東京地方裁判所 昭和29年(ワ)7366号 判決 1962年10月24日
原告 李昇鎬 外四名
被告 国 外一名
訴訟代理人 舘忠彦 外二名
主文
原告らの請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「被告らは各自各原告に対し金五〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和二九年四月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決を求め、請求の原因として
一(一) 新宿簡易裁判所裁判官瀬戸川誠一は、警視庁淀橋警察署司法警察員平田繁蔵の請求により、昭和二九年四月二一日、黙秘四九号(身長五尺四寸位、三〇才位、黒ブチ眼鏡をかけた国防色詰襟服、チョコレート色短靴、濃茶色の靴下をはく男)に対する道路交通取締法違反被疑事件(被疑事実は、被疑者は昭和二九年四月一七日午前八時三〇分頃東京都新宿区淀橋六七五番地先道路上で通行人に対し「五月一日にはみんなでメーデーに行こう。」と題する印刷物(ビラ)を管轄警察署長の許可なく配布したというものである。)について、右被疑者の住所氏名を確認するため必要ありとして、新宿朝鮮人・商工協同組合事務所(原告李昇鎬方)およびその附属建物を捜索、差押場所とし、被疑者の住所氏名の確認に必要な文書物件一切を差押えるべきものとして、捜索差押許可状を発布し、警視庁警備第二部公安第三課司法警察員増子安蔵は、右令状に基づき、同月二六日原告李昇鎬方、同鄭甲述、同鄭允朝方を捜索したが押収すべき物件はなかつた。
(二) 前記滅判官瀬戸川誠一は、前記平田繁蔵の請求により、同月二一日右被疑事件につき捜索、差押の場所を原告橋口忠義方とするほかは前同様の捜索差押許可状を発布し、淀橋警察署司法警察員吉野平左衛門は、同月二六日右令状に基づき原告橋口方を捜索し、同人所有のルーズリーフ一冊、便箋一四枚、帰国者と語る会促進会結果賛同者署名者名簿メモ三枚、鉄道荷札二枚、蓮沼喜八名の紙片一袋、電信当座口(為替尻)振込書一枚、薬袋井元と記入あるもの一枚を押収した。
(三) また、前記裁判官瀬戸川誠一は、前記平田繁蔵の請求により、同月二一日右被疑事件につき、捜索差押場所を原告川原正治方とするほかは前同様の捜索差押許可状を発布し、淀橋警察署司法警察員田中喜雄は、同月二六日右令状に基づき原告川原方を捜索し、同人所有の「国民救援会新宿支部淀橋班のお願い」一部を押収した。
二、しかしながら、司法警察員平田繁蔵の前記令状請求、裁判官瀬戸川誠一の前記令状発布行為およびこれに基づく前記増子安蔵、吉野平左衛門、田中喜雄の捜索および押収は、左記の理由により違法である。
(一) 刑事訴訟法第二一八条によれば、司法警察職員が裁判官の令状により捜索押収のできるのは「犯罪捜査に必要なとき」にかぎられているが、前記各令状は、その必要がないのに請求され、発布された。すなわち
(1) 一般に「犯罪」とは、刑罰法規所定の構成要件に該当する事実であるから、被疑者の氏名住所を確認することは、犯罪捜査ということはできない。
(2) そうでないとしても、(イ)前記事件の被疑事実は、道路交通取締法違反という軽微な事案で起訴の必要のないものであり、(ロ)かりに公訴を提起するとしても、前記被疑者は現行犯として逮捕されたから事実は明白であり、公訴提起のためことさら氏名確認の必要はなかつた。(ハ)かりに氏名確認の必要があつたとしても、任意捜査で十分であり強制捜査の必要はなかつた。
右のとおり前記事件の具体的状況のもとにおいては、令状の請求発布は犯罪捜査には必要がなかつたものである。
(二) かりに前記事件において被疑者の住所氏名確認のため強制捜査の必要があつたとしても、前記各令状には、いずれも差押えるべき物件および捜索すべき場所の特定を欠いていたから、これに基づく捜索押収行為は憲法第三五条に違反する。
