東京地方裁判所 昭和29年(ワ)2493号 判決 1954年12月27日
横須賀市坂本町六丁目二十八番地
原告
石川英二
右訴訟代理人弁護士
馬場東作
右訴訟復代理人弁護士
藤原義之
東京都中央区日本橋蠣殻町一丁目十七番地
被告
大成繊維株式会社
右代表者代表取締役
岩崎高広
右訴訟代理人弁護士
福井盛太
宮沢邦夫
吉田勧
飯塚信夫
右当事者間の昭和二九年(ワ)第二、四九三号株主総会決議取消請求事件について、当裁判所は、次の通り判決する。
主文
1 被告会社が昭和二十八年十二月二十一日開催した臨時株主総会においてなされた
(一) 取締役石川英二を解任する
(二) 土井昂徳、岩崎高広、吉永直治を取締役に選任する
(三) 定款第五条中会社が発行する株式の総数二万株を六万四千株に改め、同第八条に第二項として「前項の規定は昭和二十八年十二月二十一日発行する株式の総数の変更により増加した株式に対する新株引受権について準用する」と追加する。
との決議が存在しないことを確認する。
2 原告その余の請求を棄却する
3 訴訟費用は、これを四分しその一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実
一、請求の趣旨。
1 被告会社が昭和二十八年十二月二十一日開催した臨時株主総会においてなされた
(一) 取締役石川英二を解任する
(二) 土井昂徳、岩崎高広、吉永直治を取締役に選任する
(三) 定款第五条中会社が発行する株式の総数二万株を六万四千株に改め、同第八条に第二項として「前項の規定は昭和二十八年十二月二十一日発行する株式の総数の変更により増加した株式に対する新株引受権について準用する」と追加する
(四) 額面五百円の記名式普通株式八千株(発行価額一株につき五百円)を発行しその払込期日を昭和二十八年十二月二十五日とする
との決議が存在しないことを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
二、請求の原因。
(一) 被告会社は、昭和二十七年四月七日設立された綿糸人造絹糸及びステープルファイバー糸の先物取引及び実物取引による売買その受託並に仲買を業とする株式会社である。
(二) 原告は、請求の趣旨記載の決議によつて解任されるまで被告会社の代表取締役であつた者で、且つ、四千五百株の株主である。
(三) 被告会社は、昭和二十八年十二月二十一日本店会議室において臨時株主総会を開催し、右総会において請求の趣旨記載の各決議がなされたとしてその旨の取締役解任選任、会社の発行する株式の総数の変更及びこれに伴う増加未発行株式についての〓の定めの各登記並に同月二十五〓行による変更の登記がなされている。しかしながら右総会招集については取締役会の決議を経ず、且つ、代表取締役である原告の招集に係るものでもないから、株主総会として不存在である。従つて、右総会においてなされたと称する決議もまた不存在である。よつて、請求の趣旨記載の各決議の不存在なることの確認を求める。
(四) 仮に右総会が不存在でないとしても、右総会を招集するにつき取締役会の決議を経す、四千五百株の株主である原告及び二千株の株主である石川純一に対し招集通知を発しなかつたものであるから、総会招集の手続に瑕疵がある。よつて、原告は予備的請求として前記各決議の取消を求める。
三、被告の答弁並に主張。
(一) 請求棄却の判決を求める。
(二) 原告主張の事実中、被告会社が原告主張の日時に設立せられたその主張のような目的を有する株式会社であること、原告が本件決議によつて解任せられるまで被告会社代表取締役の職にあつたこと、昭和二十八年十二月二十一日被告会社本店において臨時株主総会が開催せられ右総会において原告主張の各決議がなされ、これに基き原告主張の各登記がなされたこと、右総会を招集するにつき取締役会の決議を経ず且つ代表取締役たる原告の招集によらなかつたことと及び原告並に石川純一に対し招集通知を発しなかつたことはいづれもこれを認める。
(三) しかしながら、原告及び石川純一は被告会社の株主ではない。なるほど被告会社の株主名簿には原告が四千五百株の石川純一が二千株の株主として登載せられているけれども、同人等の株金は訴外杉生正において会社に対しその払込をしたものであつて、同人らは単なる名義人にすぎないのであるから、会社に対し株主たることを主張しえないものである
(四) そうであつてみれば、原告は被告会社の株主ではなく、また、本件決議によつて解任せられた以上現に取締役でもないのであるから、株主総会決議取消の訴を提起する権利を有しないのである。
(五) 仮に、原告及び石川純一が原告主張の株数を有する株主であつて、且つ本件総会招集の手総に原告主張のような瑕疵があつたとしても、次の理由により原告の請求は失当である。すなわち、本件総会開催当時被告会社の株主は十名発行済株式の総数は一万六千株であつたが、本件総会に出席した株主は七名でその株数は九千三百株であつて、本件各決議は出席株主の全員一致によつて可決されたものであるから、原告及び訴外石川純一に対し招集通知が発せられた本件総会に出席する機会が与えられたとしても、本件決議の成立に何らの影響を及ぼすことができなかつたのである。従つて本件決議は取り消さるべきものではない。
