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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)372号 判決

原告 黄文欽 外七名

被告 財団法人善隣学生会館

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は「被告法人の設立は無効なることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との趣旨の判決を求め、その請求原因として、

第一、原告等はいづれも中国人で、日本に留学しているものである。そして財団法人満州国留日学生会館又は財団法人満州国留日学生補導協会の所謂満州国留日学生として、右法人の施設の便益、教育上の補導を受け、その利益をうけつゝあるものである。即ち財団法人満州国留日学生会館は、昭和十年九月十四日満州国留日学生のため、教育上の施設を施し、且つ、諸般の便宜を図ることを目的として、設立され、財団法人満州国留日学生補導協会はその後昭和十九年三月七日満州国留日学生をして留学の目的を達成せしめるため、諸般の補導に任ずることを目的として設立されたものであつて両者は、名称目的に、多少の相違はあるが、実体は全く同一のもので、同一法人と看做すべきものであり、又満州国の旧領域は、現在中国に統一されたので、右の所謂満州国留日学生の意味は、中国留日学生を意味することになり、従つて必ずしも旧満州国地域出身者に限ることなく原告等は、いずれも、財団法人満州国留日学生補導協会の唯一の受益者であり、同法人の所有であり現在被告法人の所有と称する東京都文京区小石川町一丁目一番地所在の鉄筋コンクリート造五階建建物を中国人留学生として利用しているものである。

第二、訴外守島伍郎同奥村勝蔵同剣木享弘同西崎恵同柳井恒夫同坪上貞二同笹森順三同永井浩の六名は、昭和二十八年五月二十三日本邦と諸外国との文化の交流を図るため外国人の留学生に対し諸般の便宜を供与し、国際文化の向上に寄与することを目的として被告法人を設立したと称し、同日所轄東京法務局日本橋出張所にその旨の登記をした。そして同法人は後記の通り財団法人満州国留日学生補導協会の最大の財産たる前記鉄筋コンクリート造五階建建物の所有権を引継いたと称しているので、実質上は右法人と同一体であり、原告等は右法人の目的に従い利益を享受する立場にあるものである。

第三、然しながら、右設立は、法律上つぎの諸点からいい無効である。

一、資産に関し寄附行為がない。

凡そ財団法人の設立には、民法第三十九条同法第三十七条の規定により、特に資産については特定財産につき、寄附行為があることを要する。然るに被告法人の設立にあたつては、寄附行為中にこれに関する規定がなく、寄附行為とは別箇に財団法人として設立後偶々解散により清算中であつた前記財団法人満州国留日学生補導協会から、その所有財産の贈与をうけたのみである。

二、被告法人の寄附行為は虚偽である。

被告法人の前記発起人等は、旧財団法人満州国留日学生会館設立の沿革、目的、現状を無視し、時価数億円と見積られる旧法人の財産に着目し同法人が解散により清算中であつて残余財産の処分をなし得る状態にあるを奇貨とし、当初の目的に似て非なる法人の設立を目論見行動したもので、被告法人の設立は、右解散法人の清算人と右発起人等との通謀による虚偽の意思表示による財産移転を基礎にした仮装のものであつて、無効である。

第四、被告は、前記のように財団法人満州国留日学生補導協会の残余財産たる前記建物の所有権を取得したと称して、原告等が同法人の受益者として、同建物を利用しているのを排除しようとしているが、原告等がこの建物から故なく立ち退かされることは、同法人の受益者として重大な法律上の利害関係を有するのみならず、同建物の占有使用権者としても死活の問題であり、それ故被告法人の出現は、原告等にとりゆゆしき問題である。即ち原告等は、被告法人の設立の無効なることの確認を求めることについて切実な利害関係を有するものである。

仍て原告等は、被告法人の設立の無効なことの確認を求めるため本訴請求に及んだ。

と述べ、

被告訴訟代理人は、「原告等の請求を却下する」との判決を求め、その理由として、

第一、原告等はいづれも、現在被告法人の所有する原告等主張の建物のうち三階の全部、四階の一部及び地階食堂、湯場等を他の数十名の中国人と共に事実上占拠しているだけで、本訴請求につき何等の利害関係をもつものではない。財団法人満州国留日学生会館は原告主張の通り昭和十九年三月七日、その名称を、財団法人留日学生補導協会と改称せられ、この両者は、実質上同一法人と称し得るものであるが、右補導協会は、事業の不成功を理由に昭和二十年十一月十日解散し、被告法人は、昭和二十八年五月二十三日設立を許可されて成立した全く別個の法人であり、法律上別個の法人というだけでなく、実質上も前者とは何の関係もない法人である。被告法人の利益を享受するには、その寄附行為に示されている通り、外国人留学生に対し、当然に利益享受の権利を与へるものでなくこれに関する合意を被告法人との間になしこれが存在する場合においてのみ、権利義務関係が成立するものである。被告は原告等と斯る合意をしたことなく又被告法人は旧満州国留日学生補導協会の権利義務を承継したこともない。従つて原告等とは斯る利益享受関係についても何等の関係をもつているものではない。