(1) 原告橋口方に対する捜索押収許可状の差押えるべき物の欄には「被疑者の住所氏名確認に必要と認める文書」、原告川原方に対する捜索差押許可状の前記欄には「被疑者の住居氏各確認に必要な文書物件一切」、原告李昇鎬方に対する捜索差押許可状の同欄には「被疑者の住居氏名を確認に必要と認める文書物件一切」とそれぞれ記載され、右各令状の被疑者の氏名年令欄には、いずれも黙秘四九号、丈五尺四寸位、黒ブチ眼鏡をかけ、国防色のツメ襟上下、チョコレート色短靴、濃茶の靴下をはく、当三十年位」と記載してあるだけであるから、この両者を総合してみても、右各令状がいかなる物件の捜索押収を許可したものか特定できない。このような令状は憲法第三五条にいう押収する物を明示する令状ではない。
(2) 原告李昇鎬、同鄭甲述、同鄭允朝方の捜索の根拠とされた捜索差押許可状の捜索すべき場所の欄には、「渋谷区千駄ケ谷五の九三七新宿朝鮮人商工協同組合事務所並びに組合員の使用すると認められる居室及び敷地内付属建物一切」と記載してある右組合事務所は原告李昇鎬方にあり、同事務所二階に原告鄭甲述、同鄭允朝の居室があつたものであるが、かような記載では右三名の原告の居宅が明示されたことにならず(憲法第三五条に定める令状の要件を備えないものである。
三、上記のとおり、前記各令状はその必要がないのに請求発布され、これに基づく違法な捜索押収が行われたが、これは、前記司法警察員らが道路交通取締法違反事件の捜査に藉口して日本共産党を中心とする政治運動、労働組合運動を弾圧することを企図して前記各令状を請求し、前記裁判官らその重大な過失によつて右企図を看破することなく漫然令状を発付し、前記司法警察員において各捜索押収をするに至つたもので、これによつて原告ら被つた後記損害は前記各公務員の故意または重大な過失による一連の共同違法行為の結果生じたものというべきであるところ、瀬戸川誠一は被告国の、前記各司法警察員は被告東京都のいずれも公権力の行使にあたる公務員であつて右損害は、右公務員らの職務執行にあたり加えられたものであるから、被告国および被告東京都は連帯してその賠償の責めに任ずべきである。
四、かりに前項の主張が理由がないとしても、前記吉野平左衛門が原告橋口方から、前記田中喜雄が原告川原方からそれぞれ押収した請求原因一記載の各物件は、いずれも被疑者の住所氏名確認のために何の必要もないにもかかわらず、あえてこれを押収したものであり、かかる押収は違法であるから、これによつて右原告らが被つた後記損害については、被告東京都の公務員の違法行為に基づくものとして、同被告においてその賠償の責めに任ずべきである。
五、原告李昇鎬、同鄭甲述、同鄭允朝は朝鮮人民共和国の国籍を有する外国人である。しかしながら、
(一) 日本と朝鮮人との従来の関係からみて日本における朝鮮人には特殊の地位があるから、日本在住の朝鮮人は国家賠償法第六条にいう外国人にあたらない。
(二) かりにそうでないとしても、朝鮮人民共和国と日本との間には、国または地方公共団体の損害賠償責任につき相互の保証がある。
(三) かりに相互の保証がないとしても、外国人に対する国家賠償法の適用を相互の保証ある場合に限定した同法第六条の規定は、憲法前文の国際主義の原則および同法第一七条に違反し無効であるから、国家賠償法はすべての外国人に適用がある。
右の理由により被告らは同法第一条第一項により賠償責任を負うべきである。
六、かりに前記三名の原告に国家賠償法の適用がないとしても、被告国は前記瀬戸川誠一の、被告東京都は前記平田繁蔵、同増子安蔵の各使用者であつて、右三名の原告らが被つた後記損害は右公務員らがそれぞれ被告らの事業の執行につき違法に生ぜしめたものであるから、被告らは民法第七一五条によりその賠償責任を負うべぎである。
