経営することを目的として設立せられた印刷会社である。

二  昭和二十八年十一月二十一日午前七時頃警視庁警備第二部公安第一課警部補仲村政治、同第三課警部補町田明その他の引率指揮による武装警官約三百名及び私服警官約三十名は原告会社の肩書地所在の営業所及印刷工場を包囲し且侵入し、原告会社の宿直員に対し東京地方裁判所の発した

(1)  出入国管理令違反被疑者河崎保に関し原告会社に対する捜索及び押収に関する令状

(2)  出入国管理令違反被疑者河崎保外六名に関し訴外渋谷印刷所に対する捜索及押収に関する令状

を示して同日午前七時頃より約二時間に亘り原告会社営業所及工場を捜索し、

(イ)  ウイーン代表派遣カンパをさらに進めましようのビラ 一枚

(ロ)  調査要綱 三枚

(ハ)  日本民主青年団第三回東京都大会報告決定集 一部

(ニ)  日本青年(創刊号) 一部

(ホ)  アカハタ 二部

(ヘ)  写真版(平和と友情ブカレスト第四回世界青年平和祭)二枚

を押収して引上げた。

三  然しながら訴外河崎保外六名の人物は原告会社とは全然無関係の人物であり同人等の被疑事実と本件捜索及押収とは法律上も事実上も何等の関聯性がない。

又訴外渋谷印刷所はあかつき印刷工場が休業中その工場の一部を使用して印刷業に従事していたことはあるが昭和二十八年七月あかつき印刷工場が再開復旧と同時に徹収退去し、爾後同所と無関係のものであり亦渋谷印刷所と訴外河崎保外六名とは全然無関係で同人等の被疑事実と本件捜索及押収とは法律上も事実上も関聯性はない。

又前項(イ)乃至(ヘ)記載の本件押収物件はいづれも公然たる刊行物であつて秘密文書的性質のものでもない。

四  右の如き事実関係は公知明白であるにも拘わらず(1) 警視庁当局はあたかも原告会社が訴外河崎保等の出入国管理令違反被疑事件と関聯性がある如く主張して東京地方裁判所に前記捜索及押収の令状を請求し(2) 同裁判所は右事実上及び法律上の関聯性を慎重審査することなく右令状を発し(3) 警視庁当局は右令状に基き前記の如く刑事訴訟規則第九十三条の規定を無視して捜索及び押収を為したものであつて此等の行為は憲法第三十五条刑事訴訟法第百二条、刑事訴訟規則第九十三条に違反して為された違憲、違法のものである。

(1)  憲法第三十五条に所謂「正当な理由に基いて発せられ」とあるは侵入捜索又は押収を必要とする正当な理由の意味であり、その正当性は令状を発する裁判官の主観的判断ではなくて客観的具体的正当性を必要とすることは憲法第三章及び第十章の規定に照らし明らかである。

又同条は「捜索する場所及び押収する物を明示しなければならない」「令条は各別に発せられなければならない」旨を規定して所謂一般令状を禁止している。

(2)  刑事訴訟法第百二条第二項に所謂「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」とは之亦令状を発する裁判官の主観的意見判断に一任したのではなく客観的具体的正当性を要件として居ること多言を要しないその故にこそ現実の運用上に於て検察官又は警察官の令状請求に対し之を疏明するに足る資料の提出を要件として居るのである。

(3)  刑事訴訟規則第九十三条は令状を発する場合にも又令状を執行する場合にも共に遵守しなければならない規定であることは刑事訴訟規則第九章の規定全般に照らし明白である。

五  即ち

(1)  本件令状の請求、発付及び執行は原告会社と何等関係のない被疑事件に関してなされた違憲違法のものでありその違法性は当該令状の請求者且執行者たる警視庁当局及び之を発した当該裁判官の故意若くは重大なる過失に基く被告両名の共同不法行為である。

(2)  本件令状の執行に当り多数の警察官により原告会社を包囲し交通を遮断して捜査及び押収を為したことは刑事訴訟規則第九十三条に違反した違法なもので被告東京都(警視庁)の不法行為である。

原告会社は被告等の右(1) 及び(2) の不法行為により営業上の信用及び名誉を毀損されその慰藉料は金五十万円をもつて相当とするのでその慰藉料及び信用名誉の回復を求めるため国家賠償法第一条同第四条及び民法第七百九条以下の規定により本訴請求に及んだ。と述べた。<立証省略>