第二、原告等の本訴請求は、権利又は法律関係の存否の確定を求めるのではなく、単純なる寄附行為の存否の確定を目的とするものであるから、訴訟の客体たり得ないものの確認を求めているものである。

第三、右理由がいづれも理由なしとするも、原告等はつぎの理由により当事者たる適格を欠くものである。

一、財団法人満州国留日学生補導協会に対して、その事業内容たる便宜の享受及び被補導の関係にあつたものは、満州国政府により、満州国留日学生として指定をうけ、且つ右法人により補導学生として承認を得たものに限定されていた。原告等のうち、

(1)  黄文欽、王世尊、林精一、朱福来、及び許雲岑の五名は、旧満州国の出身者でなく、従つて、満州国政府による満州国留日学生としての指定、並びに、右法人による補導学生として承認された事実なく又その資格のないものである。

(2)  張銘忠は、満州国の出身者であるが、満州国政府が当時の戦況により、留日学生の派遣を中止した後に、入国して居り、従つて満州国政府による満州国留日学生としての指定並びに、右法人による補導学生としての承認を得た事実なく、右法人とは関係のないものである。

(3)  韓慶愈及び李敏徳は、満州国留日学生の指定、並びに補導学生の承認を得、満州国留日学生補導協会に対し、その本来の事業内容である便宜享受及び被補導の関係を有していた。然し右法人の解散に伴ひこの関係は終止している。

仍て原告等の本訴請求は、権利保護の利益又は資格を欠くものとして却下されるべきである。

と述べた。

三、理  由

被告は、本訴確認の請求は、権利又は法律関係の存否の確定を求めるのでなく、寄附行為の存否を目的とするものであり、過去の事実の確認を求めるに帰するものであるから、確認の訴の対象たり得ないものを訴訟物としていると主張するが、原告等の求めているのは、「設立の無効なることの確認」であり、財団法人の設立行為は一種の単独行為たる法律行為の性質を有する寄附行為を主要な部分とする一連の法律行為と解すべきものであつて、その設立行為のの有効無効は法律関係の存否に関し単なる事実の存否ではない。従つて法律上斯る「設立を無効とする確認」の訴を提起し得るとする明文の定は存在していないが、当該設立行為が無効であることについて法律上の利害関係を有する者は、その法人の設立の無効なることの確認をも求め得べきものと解するのを相当とする。

そこで原告等の主張に基いて被告法人の設立行為の効力の存否と原告等との法律上の利害関係について見ると、

一、原告等は、財団法人満州国留日学生補導協会の目的たる事業の利益を受ける唯一の対象者であつて、同法人と同一目的で設立され、同一の主要財産を引き継いだ被告法人についても実質上当然に目的事業の利益を受ける対象者である旨主張するが、その主張自体によるも両法人は目的を異にし、事業そのものゝ引継がないことは明であり、他に原告等が被告法人の目的事業の利益を受ける対象者となるべき法律上の原因関係について何等の主張がないので、この主張に係る原告等の前記利害関係は認めることができない。

二、原告等は、現に財団法人満州国留日学生補導協会の目的事業の内容として同法人所有の建物内に居住して利益を受けているが、被告法人においてその設立行為に基いて右建物の所有権を取得したと称する以上、原告等は、右前者の法人の受益者として被告法人の設立無効を主張するにつき利害関係を有するものである旨を主張するが、原告等の主張自体によるも財団法人満州国留日学生補導協会は被告法人の設立行為前既に解散したものであることが窺えるから、たとえ被告法人の設立無効が確認されても、原告等の右解散した財団法人に対する受益者たる地位には何の影響もない筈であつて、この主張によつても原告等の前記利害関係を認め難い。

三、原告等は、被告法人が原告等の居住する前記建物の所有権を取得したと称して、原告等に対し同建物より退去を求めているので、同法人の設立無効の確認を求めるについて利害関係がある旨をも主張するが、原告等の右占有使用権を防護するためには現実の同法律関係に基いて別途に訴訟上の救済を求める途があり、被告法人の設立無効とは法律上直接何の関係もないのであるからたとえ原告等は、その主張のような事実上の関係があるとしても被告法人の設立無効を訴求するについて法律上の利害関係を有しない。

仍て原告等の本訴請求は、原告等がその請求について権利保護の利益を有しないものとして棄却するのを相当と認めるから訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 畔上英治 岡田辰雄 西村法)

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