七、原告らは前記違法行為によりその名誉および住居の静穏を侵害され、さらに原告橋口、同川原は前記のとおりそれぞれその所有物件を違法に押収され、これにより精神的苦痛を被つたところ、その損害額は各原告ともそれぞれ金五〇、〇〇〇円を下らない。その理由はつぎのとおりである。
(一) 原告李昇鎬は、当時年令三八才、下宿業を営み、一ケ月約金五〇、〇〇〇円の収入を有し、新宿朝鮮人商工協同組合理事長の地位にある者である。
(二) 原告鄭甲述は、当時年令三六才、寿司屋を営み、一ケ月約金五〇、〇〇〇円の収入を有し、租国統一促進準備会事務局長の地位にある者で、日本大学社会科中退、新宿事業協同組合(組合員約三六〇世帯)の組合長の経歴を有する。
(三) 原告鄭允朝は、月収一五、〇〇〇円、三十万在日朝鮮人解放救援会の事務員である。
(四) 原告橋口忠義は、当時年令四六才、月収約一二、〇〇〇円、東京奄美新聞編集員である。
(五) 原告川原正治は、当時年令四一才、紙類裁断業を営み、新宿商工会々長の地位にある者である。
八、よつて、原告らは、被告らが連帯して各原告に対し慰藉料として金五〇、〇〇〇円およびこれに対する本件不法行為の最後の日である昭和二九年四月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による金員の支払を求める。
と述べた。証拠<省略>
被告ら各指定代理人は主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、
一 請求原因第一項の事実は認める。
二 請求原因第二項の記載中、原告ら主張の被疑者が現行犯として逮捕されたこと、本件各令状にそれぞれ原告ら主張どおりの各記載があること、新宿朝鮮人商工協同組合事務所が原告李昇鎬方にあり、同事務所二階に原告鄭甲述、同鄭允朝の居室があつたことは認めるが、原告の法律的見解は争う。被疑者の住所氏名を確認することは犯罪捜査のため必要であつて、右各令状の請求、発付およびこれに基づく各捜索押収はいずれも道路交通取締法違反事件の捜査のため、右被疑者の氏名住所を探知確認する必要上行われたものである。
三、請求原因第三項の記載中、原告ら主張の各公務員がその主張のとおり被告国または被告東京都の公権力を公使する公務員であり、右各令状の請求、発布および各捜索押収が右公務員らの職務の執行としてされたことは認めるが、その余は否認する。
四 請求原因第四項記載の法律上の主張は争う。
五 請求原因第五項の記載中、原告ら主張の三名の原告が朝鮮人民共和国の国籍を有する外国人であることは認めるが、同国と日本国との間に原告ら主張の相互の保証のあることは否認する。その余の法律上の主張は争う。
六 請求原因第六項の主張は争う。
七 請求原因第七項記載の事実中、原告らの年令職業収入等は知らない。原告らの被つた損害額は争う。
と述べた。証拠<省略>
理由
一 請求原因第一項の事実は当事者の間に争いがない。
二 そこで司法警察員平田繁蔵の令状請求、裁判官瀬戸川誠一の令状発布行為およびこれに基づく司法警察員増子安蔵、同吉野平左衛門、同田中喜雄の捜索差押が違法であるか否かについて検討する。
(一) 刑事訴訟法第二一八条によれば、検察官、検察事務官または司法警察員が捜索差押許可状を請求し、裁判官が右令状を発し、検察官、検察事務官または司法警察職員が右令状に基づき捜索差押をすることができるのは、「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」に限られていることは明らかである。