被告国指定代理人は主文同旨の判決を求め原告主張の請求原因に対し第一項中原告会社が印刷並びにこれに関連する事業の経営を目的とする株式会社であることは認めるがその余は不知。第二項は認める。但し原告会社捜索の指揮者は警部補町田明のみであつて仲村政治警部補は訴外渋谷印刷所捜索の指揮者である、又捜索の為の警官の数は原告会社の他に渋谷印刷所等三ケ所を含めて三百十四名である。第三項中本件押収物件が秘密文書的性質のものでないことは認めるが(但しアカハタ、日本青年を除いては一般に入手することが因難である)その余は争う。第四項及び第五項は争うと述べ主張として原告及び訴外渋谷印刷所と訴外河崎保外六名に係る出入国管理令違反被疑事件との間には次のような関連があつて正に捜査上の必要に基いて捜索押収が行われたのである。

右被疑事件とは昭和二十八年八月ルーマニア国ブカレストにおいて「第四回世界青年学生平和友交祭」が開催されることとなり、同年四月頃その国際準備委員会より我国の反戦権利擁護常任推進委員会に対して日本代表の派遣方を要請して来たところ、同委員会等を中心とする「第四回世界青年学生平和友交祭日本世話人会」がこれに呼応して同祭参加のための旅券獲得運動資金カンパ等を全国的に展開したが、政府としては出席者の生命の安全を保障し得ないためその旅券を発給しなかつたにかかわらず、前記河崎保等が同祭参加のため有効な旅券を所持せず従つて旅券に入国審査官の出国の証印を受けることなくして出国した事実である。警視庁においては直ちにこの事実を探知し内偵を進めていたが、同年七月及び八月中に入手した「反戦権利擁護ニユース」第三三号、アカハタ第一二〇一号、同第一二一二号及び「日本青年」創刊号等に右平和友交祭に参加した右河崎等日本代表に関する記事、その通信文並びに写真が掲載されていたため、右各誌の印刷に当つた原告等と右被疑事件との間に何等かの関係があり原告等の事務所工場に右被疑事件に関する文書等の存在することが推察され、捜査上右証拠物件を捜索押収する必要が認められるに至り、茲に本件捜索押収が行われたものである。

右の次第で右被疑事件と何等関連のない原告等に対して本件捜索押収が行われたのではないからこれを理由とする本訴請求は失当であると述べた。<立証省略>

被告東京都指定代理人は左の点を追加する外被告国と同旨の答弁及び主張をした。

原告主張の請求原因第二項中警官が原告の宿直員に対し「(2)出入国管理令違反被疑者河崎保外六名に関し訴外渋谷印刷所に対する捜索及押収に関する令状」を示した事実は否認する。又その示した令状は、東京簡易裁判所裁判官(地方裁判所裁判官ではない)の発した「(1)出入国管理令違反被疑者河崎保外六名河崎保ではない。に関し、原告会社に対する捜索及押収に関する令状」である。第四項中警視庁当局が東京簡易裁判所に捜索及押収令状を請求したこと同裁判所が令状を発したこと及び警視庁当局が右令状を執行したことは認める。<立証省略>

理由

原告会社が印刷及びこれに関連する事業の経営を目的とする株式会社であること及び出入国管理令違反被疑事件に関し、警視庁当局の請求により原告会社に対する捜索及び押収に関する裁判官の令状が発付され、右令状に基き、警視庁当局は昭和二十八年十一月二十一日午前七時頃原告会社の肩書地所在の営業所及印刷工場に於て捜索及び押収を行つたことは当事者間に争がない。

成立に争ない乙第六号証によれば原告会社に対する本件捜索及び差押令状は出入国管理令違反被疑者河崎保外六名に関するものであり又それを発付した者は東京簡易裁判所裁判官であつたことが認められる。

以下原告主張の不法行為の成否につき判断する。

一、被告国及び同東京都の共同不法行為の主張について

1  原告会社と本件被疑事実との関連性について

成立に争ない乙第三、第四号証、裁判所においてその成立を認める乙第一、第二号証、並に証人牧野武、同倉田藤一、同渡辺武の各証言、その他本件弁論の全趣旨を綜合すれば次の事実を認定することができる。

