東京地方裁判所 昭和29年(ワ)6693号 判決
「抑々占有保持の訴と占有回収の訴とは、何れも訴訟を前提とした表現形式をとつているが、これを実体法上の法律関係に還元すれば、共に一定の法律要件の下に、占有権に基き発生する請求権であることは容疑の余地はない。しかしながら両者は右の法律要件(占有に対する侵害の様相)を異にし、前者は従来の占有が依然として、自己に存することを前提とし、只他の新たな支配占有関係が発生して従来の占有と併存し、これがため自己の有する従来の占有が薄弱になつた場合(所謂占有妨害の事実)旧占有者から妨害者に対し、その妨害停止を求めるものであり、後者は従来の占有者において、既存の占有支配を、全面的に喪失しこれに代り現在の占有は新占有者(侵奪者)にあることを前提として、旧占有者から新占有者に対しその返還を求める請求権である。これを要するに、前叙の如く、両者とも既存の占有権を基礎としその保護を目的とする点においては、彼此差異なきものであるが、両者は前説示のとおり、その要件を異にし占有侵害の態様程度に対応して個別に発生する請求権と解するのが相当であり、従つて両者はその請求原因を異にするものといわなければならない。
しかるところ原告の本訴は占有回収の訴であるから、前訴の占有保持の訴とは別個の請求であり、従つて前訴判決の既判力は、本訴に及ぶべきもないものであるから、被告の本抗弁は理由がない。」