(1) 原告らは、被疑者の住所氏名を確認することは、同条にいう「犯罪の捜査」ではない、と主張する。しかしながら、犯罪は行為者をはなれては観念しえないものであるから、犯罪の客観的側面を追及するだけでなく、その行為者を探査することも「犯罪の捜査」に含まれることは当然である。而して捜査の当面の目標の一つは被疑者の起訴・不起訴を決定する資料の蒐集にあるところ、起訴・不起訴は、犯罪の軽重および情状のみならず、犯人の性格、年令、境遇および犯罪後の情況をも考慮して決定すべきものである(刑事訴訟法第二四八条)から、単に被疑者を特定するだけでなく、その住所氏名を確認することは、右のような諸事情を認識する前提となるもので、「犯罪の捜査」に、あたるものといわなければならない。
(2) 次に原告らは、本件被疑事実は道路交通取締法違反という軽微な事案で起訴の必要のないものであり、かりに公訴を提起するとしても本件被疑者は現行犯として逮捕されたから、事案は明白であり、公訴提起のためことさら氏名確認の必要はなかつた、と主張する。そして本件被疑者が道路交通取締法違反(被疑事実は、原告ら主張のとおりである。)の現行犯として逮捕されたことは当事者の間に争いがない。しかし、起訴、不起訴の判断を左右するものは犯罪事実の軽重だけではない。犯人の性格、年令、境遇、犯罪後の情況等諸般の情状をも考慮すべきことは前示のとおりであるから、右のような道路交通取締法違反の被疑事実であるということだけで、起訴の必要はなかつたと断ずることはできない。公訴提起にあたつては、起訴状に「被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項」を記載すれば足りる(刑事訴訟法第二五六条第二項第一号)から、起訴状の作成のみに限つていえば、被疑者の氏名を確認する必要はなかつたことは確かであるが、起訴・不起訴の判断にあたつて考慮すべき前記のような諸般の情状を認識するために、被疑者の氏名を確認する必要があつたというべきである。
(3) さらに原告らは、かりに被疑者の氏名を確認する必要があつたとしても任意捜査で十分であり、強制捜査の必要はなかつた、と主張する。もとより、任意捜査で容易に同一の目的を達しうる場合には強制捜査をすることは違法である。しかし強制捜査の必要性は任意捜査によることが困難であることにより認めうれるのであつて、捜査の迅速性、密行性の要求からして任意捜査によることが絶対に不可能であることを要しないと解すべきである。また一旦、任意捜査をしてみて、そのうえではじめて強制捜査が許されるというものでもない。いまこれを本件についてみるのに、本件捜索差押の必要性のなかつたことの立証はなく、かえつて、本件被疑者が前記被疑事実により現行犯として逮捕されたことは当事者の間に争いがないから、右逮捕の日時は昭和二九年四月一七日午前八時三〇分頃と認められるところ、前記当事者間に争のない事実に成立に争のない乙第一ないし第三号証の各一、二、甲第三号証、証人吉野平左衛門、同田中喜雄の各証言を併せ考えると被疑者等は右逮捕の時から強く黙秘してその氏名年令すら陳述せず、遂に同月二一日ようやく本件各捜索差押許可状の請求がなされるに至り同日右各令状が発布されたこと、右各令状に基づく本件各捜索差押は同月二六日に至つて、はじめて行われたが、同日司法警察員田中喜雄がなした原告川原方の捜索差押の結果はじめて本件被疑者の氏名が判明したことが認められ、以上の各事実に弁論の全趣旨をあわせ考えると、限られた期間内の任意捜査により本件被疑者の氏者を確認することが容易でなく、安易にこれを抛棄するに至つたものではない事情が窺えるのであつて、強制捜査が必要であつたことを推認せしめるに十分というべきである。
(二) 次に原告らは、本件各令状には、いずれも差押えるべき物件および捜索すべき場所の特定を欠いていたから、これに基づく捜索差押行為は憲法第三五条に違反すると主張する。