(イ)  乙第一乃至第四号証に昭和二十八年八月ルーマニア国ブカレストにおいて開催された「第四回世界青年学生平和友交祭」に関する記事並びに之に参加した河崎保等日本代表に関する記事、その通信文及び写真が掲載されている事実

(ロ)  原告会社はアカハタを印刷して居り(昭和二十五年六月末より昭和二十七年五月頃迄その工場閉鎖中はその工場の一部を賃借した訴外渋谷印刷がアカハタの印刷に当つた)乙第三、第四号証も原告会社で印刷したものであること

(ハ)  原告会社の事務所及び工場は共産党本部と隣接して居り又原告会社の受ける註文の三割が共産党本部からである事実

(ニ)  本件被疑事実に関した記事を扱つた文書としては本件令状の執行により押取された文書の外には朝日新聞に単に平和友交祭が盛大に催されたと云う抽象的な報道があつたのみであり、又本件押収文書中アカハタ及び日本青年を除いては一般に入手困難であつた事実

又警視庁当局が本件令状の執行により原告会社より押収した文書がウイーン代表派遣カンパをさらに進めましようのビラ一枚、調査要綱(現地からの手紙が掲載されている)三枚、日本民主青年団第三回東京都大会報告決定集一部、日本青年(創刊号)一部、アカハタ二部、写真版(平和と友情ブカレスト第四回世界青年平和祭)二枚であつたことは原告の自認する処であり此等の文書がいづれも被疑事実と関連性あることは当事者間に争ない処である。

以上の事実を綜合すれば原告会社が他の一般の者が所持しない被疑事件に関した文書を所持して居たと云う意味において被疑事件と原告会社とは関連性があつたと認めるのが相当であるから法律上事実上何等関連性なしとする原告の主張は採用できない。

2  本件令状の請求及び発付の正当性について

前項認定の事実及び証人牧野武の証言により認められる本件令状を東京簡易裁判所に請求するに際し「昭和二十八年七月九日付及び同年八月十二日付アカハタ、反戦ニユース第三十三号警察官に対する参考人の供述調書並に被疑者等に旅券を発給しなかつた旨の外務省の回答書」が証拠資料として添付された事実より推度すれば「捜索又は押収を必要とする正当の理由」があり又「押収すべき物の存在を認めるに足る状況」もあり且それ等を疏明するに足る証拠もあつたものと認めるを相当とする。本件令状に基く捜索及び押収に於て原告自認の如く既に本件執行前警視庁が入手していた文書の外八点(内少くとも二点が原告会社で印刷したものでないことは証人倉田藤一の証言から認められる)の被疑事件に関した文書が押収されたことは本件令状の正当性を裏付けるものである。

なお原告は刑事訴訟規則第九十三条は令状を発する場合にも遵守さるべき規定であると主張するが仮にそうであるとしても本件令状の発付に当り同法条に違反した事実は認められない。

よつて本件令状の請求及び発付が憲法第三十五条第一項、刑事訴訟法第百二条第二項及び刑事訴訟規則第九十三条に違反するとする原告の主張は採用し難い。

3  本件令状の要式及び記載について

成立に争ない乙第六号証によれば本件令状は捜索令状及び差押令状が一枚でなされていること、場所の表示として「渋谷区千駄ケ谷四の七一四アカハタ印刷所(アカツキ印刷株式会社)及びその他の附属建物」と記載してあること及び差押えるべき物の表示として「被疑者七名の不法出国に関する文書物件の一切」と記載してあることが認められる。

さて憲法第三十五条第一項は令状には「捜索する場所及び押収する物を明示する」ことを必要としており之を承けて刑事訴訟法第百七条は令状には「差押えるべき物又は捜索すべき場所」の記載を要求している。これは明確に特定し得る程度の具体的な表示を必要とするものでそれが具体的である程良いことは多言を要しない処である。然し実際に於て、特に捜査の段階に於ては捜索をしてはじめて差押えるべき物が真に特定できることが多く、現場に臨んではじめて捜索すべき場所が限定され得ることが少くない。従つてある程度のゆとりはやむを得ないもので法も之を許容しているものと解すべきである。即ち場所の記載は管理を異にする場所と区別しうる程度に特定した表示であれば足り、又押収すべき物の表示としては差押える物を個々に特定することは必ずしも必要でなく執行の際令状の記載(場所被疑事実等)と関連させて具体的に特定しうれば足りるものと解すべきである。