(六) 原告は、被告会社の代表取締役に就任以来経営宜しきを得ず会社に対し約一千五百万円の損害を生ぜしめ、その結果被告会社は昭和二十八年十二月通産省当局の調査を受け係官から同月二十五日までに再建の方策を講じないときは東京纖維商品取引所会員たる資格を停止する旨の勧告をうけるにいたつた。ここに於て、被告会社の債権者であつた岩崎高広等は被告会社の全債権者百十六名及び従業員十四名の利益を擁護するため、やむなく本件総会を開催し、その決議により同年十二月二十五月右岩崎高広が二百五十万円、土井昂徳が百万円杉生正が五十万円を醵出して新株を発行し着々再建の成果を収めつつある次第である。しかるに本訴において、右総会の決議が取り消され原告が被告会社代表取締役に復帰するときは被告会社の倒壊すべきことは前記の事情からして火を見るよりも明らかである。およそ、株主総会の決議の取消を求める株主の訴権は共益権に属し原告勝訴の判決は会社自体の利益となる場合においてのみ与えられるべきものである。従つて原告の勝訴が会社の不利益に帰すべき本訴の場合においては、原告の請求は棄却せられなければならない。
四、原告の反駁。
被告主張の事実中、被告会社の株主及び発行済株式の数、本件総会における出席株主及びその所有株式の数並びに本件決議に対する賛否の状況に関する被告の主張は認めるが、原告及び石川純一の所有株式の株金が杉生正の払込に係るものであること、原告が被告会社代表取締役として会社に被告主張のような欠損を生ぜしめたこと及び通産省係官から被告会社がその主張のような勧告をうけたことはいづれも否認する。
五、立証
原告訴訟代理人は甲第一ないし第四号証(但し甲第一ないし第三号証は写)を提出し、原告本人の供述を援用した。
被告訴訟代理人は甲第一ないし第三号証の原本の存在及びその成立並に同第四号証の成立を認め証人杉生正の証言を援用した。
理由
被告会社が原告主張の日時に設立された原告主張のような目的を有する株式会社であること、被告会社が昭和二十八年十二月二十一日本店会議室において臨時株主総会を開催し、右総会において請求の趣旨記載の各決議がなされたとしてその旨の取締役解任選任、会社の発行する株式の総数の変更及びこれに伴う増加未発行株式についての新株引受権の定の各登記並に同月二十五日の新株発行による変更の登記がなされていることは当事者間に争がない。原告は、右株主総会が不存在であり、従つて右各決議もまた不存在である旨主張するから、先づこの点について判断するに、原告は昭和二十八年十一月一日被告会社の代表取締役に選任せられ本件決議によつて解任せられるまで引続き在職していたことは被告の争はないところであつて、しかも被告会社における唯一人の代表取締役であつたことが成立に争ない甲第四号証により認められる。しかるに本件総会が原告の招集によらずして開催せられたことは被告の自白するところであるから、本件総会が代表取締役の招集によらずして開催せられたことは明白であつて、かくの如き株主の集会は株主総会として認められないものというべきである。しからば、本件各決議もまた不存在であるといわなければならない。
次に原告が本訴につき確認の利益を有するや否やについて判断する。原告は被告会社の四千五百株の株式を引受取得し現にその株主である旨主張するに対し、被告は原告がその主張の株数を有する株主として株主名簿に記載せられているけれども、原告はその株金の払込をしたことがなく、右株金は訴外杉生正の払込に係るものであるから右訴外人が真の株主であつて原告は単に名義株を保有しているにすぎないから被告会社に対し株主たることを主張しえたいものであると抗争する。しかしながら、他人に対しその名義で株式の引受をすることを許容した者は仮令自己の計算において株金の払込をしたとしても会社に対し自己が株主であることを対抗するためにはその他人から当該株式の譲渡をうけた上名義書換を経ることを要し、会社もまた右手続を了するまでは株主名簿上の名義人を株主として取扱うべきものであると解するのが相当であるから、被告の主張は事実の確定をまつまでもなく主張自体失当であるといわなければならない。しからば、原告は被告会社の四千五百株の株主として請求の趣旨記載の(一)(二)(三)の決議の不存在なることの確定を求める利益を存するというべきである。しかしながら原告の存在並にその成立に争がない甲第一号証、前出甲第四号証によれば、請求の趣旨記載の(四)の決議(新株発行の決議)については、右決議にもとづき払込期日である昭和二十八年十二月二十五日各株につき払込があり既に新株全部の発行を了している事実がみとめられるから、発行せられた右新株の効力を争うことは格別として、右決議の不存在なることを確定するなんらの法律上の利益がないといわなければならない。
よつて原告の本訴請求中請求の趣旨(一)(二)(三)の決議の不存在なることの確認を求める部分を理由ありとして認容しその余の部分は理由がないからこれを棄却し(原告は予備的請求として決議の取消を主張しているが、前認定の通り本件株主総会は不存在であるから、請求の趣旨(四)の決議につきその取消を論ずる余地はない。)、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条本文の規定を適用して主文の通り判決する。
東京地方裁判所民事第八部
裁判長裁判官 岡部行男
裁判官 太田夏生
裁判官 宮本聖司