(1) 憲法第三五条は令状中に押収物件を明示することを要求しており、押収すべき物をできるだけ個別的具体的に記載することが望ましいことではあるが、捜査の実際においては、かかる厳格な記載方法を要求することは、不可能であるか、捜査の目的に適合しない場合が多い。而して憲法が差押物件の明確な特定を要求するのは、何かないかと捜す、いわゆる一般的探険的な捜索差押を禁止しようとの趣旨に出たものと解されるから、かように捜索差押を許さない程度に差押物件の特定がなされている限り、抽象的概括的な記載方法も違憲違法ではないというべきである。いま本件についてこれをみるのに、原告橋口方に対する捜索差押許可状の差押えるべき物の欄には「被疑者の住所氏名確認に必要と認める文書」、原告川原方に対する捜索差押許可状の前記同欄には「被疑者の住居氏名確認に必要な文書物件一切」、原告李昇鎬方に対する捜索差押許可状の同欄には「被疑者の住居氏名を確認に必要と認める交書物件一切」とそれぞれ記載され、右各令状の被疑者の氏名年令欄には、いずれも黙秘四九号、丈五尺四寸位、黒ブチ眼鏡をかけ、国防色のツメ襟上下、チョコレート色短靴、濃茶の靴下をはく、当三十年位」と記載してあることは当事者の間に争いがない。そして右各差押物件欄の記載は抽象的概括的であるが、差押えるべき物件は、右特定された被疑者の住所氏名を確認するに必要な文書物件に限定されていることが明らかであるから、その特定に欠けるところはないというべきである。
(2) 憲法第三五条はまた令状中に捜索すべき場所を明示することをも要求しているが、原告李昇鎬、町鄭甲述、同鄭允朝方の捜索の根拠とされた捜索差押許可状の捜索すべき場所の欄には、「渋谷区干駄ヶ谷五の九三七新宿朝鮮人商工協同組合事務所並びに組合員の使用すると認められる居室及び敷地内付属建物一切」と記載されていること、右組合事務所は原告李昇鎬方にあり、同事務所二階に原告鄭甲述、同鄭允朝の居室があつたことは当事者の間に争いがない。そして右場所の記載を合理的に解釈すれば、朝鮮人商工協同組合事務所ならびに右事務所建物内にある右組合員の使用していると認められる居室および右敷地内の付属建物一切を指すことが明らかであり右の程度の包括的記載は許されるものと解すべきであるから捜索すべき場所の特定に欠けるところはなく、右三名の原告の居宅を明示しえているものといわなければならない。
三 さらに原告橋口、同川原は、前記吉野平左衛門が原告橋口方から、前記田中喜雄が原告川原方からそれぞれ押収した請求原因第一項記載の各物件は、いずれも被疑者の住所氏名確認のため何の必要もないにもかかわらず、あえてこれを押収したものであり、かかる押収の執行は違法であると主張する。そして前記吉野および田中が原告橋口および同川原方から、それぞれ右各物件を押収した事実は当事者の間に争いがないところ、証人吉野平左衛門、同田中喜雄の名証言によると、右田中が原告川原方から押収した「国民救援会新宿支部淀橋班のお願い」一部は、これによつて被疑者の住所氏名を確認することができた事実が認められるから、右物件の押収が被疑者の氏名確認のために何の必要もないのになされたとの主張の当らないことはいうまでもない。さらに右各証言によると、右平野が原告橋口方から押収した各物件からは被疑者の住所氏名を確認することができなかつたことが認められるけれども、右平野は右各物件をいずれも「被疑者の住所氏名確認に必要と認める文書」と確信して押収したものであることが前記各証言により認められるばかりでなく、右各押収物件は、いずれも居住者と関係があると認められる人物の氏名が記載された文書であつて押収時においては客観的にも被疑者の住所氏名確認に必要な文書と考えるのが相当であつたことが認められるので、結果からみて、被疑者の住所氏名の確認に役立たなかつたからといつて、右押収を違法であるとすることはできない。
四 以上のとおり、本件各令状の請求、発布および右各令状に基づく捜索差押には、何ら違法のかどはない。したがつて右各行為が違法であることを前提とする原告らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 江尻美雄一 中島一郎 兵庫琢真)