又憲法第三十五条第二項は令状は各別でなければならないと規定しているがこれは令状の執行が一回に限られることを意味し事件毎に一個の令状を要求するのでもなく、又差押と捜索が別個の令状でなければならない意味でもない、同一の場所で同一の機会に捜索に引き続き差押が行われる限度で捜索状と差押状を一括することは差支えなく、又場所については一個の令状に数箇の場所を記載することは許されないが差押えるべき物については同時に差押える物である限り数個の物を一個の差押状に記載することは差支えないものと解すべきである。

以上の見解によつて本件令状(乙第六号証)を見ればその要式及び記載は適法なものと云うべく之を以て憲法の禁止する一般令状であるとする原告の主張は採用し難い。

以上1、2、3点を総合すれば本件令状の請求及び発付は適法であつたと認めることができこの令状を執行することにより(執行の方法に関しては後に判断する)被告国及び同東京都は原告に対し共同して不法行為を為したとする原告の主張は理由がない。

二、被告東京都の単独不法行為について(執行の方法について)証人倉田藤一、同牧野武の各証言及び本件の弁論の全趣旨を総合すれば昭和二十八年十一月二十一日本件令状の執行に当り警視庁当局は警官約三百名を以て原告会社を包囲し、原告会社より二、三百米の範囲に亘り同日午前七時頃より同八時半頃迄交通を遮断した事実及び本件執行が午前七時十分より一時間に亘つた事実を認めることができる。

原告は右事実を以て刑事訴訟規則第九十三条が「押収及び捜索については秘密を保ち、且処分を受ける者の名誉を害しないように注意しなければならない」と規定している処に違反すると主張するので判断するに刑事訴訟法第百十二条によれば「差押状又は捜索状の執行中は何人に対しても許可を得ないでその場所に出入することを禁止することができる」と規定して居り本件執行場所たる原告会社への出入を禁止したこと自体は適法である。問題は執行に当つた警官の数(出入禁止の方法)、禁止区域の範囲及び禁止した時間の妥当性にある。

前認定の事実によれば右三点に関し多少の行き過ぎが無かつたとは断定し得ないが本件執行は原告会社等三ケ所が同時に行われたこと被疑事件が共産党に関連したものであり且執行場所が共産党本部と隣接して居ること、従来共産党関係に対する公権力の実力行使については実力による妨害を受けた事例が比較的多かつた等の事情を併せ考えれば右の程度は甚だしく妥当を欠くものとは云い得ず刑事訴訟規則第九十三条に違反するとする原告の主張は認め難い。

なお、証人倉田藤一、同渡辺武の各証言を総合すれば、本件執行に当り警視庁当局は令状の呈示、及び管理者の立会に於て多少厳格性を欠くうらみがあつたこと、又被疑事実と関係がないと思われる室内周囲のビラ、機械の構造配置の撮影や、家屋の間取坪数労働組合役員名簿等の調査をした事実を認めることができる。此等の事実は違法とは云えないまでも妥当を欠く行為であつて甚だ遺憾である。然し乍ら之を以て不当に原告会社の秘密及び名誉が害されたとは認め難く、此の点から判断したとしても原告の主張は採用し難い。

以上判断のとおり原告主張の不法行為はいづれもその成立を認め難く、その余の点につき判断する迄もなく原告の本訴請求はその理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決することにした。

(裁判官 藤井経雄 真田禎一 西塚静子)

謝罪広告

河崎保氏外六名の出入国管理令違反被疑事件捜査に籍口し、捜索及び押収の令状を発し昭和二十八年十一月二十一日早朝武装警官約三百名私服警官約三十名を動員し、貴社及貴社工場を包囲、且つ侵入し捜索押収した行為は決して他意あるものには無之、貴社が民主々義団体の機関紙、機関誌その他民主々義的出版物を専門に印刷されること就中「アカハタ」の印刷を引受けて居られることが当局としては好ましからず、仍て機会あるごとに貴社に対し厭がらせ妨害を試み以て貴社の経営を取潰し度き念願の一端に過ぎません。

然しながら今般東京地方裁判所民事第 部の御判決に依れば右の如き行為は日本国憲法や法律に違反し且つ曽てのナチス独逸、フアシスト伊太利、軍国主義日本の轍を繰り返すものであることを覚り茲に謹んで陳謝いたします。

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