東京地方裁判所 昭和29年(ヲ)4045号 決定
債権者 浦野喜一
債務者 手塚恒雄
一、主 文
債権者は、別紙目録<省略>記載の物件を債務者の費用で、債務者以外の者に収去させることができる。
二、理 由
債権者の申立の趣旨は、主文と同旨であつて、その申立の理由の要領は左の通りである。
債権者は、債務者に対し別紙目録に表示された宅地について前文標記の仮処分命令を得て、昭和二十五年七月八日その執行を了した。右仮処分命令は、右宅地に対する債務者の占有を解きこれを債権者の委任する執行吏の保管に移し且つ執行吏は現状不変更を条件として債務者にその使用を許すべきことを以て趣旨とするものであるところ、右仮処分執行後債務者は執行吏より右条件を以て使用を許された前示宅地上に擅に別紙目録記載の建物を建築完成し現在に至つている。右建物は、仮処分命令の趣旨とする現状不変更義務に違反して債務者が建築したものであるから、民法第四百十四条第三項により債権者は債務者に対し、その費用を以てこれが収去を請求する権利がある。
よつて一件記録に編綴された債権者提出の諸証拠に徴して考えるに、事実関係は債権者主張の通りであることが認められ、債務者本人審訊の結果中、本件建物が仮処分執行当時既に一部建造されて存在したとの点は他の証拠に照して措信できないから、本件建物は債権者主張の如く全く仮処分執行後の建造と認定する。
而して本件執行名義たる仮処分命令の主文中、執行吏は現状不変更を条件として債務者に目的土地の使用を許さなければならないとの部分は、執行吏に対する命令としての意義以外に、よつてその使用を許された債務者に、使用土地の現状を変更すべからずとする不作為義務を、仮処分債権者に対する関係で負わせる趣旨をも含むものと解されるから、本件は正に債務者が民法第四百十四条第三項にいう不作為を目的とする義務を負う場合に該当し、本件申立は理由があるから、民事訴訟法第七百五十六条第七百四十八条第七百三十三条に則つて主文の通り判決する。
(裁判官 安倍正三)